救急看護師になるには?向いている人の特徴、やりがい、必要な能力まで
最終更新日:2024/09/03
救急の現場で初期治療に携わる救急看護師は、その仕事を通して幅広い疾患と超急性期の看護が学べます。今回は、勤務経験者の話をもとに、救急の仕事内容や特徴、向いている人の傾向を解説します。救急看護師に興味がある人や目指している人はぜひ参考にしてみてください。
目次
救急看護師とは
救急看護師とは資格名ではなく、救命救急センターや救急外来に勤務し、救急看護に携わる看護師のことです。
救急看護とは、突発的なけがや病気により緊急の医療処置が必要な人に対する看護のことで、日本救急看護学会によると「さまざまな状況において突然に生じた傷害または急激な疾病の発症や急性増悪等によって、医療を必要とする人々に対する迅速かつ適切な看護実践をいう」1)と定義されています。
救急看護師に求められる役割
救急看護師に求められる役割は、救急処置が必要な人に対し、病気やけがによる症状の悪化を防ぎ、生命の危険を回避することです。そのため、緊急度や重症度を迅速に判断し、症状の悪化防止と回復のためのケアが実践できる能力が必要になります。
また救急看護は、病棟看護のように診療科が分かれていないため、診療科や重症度、対象者の発達段階を問わず、あらゆる状況の患者さんに対応する看護知識・技術が求められます。
対象となる患者さん
救急看護の対象となる患者さんとしては、突発的なけがや病気の人、慢性疾患の急性増悪により健康状態が悪化した人などが挙げられます。具体的には、事故によるけがや脳梗塞のような突発的な疾患により救急搬送された人や、慢性疾患の状態が急に悪化しほかの医療施設や介護施設から救急に運ばれてくる人などです。
また、医療施設だけでなく、災害現場やドクターヘリが要請を受けた現場で看護実践を行うこともあります。
救急看護師が活躍する職場
救急看護師が活躍する職場は主に医療施設ですが、ドクターヘリや災害の現場で活躍している看護師もいます。救急看護師が活躍する職場を詳しく解説します。
医療施設
救急看護師は医療施設の救急部門で働くのが一般的です。日本では効率よく適切な医療を提供するために、救急医療体制が3つの区分に分けられています。
救急医療の分類
区分 | 医療機関例 | 特徴 |
---|---|---|
三次救急 | 救命救急センター 高度救命救急センター |
24時間体制で、重症の救急患者さんや、複数の診療科領域にわたる治療を要する重篤な救急患者さんを受け入れる |
二次救急 | 地域の拠点病院 (病院群輪番制、または共同利用型) |
休日・夜間に入院や手術が必要な重症の救急患者さんを受け入れる ・病院群輪番制は、医療圏内の定められた複数の病院が当番制で救急患者さんを受け入れる ・共同利用型病院は、拠点となる病院が一部開放した施設内で、当番の医師が救急患者さんを受け入れる |
一次救急 (初期救急) |
休日夜間急患センター かかりつけの病院 (在宅当番医制) |
比較的軽症の人や治療を受ければ日帰りできるような症状の人など、入院や緊急手術が必要のない患者さんを受け入れる |
救急看護師の基本的な役割はどの区分で働く場合も同じですが、区分によって対象となる患者さんや具体的な仕事内容は異なります。
ドクターヘリ・災害現場
ドクターヘリは、迅速な対応が必要な救急患者さんを現地で治療するために、医師(フライトドクター)や看護師(フライトナース)らを救急現場に運びます。フライトナースとしてドクターヘリに搭乗する救急看護師は病院に所属しており、要請があればドクターヘリで出動する、あるいは当番制でドクターヘリを担当する仕組みになっており、運用方法は病院によって異なるようです。ドクターカーを運用している病院では、救急看護師が医師に同行する場合もあります。
また、救急看護師のなかには病院に勤務しながらDMAT(災害派遣医療チーム)に所属し、災害現場で救急看護にあたる人もいます。ドクターヘリや災害の現場で活躍するには、専門的な知識が必要なため、研修の修了、一定の経験年数、訓練などが求められます。
救急看護師に向いている人の傾向
ここでは救急看護の現場の特性から、救急看護師に向いている人の傾向を紹介します。ただし、看護師としての能力は働いていくなかで身につく部分も少なくありません。向いている人の傾向を持ち合わせていなくとも、救急看護師を目指すことは可能です。あくまで参考として捉えてくださいね。
チームワークを大切にできる
コミュニケーション力や協調性があり、チームワークを大切にできる人は救急看護師に向いています。なぜなら、救急看護師の仕事には医師やほかの看護師だけでなく、検査技師や救急隊員など院内外の多職種との協力が不可欠だからです。
お互いの意見を尊重し、協力しながらチーム全体で目標を達成するのが好きな人は、その資質を活かせるでしょう。
医療・看護の知識を学ぶのが好きな人
救急看護の対象患者さんには、診療科や年齢の垣根がありません。また、いつ急変するかわからない患者さんもおり、そのときの状況に即座に対応するためには、幅広い知識と技術が必要です。
そのため、じっくりと患者さんと関わるのが好きな人よりも、幅広い医療知識や新たな看護技術を学ぶのが好きな人のほうが向いているといえるでしょう。
体力と精神力に自信がある人
体力と精神力に自信があることも救急看護師に向いている人の素養といえます。救急看護師には迅速な判断や対応が求められるため、肉体的にも精神的にも少なからず負担がある現場だからです。
体力と精神力があり、体調管理や気持ちの切り替えができる能力、プレッシャーのなかでも冷静な対応ができる能力があるとよいでしょう。
行動力と柔軟さがある人
行動力と柔軟さは救急看護師の仕事に生かせる能力のひとつです。救急では、いつ搬送されてくるかわからない患者さんを受け入れ、患者さんの状態の急な変化にも迅速に対応しなければなりません。
予測できない状況や急な変更が起こり得る環境のなかでも、自ら考えて行動できる力と柔軟さを磨いておくとよいでしょう。
救急看護師の仕事内容
ここでは救急看護師の仕事内容を解説します。救急看護師の主な仕事内容を表にまとめました。
救急看護師の主な仕事内容 | |
---|---|
初期対応 トリアージ |
● 救急隊員からの引き継ぎや本人への問診により状況を把握する ● 多数の患者さんがいる場合は、情報収集とアセスメントにより治療の優先度を判断する |
救命・救急処置 |
● 医師と連携し、心肺蘇生や止血などの応急処置をする ● 医師の指示のもと採血や点滴ルートの確保などの治療に必要な処置をする |
医師の補助 |
● 医師の治療・処置を介助する ● 医師へ状況を報告し指示を受ける |
本人と家族の対応 |
● 本人や家族の精神的ケアを行う ● 本人や家族へ状況や見通しを説明する |
救急看護師の基本的な仕事内容は、患者さんが搬送されてから必要な救急処置を受けて入院するまで、または自宅へ帰るまでの看護です。入院による加療が必要な患者さんの場合は、入院までの患者さん対応や病棟への申し送りも担当します。
救急看護師の1日のスケジュール例
救急看護師の勤務形態は、基本的に日勤と夜勤の交代制です。病院によっては、日勤・準夜・深夜の三交代制や、早番や遅番がある変則交代制のところもあります。ただし、規模が小さな医療施設のなかには、夜間のみ病棟看護師が救急外来の担当をする場合もあるようです。
また、規模が大きい医療施設や救急患者受け入れ件数が多い病院では、初期対応を行う看護師、医師を介助する看護師、入院待ちの患者さんを受け持つ看護師などのように、役割を分担しているところもあります。
ここでは、救急看護師の日勤のスケジュール例を紹介します。なお、細かなスケジュールや仕事内容は病院によって異なるため、あくまでも参考と考えてください。
救急看護師の主な仕事は、搬送されてきた救急患者さんの看護です。そのため、基本的に日勤でも夜勤でも仕事の流れは変わりません。申し送りを受けてから、救急外来で治療を受けている患者さんの対応、または新たに搬送・来院された患者さんの対応にあたります。
救急に対象患者さんがいない場合は、部署内で勉強会をしたり、外来やICUなどほかの部署へ応援に行ったりすることもあるようです。
経験者が語る「救急看護師」とは~やりがいや必要な能力など~
ここからは、救急看護師として活躍した人の経験談をもとに、培われるスキルややりがい、大変だったことなどを紹介します。
看護師 プロフィール
羽田 優子 さん
看護学校を卒業後、600床規模の病院へ入職。新卒時から救急を志望し、救急外来に勤務し、救急看護を学ぶ。その後、沖縄へ移住し、二次救急に指定されている400床規模の病院で救急看護師として12年勤務。へき地医療や感染症対策などを含め、救急看護師としての経験を積む。
救急看護師を目指したきっかけや志望理由は?
救急看護師を志望した理由は、どの領域でも役立つスキルを身につけたいと思ったからです。学生の頃は救急看護で働くのは大変そうだと不安を感じたこともありましたが、新卒だからこそ救急を学んでおきたいという思いは強く、救急への配属を希望しました。
培われるスキルは?
救急看護師の経験によって培われるスキルは、観察力とアセスメント力です。病棟は一般的に、症状や検査結果から診断が確定した患者さんや、既往歴がわかっている患者さんが入院しているため、疾患や症状に合わせてケアが行えます。
一方救急は、診断が確定する前の患者さんに対応します。場合によっては、症状が訴えられない状態の人や既往歴がわからない人のケアを行わなければなりません。そのような状況において全身状態を観察しアセスメントをして必要な看護を考えることにより、観察力とアセスメント力が身についていきます。
また、救急は診療科や発達段階も限定されていません。救急看護師として経験を積むことにより、幅広い発達段階や診療科の知識とアセスメント力が備わっていくでしょう。
やりがい・魅力は?
救急看護師の仕事は、チームが一丸となって患者さんの命を助けることです。ひとつの目標に向かって、院内外の多職種の人と協力できる仕事にやりがいを感じました。
また、いつ、どのような患者さんが搬送されてくるかわからない状況での経験を重ねることで、判断力や柔軟性が身につきます。ほかにも、観察力やアセスメント力、多職種と連携する力など、看護師としての総合的な能力を身につけられることが魅力だと思います。
きついこと・大変なことは?
救急看護師のきついところは、1日のスケジュールが読めないところです。救急は、患者さんの受け入れが重なって忙しくなるときもあれば、患者さんがおらず待機しているときもあります。患者さんがいつ搬送されてくるかわからないため、毎日スケジュールが決まっておらず、待機中も常に緊張感をもち続けなければならない大変さがありました。
また、ときには助からない患者さんもおり、精神的につらいと感じることがありました。
必要な能力はある?
救急看護師に必要だと感じる能力は、対応力とコミュニケーション力です。救急の現場では、迅速かつ的確な対応が求められます。そのため、疾患や看護の知識、アセスメント力、判断力、行動力などを総合的に磨き、あらゆる状況に対応できる能力を高めることが必要でした。
また、忙しくてバタバタしている現場でも、ミスを起こさず、チームワークを発揮しながら対応するためには、コミュニケーション力も重要といえます。
給料事情は?
救急看護師の給料は、基本的に病棟看護師と同じです。病院全体で定められている基本給に夜勤手当が加算されます。病院によっては危険手当などがつくところもあるようですが、手当がついても病棟看護師の給料とさほど変わりはないでしょう。救急体制や人員配置の関係で夜勤が少ない職場の場合は、給料が少なくなるかもしれません。
その後のキャリアプランとおすすめの資格は?
救急看護師で学んだ知識・技術や経験はどのような分野でも活かせます。多くの診療科の知識が身につけられ、急変時の対応もできるので、転職する際には強みとなるでしょう。
救急看護の専門性を磨きたい人には、救急看護と集中ケアのスペシャリストであるクリティカルケア認定看護師を目指すのがおすすめです。病院によっては資格取得支援が受けられる場合もあります。
救急看護師になるには
救急看護師になるには、看護師免許を取得後、救急へ配属される必要があります。ここでは、救急看護師になるための難易度や働くうえでの心構え、学生のうちにやっておくとよいことを紹介します。
難易度は高め?
救急看護師になるための難易度は、選ぶ病院によって異なるでしょう。救急医療を担っている病院に入職し、救急へ配属されて救急看護師になるわけですが、入職に際しての難易度やそのときの配置人員の状況は病院によってさまざまです。
ただし、病院によっては新卒を救急部署には配属しないところもあるようなので、救急看護師を目指したい人は、病院説明会などで新卒から救急への配属が可能かを確認しておきましょう。また、救急がどのような部署であるか、就業体験などに参加し理解を深めておくこともおすすめです。説明会や就業体験は以下から検索できるので、ぜひ活用してください。
働くうえでの大切な心構え
救急看護師として働くうえで大切な心構えはあきらめないことです。スピードが求められ、命を左右する場面もある救急の現場では、自分ができないことで怒られたり、うまくできずに落ち込んだりすることもあります。ときには、患者さんの命を救えず、無力感を感じることもあるでしょう。
しかしそのようなときでも、悩みすぎずできることをひとつずつ増やしていくこと、一人でも多くの患者さんを救うというあきらめない気持ちをもつことがとても大切です。
学生のうちにやっておくとよいこと
救急看護師を目指す場合、学生のうちにやっておくとよいことは解剖生理の勉強です。解剖生理は、病態理解やアセスメント、観察などの基礎となるため、学生のうちに深く理解しておくとよいでしょう。
また、救急看護師について正しい知識と情報を収集し、志望動機を掘り下げておくことも大切です。救急の現場はハードな面が多いため、入職後に重圧を感じて挫折する人もいます。そのため、学生のうちに就業体験や説明会で救急看護師への理解を深め、自分の志望動機を掘り下げておくと、働き始めてからギャップを感じにくくなりますよ。
救急看護師の経験は看護師キャリアに活かせる
救急看護師は、初期対応や超急性期の看護が学べ、観察力やアセスメント力が培われる仕事です。すべての年齢層と疾患が看護の対象となるため、身についた能力は看護師としてのキャリア形成にも役立ちます。救急看護師には高い能力が求められますが、看護師としての能力は現場で経験を積むことでも向上するため、新卒から目指すことも不可能ではありません。ただし、救急ならではの厳しい一面があることは事実なので、仕事内容や役割を理解したうえで、あなたのこれからのキャリアを考えて選択しましょう。
引用・参考文献
1)一般財団法人 日本救急看護学会:救急看護の仕事(2024年7月28日閲覧)
厚生労働省:救急医療について(2024年7月28日閲覧)
日本看護協会:認定看護師(2024年7月28日閲覧)