看護体制の種類・特徴から看護方式との違いまで徹底解説
最終更新日:2024/08/26
看護体制は看護師として働くうえで理解しておきたい用語のひとつです。病院の求人にもほとんど記載されており、病院選びの基準にもなり得ます。今回は看護体制の種類ごとの特徴や、似たような意味合いで使われる人員配置基準や看護方式との違いを解説します。
看護体制とは
看護体制とは、一般的に入院患者さんと看護師の割合を示すものです。病棟看護体制や看護配置と表現されることもあります。
病院によっては、看護方式(看護の提供方法)や勤務形態(勤務条件)をまとめて看護体制と記載している場合もありますが、今回は患者さんと看護師の割合を示すものとして解説します。
看護体制は病院選びで確認したい条件のひとつ
看護体制は、患者さんの重症度や病期などに応じて適切な看護提供を行うために、病院や病棟・部署ごとに決めているもので、看護師の働き方にも影響します。そのため、看護学生が病院を選ぶ際には確認したい条件のひとつといえるでしょう。
実際に看護学生に対し、「志望する就職先の決め手」についてアンケートを行ったところ、「看護体制が充実していること」と答えた人は3番目に多いことがわかりました。
このように看護体制は就職先を決めるうえでの判断材料になり得るため、病院選びの前に看護体制の種類や特徴を理解しておくとよいでしょう。
看護体制の種類と特徴
看護体制は病院のホームページや各求人に「○対○(○:○)」と表記されていることがほとんどです。これは「入院患者数:看護師数」を示しています。
ここからは実際に採用されている主な看護体制について解説します。それぞれの特徴を理解しておくと病院選びにも役立つでしょう。
2対1(3対1)
2対1は、入院患者さん2名につき看護師1名が配置されている看護体制です。
患者さんに対して看護師数がかなり充実しており、重篤な患者さんや、命に関わる救急患者さんを受け入れる病棟や部署で主に採用されていています。
3対1の看護体制で、専門的な急性期患者をケアする病棟もあります。
以下は、2対1、または3対1の看護体制が採用されることの多い病棟や部署の例です。
【2対1の採用例】
●ICU(集中治療室)
●CCU(循環器疾患集中治療室)
【3対1の採用例】
●SCU(脳卒中集中治療室)
●NICU(新生児集中治療室)
これらの病棟や部署では、高度で専門的な医療・看護を提供するための幅広い知識と技術や、緊急性を要するなかでの変化を見逃さない観察力やアセスメント能力が学べることが特徴になります。
4対1
4対1は、入院患者さん4名につき看護師1名が配置されている看護体制です。術後に集中的にケアが必要な患者さんや重症の救急患者さんなど、一般病棟よりも医療・看護必要度が高い患者さんを受け入れている病棟・部署が採用しています。4対1の看護体制を採用している例は以下の通りです。
【4対1の採用例】
●HCU(高度治療室)
●救急病棟
これらの特徴としては、2対1の看護体制と同じく診療科の垣根がないため、幅広い知識と技術が学べることです。
7対1
7対1は、入院患者さん7名につき看護師1名が配置されている看護体制を指します。症状はある程度落ち着いているものの手厚い看護が必要な患者さんを受け入れる急性期病院の一般病棟で多く採用されています。
【7対1の採用例】
●3次および2次救急病院
●急性期病院
●大学病院
7対1の看護体制を採用している病棟では、急性期の看護が学べます。入院期間が短く患者さんの入れ替わりが激しい傾向にあるため、忙しいという意見もありますが、多くの症例を経験しながら優先順位を考えて仕事を進める能力が養えます。
10対1
10対1は、入院患者さん10名につき看護師1名が配置されている看護体制のことです。急性期のなかでも、比較的医療・看護必要度が低い患者さんが多い病院・病棟で採用されています。
なかには、看護師不足から7対1の看護体制がとれずに、10対1の看護体制を採用している病院もあるようです。10対1の看護体制を採用する病院の例を紹介します。
【10対1の採用例】
●地域の中核病院
ここでは、入院患者さんの入れ替わりが7対1より少ない傾向にあるため、比較的落ち着いて基本的な看護技術や急性期看護を学ぶことができるのが特徴です。
13対1
13対1は、入院患者さん13名につき看護師1名が配置されている看護体制です。急性期を脱した亜急性期の患者さんを対象とすることが多く、入院期間は長い傾向にあります。
以下の例のように、13対1の看護体制は病状が安定し退院や社会復帰を目指す患者さんを受け入れている病棟や、精神科の急性期病棟で主に採用されています。
【13対1の採用例】
●回復期リハビリ病棟
●地域包括ケア病棟
●精神科急性期病棟
13対1を採用している病棟は回復期や慢性期が多く、リハビリの知識や退院支援の経験を培うことが可能です。
15対1(20対1)
15対1は、入院患者さん15名につき看護師1名が配置されている看護体制です。病状は安定しているものの、自宅での生活が難しい慢性期の患者さんを受け入れている病棟で多く採用されています。
さらに、より長期にわたり療養が必要な患者さんを受け入れる病棟では、20対1の看護体制を採用しています。
以下が15対1、20対1の看護体制を採用している病棟の例です。
【15対1の採用例】
●慢性期一般病棟
●精神科一般病棟
【20対1の採用例】
●療養病棟
これらの特徴は、介護度が高くなる傾向があるため、経管栄養やおむつ交換などの日常生活援助が学べることです。
看護師の配置人数が多い=働きやすいとは限らない
患者さんの医療・看護必要度が高いほど、配置される看護師の数は多くなります。しかし、一概に看護師の配置人数が多い=働きやすいとは限りません。
たとえば、7対1看護体制の病棟は、15対1看護の病棟に比べると、受け持ち患者さんの人数は減りますが、術前術後の看護や緊急入院の対応などで業務が多忙になる場合もあります。
看護体制は忙しさの目安でなく、働き方をイメージする材料として捉えるとよいでしょう。
たとえば、幅広い症例を経験しながら急性期看護を学びたい場合は2対1や7対1、時間をかけて患者さんと関わりたい場合は13対1など、看護師としてどのような看護をしたいかを明確したうえで学びたい看護ができる看護体制を選んでみましょう。
また、病院選びは、看護体制だけでなく病院の機能なども見て総合的に判断しましょう。
人員配置基準や看護方式との違いは?
看護体制と似たような意味合いで使われ、意味が混同されやすい用語として人員配置基準や看護方式があります。ここでは、それぞれの用語の意味と看護体制との違いについて解説します。病院選びの時点から違いを理解しておきましょう。
人員配置基準とは
人員配置基準とは、医療法上で定められている適正な医療を提供するために必要な人員を示すものです。同じ意味で人員配置標準ともいわれています。
看護体制は、1日に実際に働いている看護師の配置人数を平均して基準とするのに対し、人員配置基準は、雇用されている看護師の配置人数を示します。
医療法で定められている人員配置基準
医療法で定められている人員配置基準は、一般病床や療養病床、診療所など病院・病床の種類ごとに医師・看護師・薬剤師などの配置人数が標準化されています。
人員配置基準は、確保すべき最低人員ではなく、一定水準の医療を提供するために望ましいとされる標準人員です。人員配置標準ともいわれます。基準を満たしていない病院は違法となり、都道府県による指導の対象となる場合があります。
看護方式とは
看護方式とは、看護を提供するための看護師の活動の仕方を表すものです。つまり、どのような方法で看護を提供しているかを示すもので、1日の看護師の配置人数を示す看護体制とは異なります。
また看護師の配置人数を表す看護体制は、病院の収入となる診療報酬を決める入院基本料の基準や、ICUや回復期リハビリテーション病棟などの病棟設置基準に関わるため、病院は採用している看護体制を届け出なければいけません。
一方で看護方式は診療報酬や病棟設置基準には影響しないため、病院や病棟で自由に決めることができます。
看護方式にはさまざまな種類があります。ここでは、代表的なものとして、チームナーシングとプライマリーナーシングについて簡単に解説します。
チームナーシングとは
チームナーシングとは、病棟内の看護師を複数のチームに分けてチーム単位で複数の患者さんを受け持つ看護方式です。チームは、リーダーや新人看護師など経験や役割の違うメンバーで構成されるのが一般的で、チーム内で連携を取りながら協力して受け持ち患者さんに看護を提供します。
プライマリーナーシングとは
プライマリーナーシングとは、1人の患者さんの入院から退院までを1人の看護師が担当する看護方式です。受け持ち患者さんの個別性にあわせた継続的なケアを提供するために、担当看護師がメインとなり責任をもって看護計画の立案・実践・評価・修正を行います。
看護方式も看護体制と同様に看護師の働き方に影響を与える要素のひとつです。自分がどのような看護を行っていきたいかを考えるきっかけにもなるので、特徴や種類を理解しておくとよいでしょう。
看護体制に関する今後の展望
ここからは、これまでの看護体制の変化と看護体制に関する今後の展望を解説します。
これまでの看護体制の変化
下記の表は、日本の看護サービスや看護体制の変化をまとめたものです。
年代 | 看護サービス・看護体制の内容 |
---|---|
1950年以前 | 入院患者の世話は家族等の付き添いが主流 |
1950年 | 完全看護制度 施行 |
1958年 | 基準看護制度 施行 |
1994年 | 新看護体系の創設 |
2006年 | 診療報酬改定による7対1看護体制の導入 |
1950年の完全看護制度の施行によって現在のような看護師による完全看護が始まり、1958年には入院患者さんに対する看護職の配置規定を示した基準看護制度が施行されました。
その後1994年には、現在の看護体制のもととなる「新看護体系」が創設されました。新看護体系以前の看護師配置規定は、雇用されている看護師の人数を換算するものでしたが、新看護体系以降は現在のように実際に勤務している看護師の人数を換算する「実質看護」の看護体制が採用されています。
その後、2006年にはより手厚い看護提供を実現するために7対1看護体制が導入されるなど、医療ニーズの変化とともに看護体制は変化し続けています。
現状課題と目標
今後は、超高齢社会や医療の高度化に対応しながら医療の質を向上させるために、さらなる看護体制の強化が必要だという意見もあります。そして、看護体制の充実には看護師の人員確保が必要不可欠です。
しかし、少子高齢化による労働人口の減少や、看護師の離職問題、潜在看護師問題など、看護師の数を確保して看護体制を改善するまでには数多くの課題があります。
また、人員を確保・増員できた場合でも、人件費は増える一方で診療報酬が上がらないとしたら、病院経営は成り立ちません。病院経営を維持しながら、手厚い看護の実現や看護師の働く環境に配慮した看護体制の実現には、診療報酬を決める国が主導して制度を整えることが必要です。
そのため日本看護協会は厚生労働省に対し「入院医療における適切な看護職員配置」の要望書を提出するなどして、看護師が働きやすい環境の整備に向けて取り組みを行っています。
看護体制の理解を深め、病院選びの参考にする
看護体制は看護師1人が受け持つ患者数の目安を表すものであり、働き方の指標のひとつになります。しかし、配置されている看護師の人数が多ければ働きやすいというわけではありません。
志望する病院を選ぶ際は、看護体制とその他の勤務条件を総合的にみるようにしましょう。また、看護体制は社会変化によって変わる可能性もあるので、今後の動向にも関心を持っていくことをおすすめします。
参照
病院・診療所病床に関する主な人員の標準.厚生労働省(2023年6月30日閲覧)
第6回周産期医療体制のあり方に関する検討会(平成28年8月24日開催)
「参考資料2:周産期医療体制整備指針」.厚生労働省(2023年6月30日閲覧)
「看護にかかわる主要な用語の解説ー概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈ー」.日本看護協会(2023年6月30日閲覧)
和田千津子:「新たな看護配置基準導入に伴う看護師の需給推計:5 対 1 看護導入の実現可能性について」.社会医学研究 第30巻2号 2013年 報告(2023年6月30日閲覧)