保険は新人看護師から加入すべき?看護職賠償責任保険の必要性から補償内容まで
最終更新日:2026/06/29
看護師として働くうえで、万が一の医療事故やトラブルに備える方法のひとつが「看護職賠償責任保険」です。今回は、新人看護師のうちから保険への加入を検討する理由や補償内容、保険選びのポイントを解説します。
目次
なぜ新人看護師から保険に入るべきか
看護師として入職することが決まったら、できる限り早い段階で保険に加入することをおすすめします。なぜ保険に加入したほうが良いのか、保険の必要性について解説します。
保険加入を検討したい理由
新人看護師のうちから保険の加入をおすすめする理由は、2つあります。
インシデントやアクシデントに関わる可能性があるから
インシデントとは、患者さんに大きな影響はなかったものの、事故につながる可能性があった出来事のことで、アクシデントとは医療事故を意味します。
看護師は患者さんと接する時間が長く、日常的にさまざまな医療行為やケアを行うため、どれだけ注意していてもインシデントやアクシデントを起こしてしまう可能性は拭えません。とくに、新人看護師のうちは、慣れない環境のなかで多くのことを学びながら業務を行うため、予期せぬミスやトラブルが起こることもあります。
もちろん事故を防ぐための取り組みが最も重要ですが、万が一の事態に備える方法のひとつとして、保険について理解しておくことが大切です。
高度な医療行為が看護師にも求められているから
新人看護師のうちから保険に入ったほうがいい2つ目の理由として、看護師の医療行為が年々高度化しているためです。高齢者の増加や医療の進歩にともない、2015年には「特定行為に係る研修制度」が設けられ、看護師も医師による指示があれば高度な医療行為が可能となりました。
看護師が携わる医療行為のレベルや頻度が増えてきた昨今では、看護師個人への責任が求められる可能性もあることから、万が一に備えておくとよいでしょう。
看護師に関わる過去の判例
医療事故は些細なミスから起こり、訴訟につながる可能性があることを理解しておかなくてはなりません。以下は実際に起こった看護師に関わる判例です。
判例1
患者の使用する人工呼吸器に、本来は滅菌蒸留水タンクを用意するべきところを、消毒用エタノールタンクを病室に持ち込み、患者に消毒用エタノールを53時間にわたって吸引させた。かかわった看護師やその使用者である病院など、各自に約1400万円の損害賠償請求が認められる。
判例2
手術のために入院した患者が、手術前日に看護師の指示のもと入浴をしたが、全身熱傷で死亡。浴槽に55〜56度の湯が注ぎ込まれていた。介助が必要であるにもかかわらず、見守りや介助がない状態で入浴させていた。
※看護師個人ではなく病院が訴えられた事件ですが、かかわった看護師も当事者として裁判内で責任が問われています。
紹介した2つの判例に出てきた事象は、看護師の日常的な業務から引き起こされたことです。日々の業務のなかにリスクが潜んでいることを理解しましょう。
看護師のための賠償責任保険―看護職賠償責任保険について
賠償責任保険は、誤って他人に怪我をさせてしまったり、物を壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害額を補償する保険です。そのなかには看護師を対象にした「看護職賠償責任保険」があります。
看護職賠償責任保険とは
看護職賠償責任保険とは、看護業務において発生した損害賠償責任の補償をはじめ、さまざまなサポートを受けられる保険です。患者さんからの損害賠償請求の負担だけでなく、業務中の感染などに対しての補償や弁護士費用のサポートもあり、看護師として仕事をしていくうえで保険加入はリスク管理のひとつになります。
補償の対象となる業務
主に保健師・助産師・看護師・准看護師が行う業務が看護職賠償責任保険の補償対象です。補償内容は加入する保険によって異なりますが、通常業務以外に災害派遣や特定行為、保健・健康教育業務、さらには業務上のスキルアップを目的として参加する研修や臨床実習も対象となる保険まで、さまざまな種類があります。
看護職賠償責任保険の加入率
ナース専科が行った「看護師向け保険に関する調査」では、現役看護師の看護職賠償責任保険の加入率は50%との結果が得られました。2人に1人の割合で看護職賠償責任保険に加入していることがわかります。

参考:もしもの医療事故、ミスに備える「看護師賠償責任保険」|ナース専科
保険を選ぶときにチェックすべき補償内容
ナース専科では、保険加入の決めてになった理由を調査しました。

参考:もしもの医療事故、ミスに備える「看護師賠償責任保険」|ナース専科
アンケートの結果より、看護職賠償責任保険の補償内容は保険を選ぶ際の判断基準になることがわかります。
看護職賠償責任保険はさまざまな民間企業や団体から発売されており、補償内容も多種多様です。看護師が保険を選ぶ際にチェックすべき補償内容と、補償の対象外となる業務を解説するので理解しておきましょう。
看護職賠償責任保険の補償内容
ここからは、看護職賠償責任保険の主な補償内容を具体例とともに紹介します。保険用語は少し難しく感じるかもしれませんが、「どのような場面で補償されるのか」を知っておくことで、自分に必要な保険を選びやすくなります。
なお、紹介する事例はあくまで一例です。補償の対象となるかどうかは事故の内容や保険会社によって異なるため、加入前に補償内容をよく確認しておきましょう。
対人賠償
対人賠償とは、業務中に患者さんに対して誤って危害を加えてしまい、損害賠償請求をされた場合の補償です。生命にかかわる事例も起こり得るため、補償額は数万〜数千万円と高額になっています。
- 【例】
- 患者さんに誤った薬剤を投与した、身体に影響を与えてしまった
- 処置中に誤ってケガをさせてしまった
ナース専科が行った「看護師向け保険に関する調査」では、約8割の看護師が最も重視している補償内容について「対人賠償」と回答しています。補償内容のなかでもとくにチェックしたい内容といえるでしょう。

参考:もしもの医療事故、ミスに備える「看護師賠償責任保険」|ナース専科
対物賠償
対物賠償とは、看護師が業務中に誤って患者さんの私物や、病院の機材を破損・紛失した場合に発生する費用を補償するものです。補償額は数万~百万円ほどが一般的です。
- 【例】
- 誤って患者さんのメガネを踏みつけて壊してしまった
- 仕事で使う道具をなくした
人格権侵害
人格侵害とは、患者さんとの会話やケアの中で名誉を傷つけられたと訴えられた場合に対象となる補償です。補償額は数万~数千万と幅広く設定されています。
- 【例】
- 患者さんと何気ない会話のなかで「人格を傷つけられた」と訴えられた
- 言葉の行き違いで患者さんに暴言ととらえられ、名誉棄損で訴えられた
法律相談費用
法律相談費用とは、業務中の患者さんからの暴言やハラスメントなどの問題に対し、弁護士に相談した場合の費用が負担される補償です。およそ十万円の補償が受けられます。
弁護士費用
弁護士費用は業務中のハラスメントに対して、弁護士に依頼した場合の費用の補償を指します。着手金・報奨金・手数料・相談料などが該当する費用であり、補償額は約百万円ほどです。弁護士の依頼には、保険会社の承認を受ける必要があることも覚えておきましょう。
法律相談費用・弁護士費用についての注意点
日本看護協会の看護職賠償責任保険の「相談費用」と「弁護士費用」は、あくまで「自分自身がハラスメントを受けた際に」受けられる補償です。
対人・対物賠償や人格侵害で訴訟を起こされた場合、それぞれの補償内容に訴訟に関する費用が含まれていますので、こちらの補償の対象にならない点を理解しておきましょう。実際の補償内容と自分の認識の食い違いがないように、加入前の確認が大切です。
補償の適応外となる場合は?
看護職賠償責任保険には、看護業務上の問題についてさまざまな補償が用意されていますが、補償の対象外となる場合もあるため注意が必要です。以下で例を紹介します。
補償適応外の例① 秘密漏洩に起因する賠償責任
患者さんの個人情報を外部に漏洩し損害賠償請求をされた場合では、補償の対象外となります。
補償適応外の例② 海外での看護業務における賠償責任
看護職賠償責任保険は、国内での看護業務に対してのみ補償が受けられます。
補償適応外となる事例はさまざまありますが、法律違反にあたるような行為や、故意で行われた事故に対しては補償対象外になる可能性があります。加入する保険の約款をよく確認してみることをおすすめします。
参考:日本看護協会/2024年度 看護職賠償責任保険制度のてびき
ナース専科/看護師賠償責任保険のご案内
看護職賠償責任保険のおすすめ2選
看護職賠償責任保険はさまざま企業や団体で販売されています。ここでは、おすすめの2つを紹介していきます。
日本看護協会の看護職賠償責任保険
日本看護協会「看護職賠償責任保険」は、日本看護協会の会員のみが加入できる保険です。掛金は年間2,650円であり、賠償責任補償だけでなく就業中の怪我や針刺し事故による感染症に対しても保険金が支払われます。
弁護士費用や法律相談費用の補償、ハラスメント、医療事故以外の医療安全に関する相談などの窓口も設けられ、補償内容が充実しているのが特徴です。
ナース専科の「看護師賠償責任保険」
ナース専科「看護師賠償責任保険」は、民間企業が運営する保険でナース専科会員であれば加入できます。保険料は年間1,580円です。ナース専科の無料会員登録をすると、保険料を安く抑えられるのがメリットです。対人・対物・人格権侵害補償のほか、弁護士費用まで補償されます。
補償内容以外で比較すべきポイントは?
日本看護協会とナース専科の保険で比較すべきポイントを表にまとめました。それぞれの項目について比較するポイントを解説しているので、保険を選ぶときの参考にしてみてください。
| 日本看護協会「看護職賠償責任保険」 | ナース専科「看護師賠償責任保険」 | |
|---|---|---|
| 保険料(年間) | 2,650円 | 1,580円 |
| 補償額 (対人賠償) |
1事故につき5,000万円 保証期間中1億5,000万円 |
1事故につき5,000万円 保険期間通算1億5,000万円 |
| サポートの一例 | ハラスメント・医療安全相談窓口 | 初期対応費用補償 |
| 手続き方法 | 上司に相談後、 コールセンターに連絡 |
相談窓口に連絡 |
保険料と補償額
保険料とは、補償を受けるために毎年支払う費用のことです。自分が支払っていける金額かどうかをよく検討し選択するとよいでしょう。
補償額とは、万が一の際に補償される金額のことで、各保険によって補償額は少し異なります。
しかし大差はないので「訪問看護師なので、対物賠償を手厚くしたい」など、自分の業務内容から優先したい補償内容で比較検討するとしましょう。
サポート体制
サポート体制とは相談窓口の設置などを指し、各保険によって詳細が異なります。安心材料になる一方で手厚いサポートになると、その分保険料が上乗せされる可能性もあり得ます。自分が携わっている業務に必要なサポートかどうかよく検討することが大切です。
看護師になる前に保険について知っておこう
看護師は患者さんの命や生活に関わる責任のある仕事です。日々の業務では安全に配慮していても、予期せぬトラブルが起こる可能性はあります。看護師賠償任意保険は、そのような万が一に備える選択肢のひとつになります。
保険への加入は必須ではありませんが、補償内容や保険の種類を理解しておくことで、自分に必要かどうかを検討しやすくなるでしょう。看護師としての第一歩を安心して踏み出せるように、保険の内容や必要性について理解を深めておきましょう。
引用・参考
平成13年(ワ)第2820号(2026年6月1日閲覧)
平成21年(ワ)第1651号(2026年6月1日閲覧)
日本看護協会 看護職賠償責任保険制度(2026年6月1日閲覧)
日本看護協会/2024年度 看護職賠償責任保険制度のてびき(2026年6月1日閲覧)

