高まるアピアランスケアへの意識
ニーズに応え患者さんの日常を支援
中村 がん治療に伴う外見の変化は、患者さんの心配事のワースト3 に入ります。がん治療は日々進化し生存率も高くなったことで、命をつなぐという視点からどうがんと共存し、生きていくかという視点へと変わり、患者さんの日常をどう支えるかという部分が大きくフォーカスされています。
阪口 以前、患者さんが髪の毛が抜けることを口にされたとき、「頑張っている証拠ですから」としか言えず、十分なフォローができなかったことがありました。今はアピアランスケアへの知識とスキルを身につけ、さまざまな情報を提供することができるようになりました。
中村 現在、当院ではトータルケアセンター部門の1つとしてアピアランスケアチームが始動し、外来ブースにウィッグや帽子を展示。週に2 回、医師や看護師がそこに立ち、患者さんからの質問・相談に応じています。
阪口 外来治療室の患者さんは、ここで治療を受けながら日常生活を送っています。見た目を気にして外出する意欲をなくす人もいます。また、治療後に出勤する人もいて、「脱毛することで同僚に気づかわれるのがつらい」と話す人もいます。そうした患者さんの声を聞き、そのニーズに合った情報の提供を心がけています。
中村 治療が始まると体調が悪くなり、脱毛後にウィッグの作製をすることはとても大きな負担になるので、治療開始前に医療用ウィッグや帽子などについて説明することも大切です。
患者さんの日常を垣間見ることが
全人的ケアへとつながる
中村 外来のアピアランスブースには病棟から希望する看護師も参加し、患者さんに対応しています。30~40分の短時間ですが、患者さんと接して学んだことを部署に持ち帰り、その後に生かしてもらっています。
阪口 私も何度か体験しました。伸び始めた髪型がよく似合っていても、患者さんにとってはいつもの自分と違うという違和感で悩む人もいることを知りました。ここでの体験がなければ、そうした患者さんの思いには気づけなかったと思います。
中村 病理診断が確定するまで術後1カ月ほど要しますが、その間はその後の生活への不安から、悩みを抱える時期でもあります。患者さんと話をして、どのような心配事を抱えているのかを引き出すことも、私たち看護師の力だと思います。
阪口 社会生活を送るうえで必要なウィッグや帽子を一緒に選ぶことで、患者さんの生活が見えてきます。忙しさの中で病人として見てしまいがちですが、ここでは患者さんの生活が見え、生活者としての顔、その人らしさを知ることができます。その人らしさを大切にするアピアランスケアに、看護の原点を感じています。
中村 患者さんが日常を取り戻す姿を目の当たりにできるケアですよね。外見は患者さんの日常生活と密につながっていることを認識し、その人の思いをどうとらえるか考える。この外来ブースでの経験が看護に深みを持たせると思います。今後、教育を通してこのケアを根づかせ、さらに全人的な看護の実践を実現したいと思います。


