2025年問題で看護師は余る?もたらされる影響と今からできること

2025年問題で看護師は余る?もたらされる影響と今からできること

最終更新日:2023/10/11

「2025年問題」は医療・介護業界に大きな影響をもたらす課題のひとつです。看護師にも役割や働き方の変化など、さまざまな影響があると予想されます。今回は医療業界で働く看護師が知っておきたい2025年問題について解説します。看護学生の皆さんも、将来に向け参考にしてください。

2025年問題とは

2025年問題とは、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となることで起こるさまざまな社会問題のことです。団塊世代とは、1947〜1949年の第一次ベビーブームに生まれた人たちのことで、約800万人いるとされます。この800万人が後期高齢者になる2025年をひとつの節目としたとき、社会はどのような状況になっていくのでしょうか。問題の背景や、医療・介護業界への影響を詳しく解説します。

2025年問題の背景

2025年問題の背景には、止まらない少子化と高齢者の急増があります。

日本の出生数は、1971〜1974年の200万人代をピークに現在まで減少し続け、2022年には約78万人となり、少子化は刻一刻と進行しています。その一方で、1950年には5%以下であった日本の高齢化率は、2007年には21%を超えて超高齢社会に突入、2022年には29.1%となり年々伸び続けています。

そして2025年、約800万人もの団塊世代が75歳以上の後期高齢者を迎え、日本の高齢化問題がますます深刻化することは避けられない状況です。厚生労働省によると、2025年には日本人の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上になると推計されています。

少子化の進行と高齢者の急増は、労働人口の減少や社会保障給付費の増加、医療や介護の場およびマンパワーの不足など、さまざまな社会問題を引き起こすことにつながり、国にとっても最大の課題といえるでしょう。

医療・介護業界における2025年問題

2025年問題がもたらす医療・介護業界への影響として、具体的には以下のようなことが考えられます。

  • 生活習慣病、慢性疾患、認知症の患者数の増加
  • 少子化に高齢単身世帯の増加が加わり介護者不足が加速
  • 死亡者数の増加による看取りの場の多様化・不足
  • 現役世代が減少して医療・介護従事者の不足がより進行

2025年問題で高齢者が増えると、生活習慣病・慢性疾患・認知症などを抱え日常生活に支援が必要な人が増加する一方で、少子化は続き、核家族化によって高齢単身世帯が増加して、介護者の減少は加速します。そのため、医療・介護へのニーズが増大すると考えられます。

また死亡者数が増加することから、受け皿となる病院・介護施設・在宅医療支援施設の数が足りず、看取りの場が見つからないという人も出てくるかもしれません。さらに、高齢化することで複数の疾患を合併する人が増え、健康問題は複雑化します。これらの対応に加え、価値観が多様化することで、医療・介護には総合的な生活支援が求められるようになるでしょう。

しかし、現役世代は減少していくため、医療・介護業界における人材不足はさらに深刻化する方向です。人材を確保しながら、変化する医療・介護ニーズにどのように対応するかが課題といえます。

2040年には、少子化による現役世代の減少と高齢者の増加がともにピークに達することが予測されています。2025年以降も医療・介護業界は多様な対策が必要となる状況です。

医療・介護分野の2025年問題に対する政府の取り組み

2025年問題に対し、政府が掲げている医療・介護分野における取り組みは、主に、地域包括ケアシステムの構築、病院機能の見直し、人材確保の支援です。3つの取り組みを詳しく解説します。

地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは、要介護状態になっても住み慣れた地域で最期までその人らしい生活を続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活を地域で包括的に支援する体制のことです。

2025年問題の課題である医療・介護のニーズの増大と人材不足の解決策として「病院完結型」から「地域完結型」の医療・介護体制を目指しています。

2025年問題では全国的な少子高齢化が危惧されていますが、後期高齢者の増加や少子化には地域差が生じると考えられます。そのため、地域が主体的にそれぞれの地域の特性に応じた体制を整えることが必要だとされています。

地域医療構想(病院機能の見直し)

地域医療構想とは、将来の推計人口から医療ニーズを予測し、地域ごとに適切な医療体制がとれるよう医療機能の見直しを図る計画のことです。

地域医療構想では、医療機能を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに分類し、地域ごとに病床の必要量を算出します。各地域では、専門家による「地域医療構想調整会議」が開かれており、医療機関の役割分担や機能連携が協議されています。

また地域医療構想には、地域ごとの目指すべき医療体制を実現するために、在宅医療の充実と医療従事者の確保・育成も盛り込まれています。

人材確保支援

国は医療従事者の人材確保のための支援として、医師や看護師など各職種別に育成推進や働き方改革などの支援策を打ち出しています

看護職においては、新規養成・復職支援・定着促進の3つを柱とし、専門知識・技術を習得できる研修の実施やナースセンターと連携した復職支援、看護職の処遇改善などを行っています。

日本看護協会も、看護師が長く働き続けられる環境整備を推進しており、賃金制度の改革や夜勤体制の改善、ワークライフバランスの推進などに取り組んでいます。

余る?不足する?2025年問題が看護師にもたらす影響

2025年以降の医療・介護ニーズの変化や国の動向は、看護師に求められる役割や働く環境にも様々な影響を与えることが考えられます。ここからは2025年問題が看護師にもたらす影響を詳しく解説します。

全体的に看護師は不足するが、需要に偏りが生じる

全体的にみると、2025年問題によって看護師不足はより進むと予測されています。しかし、国の政策や医療・介護ニーズの変化により、看護師に対する需要には偏りが生じる可能性もあるようです。需要が高まると予想される領域と、縮小すると予想される領域をそれぞれ解説します。

2025年問題で需要が高まる領域・職場

2025年問題で看護師の需要が高まると予想されている領域は、以下のとおりです。

  • 訪問看護
  • 回復期
  • 介護保険施設
  • 地方の中小病院

高齢者の増加により医療・介護へのニーズが急増し、生活の質を重視した総合的な支援が求められていることから、在宅療養を支援する訪問看護の需要はすでに高まっています。また、退院後の在宅復帰を目指す回復期や、在宅療養が難しい人がよりその人らしい生活を送れる場としての介護保険施設でも看護師の需要は高まるでしょう。

地域医療を支える役割として、地方の中小病院での看護師の需要も高まると考えられます。ただし、厚生労働省の報告によると、その需要には都道府県により格差があるため、中小病院での看護師の需要については拡大する地域と縮小する地域があるでしょう。

2025年問題で需要が縮小する可能性がある領域・職場

2025年問題で看護師の需要が縮小する可能性がある領域は、以下のとおりです。

  • 高度急性期
  • 急性期
  • 慢性期

国が地域医療構想や地域包括ケアシステムを推し進めていることから、急性期機能を有する病院は集約される傾向にあり、高度急性期・急性期の病床数は減少する可能性があります。また、在宅療養への移行がすでに始まっているため、医療必要度の低い長期療養を受け入れていた療養病棟から在宅療養へと患者さんの移行が進むと、慢性期領域も病床の縮小が見込まれます。

看護師としての役割が拡大する

これからの看護師の役割は、医療機関での看護から生活全体を看る看護へと変化していくことが予測されます。健康問題を抱えた人にとって、今までは医療機関での療養が主体でしたが、今後の療養生活は医療機関から暮らしの場へと移行していくことになるためです。

役割の変化に伴い、看護師が活躍する場は医療機関から介護、在宅医療、予防医療まで拡大することになるでしょう。

またその一方で、医師の負担軽減やタイムリーなケアを実現するために、専門的な診療補助ができるような特定行為研修制度や、一定範囲の診療行為ができるような診療看護師(NP協議会が実施する認定資格)なども登場しており、看護師の裁量は拡大していく傾向です。

新しい技術を導入する職場が増える

今後は、人材不足による労働力の不足を補うために、看護師が働く職場でも新しい技術を導入するところが増えると考えられます。実際に情報通信技術を利用し業務効率の向上を図る電子カルテは、現在多くの医療機関で取り入れられています。

ほかにも、オンライン診療や電子お薬手帳、患者さんのデータを医療機関で共有できる地域医療情報連携ネットワークなどの導入が進み、医療業界のICT化はさらに進むでしょう。

また、薬剤や検体を運ぶ自律搬送ロボットや、移乗や入浴の介護業務をサポートするロボットなど、医療・介護ロボットの開発・普及も進められているようです。

2025年問題に向けて看護師に求められること

ここからは2025年問題に伴い、変化する医療・介護業界で看護師に求められることを解説します。

在宅・予防看護の役割

日本看護協会によると、2021年度の訪問看護ステーションの求人倍率は3.22倍と領域別でみると最も高く、在宅医療における看護師の役割はすでに大きくなっています。国の在宅医療推進や住み慣れた地域で過ごしたいという人の増加から、在宅看護の役割はさらに重要になってくるでしょう。

また、健康への関心の高まりや、国や企業の健康寿命の延伸に向けた取り組みにより、予防看護の役割も拡大すると考えられます。地域や職場、学校などにおいて、健康維持や疾患予防を支援する役割が求められるでしょう。

他職種の理解と連携

地域包括ケアシステムが推進されるなかで、生活全般を支える看護師としての役割を果たすには、他職種への理解と連携が求められます。行政保健師、ケアマネジャー、介護福祉士、理学療法士や作業療法士など、他職種にはどのような職種と役割があるのか理解しておきましょう。

専門性の高い看護

看護師の役割拡大は広範で、今後はより専門性の高い知識や技術を有する看護師も求められると考えられます。具体的には、生活習慣病や慢性疾患の専門的な知識を身につけた看護師や、各領域の認定看護師・専門看護師など、時代のニーズに沿ったスキルを持つことが求められるでしょう。

一方で、在宅療養の場や介護保険施設では、生活支援から医療的判断まで看護師が幅広い役割を担います。専門性だけでなく、広い領域にわたる知識や経験を持つジェネラリストが活躍できる場も増えてくると思われます。

変化に対応できる柔軟性

2025年問題を機に、看護師に求められる役割は変化しています。これに伴い、仕事内容のICT化や働き方の多様化など、看護師を取り巻く環境も変化していくでしょう。

また、2025年以降も人口構成や生活様式は変化し、看護師の役割や働き方は変わり続けるはずです。そのため、これからは変化していく社会と看護業界に柔軟に対応できる力が必要になります。

2025年問題に向けて看護学生のうちからできること

2025年問題に伴う医療・介護の変化は、看護学生にも影響があります。看護業界の変化に対応できる看護師として活躍するために、看護学生のうちからできることを実践しておきましょう。

国や地域の動向を理解しておく

2025年問題に対する国や地域の動向は状況に応じて変化する可能性があるため、国や地域の動向に関心を持っておきましょう。これを理解しておくことで、看護業界の流れに柔軟に対応しながら自分のキャリアを考えることができます。

キャリアプランを見つめ直す

看護師としての経験を積むなら、とりあえず急性期病院に就職したいという看護学生の皆さんは多いかもしれません。しかし、2025年問題に向けて改革が進められていることを考えると、その先を見据えたキャリアプランをイメージしておくことが大切です。

急性期で経験を積み、将来的には在宅看護に携わるなど、変化する医療・介護業界で自分がどのような看護を目指していくか、視野を広げてキャリアプランを見つめ直しましょう。

需要が高い業界の理解と知識を身につける

国や医療・看護業界の動向に関連してこれから需要が高くなる領域についての理解を深めておきましょう。今後は在宅看護や回復期看護、各領域・専門分野のスペシャリストなどの需要が拡大することが予測されています。学生のうちから自分が興味・関心のある領域、そして需要の拡大が見込める領域の知識を習得しておきましょう。

ICTリテラシーを身につけておく

ICTとは「Information and Communication Technology」の略称であり、通信技術を駆使したコミュニケーションのことです。

医療業界のICT化が推進されると、パソコンやインターネットなどの通信技術を使いこなすための基礎知識や理解、つまりICTリテラシーが必要になります。

特にパソコン操作は電子カルテや各種研修でも必須なので、基本操作やタイピングができないと業務負担が大きくなります。スマートホンやタブレットの操作とは異なる部分も多いので、学生のうちからICTリテラシーを身につけておきましょう。

2025年問題を見据えたキャリアプランを立てよう

2025年問題は、後期高齢者の増加や少子化により起こる様々な社会問題を表現したものです。医療・介護業界でも人材不足や看護師の役割の変化などの影響があり、今後は多様な改革が進められることになります。学生のうちから2025年問題を理解し、看護業界の変化に対応できる看護師を目指しましょう。

参考

内閣府:令和5年版高齢社会白書(2023年8月20日閲覧)

公益財団法人長寿科学新興財団:日本の超高齢社会の特徴.健康長寿ネット(2023年8月20日閲覧)

日本看護協会:2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン(2023年8月20日閲覧)

厚生労働省:医療と介護を取り巻く現状と課題等(2023年8月20日閲覧)

厚生労働省:医療の担い手の確保について(2023年8月20日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

柴田 実岐子

shibata-mikiko

福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。