産婦人科看護師の仕事内容や助産師との違いは?経験者の声をもとに解説

産婦人科看護師の仕事内容や助産師との違いは?経験者の声をもとに解説

最終更新日:2023/10/30

産婦人科の看護師は、母となる女性の心と体の変化、生まれてくる赤ちゃんの健康、そして女性特有の疾患に悩む女性を最前線でサポートします。今回は経験者の声をもとに、産婦人科で働く看護師のやりがいや働くうえで大切なことについて解説します。産婦人科ならではの看護について理解を深めたい人は、ぜひ参考にしてください。

産婦人科とは

産婦人科とは、女性の妊娠から出産までをサポートする「産科」と、女性特有の疾患を診る「婦人科」の総称であり、女性の生涯にわたる健康を支える診療科のことです。

思春期・妊娠期・産褥期・更年期など、年を重ねるごとで起こる女性特有の生体の変化や疾患に関する診療を行います。

産婦人科で提供される医療

産婦人科では主に以下のような医療が提供されます。

  • 妊娠・出産のサポート
  • 不妊症の治療、人工授精や体外受精などの生殖医療
  • 婦人科疾患の診療
  • 子宮頸がんなどのがん検診

産科に含まれる妊娠・出産のサポート以外に、産婦人科で診察される疾患には、不妊の原因にもなる子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣のう腫、子宮がん・卵巣がんといった悪性腫瘍、ほかにも月経異常や妊娠に伴う疾患などがあります。

産婦人科における看護師の役割

産婦人科の看護師の役割は、診察や検査の補助、入院時のケア、生活指導などを通じて、患者さんの心身をサポートすることです。特に婦人科疾患に関しては、助産師よりも看護師による精神的・身体的ケアが中心となります。

出産においては助産師や医師のサポート的な立ち位置ながらも、助産師とは異なる視点から看護計画を立て、主体的に看護ケアを行います。

助産師との違い

産婦人科で働く看護師と助産師では、主な役割と必要な資格が異なります。以下に、産婦人科看護師と助産師との違いをまとめました。

産婦人科看護師と助産師との比較表

産婦人科看護師 助産師
役割 一般的かつ全般的な医療知識・スキルを活かし、妊産婦・褥婦、さらに周術期を含む婦人科疾患患者さんに幅広く看護を提供すること 妊娠・出産・産褥期に特化した知識・スキルを活かし、妊娠・出産に関わる一連の流れをサポートすること
具体的に行うこと 全般的な医療サポート
患者さんへの看護ケア
医療処置の補助
助産行為
母子の健康管理
妊娠・出産・育児に関する指導
必要な資格 看護師免許 助産師免許
看護師免許

産婦人科看護師も助産師も、患者さんをサポートするという点では変わりません。ただし、助産師は医師の指示がなくても助産行為が可能です(正常分娩のみ)。産婦人科看護師と助産師はお互いの役割を理解し、連携して患者さんのケアを行っています。

産婦人科看護師の仕事内容

産婦人科看護師の業務内容には、診療科特有のものが多く含まれます。ここからは、産婦人科看護師の主な仕事内容や1日の勤務スケジュールについて詳しく解説していきます。

産婦人科看護師の主な仕事内容

産婦人科のなかでも、婦人科の患者さんに対しては一般的な病棟とほぼ同様の看護を提供し、業務内容も変わらないことがほとんどです。一方、産科の患者さんを受け持つ場合には、以下のような業務を行います。

産科病棟における看護師の業務一覧
出産介助の外回り ・器械・医療機器の準備
・出産中の患者さんの身の回りのケア
患者さん(褥婦さん)の受け持ち・管理 ・バイタル測定
・授乳介助
受け持ち患者さんの赤ちゃん(新生児)の管理 ・バイタル測定
・哺乳量・尿量測定
出産後のケア ・更衣、歩行介助など
新生児のケア ・ベビー室勤務時に授乳や沐浴を行う
患者さんや家族への指導 ・日常生活の過ごし方、授乳、沐浴についての指導を中心に行う
その他のケア ・光線療法(新生児の黄疸治療)の管理
・帝王切開術前後の看護
・切迫早産の妊婦さんのケア など

産科の患者さんを受け持つ看護師は、主に妊娠から出産、産後までの一連の過程で、助産師とともにケアに関わり、患者さんとその家族をサポートします。

1日の勤務スケジュール

産婦人科病棟の看護師は、いつ分娩が始まるかわからない状態で働いているため、いつでも対処できるようなスケジュール管理が必要です。

勤務は、一般的な病棟看護師と同じように日勤と夜勤に分けられます。夜勤は病院によって二交代制もしくは三交代制、さらに長日勤や早番・遅番などの変則交代制勤務や夜勤専従の勤務形態もあります。

日勤帯のスケジュール例

産婦人科の日勤帯の受け持ち数は、病院によってさまざまです。患者さんや赤ちゃんの状態によってスケジュールは変動します。ここでは、産科病棟の看護師の日勤帯での一般的な1日のスケジュール例を紹介します。

産科病棟で働く看護師の1日スケジュール例(日勤)

夜勤帯のスケジュール例

夜勤帯の受け持ち数は、日勤帯よりも多くなる傾向にあります。夜勤においても3時間ごとの授乳介助を行いながら、母子の健康状態を観察していきます。また、夜間であっても緊急の分娩対応は発生するため、常に受け入れ体制を整えておく必要があります。

以下では、産科病棟の二交代制での夜勤スケジュール例を紹介します。

産科病棟で働く看護師の1日スケジュール例(夜勤)

勤務経験者の本音~産婦人科看護師のやりがいや大変なこと~

ここからは、産婦人科での勤務経験がある看護師に、産婦人科看護師ならではのやりがい、大変なことについて話してもらいました。実際に働いていた看護師の声を通して、産婦人科の魅力や難しさを探りましょう。

ご協力いただいた看護師さんのプロフィール

稲田ひろみさん

看護大学に入学、正看護師の資格取得・卒業後、新卒で小児科病棟へ配属。数年の経験を積んだのち、入院設備を有する産科クリニックへ転職。その後さらに総合病院の整形外科病棟に配属、小児科病棟へ異動となる。

産婦人科看護師を志望した理由

大学時代の総合実習で選択した産科での経験が、産婦人科に興味をもった一番のきっかけです。その経験から助産師へも関心を持ちましたが、いったんは看護師とし大学病院でキャリアをスタートさせました。しかし、産科への強い思いを残していることを感じ、転職を考えるタイミングで産婦人科の道を選択しました。

産婦人科看護師の業務の研修方法は?

入職して初めの数週間は、外来や病棟、ベビー室などの各部門を巡り、実際の業務を見学したり、ケアに参加して仕事内容を学んだりといった研修を受けました。私はルート確保や採血の経験が少なかったので、特にこれらの技術の練習に時間を割きました。練習である程度慣れてきたところで、分娩の前後で補液や抗生剤の投与が必要な際に、ルート確保の作業を担当するようになりました。

産婦人科で培えるスキルとは?

もちろん出産に関する看護スキルが深められます。しかし、産婦人科でも出産に関連しない看護ケア全般の技術を学ぶことができ、それらは一般病棟で磨けるスキルと通じるところがあります。

また、正常分娩による新生児のケアに関しても深く関わることができるため、新生児の健康を維持・促進するための基本的なケアの技術も身に付けられるでしょう。母子の健康管理全般に関する専門性を強みにして活躍できます。

産婦人科看護師のやりがいや魅力は?

出産という人生の中で非常に神秘的で幸せな瞬間に直接立ち会えることは、特別な経験であり、産婦人科ならではの大きな魅力といえます。授乳介助や赤ちゃんの沐浴指導を行うなかで、患者さんと一緒に最も適した方法を考えることは少なくありません。そのときには、患者さんが実践できるようになった時の達成感や、患者さんの不安が軽減された瞬間の喜びなどが味わえ、心からやりがいを感じることができます。

何より、赤ちゃんの無邪気な笑顔、そしてその存在自体が日々の疲れを癒してくれます。赤ちゃんが好きな人にとってはとても魅力的な職場だと思います。

産婦人科看護師として働くなかで大変なところは?

産科においては、助産師がメインの役割を担っていることが多く、私たち看護師が実際にできることが限られてしまうことで歯痒さを感じることはあります。

心情的につらいと感じるのは、流産や死産、中絶といった悲しい出来事の場面でケアを行う時です。また、母体や赤ちゃんに何らかの障害が起こってしまった時にも、その対応の際には心苦しさを感じることがあります。

こういった場合は介入しすぎない程度に、患者さんが本音を打ち明けられるようなコミュニケーションを心がけていました。つらいケースでの患者さんとの関わり方に悩んだ場合は先輩に相談するのもよいでしょう。

産婦人科看護師の給与事情

看護師として3〜4年目の頃の給与は、三交代制の準夜のみ、月に8回程度の夜勤勤務という条件で、手取りは30万円前後でした。夜勤手当のほかに、日曜日に勤務する際には手当として5000円が支給されていました。

残業はほとんど発生しない職場でしたが、それは病院によって異なります。基本給や手当の内容も職場によってさまざまなので、各病院の条件を確認することが大切だと思います。

その後のキャリアプランとおすすめの資格

ここからは、産婦人科看護師としての経験を活かし、さらなる成長を目指す場合に考えられる具体的なキャリアプランとおすすめの資格について紹介します。

産婦人科経験者のキャリアプラン例

キャリアプランの一例として、助産師になるという道があります。産婦人科で数年の経験を積んだ後、大学院や助産師養成所などの助産師課程を受講し、国家試験に合格すると助産師の道が開けます。

助産師になった後、さらなるスキルアップや知識のアップデートを望む場合には、産科専門の総合病院やクリニックで勤務するとよいでしょう。

また、助産師は医師の指示がなくても助産行為が可能です。ですから、独立や開業を選ぶ道もおすすめです。自身の助産院で、オリジナルの産前・産後ケアを提供することもできます。

おすすめの資格

産婦人科看護師としての経験を活かすなら、助産師以外にも多くの資格が存在します。

保健師

助産師と同じく看護師の上位資格である保健師なら、地域の保健センターや保健所の母子の健康をサポートする部署で活躍できます。

妊娠期の両親学級の開催や産後の乳幼児健診が主な仕事なので、産婦人科での経験を発揮できるでしょう。日常生活における母子の健康や地域保健に興味・関心を持つ人に、特におすすめの資格です。

専門・認定看護師

母性看護専門看護師は、周産期を中心に女性のライフステージ全般で専門的な看護ケアを提供する専門看護師の資格(日本看護協会認定)です。院内ではリーダー的ポジションに立つことが多く、看護の課題研究も担います。

認定看護師としては、不妊症や妊娠希望者のサポートを行う「生殖看護」の分野がおすすめです。

産婦人科看護におけるさらなる専門性を高め、患者さんとの深いコミュニケーションや長期的なサポートを通じて健康と幸せに寄与したい看護師に適した資格といえるでしょう。

産婦人科で働くためには

産婦人科看護師として働くためには、産婦人科特有のケアや環境に適応するための知識や技術も要求されます。ここからは、産婦人科に向いている人の特徴や、学生時代にやっておくべきことについて詳しく紹介します。

産婦人科看護師に向いている人の特徴

産婦人科看護師に向いている人の特徴としては、明るく元気な性格であることや、患者さんや家族と前向きに関わることができることなどが挙げられます。

また、母体や赤ちゃんの微細な変化を敏感に感じ取り細やかな気配りができる人も求められます。産婦人科では大人である母親だけでなく、生まれたばかりの小さな命も一緒に看るためです。

こちらはあくまで傾向にすぎませんが、このような特徴を兼ね備えていると、産婦人科の看護師に向いているといえます。

学生時代にやっておくとよいこと

産婦人科看護師を目指す看護学生は、以下の知識や技術を先に身につけておくのがおすすめです。

  • 周産期全般の知識
  • 授乳に関する知識
  • 新生児のフィジカルアセスメント
  • 新生児計測
  • 育児について

妊娠から出産、そして産後のケアまでの一連の流れは、入職後に必ず役に立つので理解しておきましょう。特に、授乳の仕方や乳頭マッサージ方法などの実践的な技術は、新たに母親になる患者さんたちが赤ちゃんを受け入れるためのサポートとして不可欠です。

また、赤ちゃんの健康状態を判断するためのフィジカルアセスメントも重要になります。経過が正常なものであるかを把握するために欠かせないものなので知識を深めておきましょう。

病院選びのポイント

産婦人科の病院選びでは、地域の産婦人科クリニックから、先進的な不妊治療や高度な産婦人科医療が行われる大学病院まで、自分の興味やキャリアの方向に合わせた選択が必要です。

また、助産師のみを募集している産科に特化した産婦人科も存在するため、看護師としての募集があるかを確認することは必須です。そのうえで、看護師の教育体制がしっかりと整っている病院を選ぶことが、長期的なキャリア形成において重要となります。

病院を選ぶ前にぜひインターンや病院説明会に積極的に参加し、幅広く情報収集しましょう。

インターンシップ 病院見学会

※ナース専科就職ナビ

産婦人科の働き方を理解してキャリア選択に活かそう

産婦人科では、時として、不妊症に悩む女性への対処や、流産や死産、中絶など妊娠・出産での悲しい出来事に遭遇することもあります。しかし、新しい生命の誕生という特別な瞬間に立ち会えるのは、ほかの病棟にはない大きな魅力です。産婦人科の特性を知り、自身の適性や興味と照らし合わせることが、自分により適したキャリアパスを選択する手助けとなるでしょう。

参考文献

日本助産師会:助産師とは 法律と定義.(2023年8月23日閲覧)

日本看護協会:看護職の皆さまへ,認定看護師 .(2023年8月23日閲覧)

日本看護協会:看護職の皆さまへ,専門看護師.(2023年8月23日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

村上 舞

murakami-mai

帝京大学医療技術学部看護学科卒業後、医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会 整形外科病棟に4年半勤務。その後循環期病棟、呼吸器内科病棟、回復期病棟、特養、デイサービス、クリニック、健診センター等、様々な職場を経験。現在はライターとして活動中。