地域包括ケア病棟とは?一般病棟との違いと看護師の役割を経験者が解説
最終更新日:2024/10/03
地域包括ケア病棟とはどのような特徴があるのか、一般病棟との違いを踏まえたうえで、看護師に求められる役割や具体的な仕事内容を解説します。また今回は、勤務経験がある看護師が地域包括ケア病棟のやりがいや大変さについて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
地域包括ケア病棟とは
地域包括ケア病棟とは、急性期の治療を終えて病状が安定しているものの、すぐの退院が難しい患者さんや、何らかの理由で一時的な入院を余儀なくされた患者さんに対して、在宅復帰に向けた支援や準備を目的とした病棟です。
具体的には、以下のような患者さんが地域包括ケア病棟の対象になります。
- 急性期病棟で治療を終えたが、経過観察や療養が必要な患者さん
- 在宅・生活復帰のために支援が必要な患者さん
- 在宅療養していたが、急性疾患により入院が必要になった患者さん
- 家族の事情で、在宅療養が一時的に難しくなった患者さん
地域包括ケア病棟の役割
地域包括ケア病棟の役割は以下の3つあります。
急性期からの受け入れ | 急性期の治療を終えた患者さんが、在宅復帰・社会復帰するために、リハビリを実施する |
---|---|
在宅・生活復帰支援 | 患者さんが在宅復帰するために、多職種と連携しながら退院調整し、在宅療養の準備を進める |
緊急時の受け入れ | 在宅療養中の患者さんが、一時的に入院が必要になった時に受け入れる |
このように地域包括ケア病棟では、急性期の治療を終えた患者さんの受け入れだけではなく、在宅・生活復帰支援や在宅療養中の患者さんの一時的な緊急受け入れも担います。
一般病棟との違いは?
地域包括ケア病棟と一般病棟では目的と、施設基準に大きな違いがあります。
目的の違い
一般病棟の目的は、患者さんを治療し回復させることであるのに対して、地域包括ケア病棟の目的は、患者さんが在宅に戻った時にその人らしく生活できる体と環境を整えたうえで、退院できるようにすることです。
具体的に一般病棟では患者さんが入院すると、手術や点滴・内服などの治療を最優先に施し、病気の回復を目指します。
一方、地域包括ケア病棟では患者さんが抱える治療後の不安を解決するために、定められた入院期間で日常生活動作(ADL)を向上させるために支援します。また支援と並行して、退院に向けた環境整備も担います。
またがんの終末期や胃瘻・気管切開など医療的ケアが必要な患者さんには、退院後に安心して過ごすために、患者本人あるいは家族に正しい処置方法を指導することも地域包括ケア病棟の看護師が行います。
施設基準の違い
施設基準とは、厚生労働大臣が定めた保険診療を担う医療機関が満たすべき人員や設備を示したものです。厚生労働大臣が定めた条件が満たされている旨を厚生労働局に届け出ると、診療報酬として点数加算されるのです。
病院の規模や種類、対象になる疾患によって、一般病棟と地域包括ケア病棟では施設基準が異なります。以下が一般病棟と地域包括ケア病棟の施設基準を比較した表です。
急性期病棟 (急性期一般入院料1の施設基準) |
地域包括ケア病棟 (入院管理料1・2の施設基準) |
|
---|---|---|
看護職員 | 7対1 (看護職員7割以上が看護師) |
13対1 (看護職員7割以上が看護師) |
重症患者割合 | 看護必要度1:31%以上 看護必要度2:28%以上 |
看護必要度1:12%以上 看護必要度2:8%以上 |
在院日数 | 平均在院日数18日以内 | 入院期間60日以内 |
在宅復帰率 | 自宅等に退院する患者が80%以上 (介護保険老人保健施設・療養病棟を含む) |
在宅復帰率72.5% (介護老人保健施設・療養病棟を除く) |
リハビリテーションの提供 | リハビリテーション要件なし | 1日2単位以上 |
このように、地域包括ケア病棟と一般の急性期病棟では、看護職員数や重症度割合、入院日数、リハビリテーションの提供などに違いがあります。
とくに異なるところは、地域包括ケア病棟ではリハビリテーション専門職の配置とリハビリテーション実施時間が定められている点です。在宅復帰するためには、日常生活動作(ADL)の向上が必要であるため、リハビリテーションに重点を置く必要があります。
地域包括ケア病棟看護師の働き方解説
ここからは、地域包括ケア病棟で働く看護師の役割と仕事内容を、1日のスケジュール例に沿って詳しく解説します。
地域包括ケア病棟で働く看護師の役割
地域包括ケア病棟で働く看護師に求められる役割は、主に以下の3つです。
- 在宅復帰を見据えて看護する
- 多職種・地域の専門職と協働して退院を調整する
- 幅広い知識を持ち、患者さん個々の疾患に合わせて看護する
地域包括ケア病棟は在宅・生活復帰支援の役割を担っているため、看護師には在宅復帰を見据えた看護が求められます。
また在宅復帰を見据えて看護するためには、入院前の生活状況を把握したうえでの退院調整が必要です。退院調整を円滑に進めるためには地域の専門職種とも連携しなければいけません。そのため、地域包括ケア病棟の看護師にはコミュニケーション能力も求められます。
さらに、ひとつの診療科に特化した病棟と異なり、さまざまな疾患の患者さんを受け持つため、幅広い疾患の知識を持つことも重要です。
地域包括ケア病棟看護師の仕事内容
以下では、地域包括ケア病棟の看護師が一般的に担う仕事内容を紹介します。職場によって任される業務や詳細は異なるため、参考として捉えてください。
仕事内容 | 詳細 |
---|---|
日常生活援助 | ● 患者さんの食事・入浴・排泄・病室の環境整備など |
入院対応 | ● 入院時オリエンテーション ● 患者さんの情報収集(生活背景、日常生活動作(ADL)、患者さんと家族が望む退院後の生活など) |
退院調整 | ● 多職種との連携 ● ソーシャルワーカー介入の要否を判断する |
家族支援 | ● 家族の不安を傾聴して問題点を見出し、解決策を提案 ● 退院後に必要な処置や介護技術の指導 ● 家族背景と家族の状態を把握し、在宅復帰に困難がある場合は、退院後に必要な社会資源を提案 |
各種カンファレンス | ● 多職種カンファレンス ● 退院支援カンファレンス ● ケアカンファレンス ● 退院前カンファレンス ● リハビリカンファレンス など |
仕事の内容はさまざまですが、患者さんの退院調整の進捗に合わせて受け持ち看護師が計画を立案し実施していくことが大切です。
1日のスケジュール例
ここでは日勤で働く地域包括ケア病棟看護師の1日のスケジュール例を紹介します。ただし職場によってスケジュールは異なります。また受け持つ患者さんの状態によって1日の流れも変化するため、あくまで一例として捉えてください。
基本的に午前は状態観察・日常生活の援助、午後はカンファレンスや退院調整の進捗に合わせた業務となります。
また退院後にどのような家屋で生活するのかを確認するために、多職種とともに家屋調査に伺うこともある点は、地域包括ケア病棟で働く看護師ならではの仕事といえるでしょう。
地域包括ケア病棟勤務経験者が語る~やりがいから大変なことまで~
ここからは地域包括ケア病棟で勤務経験のある看護師が、やりがいと魅力・培えるスキルやメリットについて、それぞれ詳しく解説します。
地域包括ケア病棟ならではのやりがい・魅力は?
地域包括ケア病棟で働くなかで、退院後の生活を見据えて患者さんを看護し、無事退院を迎えたときは、とくにやりがいを感じられる瞬間だといえます。
退院調整の問題点を見出し解決するためには、比較的多くの時間を要するからです。問題の洗い出しから解決するまでの期間、患者さんやその家族と深く関わりを持ち、在宅復帰のために看護を提供します。
患者の入院から退院まで密に関わり、退院時に感謝の言葉をいただいたとき、地域包括ケア病棟の魅力を実感できるでしょう。
地域包括ケア病棟で培えるスキルやメリットは?
地域包括ケア病棟で培えるスキルとして情報収集能力があげられます。患者さんの退院に繋げる目的を持って、患者さんの生活背景や退院後の不安など、必要な情報を聞き取る必要があるからです。
また地域包括ケア病棟の看護師は、他職種や地域の専門職種と数多く連携しなければいけません。そのため、コミュニケーション能力も養えます。
さらに退院調整するために在宅支援を理解する必要があるため、在宅医療に詳しくなれるメリットがあるでしょう。
地域包括ケア病棟で大変だったことは?
地域包括ケア病棟で働くなかで大変だったことは、退院に向けての調整が順調にできなかったときです。
患者さんやその家族の在宅復帰条件のハードルが高かったり、在宅環境の整備がなかなか進められなかったりすると、計画通りに退院できない場合もあり得ます。
看護師は患者さんやその家族との間で認識のずれが生じないように、こまめにコミュニケーションをとりながら在宅復帰を目指すことが必要でしょう。
地域包括ケア病棟で働くためには
地域包括ケアに興味がある人に対して、ここからは地域包括ケア病棟に向いている人の特徴や学生時代にしておいたほうがいいことを深堀りします。
地域包括ケア病棟看護師に向いている人の特徴
地域包括ケア病棟は看護師免許があれば働けますが、そのなかでもとくに向いている人の特徴は以下の通りです。
- 地域看護に興味がある人
- じっくりと患者さんと向き合いたい人
地域包括ケア病棟では地域看護に携われるため、地域看護や地域の多職種との連携に興味がある人は向いているでしょう。また地域包括ケア病棟は入院から退院後の生活まで見据えた看護が求められるため、じっくり患者さんと向き合いたい人も適していると考えられます。
持ち合わせているスキルも大切ですが、向き不向きは自分自身の興味や、患者さんとどのように向き合いたいのかという気持ちが重要な判断基準になるでしょう。
学生時代にしておいたほうがいいこと
地域包括ケア病棟に興味を持っている看護学生は、地域看護学についてしっかり学んでおくことをおすすめします。
地域看護学は地域包括ケア病棟看護師の役割である退院支援や多職種連携を学べるため、地域包括ケア病棟での看護に活かせるからです。
また地域包括ケア病棟に限らず、学生のうちに看護師の働き方の理解を深めるため、さまざまな病院の就業体験や説明会に参加するのもよいでしょう。
就業体験や説明会は、以下のページから病院名や詳細条件を選択して申し込むことが可能です。気になる人はぜひチェックしてみてください。
地域包括ケア病棟の特徴を理解してキャリアを選択しよう
地域包括ケア病棟は、患者さんが安心して在宅復帰できるようサポートする病棟です。看護師は、患者さんとその家族の在宅後の生活をイメージして、多職種と連携しながら退院調整していきます。コミュニケーション能力の高い人はもちろん向いていますが、コミュニケーションに自信がない人も徐々にスキルは身につきます。地域包括ケア病棟での働き方を理解し、キャリア選択の幅を広げてみてくださいね。
参考文献
地域包括ケア病棟入院料の取扱いについて.厚生労働省(2023年6月30日閲覧)
平成26年度診療報酬改定 地域包括ケア病棟イメージと要件.厚生労働省(2023年6月30日閲覧)
新人看護師の私が地域包括ケア病棟で経験できていること.えびえ記念病院(2023年6月30日閲覧)
地域包括ケア病棟で働く際に知っておきたいこと.ナース専科(2023年6月30日閲覧)
地域看護学領域.日本赤十字看護大学(2023年6月30日閲覧)