訪問看護師の役割とは?仕事内容から新卒向けの研修内容まで解説
最終更新日:2024/08/26
訪問看護とは看護師が利用者の家や施設を訪問し、看護を提供するサービスです。訪問看護師の需要は年々高まっており、新卒から採用する事業所も増えています。今回は訪問看護に興味がある看護学生に向けて訪問看護師の役割や仕事内容、やりがいなど働き方を解説します。
目次
在宅療養のサポートを担う「訪問看護師」
訪問看護師とは、在宅で療養している方々の生活を支える役割を担う看護師のことです。病気や障害があっても住み慣れた地域でその人らしく暮らせるよう、看護を提供します。
「2025年問題」に伴う訪問看護の需要拡大
2025年に団塊の世代といわれる人たちが後期高齢者となり、超高齢社会になることが予測されている「2025年問題」。高齢者の増加に比例して訪問看護の需要も拡大しています。
以下は全国の訪問看護のステーション数の推移を表したグラフです。
2010年では訪問看護ステーション数が全国で5,731ヶ所でしたが、2023年には15,697ヶ所となり、ここ13年間で約2.7倍増加しています。
以下の表は日本訪問看護財団が発表する「訪問看護アクションプラン2025」をまとめたものです。
アクションプラン | 具体的な内容 |
---|---|
訪問看護の量的拡大 | ● 全国各地で訪問看護を利用できる体制を整備し、地域格差をなくす |
訪問看護の機能拡大 | ● 自宅訪問だけでなく介護施設への訪問など、提供の場を拡大する ● 予防活動から相談活動まで、サービス内容の幅を広げる |
訪問看護の質の向上 | ● 日常生活を支える視点・知識・専門性を兼ね備えた訪問看護師の育成を強化する ● 質の高いケアを提供するため、多職種と協働する機会をつくる |
地域包括ケアへの対応 | ● 地域住民・行政・多事業所・多職種との連携を図るための取り組みを強化する |
上記の内容からもわかるように訪問看護師の数を増やすことはもちろん、今後は質の高いケアが提供できる看護師が求められるでしょう。
訪問看護師の仕事内容
訪問看護師の仕事は多岐にわたります。利用者さんだけでなく、家族のサポートや医師、介護事業所との連携も重要です。訪問看護師が担う具体的な仕事内容を紹介します。
利用者さんの看護
利用者さんの健康状態の観察や医師の指示による医療処置を中心に、以下のような生活全般に関わる看護を提供します。
- 病状や健康状態の観察(バイタルサイン、全身状態のチェック)
- 医療処置(褥瘡の処置、注射、カテーテルの管理、人工呼吸器の管理、浣腸、経管栄養など)
- 服薬管理
- リハビリテーション(歩行訓練、関節の拘縮予防のリハビリなど)
- ターミナルケア(疼痛コントロール、精神的ケア、看取り)
- 生活の支援、相談
看護の内容はさまざまですが、利用者さんの状態にあわせた方法で看護を提供することが大切です。
ご家族の支援
ご家族へのサポートは訪問看護師の重要な任務です。普段の生活で困っていることはないか確認したうえで、必要な指導や支援をします。
例えば、以下のような内容です。
- 看護・介護のアドバイス(食事内容や介助方法、皮膚の清潔保持方法、家族が行う処置など)
- 精神的な支援、相談
今後について不安に感じていることも多いため、まずは傾聴し、ご家族の思いから不安や悩みの具体的な内容を把握することが大切です。
多職種との連携
訪問看護師は以下のように、数多くの職種との連携が求められます。
- 主治医
- 病棟看護師
- ケアマネジャー
- 薬剤師
- 作業療法士
- 介護員(ヘルパー)
利用者さんの体調に異常がみられるときは、すぐさま主治医に報告し、指示を仰ぐ必要があります。もしも利用者さんが複数の医療・介護サービスを利用している場合、ほかの事業所のさまざまな職種の人との連携が必要です。
病棟看護師との違いは?
病棟看護師と訪問看護師では、看護における仕事内容よりも働く環境や関わる人に大きな違いがあります。
まず訪問看護師が働く環境は主に、利用者さんの自宅や施設です。病院のように点滴台や清拭物品など、ケアに必要な物品がそろっているとは限りません。利用者さんや施設にあるものを創意工夫して処置する必要があります。
そしてほかの事業所との連携が多いことは訪問看護師ならではの特徴です。個人訪問が多いからこそできることが限られているため、さまざまな職種との連携がカギとなります。
訪問看護師の1日スケジュール
訪問看護師の1日スケジュールを紹介します。
訪問件数はステーションによって異なります。1日4~5件が平均的ですが、移動に時間がかかったり、カンファレンスが予定されていたりすると少なくなるときもあります。
訪問看護師のやりがい・魅力と大変なこと
訪問看護師ならではのやりがい・魅力がある一方で、訪問看護特有の悩みがあることも理解しておくべきです。
この章では、訪問看護師のやりがい・魅力と大変なことをそれぞれ3つ紹介します。
訪問看護師のやりがい・魅力3選
訪問看護師のやりがいや魅力は、以下の3つです。
- 利用者さんとじっくり向き合える
- 深められるスキルがたくさんある
- 利用者さんや家族の考えを考慮した看護ができる
利用者さんとじっくり向き合える
看護師として利用者さんとじっくり向き合えることは大きな魅力でしょう。病院では勤務中、大勢の患者さんと関わります。訪問看護の場合、関わるのは訪問中の利用者さんだけです。
看護するだけでなく利用者さんとさまざまな会話ができます。看護を通して利用者さんと信頼関係が築けるため、やりがいを感じられるでしょう。
深められるスキルがたくさんある
在宅看護に必要なスキルが深められることは訪問看護師の魅力のひとつです。訪問看護師がとくに深められるスキルは、以下の通りです。
- コミュニケーションスキル
- アセスメント力、判断力
- 多職種と連携するスキル
利用者さんとじっくり向き合うことでコミュニケーションスキルが磨けます。また、一人で訪問するため自分で考えて判断する力が身についたり、他職種と関わりが多いことから連携するスキルが向上できたりするなど、やりがいにも直結するわけです。
利用者さんや家族の考えに寄り添った看護ができる
訪問看護師の魅力は、利用者さんや家族の考えに寄り添った看護を提供できるところでもあります。
利用者さんや家族の方から「ありがとう」「助かりました」など感謝の言葉をもらえたり喜んだ姿が見られたりすれば、看護師としてのやりがいをより実感できるでしょう。
訪問看護師の大変なこと3選
やりがいや魅力とは反対に、訪問看護師の大変なこととして、以下の3つが考えられます。
- オンコール体制がある
- 一人で判断し対応する必要がある
- 臨機応変な対応が求められる
オンコール体制がある
訪問看護師の大変なことは、オンコール体制があることです。多くの訪問看護ステーションは365日、24時間体制をとっています。そのため緊急の際は昼夜を問わずオンコール当番に連絡が入ります。
末期がんの利用者さんが多い訪問看護ステーションだと、看取りが続くこともあり得ます。緊張で眠れないため大変だと感じる看護師も少なくないでしょう。
一人で判断し対応する必要がある
基本的に一人で訪問するため、何事もすべて一人で判断しなければなりません。そのため重荷と感じる看護師もいるでしょう。とくに訪問看護の経験が少ない看護師だと、判断に迷う場面が多いかもしれません。
日中であれば他の看護師に相談できますが、夜間では相談するのは難しいでしょう。そのため、常に自分の判断力を磨き続ける必要があります。
臨機応変な対応が求められる
在宅看護では医療物品がすべて揃っているわけではありません。訪問看護ステーションにあるものや家にあるものを、創意工夫して臨機応変に対応することが必要です。
急変時は、利用者さんの状態を観察しながら、医師への連絡や救急搬送の依頼、ご家族への対応など訪問看護師がひとりで行わなければいけません。状況に合わせて臨機応変に対応する力が訪問看護師には求められるのです。
新卒から訪問看護師になるには
看護師資格もしくは准看護師資格があれば、新卒でも訪問看護師になれます。新卒者の教育に力を入れている事業所も増えているため、就職先を選ぶ際は、新卒者向けの教育プログラムを取り入れている事業所のなかから選ぶのがおすすめです。
新卒者向けの教育プログラムとは
新卒向けの教育プログラムとは、新卒で訪問看護ステーションに入職した看護師が一人の訪問看護師として活躍できるよう、育成するためのシステムのことを指します。
教育プログラムは2年ほど実施される事業所が一般的です。ここからは教育プログラムの具体的な内容を紹介します。
ただし研修内容は地域や事業所によって異なるため、詳細を知りたい人は志望先の説明会などに参加しましょう。
OJT
OJTとは、実際の業務を通じて行う訓練のことです。指導役である上司や先輩から業務に必要な知識やスキルを学びます。
OJTの内容として、まず先輩と一緒に訪問する(同行訪問)からスタートします。先輩の看護ケア方法を見学したのち、徐々に先輩と一緒に看護ケアを実施します。入職4~6か月までにはひとりで訪問する(単独訪問)ことがほとんどです。
一般的に同行訪問は1年ほど続きます。また単独訪問は、時期と訪問回数がある程度定められています。2年目になると緊急訪問のトレーニングが始まります。
同行訪問、単独訪問に限らず、技術や知識、記録の整理方法を先輩と振り返る時間は、訪問看護師の基礎固めとしての重要です。
外部研修
外部研修には、都道府県の看護協会による厚生労働省のガイドラインに沿った新人職員研修や、訪問看護実践研修、基礎看護技術研修などがあります。
また病院での技術研修やeラーニングの活用など、基礎的な知識や技術を習得するのが目的です。
そのほか、実務研修が実施されることもあります。病院研修や施設研修は事業所のOJTでは学びきれない内容を学べる絶好の機会です。
外部研修は、看護技術や知識を学ぶだけでなく、他職種やほかの施設の理解を深めることにもつながるでしょう。
会議
新卒看護師が知識や技術を振り返るためのカンファレンスや、課題を明確にするための会議も研修内容のひとつです。
カンファレンスや会議は主に先輩や上司と実施します。わからないことや困ったことを伝えたり、看護ケアや看護記録についてアドバイスを受けたりするのです。
研修期間を上手に活用し小さな疑問でも解消できるようにするとよいでしょう。
あるとよいスキルや資格
看護師資格や准看護師資格以外で訪問看護師に必要な資格はありません。ただし、新卒から訪問看護師になるうえであったほうがよいスキルや資格はあります。
具体的には、以下の通りです。
コミュニケーションスキル
訪問看護は小児から高齢者までが対象であるため、幅広い年代に対応できるコミュニケーションスキルがあれば、重宝されるでしょう。利用者さんの多くは高齢者であるため、敬意を持って対応することが大切です。
幅広い看護知識
訪問看護の利用者さんの疾患は多岐にわたります。また難病の方や終末期の方も多く、幅広い看護知識が必要です。入職前から看護知識を深めておくとよいでしょう。
普通自動車運転免許
地方は公共交通機関が十分に整備されていないため、移動手段は自動車であることが多い傾向です。地方で訪問看護師をする場合は、普通自動車運転免許を取得しておくことをおすすめします。
訪問看護師として働くうえで大切なこと
訪問先では新卒であっても「一人の看護師」として見られます。訪問看護師として活躍するために、大切にしたいことを押さえておきましょう。
笑顔であいさつできること
あいさつは新卒者に限ったことではありませんが、対人関係の中でもっとも大切なことです。初めて会う方への自己紹介や訪問時はハキハキと笑顔であいさつしましょう。
先輩に報告・連絡・相談ができること
独り立ちするまでは先輩への報告・連絡・相談を徹底しましょう。問題が発生した際に周りがすぐにカバーできるよう、困ったことは一人で悩まず、必ず先輩に相談することが大切です。
わからないことをわからないままにしない
日々の業務で疑問が出てきた場合は、すぐに調べたり、先輩へ相談して確認したりすることも大切です。わからなかったことが理解できるようになれば自信につながり、訪問看護の面白さややりがいが感じられるはずです。
自分で学ぶ姿勢があること
看護師に限らず、社会人は「自ら学ぶ姿勢」があるかどうかでその後の成長も変わってきます。訪問看護では病院で学べる技術以外の経験も必要であるため、自ら研修に参加したり練習したりすることが大切です。利用者さんの看護ケアに活かすために積極的に学びましょう。
「新卒から訪問看護師」も選択肢のひとつ
訪問看護師は「その人らしく暮らせるように看護する」役割を担い、病棟看護師とは異なるやりがいや魅力がある仕事です。超高齢社会に向けて訪問看護師の需要は年々高まっており、新卒を積極的に採用する事業所も増えています。看護学生は訪問看護師の働き方を理解して、卒業後のキャリア選択の幅を広げてみてはいかがでしょうか。