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Special Topic 1 看護部長インタビュー [トップが語る学生へのメッセージ]

“看護の力”を看護師自身がもっと信じて!
どんな状態の患者さんにも、
私たちの看護を届けられるのですから

東京大学医学部附属病院

看護部長

雪絵さん

質の高い看護を提供する現場
それが最高の教育環境

大学を卒業して初めて入職したのが東京大学医学部附属病院と伺っています。

 当時も今も変わらないのは、全国各地の大学から希望を胸に抱いた新人看護師が集まってくるところです。同じ学校出身者が少ないので、ここで看護師として一緒にゼロから一歩を踏み出します。そして、新人看護師一人ひとりのペースに合わせて、長い目で見守りながらしっかりと育てているところも、当院の良き伝統だと思います。

看護学生の多くが入職先の決め手として教育体制を挙げています。東京大学医学部附属病院の教育体制には、どのような特長がありますか?

 新人はもとより経験のある入職者にも手厚い支援体制があり、キャリアラダーによって一人ひとりが持つ能力を開発しています。また、経験5年以上になると、認定看護師、専門看護師、特定看護師などのスペシャリスト育成への支援制度も充実しています。ですが当院の教育体制は、そうした研修プログラムや指導・支援体制だけではありません。

具体的にお聞かせください。

 これは私自身の持論でもあるのですが、その病院で患者さんに提供している看護のすべてが、看護師を育成する“教育環境”なのです。言い換えると“良質な看護の実践”そのものが、どんな看護師に育っていくのかを決定するのだと思います。
 私が新人看護師として配属されたのは当院の脳神経外科病棟でした。医療的な治療が終了しても片麻痺などが残る患者さんが少なくありません。しかし、看護の力で少しずつその人が望む生活に近づける事例を多く見ました。
 最近でも感銘を受けた看護実践報告がありました。コロナ禍初期のまだ亡くなる患者さんが多かったころの事例です。コロナ感染による重篤な肺炎で生命危機にあった患者さんに、どういう看護を提供すればいいのか試行錯誤が続いていました。患者さん自身の生きる力を引き出すことが重要と考えた看護師たちは、酸素の消費を最小限に抑えるケアを心がけ、また、心の支えが息子さんであることを見抜き、短時間ではありますが面会を実現。生命危機から脱するために、患者さんの内なるエネルギーを引き出しました。

看護の力、ですね。

 治療ができない状況でも、患者さんがどのような状態にあっても、看護はすべての患者さんに提供できます。私たちが提供する看護には、患者さんのwell-being(身体的、心理的、社会的に良好な状態、幸福)を決定する大きな力があります。患者さんに接する際には、看護師が持っている看護の力を心から信じてほしいと思います。
 そして、看護の力を発揮するためにも、私たち看護師は専門職として常に学び続ける必要があると思うのです。経験年数を重ねても真摯に学び続ける看護師、そしてその努力が進化させる看護の力が、患者さんへのより良い看護の提供につながります。
 教育体制というのは、こうした学びの枠組みや支援と実践の場を併せた教育環境だと言えます。

科学的な教育重点目標と
スペシャリストへの期待

院内で実践された良い看護事例は看護部長にも報告されるのですか。

 成功事例から学ぶ場として、各病棟で実践した看護事例の発表会を行っています。これは学ぶ場でもあり、私たちが目指す「生命力を引き出す看護」をどのように実現しているかの確認の場でもあります。

長く堅持されている“教育環境”にくわえて、新たな教育方針もあると聞きました。

 高度なフィジカル・アセスメント能力の修得と実践を、看護部の重点教育目標にしています。看護師は、心の状態、社会的状態のアセスメント力を磨くことももちろん重要です。しかし、身体についても深い知識と理解、確かな観察に基づいてアセスメントできるようになってほしいのです。こうした知識や技術は、患者さんの危険な状態を回避し、速やかに回復につなげるための、質の高い看護提供には欠かせません。

「患者に最適な看護を提供する」という理念にもつながりますね。

 そうです。患者さんに適切な看護を導き出し、創り出す。“考えて創造する看護”の実践を目指しています。また、フィジカル・アセスメントの力を伸ばすことで、医師とのコミュニケーションもより高いレベルで可能になるでしょう。そのようなスペシャリストとして、医師の手順書に基づいて適切・迅速に対応できる特定看護師の活躍にも期待しています。

先ほどwell-beingという言葉が出てきましたが、看護師の心身の健康やワークライフバランスについてはいかがでしょうか?

 患者さんの生命力を引き出す看護を創造するには、看護師自身のwell‐beingこそ不可欠です。新人看護師にはリエゾンナースによる面談など、心身の健康に配慮しています。また、子育て中のナースも右肩上がりで増えています。東京大学自体が子育て支援に手厚いのですが、当院でもそうした制度の周知や利用の促進など、看護師の人生とキャリアの両立支援に力を入れています。
 男性看護師も徐々に増えています。現代社会は多様性と包摂の時代です。多様な人材が集まる、働きやすい環境づくりは大事です。

最後に看護師を目指す学生たちに贈る言葉をお願いします。

 最初に入職する病院を決める際は、心身健やかに働ける環境と、基本的な力を培う教育体制、この2つが整っているかを見極めましょう。そして、看護の力を信じ、これから創造する看護の未来を描いてください。臨床では、失敗も経験するでしょう。でも、私は、失敗は「伸びしろ」だと思います。「次はこういう看護をしよう」と気持ちを切り替え、前に進みましょう。必ず「看護ってすごい!」「看護師になってよかった!」と実感する瞬間が訪れます。

東京大学医学部附属病院

[住所]〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1
患者さんや働く看護師、病院経営の視点でもwell‐beingを実現するにはどうしたらいいのか。その方法を求めて大学院に進学し、研究を重ねてきました。看護部長として実践の場でこのテーマを追求しています。

Profile プロフィール

たけむら ゆきえ

1992年東京大学医学部保健学科卒業後、看護師として東大病院に入職、虎の門病院分院を経て大学院に進学。2006年東大病院副看護部長、2011年医科学研究所附属病院看護部長。2015年より東京大学にて教育と研究に従事。2022年4月より現職。

看護職には何よりも誠実であることが求められます。うまくいかないことがあっても、そこから謙虚に学ぶ姿勢を持っている人を、私たちの仲間として求めています。ゆっくり、着実に、成長していきましょう。

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大野 道幸さん