急性期病院の看護の特徴と働き方を解説│慢性期・回復期の違いは?

急性期病院の看護の特徴と働き方を解説│慢性期・回復期の違いは?

最終更新日:2024/04/18

病状が不安定で急激に変化しやすい患者や、高度な医療介入で生命を維持する患者が対象となる急性期。患者の命を守るために24時間体制で提供される急性期看護の特徴や働き方、キャリアプランを解説します。

急性期は患者の命を守る医療現場の最前線

急性期の患者は全身状態が安定せず、24時間集中的な治療や観察が必要な状態にあります。生命や呼吸・循環の維持には多種多様な機械やチューブ・点滴のサポートを要します。

急性期で働く看護師には患者の観察やアセスメント・ケアだけでなく、さまざまな処置や検査の介助・機器の管理など多くの知識と経験が求められます。急性期看護は患者の一番近くで、命の瀬戸際にいる患者の悪化を防ぎ回復を支援する大切な役割を担っているのです。

急性期とは?

急性期とは病気になって間もない時期や、病状が安定せず集中的な医療介入を要する時期のことです。一般的には入院や発症から14日程度を急性期といいますが、病状や経過により個人差があります。

急性期の対象となる患者の特徴

  • 発症直後の入院患者
  • 手術後の患者
  • 検査後で重点的な観察が必要な患者
  • 生命の危機に瀕している患者
  • 人工呼吸器やECMO(extracorporeal membrane oxygenation)などの高度医療機器で生命を維持する患者
  • 24時間体制での観察や治療介入が必要な患者

脳梗塞やくも膜下出血、けいれんなどの脳神経系疾患、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患や心臓の手術後、消化器や整形などの術後、肺炎や敗血症などの重症感染症など、さまざまな診療科や年齢の患者が対象です。

急性期・回復期・慢性期の違い

急性期・回復期・慢性期とは患者の病状を表す期間を示します。それぞれの定義や特徴、違いは以下の通りです。

急性期の特徴

すべての病気の患者は発症~治癒の過程で急性期から回復期を経過し、慢性期へと移行します。経過の中で、慢性期患者の病状が悪化し急性期に戻るケースもあります。

「高度急性期機能」と「急性期機能」の違い

急性期は医療法第30条で「高度急性期機能」と「急性期機能」の2つに区分されています。それぞれに以下の特徴があります。

「高度急性期機能」と「急性期機能」の違い

医療機能の名称(区分) 医療機能の内容(定義) 病棟の例
高度急性期機能 急性期の患者に対し状態の早期安定化に向けて、診療密度がとくに高い医療を提供する機能 救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニット、新生児集中治 療室、新生児治療回復室、小児集中治療室、総合周産期集中治療室
急性期機能 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能 その他の一般病棟

【引用】第8回地域医療構想に関するWG資料 厚生労働省

急性期・急性期看護を理解しよう

急性期・急性期看護とはどんなものなのでしょうか。ここからは急性期に関する理解を深める基礎知識を紹介していきます。

急性期病棟の特徴

厚生労働省が明示する急性期医療が担う役割

①高度かつ専門的な医療の提供
  • 全身麻酔の手術等の実施の高い実績
  • 専門的な知識を有する医療従事者による集中治療の提供
  • 十分な感染防止に係る取組の実施
  • 院内心停止を減らす取組を通じた安全な医療の提供を支える仕組み
  • 早期に回復させる実績
②重症救急患者に対する医療の提供
  • 24時間の救命救急医療提供や救急搬送の受入れの一定の実績
  • 緊急手術の実施
③自宅や後方病床等への退院支援する機能
  • 充実した入退院支援
  • 回復期・慢性期入院医療等を担う地域の医療機関等との役割分担

急性期を担う医療機関は高度かつ専門的な医療を提供し、地域の回復期・慢性期病棟を連携しながら早期回復を目指すことが求められています。その他にも急性期にはさまざまな特徴があります。

急性期の入院期間

急性期には「忙しそう」「入院が多い」というイメージがあるかもしれません。イメージの通り急性期病棟は病状や全身状態の安定しない患者を集中的に治療・看護し、安定したら回復期や慢性期病棟へ転棟します。空床にはまた新たな患者が入床し、日々患者が入れ替わっています。

医政局地域医療計画課の報告では平均在棟日数の中央値は、それぞれ高度急性期機能は9. 5日、急性期機能では14. 1日でした。回復期機能58. 7日、慢性期機能240. 5日と比較して大幅に短く、急性期患者の入れ替わりの激しさはデータからも明らかです。

病棟機能ごとの入院期間比較

急性期の入院期間

【参考】平成30年度(2018年度)病床機能報告の結果について 厚生労働省

急性期での受け持ち患者数

一般的な病棟の看護師配置基準は7:1ですが、急性期では看護師1人当たりが受け持つ患者を少なくするように決められています。高度急性期機能における看護師配置は、以下の通りです。

高度集中治療室(HCU) 4:1
集中治療室(ICU) 2:1
冠動脈集中治療室(CCU) 2:1

患者の状態を適切に把握し、業務を安全に遂行するためにも重症度に応じた人員配置は欠かせません。7:1の看護師配置の病棟でも、急性期の患者を担当する場合は看護師1人あたりの受け持ち患者を減らす配慮がなされています。

急性期で行われる看護

急性期の患者は状態が変化しやすく、些細な変化を見落とさないように注意しなければなりません。変化する患者のバイタルサインや病状を的確に把握し、迅速なアセスメントと対処が求められます。

患者の全身状態を安定させるために多種多様のドレーンや点滴ラインなどが挿入され、これらの観察と管理をおこないます。さらに検査や処置の介助、手術後の患者では創部管理、疼痛管理、人工呼吸器の管理も必要です。

点滴ラインは末梢静脈だけでなく循環動態作動薬や鎮静薬を投与する経静脈カテーテルや、血圧の持続モニタリングする動脈ラインを留置しています。1人の患者で5~10種類の薬剤が投与されるケースもあり、薬剤の作用・副作用・半減期・相互作用まで理解しなければなりません。

一般的な病棟看護と同様に清拭や洗髪・陰部洗浄・口腔ケアなどの清潔ケアは、皮膚の清潔を保ち合併症を予防するために欠かせません。自分でトイレに行くことが困難な患者も多く、排泄の管理も必要です。

また、患者や家族の精神的フォローも急性期では重要な看護ですし、回復期や慢性期を見据えて合併症や廃用症候群を予防する介入も欠かせません。急性の幅広い視野で患者を看護するために、多様な経験やスキルを積んでいく必要があるのです。

急性期看護に必要な資格

急性期看護に絶対に必要な資格は「看護師」資格です。より高度で専門的な看護を提供するために、認定看護師や専門看護師を取得する人もいます。その他にも以下の資格が急性期看護に役立ちます。

  • BLS(一次救命処置)
  • ACLS(二次心肺蘇生法)
  • PALS(小児二次救命救急法)
  • 学会呼吸療法認定士
  • 急性期ケア専門士
  • 循環器専門ナース

急性期の看護師の役割

急性期の看護師の役割は、患者の状態が回復に向うよう病状の変化に適切に対処するだけではありません。患者を取り巻くさまざまなことが円滑にすすむように、医師やコメディカル、患者や家族との調整役も担います。

変化する病状に揺れ動く患者や家族の支えとなり、少しでもよい療養環境を提供できるように配慮するのも急性期の看護師の重要な役割です。

急性期病棟のシフト例

急性期病棟でのシフトは、2交代制だけでなく、3交代制が取り入れられることがしばしばあります。患者の重症度が高く集中力も求められるため、一度の勤務時間を短くしてスタッフの負担を軽減する意味を持っていると考えられます。

2交代制では日勤と16時~翌朝9時ころまでの夜勤の組み合わせが一般的です。3交代制では日勤と16時~1時までの準夜、0時~9時までの深夜勤務を組み合わせています。以下は2交代・3交代勤務それぞれの2週間分の勤務例です。

急性期病棟のシフト例

急性期で働くことの特徴

急性期看護の特徴は、患者の回復する過程を見られることです。その他にもアセスメントやケアなどの結果がバイタルサインの変化や病状回復の兆候として現れやすく、患者の回復が達成感や自己効力感にダイレクトに繋がります。

臨機応変さや急変対応スキルが身につくなど、一般病棟よりも幅広い知識や経験ができるのも急性期看護の特徴の1つです。

急性期看護に向いている人の傾向

急性期看護に向いている人はどのようなタイプでしょうか。日々忙しく緊張感の高い急性期看護には、以下のような人が向いているとされています。

  • 臨機応変に対応できる
  • さまざまな診療科の看護を経験したい
  • 高いスキルや幅広い知識を身に着けたい
  • 体力に自信がある

これらに当てはまらないからといって急性期看護に向いていないわけではありません。ほかの分野も同様ですが「急性期看護に興味がある」「チャレンジしてみたい」という人が、その分野に最も向いているタイプだと言えるでしょう。

急性期で働く看護師のメリット・デメリット

急性期で働く看護師のメリットは、幅広い疾患や治療の知識や経験を得られることです。その他にも観察力や判断力、応用力も日々の看護で培われていきます。急性期看護経験のある看護師の配属を希望する部署は多く、部署移動や転職の際にはアピールポイントにもなります。

急性期で働くデメリットは、時間に追われて一人ひとりの患者とゆっくり向き合う時間がないこと、治療の手を尽くしても救えない患者も多く精神的な負担がかかることです。その他にも処置や指示が多くインシデント発生のリスクが高いことや、長時間緊張を強いられることも挙げられます。

急性期看護を経験するのに最適な時期は?

急性期看護を経験するのに最適な時期はとくに決まっていません。強いてあげるのであれば「急性期看護に興味・関心が生まれた時期」と言えます。

さまざまな経験を積めることから新卒看護師が配属されやすい部署ですが、新卒に限らずいつでも誰でも経験できます。興味・関心がある人はぜひ急性期看護に挑戦してください。

回復期、慢性期から急性期へ転職できる

回復期・慢性的から急性期への転職はいつでも可能です。
それまで担当してきた病期とは動き方や時間の使い方、患者対応など異なることや学ぶことは多いかもしれませんが、急性期から回復期・慢性期に転職したとしても同じです。今までの知識や経験が無駄になることはありません。自身の経験を活かして急性期看護で活躍してください。

回復期・慢性期から急性期への異動・転職の際に備えておくべきこと

異動・転職を考える際に備えておくべきことがいくつかあります。

まず急性期は回復期や慢性期よりもせわしないため体力が必要です。また、長時間集中しなければならず、緊張やストレスを強く感じるケースがあります。基礎体力の向上だけでなく、リラックス方法やストレス発散方法を見つけ自分の理想のライフワークバランスを整えるようにしましょう。

集中治療室や救命救急センターでは、診療科や年齢を問わずさまざまな患者を担当します。バイタルサインや採血データの正常値、フィジカルアセスメントなど基礎的な復習をしておくと日常のケアやアセスメントに役立つでしょう。

急性期で働くことで描けるキャリアプラン

急性期で描けるキャリアプランは、ほかの病期と同様に「スペシャリスト」「ジェネラリスト」「マネジメント」などがあります。キャリアアップとしては認定看護師や専門看護師の資格取得があり、「クリティカルケア認定看護師」と「急性・重症患者看護専門看護師」の2種類が代表的な資格です。それぞれについて詳しくまとめました。

クリティカルケア認定看護師

クリティカルケア認定看護師は、従来の救急看護認定看護師と集中ケア認定看護師を統合した新しい認定看護分野です。

認定看護師になるためには看護師免許取得後実務経験が5年以上必要で、そのうち3年以上は認定看護分野での実務経験が求められます。その後、認定看護師教育機関にて所定の単位を取得し認定審査に合格する必要があります。

現在、認定看護師は特定行為研修も受講する必要があり、より高い専門性とスキルを兼ね備えたクリティカルケア認定看護師が誕生しています。

【引用】認定看護師 日本看護協会

急性・重症患者看護専門看護師

急性・重症患者看護専門看護師を日本看護協会は以下のように定義しています。

緊急度や重症度の高い患者に対して集中的な看護を提供し、患者本人 とその家族の支援、医療スタッフ間の調整などを行い、最善の医療が提供されるように支援する。

【引用】専門看護師 日本看護協会
【参考】急性・重症患者看護 一般社団法人 日本専門看護師協議会

専門看護師になるためには看護師免許取得後実務経験が5年以上必要で、そのうち3年以上は専門看護分野での実務経験が求められます。さらに、看護系大学院修士課程で専門看護師教育課程の所定の単位を取得し、認定試験に合格する必要があります。

急性期は幅広い知識と経験ができる領域

急性期は年齢や性別、病気や診療科を問わずさまざまな患者が対象になります。

どの患者も病気のなりはじめや発症直後は急性期ですが、比較的病状が落ち着いてきたものの、急変のリスクが高く集中的な観察や看護が必要な患者も急性期の対象になります。

また、命を守るためにより集中的な治療・看護が必要な患者は集中治療室などの高度急性期機能の対象です。

一言で急性期といってもさまざまな病態・病状を看るため、一般病棟の看護師と比較すると多種多様な知識や経験が身につきます。認定看護師や専門看護師としてキャリアアップも可能な急性期看護は、幅広く病気を学びたい、さまざまな経験を積みたい人におすすめの領域です。

執筆者情報

プロフィール画像

小田 あかり

oda-akari

大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし、医療ライター・監修者として活動中。