保険は新人看護師から加入すべき?看護職賠償責任保険の必要性から補償内容まで
最終更新日:2024/08/26
業務中の医療トラブルを補償するために看護師・准看護師・保健師・助産師が加入すべき看護職賠償責任保険。今回は看護師が保険に入るべき理由とともに補償内容や種類について解説するので、看護学生のうちから保険の必要性を理解しましょう。
目次
なぜ新人看護師から保険に入るべきか
看護師として就職したら、早い段階で保険に加入することがおすすめです。なぜ新人看護師のうちから保険に入るべきなのか、看護師に関わる保険の必要性について解説します。
新人看護師から保険に入るべき理由
新人看護師から保険に入っておくべき理由は以下の通りです。
インシデントの当事者になりやすいから
新人看護師のうちから保険に入ったほうがいいひとつめの理由は、医療従事者のなかで最もインシデントの当事者になりやすい職業のひとつであるためです。インシデントの発生場所として最も多い病室に訪問する機会が多い職種であること要因だと考えられます。
参考:公益財団法人 日本医療機能評価機構(2021年年報)YA-28-C当事者職種
公益財団法人 日本医療機能評価機構(2021年年報)YA-39-C発生場所
そのため看護師は、万が一の医療事故に対してはもちろん、看護の現場では患者さんの私物の破損などのリスクに備えておく必要があります。
高度な医療行為が看護師にも求められているから
新人看護師のうちから保険に入ったほうがいいふたつめの理由として、看護師の医療行為が年々高度化しているためです。高齢者の増加や医療の進歩にともない、2015年には「特定行為に係る研修制度」が設けられ、看護師も医師による指示があれば高度な医療行為が可能となりました。
看護師が携わる医療行為のレベルや頻度が増えてきた昨今では、看護師個人への責任が求められる可能性もあることから、万が一に備えておくことが大切です。
看護師に関わる過去の判例
医療事故は些細なミスから起こり、訴訟につながる可能性があることを理解しておかなくてはなりません。以下は実際に起こった看護師に関わる判例です。
判例1
患者の使用する人工呼吸器に、本来は滅菌蒸留水タンクを用意するべきところを、消毒用エタノールタンクを病室に持ち込み、患者に消毒用エタノールを53時間にわたって吸引させた。かかわった看護師やその使用者である病院など、各自に約1400万円の損害賠償請求が認められる。
判例2
手術のために入院した患者が、手術前日に看護師の指示のもと入浴をしたが、全身熱傷で死亡。浴槽に55〜56度の湯が注ぎ込まれていた。介助が必要であるにもかかわらず、見守りや介助がない状態で入浴させていた。
※看護師個人ではなく病院が訴えられた事件ですが、かかわった看護師も当事者として裁判内で責任が問われています。
紹介した2つの判例に出てきた事象は、看護師の日常的な業務から引き起こされたことです。日々の業務のなかにリスクが潜んでいることを理解しましょう。
看護師のための賠償責任保険―看護職賠償責任保険について
賠償責任保険は、誤って他人に怪我をさせてしまったり、物を壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害額を補償する保険です。そのなかには看護師を対象にした「看護職賠償責任保険」があります。
看護職賠償責任保険とは
看護職賠償責任保険とは、看護業務において発生した損害賠償責任の補償をはじめ、さまざまなサポートを受けられる保険です。患者さんからの損害賠償請求の負担だけでなく、業務中の感染などに対しての補償や弁護士費用のサポートもあり、看護師として仕事をしていくうえで保険加入はリスク管理のひとつといえます。
補償の対象となる業務
主に保健師・助産師・看護師・准看護師が行う業務が看護職賠償責任保険の補償対象です。通常業務以外に災害派遣や特定行為、保健・健康教育業務、さらには業務上のスキルアップを目的として参加する研修や臨床実習も対象となっています。
また対象となるすべての業務に対して報酬が発生したかどうかは問われないため、ボランティアでの看護業務も対象となります。
看護職賠償責任保険の加入率
ナース専科が行った「看護師向け保険に関する調査」では、現役看護師の看護職賠償責任保険の加入率は50%との結果が得られました。2人に1人の割合で看護職賠償責任保険に加入していることがわかります。
保険を選ぶときにチェックすべき補償内容
ナース専科が行った「看護師向け保険に関する調査」の結果より、看護職賠償責任保険の補償内容は保険を選ぶ際の判断基準になることがわかります。
看護職賠償責任保険はさまざまな民間企業や団体から発売されており、補償内容も多種多様です。看護師が保険を選ぶ際にチェックすべき補償内容と、補償の対象外となる業務を合わせて解説します。
看護職賠償責任保険の補償内容
ここからは看護職賠償責任保険の具体的な補償内容と補償額について、例をあげながら解説します。ただし解説内に出てくる具体例はあくまで一例であり、保険の対象になるかどうかは事故内容や保険会社ごとに異なることを念頭に置いてください。
対人賠償
対人賠償とは、業務中に患者さんに対して誤って危害を加えてしまい損害賠償請求をされた場合の補償です。生命にかかわる事例も起こり得るため、補償額は数万〜数千万円と高額になっています。
- 【例】
- 患者さんに誤った薬剤を投与した、身体に影響与えてしまった
- 処置中に誤ってケガをさせてしまった
ナース専科が行った「看護師向け保険に関する調査」では、約8割の看護師が最も重視している補償内容について「対人賠償」と回答しています。補償内容のなかでもとくにチェックしたい内容といえるでしょう。
対物賠償
対物賠償とは、看護師が業務中に誤って患者さんの私物や病院の機材を破損・紛失した場合に発生する費用を補償するものです。補償額は数万~百万円ほどが一般的です。
- 【例】
- 誤って患者さんのメガネを踏みつけて壊してしまった
- 仕事で使う道具をなくした
人格権侵害
人格侵害とは、患者さんとの会話やケアの中で名誉を傷つけられたと訴えられた場合に対象となる補償です。補償額は数万~数千万と幅広く設定されています。
- 【例】
- 患者さんと何気ない会話のなかで「人格を傷つけられた」と訴えられた
- 言葉の行き違いで患者さんに暴言ととらえられ、名誉棄損で訴えられた
法律相談費用
法律相談費用とは業務中の患者さんからの暴言やハラスメントなどの問題に対し、弁護士に相談した場合の費用が負担される補償です。およそ十万円ほどの補償が受けられます。
弁護士費用
弁護士費用は業務中のハラスメントに対して、弁護士に依頼した場合の費用の補償を指します。着手金・報奨金・手数料・相談料などが該当する費用であり、補償額は約百万円ほどです。弁護士の依頼には、保険会社の承認を受ける必要があることも覚えておきましょう。
法律相談費用・弁護士費用についての注意点
日本看護協会の看護職賠償責任保険の「相談費用」と「弁護士費用」は、あくまで「自分自身がハラスメントを受けた際に」受けられる補償です。
対人・対物賠償や人格侵害で訴訟を起こされた場合、それぞれの補償内容に訴訟に関する費用が含まれていますので、こちらの補償の対象にならない点を理解しておきましょう。実際の補償内容と自分の認識の食い違いがないように、加入前の確認が大切です。
補償の適応外となる場合は?
看護職賠償責任保険には、看護業務上の問題についてさまざまな補償が用意されていますが、補償の対象外となる場合もあるため注意が必要です。以下で例を紹介します。
補償適応外の例① 秘密漏洩に起因する賠償責任
患者さんの個人情報を外部に漏洩し損害賠償請求をされた場合では、補償の対象外となります。
補償適応外の例② 海外での看護業務における賠償責任
看護職賠償責任保険は、国内での看護業務に対してのみ補償が受けられます。
補償適応外となる事例はさまざまありますが、法律違反にあたるような行為や、故意で行われた事故に対しては補償対象外になる可能性があります。加入する保険の約款をよく確認してみることをおすすめします。
参考:日本看護協会/2022年度 看護職賠償責任保険制度のてびき
ナース専科/看護師賠償責任保険のご案内
看護職賠償責任保険のおすすめ2選
看護職賠償責任保険はさまざま企業や団体で販売されています。そのうちの2つを紹介していきます。
日本看護協会の看護職賠償責任保険
日本看護協会「看護職賠償責任保険」は、日本看護協会の会員のみが加入できる保険です。掛金は年間2650円であり、賠償責任補償だけでなく就業中の怪我や針刺し事故による感染症に対しても保険金が支払われます。
弁護士費用や法律相談費用の補償、ハラスメント、医療事故以外の医療安全に関する相談などの窓口も設けられ、補償内容が充実しているのが特徴です。
ナース専科の「看護師賠償責任保険」
ナース専科「看護師賠償責任保険」は、民間企業が運営する保険でナース専科会員であれば加入できます。保険料は年間1580円ですが、ナース専科の利用には年会費はかからないため、保険料を安く抑えられるのがメリットです。対人・対物・人格権侵害補償のほか、弁護士費用まで補償されます。
補償内容以外で比較すべきポイントは?
日本看護協会とナース専科の保険で比較すべきポイントを表にまとめました。それぞれの項目について以下で解説しているので、保険を選ぶ際に自分が何を優先すべきかよく考えて検討しましょう。
日本看護協会「看護職賠償責任保険」 | ナース専科「看護師賠償責任保険」 | |
---|---|---|
保険料(年間) | 2,650円 | 1,580円 |
補償額 (対人賠償) |
1事故につき5,000万円 保証期間中1億5,000万円 |
1事故につき5,000万円 保険期間通算1億5,000万円 |
サポートの一例 | ハラスメント・医療安全相談窓口 | 初期対応費用補償 |
手続き方法 | 上司に相談後、 コールセンターに連絡 |
相談窓口に連絡 |
保険料と補償額
保険料とは、補償を受けるために毎年支払う費用のことです。自分が支払っていける金額かどうかをよく検討し選択するとよいでしょう。
補償額とは、万が一の際に補償される金額のことで、各保険によって補償額は少し異なります。
しかし大差はないので「訪問看護師なので、対物賠償を手厚くしたい」など、自分の業務内容から優先したい補償内容で比較検討するとしましょう。
サポート体制
サポート体制とは相談窓口の設置などを指し、各保険によって詳細が異なります。安心材料になる一方で手厚いサポートになると、その分保険料が上乗せされる可能性もあり得ます。自分が携わっている業務に必要なサポートかどうかよく検討することが大切です。
手続き方法
いざ保険請求が必要になった際の手続き方法も保険を選ぶうえでの大切なポイントです。保険加入の手続き方法も加入まえに調べておくことで、万が一の際にスムーズに手続き行うことができるでしょう。
看護師になる前に保険の必要性を理解する
看護師の業務はいつトラブルが起きてもおかしくありません。だからこそ自分自身を守るための保険が用意されています。保険に加入して日々看護の現場で起こり得る事故に備えることで、安心して業務に取り組むことができます。看護師になる前の準備として、保険の必要性や補償内容・保険の種類を理解しておきましょう。
引用・参考
公益財団法人 日本医療機能評価機構(2021年年報)YA-28-C当事者職種