公務員看護師とは?働くメリット・デメリット、給料事情を解説
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最終更新日:2024/08/19
看護師には、国や地方自治体が運営する職場で公務員として働くという選択肢があります。今回は、公務員看護師の働き方やメリットとデメリットを解説します。給料事情から公務員看護師になる方法まで紹介するので、参考にしてください。
公務員看護師とは
公務員看護師とは、国や地方自治体が運営する職場に公務員として勤務している看護師のことをいいます。公務員看護師が働く職場には、主に国立の医療機関や県立病院、自治体の役所などがあります。ここでは、公務員看護師の種類と職場例、公務員試験の有無について解説します。
公務員看護師の種類
公務員看護師には、雇用主が国である「国家公務員」として働く場合と、雇用主が県や市町村である「地方公務員」として働く場合の2種類があります。ここではこの2つについてその概要と職場例を解説します。
国家公務員看護師
国家公務員看護師とは、国が管轄している行政機関や病院に勤める看護師のことです。厚生労働省や防衛省など看護師として働くにはいくつかの選択肢があり、具体的には以下のような職場が挙げられます。
国家公務員看護師の職場例
運営元 | 職場例 |
---|---|
厚生労働省 |
国立ハンセン病療養所 厚生労働省内(看護系技官) 全国の検疫所(検疫官) |
防衛省 |
自衛隊中央病院・自衛隊地区病院 陸上自衛隊衛生科部隊 |
法務省 | 刑務所・少年刑務所・医療刑務所 |
宮内庁 | 宮内庁病院 |
国家公務員は、国家公務員法や自衛隊法などにより、給与や手当などの待遇、人事評価、服務規程などに関する制度、さらに国家公務員として遵守すべき倫理など規範についても定められています。国家公務員看護師もまた、これらのルールを守らなければなりません。
また、看護師が国家公務員として働ける職場は限られており、求人数は少なく、仕事内容も医療機関で働く一般的な看護師とは異なる場合があります。勤務先によっては一定期間の看護師の実務経験が必要な場合もあるようです。
地方公務員看護師
地方公務員看護師とは、地方自治体が管轄している行政機関や病院に勤める看護師のことです。具体的には以下のような職場があります。
地方公務員看護師の職場例
- 都道府県や市町村立の病院・診療所
- 役所の保健課・福祉課
- 保健所・保健センター
- 児童相談所
- 精神保健福祉センター
- 都道府県や市町村立の教育機関(看護学校、保育所など)
地方公務員看護師として働ける職場には、病院や役所、保健所などがあり、都道府県立の場合は都道府県職員、市町村立の場合は市町村職員として勤務することになります。待遇や採用方法の詳細は、運営元によって異なります。
保健所や児童相談所、教育機関など、職場や職種によっては、保健師の資格や看護師の実務経験が必要な場合もあるようです。
公務員試験はある?
公務員看護師になるには、公務員試験を受験する必要はなく、一般的な採用試験を受けることになります。ですので、雇用主や職種によって求人内容や採用試験の内容は異なります。試験は、書類審査や筆記、作文や面接などがあるようです。自治体によっては、正職員に加えて非常勤の職員を募集しているところや、中途採用をしているところもあります。
準公務員(みなし公務員)の看護師とは?
準公務員は、これまで解説してきた公務員とは異なります。もともと国営だった組織、国や公共団体が設けた独立した組織など、公共性・公益性の高い職場で働く人たちのことで、雇用主は基本的に民間団体・企業です。
ただし公務員に則り、公共性・公益性を守るため組織ごとに法令や規定が設けられていることが多くなります。例えば、日本銀行や国立大学法人、日本郵便などの職員は準公務員とされ、みなし公務員とも呼ばれます。
看護師の職場としては、国立病院機構が代表的な例です。国立病院は、施設ごとの特性と地域ニーズに合わせた医療、安心で質の高い医療の提供などを目的として、2004年に独立行政法人化されました(国立高度専門医療センターと国立ハンセン病療養所を除く)。ですから国立病院で働く看護師は、公務員看護師ではなく準公務員看護師となります。
準公務員看護師の職場には様々な職場があります。以下は準公務員看護師の職場となる主な病院をまとめたものです。
準公務員看護師の職場となる主な病院
- 国立病院機構の病院
- 国公立の大学病院
- 地方の独立行政法人化された病院
- 赤十字病院(日本赤十字社)
- 済生会病院
- JCHO病院
- 労災病院
- KKR病院(国家公務員共済組合)
なお、準公務員看護師はそれぞれの団体が雇用主となっており、雇用主によって募集方法や採用試験の内容が異なります。給料などの待遇も公務員に準ずるとしているところもあれば、独自の給与規定を設けているところもあるようです。
公務員看護師の役割・仕事内容
ここでは公務員看護師の役割と仕事内容を解説します。
公務員看護師の役割
公務員の役割は、公共の利益を優先し国民や地域住民のために働くことです。よって、公務員看護師の基本的な役割は、国民や地域住民のために看護や健康支援を提供することです。
ただし、具体的な役割は職場や職種によって異なります。例えば、病院勤務の公務員看護師は患者さんに対する看護を行いますが、役所に勤務している看護師は、地域住民の健康促進や予防医療に携わることが中心となります。
また同じ病院であっても、急性期の病院では急性期の看護、診療所などでは慢性期や在宅への看護が求められるように、所属先によって求められる役割は異なるでしょう。
公務員看護師の仕事内容
病院に勤務する公務員看護師の場合、基本的な仕事内容は民間病院と同じで、患者さんに対する療養上の世話と診療の補助です。ただし、細かい仕事内容は病院機能や病棟ごとに異なります。役所など病院以外の職場に勤務する場合は、職場によって仕事内容が異なります。
ナース専科 就職では、病院機能に応じた看護師の働き方について詳しく解説しています。自治体保健師についても解説しているので、役所の働き方のイメージを膨らませるためにチェックしてみてください。
公務員看護師の給料・待遇事情
ここでは、病院や健康保健等に関わる団体などで働く公務員看護師について、給料・手当や休日数などの待遇事情を紹介します。
公務員看護師の平均年収は高め
公務員看護師の平均年収は高い傾向にあります。下記表は、日本看護協会が発表している病院看護・助産実態調査報告書に示されている、準公務員を含む公務員看護師の初任給(大学卒)と勤続10年目の平均給与を看護師全体と比較したものです。
平均給与の比較(税込)
全体平均 | 公務員看護師(準公務員看護師を含む) | ||||
---|---|---|---|---|---|
国立 | 公立 | 日本赤十字社 | 済生会 | ||
初任給 (大学卒) |
271,730円 | 276,835円 | 270,022円 | 268,190円 | 277,453円 |
勤続10年目 看護師 |
324,446円 | 341,930円 | 340,863円 | 350,417円 | 339,488円 |
準公務員を含む公務員看護師の初任給は、看護師全体の平均と比べて大差はありませんが、勤続10年目の看護師の平均給料は、公務員看護師のほうが高い水準となっています。
これは、公務員の給与体系が職務の経験年数に応じ昇給していく仕組みで、長く勤めるほど給与水準が上がるためだと考えられます。同調査の設置主体別平均給与では、公務員看護師より給料水準が高い民間の職場もありますが、公務員看護師の職場は長期的に勤務することで安定した収入が得られるようです。
勤務条件・福利厚生は整っている傾向にある
公務員看護師は勤務条件や福利厚生が整っている傾向にあります。公務員は法律や条例により休日数や有給休暇、各種手当など待遇面が定められているからです。
例えば、厚生労働省が発表している就労条件総合調査によると、民間企業の年間休日総数の全国平均は115.3日。一方公務員は基本的に125日以上とされています。同様に育児休業は概ね1年間で、公務員の場合は3年まで取得できます。一般企業と比べると福利厚生が手厚いといえるでしょう。
公務員看護師のメリット・デメリット
ここからは公務員看護師のメリットとデメリットを解説します。メリットとデメリットを踏まえて、どのような人が公務員看護師に向いているかも紹介するので参考にしてください。
メリット
公務員看護師のメリットは以下の2つです。
勤務体制が整っている
公務員看護師の職場は勤務体制が整っているといえます。雇用主が国や地方自治体の場合、勤務条件や待遇は法律や条例によって定められており、それに則って働きやすい職場環境が整えられているからです。
運営が国や地方自治体であるため、安定した給与体系で、長く勤めるほど昇給やすくなるので、長期的に安定して働きたい人にはおすすめです。
教育制度が充実している
公務員看護師が働く職場は教育制度が充実している傾向にあるのもメリットでしょう。職場によって内容は異なりますが、質の高い業務を行うために定期的な研修や専門分野のキャリアアップ支援を実施しているところが多いようです。
なかには、新人教育に力を入れている職場や、自己啓発のために休みを取得できる職場もあります。充実した教育制度を利用しながら知識を深め、地域や社会に貢献したい人に向いている職場です。
デメリット
公務員看護師のデメリットは以下の3つです。
雇用保険に加入できない
公務員は原則雇用保険に加入できません。雇用保険は、失業したときの生活を支え就業を促進するための制度ですが、公務員は雇用の安定性が高いため雇用保険の対象外になっているからです。そのため、何らかの理由で退職しなければならなくなったときに支援が受けられないのがデメリットです。
なお、独立行政法人などに勤務する準公務員に関しては、雇用保険に加入できるケースもあります。
原則副業が禁止
公務員は法律で原則副業が禁止されています。副収入を得たい人や看護師と兼業でやりたい仕事がある人にはデメリットといえるでしょう。一部の自治体では兼業を許可しているところもありますが、公益性があることを大前提に条件が設定されており、容易に許可されるわけではないようです。
転勤の可能性がある
公務員看護師は職場によって転勤の可能性があるのもデメリットのひとつです。例えば、県職員として採用された場合、県内に県立病院が複数あると転勤する可能性があります。独立行政法人でブロック採用をしている場合も同様で、ブロック内での転勤の可能性があるでしょう。
職場によっては配属先を決めてくれるところや、転勤がないところもあるため、働きたい地域や施設がある人は事前に確認することをおすすめします。
公務員看護師になるには
公務員看護師として働きたい人は、希望する職場や職種の求人情報を早めに調べておきましょう。多くの自治体等では3〜6月に募集を行うようですが、必要に応じて随時募集が行われることも少なくありません。また、運営元によって選考方法は異なります。求人数が少ない場合は競争率が高くなるため、いち早く情報を得て対策する必要があります。
公務員看護師になるためにやるべきことを下記にまとめました。
- 早めに情報収集する
- 採用試験対策する
- 志望動機を明確にする
希望する職種や病院、地域の求人情報を調べて、採用試験の内容に合わせた対策をしておきましょう。特に志望動機を明確にしておくことが大切です。なぜ公務員看護師として働きたいのか、なぜこの職場を選択したのか、情報収集や自己分析を行い具体的に伝えられるようにしましょう。
ナース専科 就職では、全国の公務員看護師の求人情報や就活対策情報を掲載しています。ぜひ活用してみてください。
公務員看護師を目指す人は早めの対策を
公務員看護師には主に国家公務員と地方公務員の2種類があり、運営元や施設によって仕事内容や待遇は異なります。安定しているメリットは大きいですが、デメリットがあることも理解しておくべきです。職種や募集のタイミングによっては入職難易度が高い場合もあるため、公務員看護師を目指す人は早めに対策をしておきましょう。
参考
内閣官房:国家公務員制度の概要
厚生労働省:看護系技官 採用サイト
独立行政法人 国立病院機構:機構のあゆみ
日本看護協会:2022年 病院看護・助産実態調査 報告書
厚生労働省:令和4年就労条件総合調査