地域医療支援病院とは?承認要件と役割、働く看護師のメリットを解説

地域医療支援病院とは?承認要件と役割、働く看護師のメリットを解説

最終更新日:2024/06/07

地域医療支援病院は、地域医療を支えるための体制が整えられた病院です。今回は地域医療支援病院の定義から、働く看護師の役割、メリットまでを解説します。向いている人の傾向や就活対策も紹介するので参考にしてください。

地域医療支援病院とは

地域医療支援病院とは、かかりつけ医を支援し、地域医療の中心的な役割を担う病院のことです。人々が住み慣れた地域で希望する医療サービスを受けられるよう、かかりつけ医の紹介患者さんへの専門的な医療の提供、救急患者さんを受け入れるための体制整備、医療機器等の地域での共同利用などにより、地域全体の医療を支えています。

地域医療支援病院と称するには、いくつかの要件をクリアし、都道府県知事から個別に承認を受けなければなりません。2023年9月時点で全国700病院が地域医療支援病院として承認されています。

地域医療支援病院の定義

地域医療支援病院は、医療法(第四条)によって以下のように規定されています。

  1. 他の病院又は診療所から紹介された患者に対し医療を提供し、かつ、当該病院の建物の全部若しくは一部、設備、器械又は器具を、当該病院に勤務しない医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療従事者(以下単に「医療従事者」という。)の診療、研究又は研修のために利用させるための体制が整備されていること。
  2. 救急医療を提供する能力を有すること。
  3. 地域の医療従事者の資質の向上を図るための研修を行わせる能力を有すること。
  4. 厚生労働省令で定める数以上の患者を入院させるための施設を有すること。
  5. 第二十一条第一項第二号から第八号まで及び第十号から第十二号まで並びに第二十二条第一号及び第四号から第九号までに規定する施設を有すること。
  6. その施設の構造設備が第二十一条第一項及び第二十二条の規定に基づく厚生労働省令並びに同項の規定に基づく都道府県の条例で定める要件に適合するものであること。
     ● 都道府県知事は、前項の承認をするに当たつては、あらかじめ、都道府県医療審議会の意見を聴かなければならない。
     ● 地域医療支援病院でないものは、これに地域医療支援病院又はこれに紛らわしい名称を付けてはならない。

引用:医療法(第四条)

地域医療支援病院として承認されるためには、医療法第四条で規定された上記事項のもと、厚生労働省と各都道府県が定めた承認要件を満たす必要があります。

地域医療支援病院の厚生労働省令による承認要件|病床数、紹介率など

厚生労働省が定めた地域医療支援病院の承認要件は、以下のような内容になります。

  • 開設主体:原則として国、都道府県、市町村、社会医療法人、医療法人等
  • 紹介患者中心の医療を提供していること。
    具体的には、次のいずれかの場合に該当すること。
     ア)紹介率が80%以上であること
     イ)紹介率が65%以上であり、かつ、逆紹介率が40%以上であること
     ウ)紹介率が50%以上であり、かつ、逆紹介率が70%以上であること
  • 救急医療を提供する能力を有すること
  • 建物、設備、機器等を地域の医師等が利用できる体制を確保していること
  • 地域医療従事者に対する研修を行っていること
  • 原則として200床以上の病床、及び地域医療支援病院としてふさわしい施設を有すること  等

引用:地域医療支援病院について

地域医療支援病院として承認を受けるには、上記の承認要件のほかに、各都道府県が定めた規定事項が示されている場合もあります。
地域によって必要とされる医療が異なることから、2021年の省令改正で、医療確保のために地域医療支援病院が特に行う必要があるものとして都道府県知事が定める事項については、「地域の実情に応じて適切に定めるべき」とされました。そのため、規定事項に地域性が反映されることがあるからです。

都道府県によっては、災害時の医療提供や、居宅等における医療提供の支援などの要件が追加されているところもあります。

地域医療支援病院の役割

厚生労働省が示している地域医療支援病院制度の概要では、地域医療支援病院の機能として以下の4つの役割が示されています。

  1. 紹介患者に対する医療の提供
  2. 医療機器の共同利用の実施
  3. 救急医療の提供
  4. 地域の医療従事者に対する研修の実施

1.紹介患者に対する医療の提供

地域医療支援病院は、地域の一般病院や診療所からの紹介先として、人々に医療を提供するのが大きな役割です。かかりつけ医から詳しい検査や専門的な治療が必要と判断された患者さんを受け入れる一方で、病状が安定した患者さんについてはかかりつけ医に逆紹介します。このような流れをつくることで、継続的な医療提供を目指します。

紹介患者に対する医療提供の基準は、紹介率と逆紹介率として承認要件にも定められており、紹介患者数を都道府県に毎年報告することが義務付けられています。

2.医療機器の共同利用の実施

地域医療支援病院は、院内の医療機器をほかの医療機関が共同利用できるような体制を整え、効率的で充実した地域医療サービスの提供を実現する役割も担います。
例えば、MRIなどの高額医療機器については、地域医療機関との共同利用を進めるだけでなく、ネットワークを構築し、検査予約の一元管理や読影結果の共有を図ります。これにより、医療の効率化と質の向上、患者さんの待ち時間の短縮にも貢献しています。

3.救急医療の提供

地域の救急医療を支えるために、24時間体制で救急患者さんを受け入れるのも地域医療支援病院の役割です。集中治療室の設置や入院治療が必要な重症患者さんのための病床の確保、救急医療専従の医療従事者の確保などが求められます。

4.地域の医療従事者に対する研修の実施

地域医療支援病院は、地域の医療従事者に対し研修や勉強会を開催し、地域全体の医療の質の向上に努める役割も担います。地域の保健医療活動への援助や、看護学校実習生の受け入れをすることもあります。

地域医療支援病院と特定機能病院の違い

医療法によって一定の機能を有するとされる病院には、地域医療支援病院のほかに特定機能病院があります。以下は、地域医療支援病院と特定機能病院の役割や承認要件の違いをまとめたものです。

参考:地域医療支援病院について(厚生労働省)
   特定機能病院について(厚生労働省)
地域医療支援病院 特定機能病院
役割 ● 紹介患者に対する医療の提供
● 医療機器の共同利用の実施
● 救急医療の提供
● 地域の医療従事者に対する研修の実施
● 高度医療の提供
● 高度医療技術の研究・開発
● 高度医療に関する研修の実施
設立方法 都道府県知事の承認 厚生労働省の承認
主な要件 病床数:200床以上
紹介患者中心の医療提供
救急医療の提供
地域医療従事者への研修
病床数:400床以上
紹介患者中心の医療提供
専門医の配置
医療安全管理体制の整備
所定の16科以上の診療科を設置
承認を受けている病院数 700病院
(2023年9月時点)
88病院
(2022年12月時点)

地域医療支援病院と特定機能病院それぞれに機能があり、それに応じて役割が異なります。各々がその役割を果たすことで、質の高い医療の効率的な提供を目指しています。そのため、役割に応じて設立方法や承認要件が定められています。

また地域医療支援病院の場合、身近な地域で医療が提供されることが望ましいという観点から設立されているため、特定機能病院よりも承認されている病院数が多くなっています。

地域医療支援病院で働く看護師の役割・仕事内容

ここでは、地域医療支援病院での看護師の主な役割と仕事内容を4つのポイントから解説します。

働く病院の医療機能に応じた看護

急性期が中心となる地域医療支援病院であっても、それぞれの施設によって病棟や部署の構成は異なります。看護師は働く場に応じた看護提供が役割なので、どこで働くかによって仕事の内容は違ってきます。

例えば、ICUに配属された場合は超急性期の集中的な看護が求められますが、回復期リハビリテーション病棟に配属された場合は回復期の看護が求められます。ナース専科就職ナビでは、さまざまな病棟の仕事内容について詳しく解説しているので、具体的な役割や仕事内容は以下を参考にしてください。

救急医療への対応

地域医療支援病院は24時間体制で救急医療を提供しているため、看護師は救急患者さんへの対応も担います。救急外来に勤務する場合は、緊急搬送による患者さんの初期対応を行い、病棟勤務の場合には、救急患者さんの入院受け入れや治療に関わる看護が求められます。

他職種・他施設との連携

地域医療支援病院では、切れ目のない医療を提供するために地域の医療機関との連携が必要です。そのため地域医療支援病院で働く看護師は、院内外の他職種と連携する役割も担っています。

病棟で働く看護師の場合は、紹介患者さんの入院対応や逆紹介する患者さんの退院カンファレンスなどで他職種・他施設との連携が求められるでしょう。また、地域連携室などの部署で専任で地域の医療機関との連携や調整を行う看護師もいます。

地域の医療従事者への教育

地域医療支援病院は、地域の医療従事者に対して研修を実施する義務があります。看護師として教育に携わることも、地域医療支援病院で働く看護師の役割です。例えば、認定看護師などの専門知識を有する看護師が、地域の医療従事者に対して講習会を開催したり、看護学生の実習受け入れ病棟で指導に携わったりしています。

地域医療支援病院で働くメリット・デメリット

ここでは、地域医療支援病院で働く場合のメリットとデメリットを紹介します。病院選びの参考にしてください。

メリット

地域医療支援病院で働くメリットは以下の3つです。

地域医療や他職種との連携が学べる

地域医療支援病院で働くメリットは、他職種や地域の医療機関との連携が学べることです。医師や理学療法士、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど、様々な専門職と接する機会が多く、チーム医療の一員として多職種間連携を理解し、その方法を身に付けることができます。

また、地域の医療事情にも詳しくなれるため、地域の特性を考慮しながら個々の患者さんに適した看護を提供する能力が養えます。

教育・研修制度が充実している

教育・研修制度が充実しているのも地域医療支援病院のメリットです。地域医療支援病院には、承認要件として年間12回以上の研修を主催することが定められています。そのため、定期的かつ継続的に研修や講習会が受けられる機会があるでしょう。

待遇面が整っている場合が多い

日本看護協会が発表している病院看護・助産実態調査報告書では、新卒看護師の初任給は、病床数が少ない病院に比べ病床数が多い病院のほうが高い水準である傾向みられます。

地域医療支援病院は、承認要件により、開設者は公的機関や医療法人などで、病床数は200床以上と定められています。そのため、経営は安定的で待遇面が整っていることが期待できるでしょう。ただし、給料や福利厚生などは病院によって異なるため、詳細は志望する病院の求人票や、説明会に参加して確認してください。

デメリット

地域医療支援病院で働くデメリットは以下の2つです。

忙しい可能性がある

地域医療支援病院は、紹介による入退院が多い傾向にあるため、患者さんの入れ替わりが激しく、忙しい可能性があるでしょう。また、24時間体制で救急対応しているため、日常業務以外にも突発的な患者さんに対応しなければならない場合があるでしょう。

しかし、救急医療や急性期に必要な看護が身に付く機会でもあります。急性期の経験を積みたい人はぜひ挑戦してみてください。

都道府県に応じた任務を果たさなければいけない

地域医療支援病院のなかには、都道府県によっては感染症医療や災害医療の提供が責務とされているところもあります。そのため、必要時は病院の責務とされている役割を看護師として果たさなければならず、大変だと感じる人はいるかもしれません。

地域医療支援病院に向いている人の特徴

ここでは地域医療支援病院の特徴を踏まえて、新卒から地域医療支援病院への入職が向いている人の特徴を紹介します。

大規模な病院で急性期・救急を学びたい人

地域医療支援病院は、病床数が200床以上で救急医療を提供しなければならないと定められているため、規模の大きな病院で急性期や救急医療を学びたい人には向いているといえます。

ただし、なかには中小規模の地域医療支援病院も存在します。また、入職後に急性期ではない病棟に配属になる可能性もあります。事前の情報収集で病床数や病棟の種類を確認しておきましょう。

地域医療に興味がある人

地域医療に興味がある人は、地域医療支援病院が向いています。働きながら地域医療に関する知識が学べるうえ、他職種との連携によって看護の幅も広がります。高齢化により需要が高まっている地域医療に貢献できるやりがいも感じられるでしょう。

将来訪問看護ステーションや介護施設で働きたい人

地域医療支援病院は、将来的に訪問看護ステーションや介護施設で働きたいと思っている人にもおすすめです。地域医療支援病院で経験できる急性期の看護や地域連携に関する知識は、在宅領域や福祉施設で働く際に役立つでしょう。

地域医療支援病院で働くには

地域医療支援病院は全国に700病院あり、開設者や病院規模、どのような病棟があるかは病院によって異なります。以下のポイントに従って、自分の理想の働き方に合った地域医療支援病院を探してみましょう。

  • 働きたい地域を決める
  • 働きたい地域にどのような地域医療支援病院があるか調べる
  • 病院ごとの情報を集める

地域医療支援病院の待遇や採用方法は、病院によって異なります。気になる病院があれば、積極的に説明会やインターンシップに参加し、病院ごとの情報を集めてみてください。求人票だけではわからない情報が得られたり、病院側に直接質問ができたりするため、病院選びに役立ちます。

インターンシップ 病院見学会

※ナース専科就職ナビ

地域医療支援病院の特徴を理解して病院選びに活かそう

地域医療支援病院は、地域医療を支える機能を備えた病院として都道府県知事に承認されている病院です。2023年には全国で700施設を数えるまでになりました。地域医療支援病院の特徴から、看護師として働くメリットとデメリットもあり、具体的な仕事内容や待遇は病院によって異なります。地域医療支援病院に興味がある人は、働きたい地域の病院の情報を集めてみてください。

参考

厚生労働省:地域医療支援病院について(2024年5月16日閲覧)

厚生労働省:地域医療支援病院の見直しについて(2024年5月16日閲覧)

厚生労働省:特定機能病院について(2024年5月16日閲覧)

日本看護協会:2022年 病院看護・助産実態調査 報告書(2024年5月16日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

柴田 実岐子

shibata-mikiko

福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。