地域医療における看護師の役割とは?活躍の場から現状の課題まで解説

地域医療における看護師の役割とは?活躍の場から現状の課題まで解説

最終更新日:2024/02/01

少子高齢化が進むなか、必要性が高まっている地域医療。看護師は地域医療を支える人材として、様々な場で活躍しています。今回は地域医療における看護師の役割を領域ごとに解説。さらに、地域医療に携わる魅力や現状課題についても説明します。

地域医療とは

地域医療とは、医療・保健・福祉が連携して地域住民の健康的な生活をサポートする体制のことです。特定の医療施設が単独で行うものではなく、病院やクリニック、訪問ステーションといった医療施設、介護施設、行政などが一体となり、地域全体で住民の健康を支援します。

地域医療とは

地域医療の「地域」は地方やへき地を意味するものではなく、住民が生活しているそれぞれの地域を指します。地域医療の対象は、子ども、高齢者、妊婦、障がい者など支援を必要とする人だけでなく、その地域で生活するすべての住民です。そのため、地域や集団の特徴により地域医療の展開の仕方は異なってきます。

地域医療活性化への取り組み

超高齢化社会を支えられるための医療・介護提供体制を構築するため、地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築など国や地方自治体によってさまざまな取り組みが進められています。

地域医療構想

地域医療構想とは、将来の推計人口から医療ニーズを予測し、地域ごとに適切かつ効率的な医療体制がとれるよう医療機能の見直しを図る取り組みで、都道府県ごとに策定されています。国は2014年に「医療介護総合確保推進法」により「地域医療構想」を制度化しました。少子高齢化に対応できる地域医療の提供体制構築が目的です。

地域医療構想では、医療機能を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに分類して病床数の調整を図り、それぞれが役割を分担しながら連携する体制づくりを行っています。体制づくりは全国に設定された構想区域ごとに進められており、2025年の構築を目指しています。

地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは、地域に暮らす高齢者が住み慣れた環境で自分らしく生活できるよう、医療・介護のみならず、住まい、生活支援、予防まで地域が団結して支える体制のことです。高齢化が進むなか、国は地域包括ケアシステムの構築を推進すべく、2018年に介護保険法等の一部改正を施行しました。

地域包括ケアシステムを構築することで、他職種の人が協力し合いながら高齢者や家族を支えることができるようになります。ただし、市町村や都道府県などの各自治体は、地域の特性や課題にあった体制づくりが求められています。

地域医療はなぜ必要?

地域医療が必要とされる理由は、すべての住民が住み慣れた地域で健康的に暮らすためです。憲法25条として「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」が定められており、国は国民の健康的な生活を守る義務があるとされています。

しかしこれからの日本では、高齢化による医療や介護ニーズの増大、少子化による労働人口の減少、これに伴う医療保険制度の財政ひっ迫などにより、地域医療体制の維持がより一層困難になると考えられます。そのため地域のニーズに合わせて医療・保健・福祉が連携し、住民の健康的な生活をサポートする体制を整えることが求められているのです。

ただし、そのような地域医療の実現に向けては、医療需要と供給の地域格差、医療・福祉業界の人材不足など様々な課題が山積しており、これらを解決していく必要があります。

【領域別】看護師の地域医療への関わり方と役割

ここでは看護師の地域医療への関わり方と役割を解説します。

地域医療に関わる看護師の職場は多岐にわたります。具体的にどのような職場があるのか、領域別に職場例をまとめました。

地域医療に関わる職場例

急性期 ● 救急指定病院
● 特定機能病院
● 地域医療支援病院
回復期 ● 回復期リハビリ病棟
● 地域包括ケア病棟
慢性期 ● 医療療養病床
● 介護医療院
● 介護老人保健施設
クリニック ● 19床以下の有床診療所
● 無床診療所
在宅 ● 訪問看護ステーション
● 精神科訪問看護ステーション
健康増進・
予防医療
● 行政(保健所・役所・学校・児童相談所・福祉センターなど)
● 健診センター

看護師に求められる役割はそれぞれの領域によって異なります。主にどのような役割を担うのか、領域別に紹介します。

急性期

急性期の看護師の役割は、病気やけがで病状が不安定な時期の患者さんに対し、生命維持や病状の回復を優先して適切なケアを行うことです。緊急度の高い患者さんや重症の患者さんなど、24時間体制での看護介入が必要な場合が多く、状態が変化しやすい患者さんに対する的確なアセスメントと対応が求められます。

地域医療においては、急性期を脱した患者さんが自宅退院や回復期・慢性期病院へ転院することを見据えたケア、退院・転院時の医療連携を担います。

回復期

回復期の看護師の役割は、病状が安定した患者さんに対し、在宅復帰を目指したADLの回復や自立に向けたサポートをすることです。患者さんの状態や生活背景はそれぞれに異なるため、患者さんや家族の個別性に合わせた看護が求められます。

地域医療においては、患者さんの回復や退院に向け、リハビリチームやソーシャルワーカーなど各専門職と連携を図ります。

慢性期

慢性期の看護師の役割は、長期的療養が必要な患者さんに対し、再発防止や体力維持を目指しながら、その人らしい生活を送るためのサポートを行うことです。患者さんや家族が疾患と向き合いながら安心して暮らしていけるよう、身体的、精神的、社会的にトータルでサポートする看護が求められます。

自宅療養が困難な患者さんやターミナル期の患者さんも多く、患者さんと家族に寄り添った看護を提供することが、地域医療における慢性期の看護師の役割です。

クリニック

クリニックで働く看護師の役割は、患者さんが医師の診察をスムーズに受けられるよう診療を補助することです。クリニックでは軽症の人から慢性疾患を有する人まで、1日に多くの患者さんが受診するため、限られた時間内で的確に対応することが求められます。

クリニックには地域のかかりつけ医としての役割もあるため、自宅で生活する患者さんへの生活指導や、病状によっては高度な医療を提供する病院の受診が必要な患者さんのサポートを行うのも、クリニックで働く看護師の役割です。

在宅

在宅療養を支援する訪問看護師の役割は、病気や障がいを抱える人が住み慣れた地域でその人らしく暮らせるようにサポートすることです。病院の療養環境とは異なり、在宅という資源が限られた環境のなか、利用者さんとその家族に対する疾患や生活環境に合わせた個別的看護が求められます。

主治医や介護事業所など様々な職種と密に連携を取りながら、地域住民の療養生活を直接的に支えることが訪問看護師の役目です。

健康増進・予防医療

健康増進や予防医療に携わる看護師の役割は、けがや病気を予防し、地域住民が健康的な生活を送り続けられるようサポートすることです。疾患や障がいを抱える人だけでなく、健康な人も対象となり、予防接種の実施や健康診断、生活指導などを行います。

疾患の予防や病気の早期発見により健康寿命を伸ばすことは、医療・介護機能への負担軽減や社会保障費の軽減につながるため、地域医療において重要な役割です。

看護師が感じる地域医療の魅力とは

ここからは看護師が地域医療で得られる魅力と、より地域医療の魅力を感じやすい職場をいくつか解説します。

地域医療から得られる魅力

看護師が地域医療から得られる魅力は、地域住民を支える看護が実感できることです。自分が行っている看護が、働いている病院や施設内だけに止まらず、地域と連携した継続的なケアの実践につながっていきます。患者さんの生活をサポートするやりがいが感じられます。

また、どの領域で働いたとしても、地域医療を担う看護師として積極的に他職種との関わりを持つことになり、看護の視野が広がります。病院内の他部署だけでなく、行政や介護施設とも連携を図ることになるので、自然に考え方の幅や知識を広げることができるでしょう。それが患者さんを支えるやりがいやスキルアップに結びつきます。

地域医療の魅力を感じやすい職場例

地域住民の健康的な生活を支える存在として、看護師が働くすべての職場は地域医療に貢献しているといえます。なかでも、患者さんの暮らしを支えている実感がもてる職場や、他職種と連携し地域医療の仕組みが理解しやすい職場は、地域医療の魅力が感じやすいといえるでしょう。

以下は地域医療の魅力を感じやすいと考えられる職場例です。

  • 回復期リハビリ病棟
  • 地域包括ケア病棟
  • 病院の地域連携室
  • 訪問看護
  • 役所や保健所

それぞれの職場の特徴と、地域医療の魅力が感じやすい理由を解説します。

回復期リハビリ病棟

回復期リハビリテーション病棟では、リハビリテーションを集中的に行い、患者さんの自立や社会復帰を目指します。退院後の患者さんの状況に合わせて、じっくり関わりながら看護できるのが魅力です。社会復帰に向けてリハビリを頑張った患者さんが退院するときは、特にやりがいが感じられます。

脳血管疾患や骨折など対象となる疾患がほぼ決まっており、急性期を脱した患者さんの退院支援に関連した知識や、他職種との連携が学べるのも魅力のひとつです。

地域包括ケア病棟

地域包括ケア病棟は、患者さんが安心して在宅復帰や施設復帰できるように支援する病棟です。回復期リハビリ病棟と同じように、他職種と連携しながら退院支援に関われるのが魅力です。

ただし、地域包括ケア病棟は対象となる疾患が決まっていません。そのため、回復期にある患者さんだけでなく、在宅・施設療養中からの緊急時の受け入れも行うことがあり、より幅広く地域の他職種との連携が学べるという魅力もあります。

病院の地域連携室

地域連携室は、地域の医療機関や介護施設と連携を図り、患者さんの入退院を支援する部署です。退院支援だけでなく、かかりつけ医や介護施設からの紹介で入院してくる患者さんと関われるのは他の職場にはない魅力です。

病棟のように患者さんに直接看護を提供する機会はありませんが、他職種との連携時には調整役として看護の知識を活かし、地域医療に貢献できるやりがいがあります。

訪問看護

訪問看護は利用者さんの生活の場へ訪問して看護を提供するため、利用者さんや家族とじっくり関わることができます。地域住民の生活を支えているというやりがいが感じられます。

小児から高齢者、精神疾患を抱える人やターミナルの人など、在宅で療養するすべての人が対象で、年齢や疾患の垣根がないため、幅広い知識と対応力が培えるでしょう。地域の医師や歯科医師、ケアマネジャー、ヘルパーなどより幅広い職種との連携が学べるのも魅力です。

役所や保健所

役所や保健所は、地域住民の予防医療や健康増進に関われることがほかの医療機関にはない魅力です。医療処置などの看護技術を提供する機会はありませんが、家庭訪問や健康相談などで地域の人と直接関われるというやりがいがあります。

看護師が抱える地域医療の現状課題

ここからは看護師が抱える地域医療の現状課題を解説します。地域医療を支える看護師に求められることも解説するので参考にしてください。

看護師に関する地域医療の現状課題

看護師にも関わる地域医療の課題は、地域医療を支えるための体制が十分に整っていないことです。

例えば、地域によっては、急性期と回復期の病院、病院と訪問看護ステーションなど、連携が必要な医療機関同士がうまく連携できず、継続的なケアが実現できていないという現状があります。また、職場や領域によっては、人手不足で体制を整えることができないということも課題のひとつです。

各領域によって看護師の仕事内容や役割が違うため、病棟看護師として働いていると在宅の知識を学ぶ機会がない、介護施設に勤務していると最新の看護知識を学ぶ機会がないなど、ほかの領域についての学びが不十分になりやすいことも課題といえます。

看護師に求められること

地域医療に携わる看護師として求められることは、以下の2つです。

国の動向を理解すること

今後、地域医療の役割は国や地域の状況に応じて変化する可能性があります。そのため、国や地域の動向を把握し、理解を深め、看護師として今後地域医療にどのように携わるかを意識して考えていく姿勢が必要です。

幅広いスキルを身に付けること

地域医療に携わるためには、自分が働く領域に関するスキルだけでなく、連携する領域や社会資源などより幅広い知識が求められます。

しかし、多くの知識やスキルを短期間で身に付けようとするのは困難です。キャリアプランを見据え、長期的なスパンでスキルの幅を広げていくとよいでしょう。

また、地域医療では院内外の他職種との連携が重要になるため、スムーズに連携できるようコミュニケーション能力を身に付けておくことも大切です。

看護師として地域医療に貢献しよう

地域全体で住民の健康的な生活を支援する地域医療は、今後一層需要が高まることが予測されます。しかし、地域医療の充実には様々な課題が存在します。働く領域によって、看護師の地域医療との関わり方は異なりますが、どの領域であっても地域医療を意識していくことは必要でしょう。

国や業界の動向を理解しながら、看護師として地域医療とどのように関わっていくか、自分が目指すキャリアとともに考えてみましょう。

参考

公益社団法人全日本病院協会:地域医療構想.みんなの医療ガイド(2023年11月30日閲覧)

四方哲:ビジョンと戦略からはじまる 地域医療学のブレイクスルー.中外医学社(2023年11月30日閲覧)

執筆者情報

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柴田 実岐子

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福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。