プリセプター制度とは?新人看護師が得られるメリットと現状の課題
最終更新日:2024/08/22
新人育成のために様々な医療機関で導入されているプリセプター制度。今回は、教育を受けることになる新人看護師が理解しておきたいプリセプター制度のメリットや課題を解説します。また、プリセプターとの関わり方のポイントも紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次
プリセプター制度とは
プリセプター制度とは、プリセプターと呼ばれる先輩看護師が新人看護師に対しマンツーマンで技術面の指導・教育を行う新人教育制度のことです。指導を受ける新人看護師はプリセプティと呼ばれ、プリセプターはプリセプティのメンタル面のサポートにもあたります。施設によってはプリセプターシップと呼ぶこともあります。
プリセプター制度では、上図のように、プリセプターを中心にして、ほかの看護師や主任、師長など病棟の先輩スタッフ全体で新人看護師をサポートします。
プリセプター制度の目的
新人教育にプリセプター制度を取り入れている職場の目的は、主に以下の3点です。
- 新人看護師を適切にフォローするため
- 新人看護師の早期成長につなげるため
- 新人看護師の定着を促進させるため
看護師は、看護技術やアセスメント、患者さんへの対応、他部署との連携など、多岐にわたる業務を理解し、習得しなければなりません。しかし、看護学校と病院の環境にギャップを感じてしまい、戸惑う新人看護師はめずらしくありません。
プリセプター制度は、先輩看護師がマンツーマンで指導することで、仕事面・メンタル面の両方で細やかなフォローをしながら、早い段階での業務理解とスキルアップを促し、早期離職の防止、職場への定着を目指しています。
導入されている職場
プリセプター制度は、病院だけでなく、訪問看護や美容看護、施設看護などが行われる施設でも導入されています。それらのなかには、プリセプター制度のみを導入している施設もあれば、ほかの教育制度と併用しているところもあるようです。
施設の種類や規模に関わらず、新卒採用の実績があり、教育制度が整備された医療施設で導入されているケースが多いといえるでしょう。
また、看護師の仕事は医療施設によって異なる部分があり、中途で入職した看護師でも一から覚えなければならない業務があることは少なくありません。そこで、新卒の看護師だけでなく中途採用の看護師にもプリセプター制度を導入している施設も存在します。
プリセプター制度の種類
プリセプター制度にはいくつかの種類があり、どのプリセプター制度を取り入れているかは医療施設によって異なります。ここでは主に導入されている3つのプリセプター制度の種類とそれぞれの特徴について、図を用いて解説します。
1. プリセプターのみ
一般的なプリセプター制度のかたちです。基本的に一人のプリセプターが、看護技術や対人関係、看護師としての自己管理など、広範囲にわたってお手本を示します。精神的なフォローや新人指導の進捗管理・周知も、プリセプターの役目です。
2. プリセプター+シニアプリセプター(補佐役)
プリセプターに補佐役であるシニアプリセプターがつくかたちです。シニアプリセプターは新人教育全体の監督や相談役を担当し、複数のプリセプターの補佐役を担うこともあります。
医療施設によっては日常業務の指導はプリセプターが行い、特定の看護技術はシニアプリセプターが指導するなど、役割を分担しているところもあります。
3. プリセプター+メンター(相談役)
プリセプターと新人看護師の相談役としてメンターがつくかたちです。メンターは技術面の新人指導には関わりません。アドバイスや精神的なフォローをしながら新人看護師の味方として人間的な成長を支援します。
医療施設によっては、メンターがプリセプターと新人看護師の両方の精神的フォローを担う場合もあります。
プリセプターの決め方と指導内容
ここではプリセプターを担当する看護師の決め方と具体的な指導内容を解説します。
プリセプターは誰が担当する?
プリセプターに特別な資格は必要ないため、医療施設によってプリセプターの選定条件は異なります。病棟師長や主任、施設全体の教育担当者などの話し合いによって決められる場合が多いようです。
厚生労働省の新人看護職員研修ガイドラインでは、プリセプターなどの実地指導者に求められる能力として5つの能力が挙げられています。
- 新人看護職員に教育的に関わる能力
- 新人看護職員と適切な関係性を築くコミュニケーション能力
- 新人看護職員の置かれている状況を把握し、一緒に問題を解決する能力
- 新人看護職員研修の個々のプログラムを立案できる能力
- 新人看護職員の臨床実践能力を評価する能力
引用:厚生労働省:新人看護職員研修ガイドライン
新人教育に携わるプリセプターは、ある程度経験を積み、独り立ちしていて、かつ新人看護師と年齢が近く精神的なフォローがしやすいと考えられる3〜5年目の看護師に任せる場合が多いようです。
ただし、コミュニケーション能力など人間性も踏まえて適性を考慮するため、誰もがプリセプターを務めるわけではありません。
プリセプターから受ける指導内容
一般的に、新人看護師は1年を通してプリセプターから指導を受け、看護師としての基礎を習得します。プリセプターが行う具体的な指導内容は以下のとおりです。
プリセプターが新人看護師に行う指導 | |
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日々の業務の サポートと評価 |
● 日勤や夜勤などの日常業務を教える ● 業務を実践するときにサポートする ● 業務内容の習得度を確認・評価する |
看護技術の 指導・確認・評価 |
● 職場ごとに定められている看護技術習熟度のチェックリストに基づき、計画的に指導する ● 定期的に目標到達度を確認・評価し、看護技術の習得をサポートする |
学習のサポート | ● 業務に対する理解度を確認し、必要な学習についてアドバイスする ● 事前学習や振り返りレポートなどの課題を出し、確認・指導する |
精神的なフォロー | ● リアリティショックなどに陥らないよう精神面でフォローする |
プリセプターからの指導は、基本的にシャドーイング(見学)、見守りによる実践、独り立ちの流れで進みます。部署や病棟ごとに年間教育スケジュールが決まっている場合もありますが、一般的には本人の能力にあわせて教育スケジュールを調整するところが多いようです。
なかには、業務終了後に1日の振り返りをしたり、定期的に振り返りミーティングを設けているところもあります。プリセプターは、病棟全体で新人教育に関われるよう、病棟スタッフに進捗状況を周知させます。
プリセプター制度のメリットと現状課題
ここでは、新人看護師からみたプリセプター制度のメリットと現状の課題について解説します。
プリセプター制度のメリット
新人看護師がプリセプター制度で教育を受けることで、以下のように多くのメリットが得られます。
- 疑問点を質問しやすい
- 一貫性のある指導が受けられる
- 細かい指導が受けられるため、看護業務や技術が習得しやすい
- 実践時にサポートしてもらえるため、精神的負担が少ない
プリセプター制度では、プリセプターという決まった教育担当者がいるため、新人看護師は直接疑問を確認することができます。わからないことが生じても「誰に質問してよいかわからない」という事態にはなりません。また、プリセプターによる指導が基本となるため、指導内容が一貫しており、聞く人によって指導内容が異なり戸惑ってしまうといったことも少ないでしょう。
また、マンツーマン体制なので、新人看護師はそれぞれのスキルに合わせた指導が受けられ、看護業務や技術が習得しやすいといえます。さらに、実践時にサポートしてもらえる点もメリットといえるでしょう。
プリセプター制度の現状課題
多くの医療施設で導入されているプリセプター制度には様々なメリットがあります。その一方で「プリセプターと新人看護師の関係性が上手くいかない」「プリセプターの負担が大きい」「新人看護師が期待する支援が得られていない」などの課題も出てきています。一概にメリットばかりというわけではないようです。
一部の病院では、プリセプター制度が新人看護師の早期離職の防止につながっていないという現状があることから、プリセプター制度に代えて、チーム体制による新人指導や、PNS(Partnership Nursing System/パートナーシップ・ナーシング・システム)を取り入れているところもあります。
課題の原因
プリセプター制度の現状課題には、以下のような原因があると考えられます。
- プリセプターとプリセプティが良好な関係を築けないことがある
- プリセプターに任されている教育範囲が幅広い
- プリセプターが交代勤務をしながらマンツーマン指導をするのが難しい
プリセプター制度は、入職したばかりで人間性を把握しきれていない新人看護師にプリセプターが対応することになるため、性格面で相性が合わない場合もあり得ます。どうしても良好な関係が築けないときには、プリセプターを変更して対処している病院もあるようです。
また、プリセプターが教育する範囲が看護技術から社会人としての在り方までとかなり幅広く、その負担が大きすぎるといわれています。限られた時間で全てを指導すること、また、交代勤務の病院で常にマンツーマンで対応することは困難です。
これらの点は、新人看護師が期待する内容の指導が受けられないと感じてしまう要因にもなっており、プリセプター制度の課題でもあります。
上記のような課題と原因を考慮し、プリセプターとは別にメンターを任命している病院や、プリセプターだけでなく病棟全体で新人指導を行う方針にしている病院などもあります。病院選びの際には、希望する病院がどのような方針で新人教育を行っているかを確認しておきましょう。
プリセプターと良好な関係を築くためには
新人看護師がプリセプターと良好な関係を築くためには、プリセプターに対して尊敬と思いやりを持った関わりを心がけることが大切です。しかし、プリセプター制度の課題の原因にもあるように、多くの新人看護師がプリセプターとの関係性に悩んでいるのも事実です。
そこで、ここからは指導を受ける側として新人看護師が意識したいポイントを紹介します。
プリセプターと関わるうえで心がけたい3つのポイント
プリセプターと関わるうえで心がけたい3つのポイントは、以下のとおりです。
指導を素直に受け入れる
新人は何事に対しても素直に向き合うことが大切です。まず、プリセプターから受けた指導は素直に受け入れましょう。指導する側としては、指導に対し反抗的な態度をとる人よりも素直に受け取る人のほうが好感をもてるものです。
看護は正解がひとつでないこともあります。ですから、プリセプターの指導と自分の意見が食い違うことがあるかもしれません。しかし、まずは先輩看護師の意見を受け入れ、実践してみるという姿勢を大事にしましょう。そのうえで自分の考えや意見を伝えるようにすると、プリセプターが受ける印象も違うはずです。
プリセプターからの指導を素直に受け入れることは、看護師としての早期の成長にもつながるので、ぜひ心がけてみてくださいね。
自分の考えや気持ちを定期的に伝える
プリセプターと良好な信頼関係を築くために、自分の考えや気持ちを定期的にプリセプターへ伝えるように心がけましょう。
指導を受ける立場だからと受け身になりすぎてしまうと、プリセプターはプリセプティがどの程度理解し、どのように考えているのかがわかりません。自分の意見をやみくもに伝えるのは控えたほうがよいですが、定期的に自分の意見を伝えることでコミュニケーションがとれるようになると、信頼関係は築かれていくでしょう。
また、自分の意見を伝えるときは、どのような根拠からその意見に至ったのかを伝え、わかりやすい報連相を意識してみてください。
プリセプターに頼りすぎない
プリセプターとよりよい関係を継続するためには、プリセプターに頼りすぎないよう配慮しながら関わることも重要です。
プリセプターは自分の業務をこなしながら新人教育も担っており、想像以上に忙しいはずです。場合によっては、新人教育に関わることで、新人看護師とほかのスタッフ、主任、師長との板挟みになっている可能性もあります。気を遣いすぎるのはよくありませんが、プリセプターの状況を確認し、必要なときに適切に相談することを心がけましょう。
よくあるプリセプターの悩みに対するアドバイス
ここでは新人看護師のよくある悩みに対するアドバイスを紹介します。
悩み1:プリセプターが怖い
プリセプターさんが怖くて報告や相談がうまくできません。
プリセプターといっても指導に慣れているとは限りません。忙しさから対応が雑になることや、どのように関わるべきか悩みプリセプティとうまく関われないこともあるでしょう。しかし、怖いと感じてコミュニケーションを避けてしまうと関係が築けないので、なるべく自分から声をかけてみることを意識しましょう。
ただし、なかには指導者としての対応が不適切なプリセプターもいます。自分なりに努力しても相手の対応が変わらない場合は、主任や看護師長に相談してみるのもひとつの方法です。
悩み2:プリセプターとの相性が悪い
プリセプターさんと相性が悪く、マンツーマンで指導を受けるのがつらいです。
性格や価値観は人それぞれで異なるため、確かに相性の良し悪しはあります。そのような場合、同期やほかの先輩看護師などに相談し、解決策がないか客観的な意見を聞いてみましょう。それでも解決しないときは、主任や師長に相談してみてください。プリセプターの変更やほかの改善策を提案してくれるかもしれません。
悩み3:プリセプターとの距離感が難しい
プリセプターさんに相談したいのですが、時間外に相談するのは迷惑ですか?
プリセプターとの距離感についても、それぞれの価値観によって異なります。積極的に職場外で相談に乗ってくれる人もいれば、職場外では関わりたくないという人もいます。プリセプターに頼りすぎるのもよくありませんが、自分では悩みを解決できないようなら、まずは「悩んでいて業務終了後にゆっくり話を聞いてもらいたい」「職場の外のほうが話しやすいのでどこかで相談させてほしい」など、素直な言葉でプリセプターに聞いてみるようにしましょう。
プリセプター制度を上手に活用しよう
プリセプター制度は、先輩看護師が新人看護師にマンツーマンで指導する新人教育制度のひとつです。新人看護師に対して細かなフォローができるという利点がある半面、指導する側とされる側の関係に悩むことがあるかもしれません。
しかし、プリセプターとの上手な関わり方を意識して指導を受ければ、得られるメリットは多く、早期の成長も望めます。指導される側となる看護学生のみなさんは、入職前にプリセプターとうまく関わるためのポイントを把握し、入職後にはできるだけギャップや悩みを感じることなく看護師としての道をスタートさせましょう。
引用・参考
厚生労働省:新人看護職員研修ガイドライン【改訂版】(2023年11月15日閲覧)
新潟県立看護大学:プリセプター制度の現状と課題(2023年11月15日閲覧)