慢性期病院の特徴と働き方│看護師に求められる役割からやりがいまで
最終更新日:2024/09/02
慢性期は幅広く患者さんを看る力が学べる領域です。今回は急性期・回復期との違いを踏まえ、慢性期医療を提供する病院の特徴と看護師の働き方を解説します。さらに、慢性期ならではのやりがいからその後のキャリアプランまで勤務経験者が紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次
高齢化を支える慢性期医療
2007年に超高齢化社会に突入し、2022年には高齢化率が29.1%と過去最高の高齢化率を更新し続けている日本。団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護・福祉の整備が急務とされるなか、慢性期医療の需要と重要性も高まっています。では慢性期とは何かを詳しく解説します。
慢性期とは
慢性期とは、病状は安定しているものの治癒には至らず、長期的な治療が必要な状態のことです。厚生労働省は慢性期機能を担う医療を次のように定義しています。
- 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
- 長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者等を入院させる機能
引用:厚生労働省:慢性期機能を有する病床の機能分化・連携の推進について
慢性期の看護では、慢性的に健康に障害を持つ患者さんが、その障害と付き合いながら自分らしい暮らしを送れるよう、身体的・精神的・社会的な面から支援する多様な関わりが求められます。
対象となる患者さん
慢性期の患者さんの特徴は以下のとおりです。
慢性期の患者さんの特徴 | |||
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疾患 | 治癒が難しい慢性疾患 例)糖尿病、腎臓病、認知症、脳血管障害の後遺症、多発性硬化症、関節リウマチ、肝硬変など |
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年齢 | 急性期・回復期に比べ高齢者が多い傾向にある | ||
身体的特徴 | 加齢による全身機能の低下や複数の疾患を合併し症状が複合的に現れる |
慢性期の対象となる患者さんは比較的高齢の方が多いため、ひとつの慢性疾患だけでなく、他の疾患や身体機能・認知機能・日常生活動作(ADL)の低下など、健康を障害する要因が複雑に絡み合っているのが特徴です。
患者さんのなかには、ADLが全介助の人や、意識障害や認知症により意思疎通が困難な人もいます。
急性期・回復期との違い
慢性期と急性期・回復期では、定義はもとより、対応する病院の特徴、入院期間などの面で違いが挙げられます。以下はそれぞれを表にまとめたものです。
患者さんの病状は急性期から回復期、慢性期へと移行します。ただし回復期や慢性期の経過中に状態が悪化した場合は、急性期に戻ることもあります。
また厚生労働省のデータによると、2018年度の病床機能ごとの平均在院日数は急性期が15.7日、回復期が53日、慢性期は461日となっており、慢性期の入院期間は急性期や回復期よりかなり長くなります。
慢性期病院の特徴
慢性期機能を有する病院は長期にわたり療養が必要な患者さんを受け入れ、慢性症状の悪化予防や体力維持を目指す医療を提供しています。全国の慢性期病床は30.8万床で、日本の全病床のおよそ4分の1を占めています。
病院全体が慢性期病棟である病院から、一般病棟や回復期病棟と療養病棟が混在しているケアミックス型の病院までさまざまあります。
また慢性期の患者さんについては、病院以外にも受け入れている施設があり、施設は医療処置の必要度や入所の目的別にいくつかの種類があります。
慢性期医療を提供する病床・施設の種類
以下が慢性期医療を提供する主な病院や施設の一覧です。それぞれの特徴と適応となる保険をまとめています。
【慢性期医療を提供する病院・施設】
種類 | 特徴 | 適応となる保険 |
---|---|---|
医療療養病床 | ● 長期療養が必要な患者さんが対象 | 医療保険 |
介護療養病床 | ● 医療が必要な要介護高齢者が対象 ※2023年度末に廃止予定 |
介護保険 |
介護医療院 | ● 要介護高齢者の長期療養・生活のための施設 ※2018年より新設 |
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介護老人保健施設 | ● 要介護高齢者の在宅復帰を目指す施設 ● リハビリや日常生活の援助を提供 |
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特別養護老人ホーム | ● 要介護高齢者の生活のための施設 ● おもに日常生活の援助を提供 |
医療療養病床は一般的に「療養病棟」「療養型病棟」とされ、それらの病棟をもち慢性期機能をメインに有する病院が「医療療養型病院」と呼ばれています。
現在日本では医療と介護の役割分担を行うために、療養病床から介護老人保健施設などへの転換が進められています。その一環として医療必要度が高い要介護高齢者を対象とした介護療養型医療施設は、2023年度末に廃止予定され、2018年より介護医療院が新設されました。
介護医療院は、介護老人保健施設や特別養護老人ホームより医療・看護の必要度が高い人が対象で、長期的な医療と介護を提供するための施設です。
慢性期病院で働く看護師の役割・仕事内容
ここでは慢性期における看護師の役割や、慢性期病院で働く看護師の仕事内容を紹介します。
慢性期における看護師の役割
慢性期における看護師の役割は、患者さんが疾患と向き合いながら、その人らしい生活を送るサポートをすることです。慢性期は入院生活が長期におよぶため、看護師は患者さんやその家族とコミュニケーションを重ねながら、患者さんの意向や価値観を尊重した看護の実現を目指します。
また慢性期の患者さんは症状が安定していても、状態悪化や合併症のリスクがあります。さらに高齢者が多いため、身体能力の低下による状態悪化やターミナルへ向かう患者さんも少なくありません。
そのため、日々の観察で早期に異常を発見することや、廃用症候群・合併症の予防、ターミナルケアも慢性期で働く看護師の役割です。
主な仕事内容
慢性期病院は急性期のような頻繁な検査や手術がないため、医療処置は少なめで日常生活援助が中心になります。慢性期の看護師の主な仕事内容は、以下のとおりです。
慢性期で働く看護師の主な仕事内容 | |||
---|---|---|---|
状態観察 | バイタルサイン測定、皮膚や呼吸状態の観察 | ||
処置・検査 | 与薬、点滴、注射・採血 | ||
褥瘡ケア | 皮膚の清潔保持・処置、体位変換など | ||
呼吸ケア | 喀痰吸引、呼吸器管理など | ||
診療の補助 | 診察介助、医師への報告 | ||
日常生活援助 | 食事・入浴・清拭・排泄・口腔ケアなどの介助 | ||
身の回りのお世話 | 環境整備、散髪の手配、持ち物の整理など ※患者さんと家族の意向に合わせて療養環境を整える |
【日勤/夜勤別】1日のスケジュール例
療養病棟は患者さんの状態変化が穏やかで突発的な対応が少ないため、ルーティンワークが多く残業は少なめです。
以下では慢性期で働く看護師の具体的な1日のスケジュールとして、療養病棟の2交代制勤務のスケジュール例を日勤と夜勤に分けて紹介します。
日勤のスケジュール例
療養病棟の看護師の配置人数は20:1となっており、急性期一般病棟の7:1にくらべ看護師1人が受け持つ患者さんの人数が多くなります。そのため看護師は看護補助者などと協力し、役割分担をしながら患者さんの看護や日常生活援助を行っています。
入浴日などはスケジュールが変わることもありますが、一般的な日勤のスケジュール例を紹介します。
夜勤のスケジュール例
夜勤は日勤に比べ看護師の勤務人数が少なくなるため、さらに受け持つ患者さんの人数が多くなります。そのため医師への報告や指示受けは日勤時間帯に済ませておくなど、夜勤者の負担が重くならないよう日勤者と夜勤者が協力して24時間看護を行っています。
夜勤では消灯後の落ち着いている時間帯に、カルテのチェックや病棟の物品チェックなど日勤帯ではできない業務をすることもあります。
勤務経験者が語る~慢性期のやりがいからキャリアプランまで~
ここからは慢性期病院で働いた経験がある看護師の視点から、慢性期の魅力や培うことのできるスキルを紹介します。慢性期の大変なところやその後のキャリアプランも紹介するので、参考にしてみてください。
慢性期ならではのやりがい・魅力は?
患者さんとじっくり関われることは慢性期ならではの魅力です。慢性期の入院期間は急性期や回復期よりも長く、患者さんと関わる時間を確保しやすいため、時間をかけて患者さんに寄り添った看護ができるとやりがいを感じます。
また慢性期では時間をかけてスキルが学べる点もメリットとのひとつです。職場にもよりますが、慢性期看護では経管栄養や喀痰吸引など、毎日同じケアを長期間行うため、同じ手技を繰り返し学びながら習得できます。
また長年勤務しているベテラン看護師も比較的多い傾向にあり、先輩から看護のコツを学ばせてもらう機会も得られやすい環境です。スキルアップが実感できるとやりがいも感じられるでしょう。
そのほか、療養病棟などの慢性期病院の場合は予定入院がほとんどで、突発的な対応が必要な業務も少なめなので、ワークライフバランスが保ちやすい点を魅力に感じる人もいるでしょう。
慢性期看護で培うことのできるスキルは?
慢性期看護では観察力が養えます。意思疎通が困難な患者さんや、高齢で全身状態の変化が緩やかな患者さんが多いため、小さな変化を見逃さないように意識する必要があるためです。
日々のケアのなかで「いつもよりむくんでいる」「いつもと呼吸状態が違う」などの経時的な視点を持つことで、必要な観察力を磨くことができます。
また、療養病棟では急性期のように診療科が細分化されていない場合が多いため、さまざまな疾患の患者さんに対応することで、幅広い疾患の知識を深めることも可能です。
さらに、慢性期看護はその人らしい暮らしを尊重することが求められるので、コミュニケーションを重ねて患者さんや家族への理解を深めます。患者さんの状態によっては表情・仕草などの非言語コミュニケーションも必要になるので、言語・非言語両方のコミュニケーションスキルも培われます。
慢性期で働くなかで大変だったことは?
慢性期で働くなかで大変だと感じた点は、身体的な負担が大きかったことです。慢性期看護はADLが全介助の患者さんも多く、オムツ交換や入浴介助などの介助には体力を要します。さらに体位変換や吸引は腰に負担がかかるため、自分の体にも気を遣うことが大切です。
また、慢性期は急性期より看護師の人数配置が少ないため、少ない看護師で看護・医療的な判断をしなければなりません。看護師1名と看護補助者2名の夜勤体制の職場は、患者さんの状態を相談できる看護師がおらず不安を感じることもありました。
しかし、他病棟の看護師と連携が取れる体制が整えられていたため、不安な場合はひとりで判断せず他病棟の看護師へ相談していました。不安な人は説明会や面接時などの機会に、夜勤時の体制について質問するとよいでしょう。
その後のキャリアプランとおすすめの資格
慢性期では、患者さんの生活の質を尊重した看護やコミュニケーション能力、疾患や患者さんを総合的に見る力を学ぶことができます。それは、慢性期病院以外の職場でも活かせるもの。例えば病院の退院調整をする部署や、在宅看護、老人福祉施設などでも活躍できるでしょう。
慢性期で働く看護師は、職場によっては比較的プライベートの時間を確保しやすいため、時間を有効活用して資格を取るのもおすすめです。下記のような慢性期看護の経験を活かせる資格を目指してみましょう。
- 糖尿病看護認定看護師
- 認知症看護認定看護師
- 皮膚・排泄ケア認定看護師
- 慢性疾患看護専門看護師
新卒から慢性期で働くためには?
新卒であっても看護師免許があれば慢性期で働くことは可能です。慢性期は急性期に比べ、教育体制や学べる看護内容に不安を感じる人もいるかもしれませんが、慢性期では基本的な看護技術や総合的な看護の視点が学べます。
看護技術をじっくり学べる慢性期のほうが急性期より合う人もいるかもしれません。以下では慢性期が向いている人の特徴と、就職活動や入職前にやっておいたほうがよいことを紹介します。
慢性期看護が向いている人の特徴
患者さんや働き方の特徴から、慢性期看護が向いている人は以下のような人です。
- 患者さんとじっくり関わりたい人
- 在宅支援や日常生活援助に興味がある人
- ワークライフバランスを大切にしたい人
時間をかけて患者さんや家族に寄り添った看護がしたい人は、長期入院が多い慢性期看護が向いているでしょう。急性期より生活の場としての要素が強い慢性期看護は、最先端の医療技術や専門スキルより在宅支援、日常生活援助に興味がある人におすすめです。
仕事以外にプライベートの時間を大切にしたい人は、急性期よりも慢性期のほうがワークライフバランスを整えやすいでしょう。
学生時代にやっておくとよいこと
慢性期看護は患者さんの小さな変化に気づける観察力が求められます。意思表示のできない患者さんも多いため、患者さんの体の状態からアセスメントできる力をつけるためにも、解剖学やフィジカルアセスメントを勉強しておきましょう。
またコミュニケーション能力を磨くために、実習時に患者さんとのコミュニケーションを積極的にとり、経験を積んでおくことをおすすめします。
また就職活動を始める前に、慢性期病院の理解も深めておくとよいでしょう。就業体験や病院紹介を活用すると、病院の具体的な教育体制がわかります。慢性期病院のなかでも教育体制が整った職場を選ぶために、就業体験や病院説明会を活用してみてください。
ファーストキャリアから「慢性期」も選択肢のひとつ
慢性期では幅広い疾患を抱える患者さんの看護や、治療から看取りまで患者さんの生活の質を意識した総合的な看護が学べます。新卒から慢性期を選んでも、慢性期看護で身につけたスキルは、その後のキャリアにも活かせるはずです。
慢性期の働き方の理解を深め、ファーストキャリアの選択の幅を広げましょう。慢性期の病院を志望する場合は、特に教育体制が充実した職場を探してみてくださいね。
引用・参考
厚生労働省:慢性期機能を有する病床の機能分化・連携の推進について(2023年7月19日閲覧)
メヂカルフレンド社:看護学入門 基礎看護学Ⅱ(2023年7月19日閲覧)
厚生労働省:令和5年度病床機能報告の実施等について(2023年7月19日閲覧)
厚生労働省:介護医療院公式サイト(2023年7月19日閲覧)