特定機能病院とは?役割・要件・他病院との違いや働く看護師のメリット

特定機能病院とは?役割・要件・他病院との違いや働く看護師のメリット

最終更新日:2024/09/02

病院は機能によっていくつかに区分されます。そのなかで、高度医療を提供・推進するために定められた条件を満たした病院が「特定機能病院」です。今回は特定機能病院の役割や承認要件などから、働く看護師の仕事内容、メリットまでを解説します。

特定機能病院とは

特定機能病院は医療施設機能により区分された施設のひとつで、高度医療の提供や開発・評価、それに関わる研修を実施する能力を備えた病院のことです。
1993年の第二次医療法改正によって制度化されたもので、特定機能病院と称するには、いくつかの要件をクリアし、厚生労働省により承認される必要があります。2022年12月時点で特定機能病院に承認された病院は、がんセンターや大学病院など全国で88施設です。

(※厚生労働省:特定機能病院の承認状況より)

特定機能病院の要件

以下1~9は、特定機能病院の要件として医療法(第四条の二)で示されている内容です。

  1. 高度の医療を提供する能力を有すること。
  2. 高度の医療技術の開発及び評価を行う能力を有すること。
  3. 高度の医療に関する研修を行わせる能力を有すること。
  4. 医療の高度の安全を確保する能力を有すること。
  5. その診療科名中に、厚生労働省令の定めるところにより、厚生労働省令で定める診療科名を有すること。
  6. 厚生労働省令で定める数以上の患者を入院させるための施設を有すること。
  7. その有する人員が第二十二条の二の規定に基づく厚生労働省令で定める要件に適合するものであること。
  8. 第二十一条第一項第二号から第八号まで及び第十号から第十二号まで並びに第二十二条の二第二号、第五号及び第六号に規定する施設を有すること。
  9. その施設の構造設備が第二十一条第一項及び第二十二条の二の規定に基づく厚生労働省令並びに同項の規定に基づく都道府県の条例で定める要件に適合するものであること。

引用:医療法(第四条の二:一-九)

特定機能病院の厚生労働省令による承認要件

上記の医療法で示されている厚生労働省令が定める特定機能病院の承認要件は、主に以下のような内容になります。

  • 高度の医療の提供、開発及び評価、並びに研修を実施する能力を有すること
  • 他の病院又は診療所から紹介された患者に対し、医療を提供すること
    (紹介率50%以上、逆紹介率40%以上)
  • 必要病床数 :400床以上
  • 人員配置の最低基準
    〇 医師:通常の2倍程度の配置(医師の配置基準の半数以上がいずれかの専門医)
    〇 薬剤師:入院患者数÷30(一般は入院患者数÷70)
    〇 看護師等:入院患者数÷2(一般は入院患者数÷3)
    〇 管理栄養士:1名以上
  • 構造設備:集中治療室、無菌室、医薬品情報管理室が必要
  • 医療安全管理体制の整備
    〇 医療安全管理責任者の配置
    〇 専従の医師、薬剤師及び看護師の医療安全管理部門への配置
    〇 監査委員会による外部監査
    〇 高難度新規医療技術及び未承認新規医薬品等を用いた医療の提供の適否を決定する部門の設置
  • 原則定められた16の診療科を標榜していること
  • 査読のある雑誌に掲載された英語論文数が年70件以上あること 等

参考:特定機能病院の概要

特定機能病院として運営するためには、上記の承認要件を満たしたうえで、所定の手続きをとり厚生労働省の承認を受けなければなりません。

また承認後も、業務報告や立入検査などにより、特定機能病院の承認要件を満たしているか定期的に確認が行われます。承認要件を満たしていない場合や、業務報告書を提出しなかった場合などには、特定機能病院の承認が取り消されることがあります。

特定機能病院の役割

厚生労働省が特定機能病院制度のなかで示している特定機能病院の4つの役割について紹介します。

1. 高度医療の提供

特定機能病院の大きな役割のひとつは、ほかの病院では対応できない患者さんに対し高度な医療を提供することです。専門医をはじめ充実した医療スタッフや整った設備によって、重篤な疾患や難しい症状の患者さんの治療を行います。

2. 高度な医療技術の開発と評価

高度医療を提供するために、現状では困難とされている診療技術についての評価や新たな開発を行うのも特定機能病院の役割です。国の補助金制度などを活用しながら研究等を行うとともに、医療技術の有効性・安全性を評価し、医療技術の進歩に貢献します。

3. 高度医療に関する研修

医師や看護師などの医療従事者に対し、高度医療に関する研修や教育を行うのも特定機能病院が担う役割です。一定数以上の研修医の受け入れなどを行い、人材育成に貢献します。

4. 高度な医療安全管理体制

特定機能病院は、高度な医療を安全に提供するための管理体制を整える必要があります。定期的な監査や専任の医療安全管理責任者の配置によって、人々が安心して医療を受けられる環境を提供します。

他病院との違い

特定機能病院とその他の病院には、役割や要件に違いがあります。下記は特定機能病院、地域医療支援病院、一般病院の違いをまとめたものです。

参考:特定機能病院について(厚生労働省)
   地域医療支援病院について(厚生労働省)
   医療施設の類型(厚生労働省)
特定機能病院と他病院の違い
特定機能病院 地域医療支援病院 一般病院
役割 高度医療の提供、高度医療技術の研究・開発、高度医療に関する研修を通し、より高度な医療を推進 紹介患者への医療提供、医療機器の共同利用等により一般病院(かかりつけ医)を支援 かかりつけの病院として、人々により身近な立場として地域医療に貢献
設立方法 厚生労働省の承認 都道府県の承認 都道府県の認可
主な要件 ・病床数:400床以上
・紹介患者中心の医療提供
・専門医の配置
・医療安全管理体制の整備
・所定の16診療科以上を設置
・病床数:200床以上
・紹介患者中心の医療提供
・救急医療の提供
・地域医療従事者への研修
病床数:20床以上

特定機能病院と地域医療支援病院は、一般病院とは異なり承認要件が細かく定められています。これは医療施設の機能を体系的に整理し、各施設の機能を明確することが目的です。そうすることでそれぞれの施設は役割が果たしやすくなり、地域全体として効率的で質の高い医療の提供を目指すことができます。

例えば、風邪など軽症の患者さんの場合、基本的に各地域にあるかかりつけの病院(一般病院)が担当します。また、一般病院では対応できないような重症患者さんや高度な治療・検査を要する患者さんは、一般病院から地域医療支援病院や特定機能病院へ紹介される流れになります。

かかりつけ医をバックアップするのは地域医療支援病院の役割なので、基本的には一般病院から地域医療支援病院へという流れになりますが、病状によっては、より高度な医療による治療が必要と判断さることもあります。その場合は特定機能病院へ紹介されます。一方で、状態が安定した患者さんは、特定機能病院から一般病院へ逆紹介されるケースもあります。

地域医療はこのような仕組みによって実践されています。そのために、特定機能病院をはじめ医療施設の機能は明確に区分される必要があり、役割や承認要件が定められているのです。

特定機能病院の看護師の働き方

ここでは特定機能病院の看護師の働き方について解説します。

特定機能病院の看護師の役割

特定機能病院で働く看護師の役割は、主に下記の2つです。

  • 急性期の看護の提供
  • 特定機能病院の承認継続のための取り組み

重篤な患者さんに対して高度医療を提供する特定機能病院では、看護師は主に急性期看護に携わります。急性期の看護には、患者さんの生命維持や全身状態の回復を優先し、適切な治療を安全に行うことが求められます。また、病床数が多く、診療科が細かく分かれているため、配属されている病棟に合わせた専門的な看護を提供しなければなりません。

さらに、特定機能病院の承認が継続されるように努めることも、特定機能病院で働く看護師の役割です。特定機能病院は、厚生労働省から承認を受けた後も、病院全体で要件に沿った適切な運営を行う必要があります。

看護師も病院の理念や役割の理解を深め、日々の業務における安全管理などにあたります。そのほか、マニュアルの整備や論文発表などに携わる場合もあります。

特定機能病院の看護師の仕事内容

特定機能病院の看護師の仕事は、病院や病棟によって仕事内容に細かい違いはありますが、基本的には診療の補助と療養上の世話で、他病院と同じです。ただし、急性期の患者さんが主となるため、生命維持や全身状態の回復を優先した診療の補助に関する業務が多いでしょう。

現在特定機能病院として承認されている医療施設の多くは大学病院です。ナース専科 就職では、大学病院の看護師の仕事内容について詳しく解説しているので、参考にしてください。

特定機能病院で働くメリット・デメリット

ここでは特定機能病院の特徴を踏まえ、働く看護師のメリットとデメリットを紹介します。病院選びの参考にしてください。

メリット

特定機能病院で働くメリットは、以下の3つです。

最先端の環境で高度な医療が学べる

特定機能病院では、最先端の環境で高度な医療が学べるといったメリットがあります。最新の医療技術や治療法が導入されており、そのような環境のもとで働くことにより高度な医療知識やスキルが身につけられるためです。また、診療科が細かく分かれているので、珍しい症例や難病の看護について学ぶ機会もあるでしょう。

最先端の環境で専門的な高度医療の知識や技術を身につけられることから、専門性を極めたスペシャリストも目指しやすいでしょう。

教育・研修制度が充実している

特定機能病院は研修制度が充実しているのもメリットのひとつです。高度医療の研修を実施する役割も担っているため、院内で様々な研修が受けられるでしょう。また、認定看護師や専門看護師などの資格取得について支援制度を積極的に導入している特定機能病院もあります。

給与・福利厚生が期待できる

日本看護協会が発表している病院看護・助産実態調査報告書では、新卒看護師の初任給は、病床数が少ない病院に比べ病床数が多い病院のほうが高い水準となる傾向がみられます。そのため、病床数が400以上である特定機能病院は、給与が高い傾向にあると考えられます。

また特定機能病院の多くは大学病院で、母体がしっかりしており、働く医療従事者の数も多いため、福利厚生面の充実も期待できるようです。

デメリット

特定機能病院で働くデメリットは、以下の3つです。

忙しい病院が多い

特定機能病院は、忙しい環境である可能性が高いといえます。重篤な患者さんに対し、高度医療を提供しているため急性期看護が主となり、日々の病棟業務では細心の注意と同時にスピーディーさが求められます。また病棟業務以外にも、院内研修や実習生の対応があり、さらに専門性を磨くための自主的な学習が必要な場合は多くなります。これらを大変だと感じる人はいるでしょう。

患者さんとじっくり関わりながら看護に携わりたい人や、ゆっくりとしたペースで学びを深めたい人には向かないかもしれません。

幅広い看護は学びにくい

特定機能病院では、幅広い看護が学びにくいこともデメリットだと考えられます。特定機能病院は、16以上の診療科を設置することが承認要件になっているため、診療科が細かく分かれます。診療科ごとに専門性が求められることが多く、幅広い疾患を学ぶ機会が少なくなる可能性は高いでしょう。

また、高度医療による治療を終えた患者さんは他院に転院する場合が多いため、リハビリテーションや在宅支援などに関わる継続的な看護を学ぶ機会も少ないかもしれません。

看護技術が身につきにくい場合がある

特定機能病院は、チーム医療に関わる職種が多く、各医療従事者の業務が細分化されている傾向にあります。そのため、場合によっては特定の看護技術が身につきにくいといったデメリットもあるでしょう。

例えば、採血は研修医が行う、あるいは入浴介助や食事の配膳は看護助手が行うと決められている場合、新人看護師は採血や入浴介助を日々の業務では担当できないことになります。

ただし研修制度が充実している病院が多いため、新人研修で基礎的な看護技術を学ぶ機会は設けられているでしょう。説明会などで新人研修の内容を確認してみましょう。

特定機能病院に向いている人の特徴

ここでは、新卒から特定機能病院に入職するメリットを踏まえて、特定機能病院に向いている人の3つの特徴を紹介します。

スペシャリストを目指したい人

専門性を磨きスペシャリストを目指したい人には、特定機能病院は向いているといえます。特定機能病院では、細かく分かれた診療科ごとに高度医療の経験を積み、その分野の専門知識が深められるためです。

一般病院では経験できないような疾患や治療法についての看護や高度医療の研修を通して、高い専門性が身につけられる機会も数多くあるでしょう。

最先端の医療に興味がある人

最先端の医療に興味があり、常に新しい知識を得ておきたい人に向いているでしょう。特定機能病院は高度医療の開発や評価をする役割を担っているため、最新の医療技術や治療法が積極的に導入されています。

最先端の医療に携われるため、自身の看護知識と技術を常に更新できる職場といえるでしょう。

学びたい意欲が強い人

特定機能病院では、専門的な知識やスキルが求められるため、学びたい意欲が強い人にとってもプラスな環境です。特に急性期の看護を学びたい人には向いているでしょう。また、研修や資格支援制度が充実している病院が多いため、積極的に学びキャリアアップを目指したい人にはおすすめです。

ただし、最新の高度医療を提供することから、自主的に学ぶ姿勢と継続的な学習が求められるため、プライベートを重視したい人には向かないかもしれません。

特定機能病院で働くには

特定機能病院は2022年12月時点で全国に88病院しかありません。数か少ないことを考えると入職のハードルが低いとはいえません。病院によっては採用倍率が3倍のところもあるようです。

もちろん採用倍率は病院ごとに異なり、その年の採用人数や応募人数にも左右されます。とはいえ、特定機能病院を志望したい人は、採用のハードルが高いかもしれないと考えて対策しておく必要があるでしょう。

事前にできる対策を以下にまとめました。

  • 病院について情報収集する
  • 説明会や就業体験に参加する
  • 説得力のある志望動機を考える

まずは、病院の概要や採用について情報収集を行い、志望先の病院について理解を深めましょう。情報収集は病院が自分の働き方に合っているかを見極めるきっかけにもなります。

特に説明会や就業体験が開催されている場合は、積極的に参加してみましょう。現場で働く現役看護師のリアルな話を聞ける貴重な機会です。積極的に質問することで、病院側に志望の高さをアピールするチャンスになるかもしれません。

そのうえで志望動機を考えます。その際は、情報収集で得た病院の理念と自己分析で明確になった自分の価値観をすり合わせることが大切です。ぜひ、過去から今に至るまでの自分を振り返り、説得力のある志望動機を目指しましょう。

就業体験 病院見学会

※ナース専科 就職より

特定機能病院の特徴を理解して病院選びに役立てよう

特定機能病院は高度医療の提供、開発・評価、研修を担う病院です。要件を満たし、厚生労働省に承認されている病院は全国に88病院あります。特定機能病院はほかの病院と役割が異なるため、看護師の働き方やメリット・デメリットも違ってきます。病院数が少なく競争率が高い傾向もあります。特定機能病院への入職を目指す人は、自身の志望理由も再確認しながら、採用試験前の事前準備をしっかり行いましょう。

参考

厚生労働省:特定機能病院について(2024年4月20日閲覧)

厚生労働省:特定機能病院の承認後の対応のあり方について(2024年4月20日閲覧)

公益法人 全日本病院協会:東京女子医大病院と群大病院の特定機能病院を取り消し(2024年4月20日閲覧)

厚生労働省:地域医療支援病院について(2024年4月20日閲覧)

厚生労働省:医療施設の類型(2024年4月20日閲覧)

日本看護協会:2022年 病院看護・助産実態調査 報告書(2024年4月20日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

柴田 実岐子

shibata-mikiko

福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。