NICUとは

NICUとは、「Neonatal Intensive Care Unit」の略で、生後28日未満の新生児専門の集中治療室を指します。日本語では「新生児集中治療管理室」や「新生児集中治療室」と表されます。

NICUで行われること

NICUでは、早産児や低出生体重児もしくは何らかの疾患のある新生児が必要とする専門的な医療が提供されます。医師常駐の環境下で、患児さんの心拍数や血圧、酸素飽和度(SpO₂)などを24時間体制でモニタリングし、人工呼吸器管理や輸液管理、投薬、手術前後のケアなどが行われます。

ICU・PICU・GCUとの違い

NICUと似ている部署名としてICU、PICU、GCUなどが挙がりますが、NICUとは対象となる患者さんが大きく異なります。以下はそれぞれの特徴を表にまとめたものです。

ICU・NICU・PICUは、それぞれ対象患者さんの年齢が異なるだけで、重症患者さんが治療を受ける場で、医師が常駐しているという点は共通しています。患者さんの微細な状態の変化に対応するため、看護師1人が受け持つ患者さんは1〜2人、多くても3人までであることが基本です。

一方GCUは、NICUでの治療で状態が安定した新生児を引き続きケアするための場所であるため、対象年齢はNICUとほぼ同じです。新生児を専門に治療する急性期一般病棟と捉えるとイメージしやすいでしょう。GCUでは患者さんの状態が比較的安定しているため、看護師1人で4〜6人ほどの患者さんを受け持ちます。

NICUに携わる看護師の役割と仕事内容

NICUの看護師は生命を左右する瞬間に立ち合うこともあるため、専門知識や技術だけでなく、さまざまな対応能力が求められます。ここからは、NICUでの看護の目的を踏まえ、働く看護師の役割、主な仕事内容や1日のスケジュール例を紹介します。

NICUで働く看護師の役割

NICUにおける看護の目的は、早産児や低出生体重児、重篤な疾患を抱える新生児の健康と安全を守ることです。そのためNICUの看護師は24時間体制で治療を受ける患児さんを監視し、医師の指示に基づく医療処置や看護ケアを提供する役割を担います。

また、患児さんの状態を家族に報告し、治療計画や予後についてわかりやすく説明し、情報を共有することも必要です。母親をはじめとした家族が患児さんとの絆を強めることができるような働きかけ、ケアへの参加を促すための教育やサポートも欠かせません。

患児さんの身体的なケアだけでなく、家族への心理的なサポートも含む包括的なケアまでがNICUの看護師に求められる役割といえます。

NICU看護師の主な仕事内容

以下に、NICU看護師の主な仕事内容をまとめました。具体的にどのような業務を行うのか、みていきましょう。

NICU看護師の主な業務一覧

早産児や低出生体重児の場合、本来あるべき生育環境は外部からの刺激を受けない胎内なので、少しの刺激にも敏感です。そのため、可能な限り患児さんにストレスを与えないミニマルハンドリングを意識した繊細なケアが求められます。

NICUの看護師は、ケアで患児さんに触れる場合も必要最低限の介入を意識しながら上記の業務を遂行します。

1日のスケジュール例

NICU看護師の勤務は病棟看護師と同じように日勤帯と夜勤帯に分けられます。日勤帯の勤務時間は基本的に8:00〜17:00ですが、夜勤帯は病院が採用している交代制によって勤務時間は異なります。さらに、長日勤や早番・遅番といった変則交代制勤務や夜勤専従の形態も存在します。

ここからは、NICU看護師の日勤帯と夜勤帯の具体的な1日のスケジュールをそれぞれ紹介します。

日勤帯の1日のスケジュール例

NICUの日勤帯の受け持ち数は2〜3人程度です。患児さんの病状によってスケジュールは毎日変動しますが、日勤帯のNICU看護師の一般的な1日のスケジュール例を紹介します。

日勤帯で働くNICU看護師は、患児さんのケアに加え、他部署や多職種とのカンファレンス、家族の面会対応も行います。

夜勤帯の1日のスケジュール例

夜勤帯の受け持ち数は、4〜5人程度です。二交代制の場合のNICUの夜勤帯スケジュール例を紹介します。

NICUでは夜勤帯においても、バイタルサイン測定、体位交換、おむつ交換、栄養管理を3時間ごとに行います。また夜間の急変や緊急入院の対応も発生します。

給料事情

NICUで働く看護師の給与は、一般病棟で働く看護師と大きな違いはありません。ただし同じ仕事内容であっても、職場、経験年数、役職・資格などによって金額が異なります。

以下の表は、新卒と勤続10年の病棟看護師の平均基本給与額をまとめたものです。

病棟で働く看護師の平均基本給

経験年数が多いほど、リーダー業務や教育などの責任も増えるため基本給も増額する傾向にあることがわかります。

そのほか看護師は基本給に加えて、夜勤手当や役職手当などがつきます。また病院によって異なりますが、NICU・ICUや手術室などでは、特殊勤務手当（特殊業務手当）がつくこともあります。

勤務経験者が語る～NICUのやりがいや大変なこと～

ここからは、NICUで働いた経験がある看護師にNICUのやりがい、大変なこと、培えるスキルなどについてお聞きした内容を紹介します。経験談からNICU看護師の理解を深めていきましょう。

NICUに興味をもった理由は？

新しい生命が誕生する現場ならではの看護に魅力を感じていたためです。そこで、入職時の配属希望の際に産科とNICUを選びました。

NICUは臨床実習がなかったので、産科よりも具体的なイメージが持てていませんでした。でも、生まれたばかりの赤ちゃんのケアには興味があったので、NICUという部署にも関心が生まれ、第二希望にしました。

その結果、産科を希望する人が多かったということもあり、NICUに配属が決まりました。

NICUの看護師ならではのやりがい・魅力は？

より専門性の高い仕事だからこそ、NICUでのやりがいや魅力はさまざまあります。特に、以下のようなタイミングでやりがいや魅力が感じられました。

専門的な技術とアセスメントが実を結んだとき

NICUは、より高い看護の専門性が要求される環境であるため、専門知識を磨くことが大切です。そして、自分のアセスメントが看護計画に反映され、患児さんの状態が改善されたときに大きなやりがいが感じられます。新生児という繊細な患者さんが対象だからこそ、より達成感を得られるのかもしれません。

患児さんの「声なき声」を理解できたとき

患児さんは自身の状態を言葉で伝えることができないため、NICUで働く看護師には、患児さんの微細な変化を察知し、見逃さない観察力が必要です。バイタルサインの変動だけでなく、表情やしぐさ・動作から心身の状態を読み取り、ケアにつなげられたときの達成感はNICUで働く看護師にとって大きなやりがいになります。

家族との絆を感じられたとき

家族との絆が感じられたときが、NICUならではの魅力を感じられる瞬間ともいえます。NICUでは、患児さんだけでなく家族とも深い関わりを持ちます。治療の過程で、一緒に悩み一緒に努力した結果、母親や家族から感謝の言葉をいただけたときは、特に携わっていてよかったと思うことができました。

NICUで働いていて大変だったことは？

NICUに携さわるなかで特に大変だったことは家族のケアです。患児さんの「声」を家族に伝えることは看護師の重要な役目となります。しかし、簡単には受け入れてもらえないことも多く、家族とのコミュニケーションの難しさを感じていました。

そのほか、一息つく時間がほとんどないという点で大変さを感じる看護師も多いでしょう。3時間ごとの栄養投与と与薬、その間に最低限のケアを一括で行う必要があるため、なかなか十分に休息を取ることが難しい部署だといえます。

しかし、これらの課題は看護師同士のチームワークや他職種との連携によって解決できる可能性があります。必要に応じて周囲にサポートを依頼することが大切です。

NICUで培えるスキルは？

NICUでは、以下のようなスキルを磨ける可能性があります。

• 微細な変化に対する敏感さや注意力
• 非言語的なサインの読み取りなど多角的な観察力
• ほかの医療スタッフとの連携力
• 家族への心理サポート・指導力
• 時間管理能力
• 緊急時の状況にも冷静に対応できるスキル

赤ちゃんとの非言語的コミュニケーションが大切なNICUだからこそ、細かなことに気づく注意力や多角的な観察力が培えます。

また、NICUはほかの医療スタッフや家族と関わる機会も多いため、スタッフとの連携力や家族とのコミュニケーション力も養えるはずです。

さらに、決められた時間内でのケアや困難な状況下でも冷静に対応することが求められるので、時間管理能力や緊急時の的確な判断力、ストレスマネジメント力も磨けるでしょう。

NICUで働く看護師のその後のキャリアプラン

NICUでは数多くのことが学べるため、その後のキャリア選択の幅も広げやすいといえるでしょう。またNICUに関わる資格を取得して専門性を深めれば、キャリアアップにも結びつくはずです。

ここからは、具体的なキャリアプランとおすすめの資格について紹介します。

NICU経験者のキャリアプラン例

NICUを経験した看護師であれば、以下のような部署でもスキルを発揮しやすいでしょう。

• 産科病棟
• GCU
• PICU
• 小児科病棟

産科病棟であれば、NICUでの経験を生かし、生まれてすぐの赤ちゃんの状態を観察し、助産師や医師に適切な報告をしたり、的確なケアを行ったりすることができるはずです。さらに産科病棟での経験をベースに、助産師専門学校へ編入し助産師国家試験に合格すれば、助産師としてのキャリアを築くこともできます。

GCUでも、新生児への看護と家族へのサポートを行うことから、NICUでの知識とスキルを十分に生かせるでしょう。

また、PICUでは重症な状態の小児が対象のため、NICUで培った観察力や非言語的コミュニケーションスキルは有効です。特に、急変時の対応力や深刻な状況下での冷静な判断力は、重篤な子どもたちの看護にも求められるスキルといえます。

おすすめの資格

NICU看護師におすすめの資格は、「新生児集中ケア認定看護師」「NCPRインストラクター」が挙げられます。

新生児集中ケア認定看護師

新生児集中ケア認定看護師は、新生児期に特化した日本看護協会が定める認定資格です。重篤な状態の新生児のケア、家族支援などについてより専門的な知識を持ち、それに基づいた看護実践を行う一方で、看護職に対する教育や相談の役割も果たします。管理者としてNICUチームを統括することもあります。

新生児の看護に情熱を持つ看護師や、新生児やその家族の心と身体のケアに深い関心を持つ看護師におすすめの資格です。

NCPRインストラクター

NCPRインストラクターは、新生児蘇生法に関する技術や理論を医療関係者に指導するための資格です。主に新生児の命を救う技術を講習会で教えますが、養成コースを受講することで自らもスキルを磨くことができます。

緊急時に新生児の命を救うための技術を自ら習得できるだけでなく、それらを正確に伝える能力が身につけられます。新生児の健康に深く関わるNICU・GCU・小児科・産科などで働く看護師に特に推奨されます。

NICUで働くためには

NICUで働くために心がけておくとよいことや、NICUに向いている人の特徴、準備しておくとよいことなどを紹介します。NICUに興味がある人はぜひ参考にしてください。

NICUで働くうえで大切なこと

NICUで働くうえで大切なことは、新生児や家族に寄り添ったコミュニケーションを心がけることです。

言葉で訴えることができない新生児には、触れ合いや声かけを通じた非言語的なコミュニケーションによって安心感を与える必要があります。一方、家族に対しては、悩みや不安を引き出し、問題解決に結びつけるための密なコミュニケーションが求められます。

看護師の業務には、患者さんや家族とのコミュニケーションは必要不可欠ですが、NICUならではのコミュニケーションを行うことが大切になります。

NICUに向いている人の特徴

繊細さや緻密さを兼ね備えている人はNICUの看護師に向いている人だといえます。NICUでは非常に細かい管理が重要であり、薬剤投与ひとつとっても0.1ccという微量の差が重要な意味を持つ場合が多々あるからです。

そのため細部にまで気を配ることができ、手先が器用で正確な操作ができると活躍しやすいでしょう。

ただし、繊細さや緻密さは配属後に養うことも可能です。小さな身体で懸命に生きようとする命を助けたい、その命と向き合い葛藤する家族の力になりたい、という強い気持ちを持っていれば、NICUで十分に活躍できるはずです。

配属されるためにやっておくとよいこと

NICUで働くためには、基本的な看護技術と知識は最低限身に付けてから配属されるのが理想です。新生児の発達過程や病態生理、ケアの基本は予習しておきましょう。

特に、早産児や低出生体重児に多くみられるとされる「呼吸窮迫症候群」「新生児慢性肺疾患」の病態生理を重点的に学んでおくと、ほかの疾患に対する理解を広げやすくなるはずです。

また、NICUへの配属を希望する場合、専門的な部署だからこそ、なぜNICUを希望するのか明確な理由を伝えられるように準備しておきましょう。

NICUに興味がある学生は、病院をリサーチしたうえで、新人看護師への教育プログラムを確認しておくとよいでしょう。さらにインターンシップや説明会に参加して病院の雰囲気を感じておくこともおすすめです。

以下では現在参加できるインターンシップや病院説明会を検索することができます。ぜひチェックしてみてください。

※ナース専科就職ナビより

NICUの働き方を理解してキャリア選択に活かそう

NICUの看護師は、時に大変な場面に出合うことがあります。それは、生命の始まりを全面的にサポートし、家族に希望を与えるための重要な立場にいるからです。小さく繊細な命を救いたいという強い意志を持つ人、不安を抱える家族への共感力を持つ人、人間関係を大切にする人、絶えず新しい知識や技術を学び続ける意欲を持つ人は、NICU看護師に適した人材になれるかもしれません。本記事を通じてNICU看護師の仕事について理解を深め、キャリアを選択する際の参考にしてください。

参照

アトムメディカル株式会社：NICU/GCUについて.はじめてのNICU （2023年8月1日閲覧）

アストラゼネカ株式会社：NICU（新生児集中治療室）について解説. SmallBaby（2023年8月1日閲覧）

日本看護協会：2022年 病院看護・助産実態調査報告書

日本周産期・新生児医学会：新生児蘇生法普及事業. （2023年8月1日閲覧）. （2023年8月1日閲覧）

日本看護協会：看護職の皆さまへ，認定看護師．（2023年8月1日閲覧）