看護学生が理解すべき奨学金制度│借入前の注意点から面接の質問例まで

看護学生が理解すべき奨学金制度│借入前の注意点から面接の質問例まで

最終更新日:2024/03/28

看護学生が利用できる奨学金制度には、病院奨学金や日本学生支援機構の奨学金など様々な種類があります。借入を検討する人や既に借入している看護学生は奨学金制度の仕組みを正しく理解することが大切です。今回は各奨学金の注意すべきルールや面接がある場合の質問例を紹介します。

看護学生をサポートする奨学金制度とは

奨学金制度とは、看護学生を含む学生が経済的理由で進学を諦めてしまうことがないように、学費や生活費を支援する制度です。国が運営するものや地方自治体や民間企業・団体などが行う奨学金事業もあり、支給方法や仕組みもそれぞれで異なります。

看護学生の46%が実際に奨学金制度を利用

奨学金を借入している看護学生

ナース専科就職ナビの調査によると、奨学金制度を利用している看護学生は46%と、約半数の看護学生が奨学金を利用して学校に通っていることがわかります。次に看護学校の学費はどのくらいかかるのか、以下で解説します。

看護学校の学費はいくらかかる?

看護師になるための学校は、4年制の看護大学か3年制の専門学校に分かれ、さらに国公立と私立でも学費が異なります。そこで看護学校のある国公立大学と私立大学、専門学校の学費データをもとに、看護学校卒業までにかかる費用を調査しました。

卒業するまでにトータル200万以上かかる

以下は、看護学科がある国公立大学・私立大学と、看護専門学校ごとの学費を比較した表です。

4年制 3年制
国公立大学 私立大学 専門学校
初年度 約80万〜110万円 約150万円 約110万円
総額 約240~270万円 約500万円 約250万円

参考:国立大学等の授業料その他の費用に関する省令

   令和2年度 専修学校各種学校調査統計資料

     令和元年度 私立大学等入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について

一番安い国公立大学であっても卒業するまでに200万円以上の学費がかかります。さらに私立大学では倍の約500万円かかることがわかりました。専門学校は、大学よりも1年修学期間が短いものの、学費は国公立大学とほとんど変わりません。

また、学費以外にも教材費や参考書代などが必要になるほか、一人暮らしをする場合は生活費もかかります。看護師になるための費用は決して安くないため、看護学生の金銭的な負担を和らげる方法として奨学金制度があることを知っておくとよいでしょう。

看護学生が利用できる奨学金制度の種類

奨学金は学生を対象としたものから社会人を対象としたものまでさまざまです。看護学生が利用できる奨学金制度にはどんなものがあるのか、以下で詳しく解説します。

奨学金制度の種類

まず奨学金制度は仕組みによって大きく「貸与型」と「給付型」の2種類に分かれます。貸与型と給付型のそれぞれの特徴は以下の通りです。

貸与型

貸与型は在学中、毎月一定額の奨学金が貸与され、卒業後に返還する仕組みの奨学金です。無担保、無利息または低利息、かつ返還期間も長期で設定されるため、無理のない金額で返還することが可能です。

給付型

給付型は特に優れた人でありながら、経済的理由により就学が困難である学生を対象にした奨学金です。返還義務がないことが特徴ですが、給付型の奨学金を受ける学生は、収入状況や学業成績などで一定の基準を満たしたうえで、給付奨学生として学業に専念する必要があります。

看護学生を対象とする奨学金制度

ここからは看護学生が利用できる奨学金の種類について紹介します。まずは看護学生のみを対象にした制度です。いずれもほかの奨学金制度と併用できます。

病院(看護)奨学金

病院(看護)奨学金は、病院が看護学生に対して学費の貸与を行う制度です。収入状況の照明が不要の場合がほとんどで、比較的誰でも借入できます。

病院奨学金のメリットは主に2つあります。1つ目は就職活動の必要がない点です。貸与を受けた病院に一定期間就職するので、就職活動で時間を要することがなく国家試験や実習に集中することができます。

2つ目は貸与を受けた病院で一定期間勤務すると、奨学金の返還が免除される点です。ただし卒業後の就業期間は病院の規程によって異なるので、借入を検討する人は必ず条件を確認しましょう。

反対に病院奨学金のデメリットは、一定期間の勤務が課せられる点です。病院によって異なりますが、転職や結婚などで期間内に退職すると給付金の一括返済が求められることもあるので、注意しましょう。

看護奨学金Naviでは、看護師を目指す人のための奨学金制度の情報を掲載しています。以下から病院(看護)奨学金制度がある病院を探すことができるので、ぜひ参考にしてみてください。

参考:看護奨学金Navi

看護師等修学資金

看護師等修学資金は、各地方自治体が看護師確保の目的で奨学金を貸与する制度です。病院奨学金と同様に、卒業後は貸与を受けた自治体の指定施設で一定期間勤務するなどの条件を満たすことで、返還が免除されます。

病院奨学金と看護師等修学資金は、どちらも貸与を受けた時点で就職先が決まっているので、就職活動の必要がないこともメリットといえます。

逆に、就職先を選べないことや、就業期間中に転職をするなど、条件に合致しない場合は一括返還を求められる場合がある点には注意しましょう。返済免除となる条件をしっかりと把握したうえで申請することが大切です。

看護学生を含む全学生が対象の奨学金制度

次に、看護学生だけでなく全学生を対象にした奨学金制度を紹介します。

日本学生支援機構の奨学金

独立行政法人の日本学生支援機構が運営する奨学金は、返還不要の「給付型」と、返還が必要な「貸与型」があります。さらに貸与型は無利息の「第一種」と、利息つきの「第二種」に分かれます。

利用できる基準は学力や家計状況によって異なりますが、最も多くの学生が利用している奨学金制度です。

20年という無理のない返還期間がメリットとして挙げられますが、貸与額が大きい場合は長期間の返還が負担に感じる可能性もあります。必要な金額だけを借りるようにし、卒業後の返還計画を立てたうえで利用することが大切です。

ほかの奨学金と併用可能ですが、併用する奨学金の借入先で認められていない場合があるので、利用する際は確認しましょう。

大学・専門学校独自の奨学金

各大学や専門学校では、独自の奨学金制度が設けられています。返還不要であるものや授業料の全額または一部給付など、仕組みは各学校によってさまざまです。授業料の全額・半額免除になるものは「特待生制度」とも呼ばれます。

ただし入試の結果で選考されるものや入学後に申請するものが多いため、入学後すぐに奨学金を受けられるかわからないのがデメリットです。

また、大学・専門学校独自の奨学金には成績優秀であることが求められるものもあり、毎年再審査を通過するための努力が必要になる場合もあります。ほかの奨学金と併用可能かどうかは、各学校に問い合わせてみましょう。

民間育英団体が運営する奨学金

民間企業や個人でも様々な奨学金制度が設けられています。これらは返還不要の給付型であることがメリットですが、奨学金を受けられる人数が少なく、成績や収入などの選抜基準も高めです。

確実に奨学金を受けられるかどうかわからないため、学費を補填する一つの手段として覚えておくと良いでしょう。ほかの奨学金と併用可能かどうかは、各団体に問い合わせてみましょう。

社会人から看護師を目指す人向けの給付金制度

ここまで、奨学金の種類を紹介しましたが、奨学金以外にも利用できる給付制度があるので紹介します。

教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)

教育訓練給付制度は、厚生労働大臣が指定する看護学校で専門実践教育訓練を受講した場合に、かかる費用の一部を給付金として受け取れる制度です。教育訓練費の50%(年間上限40万円)にあたる給付を最大3年間受けられます。

条件として、初めて給付を受ける場合は講座の受講開始までに通算して2年以上雇用保険に加入している必要があります。看護学校が指定されているほか、一定の条件を満たす必要がありますが、社会人から看護師になりたい人にとっては覚えておきたい制度です。

母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金事業

厚生労働省では、ひとり親の経済的な自立を支援するための事業を行っています。

母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金

母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金は、厚生労働省が設ける給付金雇用保険の給付金です。母子または父子家庭の母・父で、20歳未満の子どもを扶養しており、一定の条件を満たすと給付の対象となります。ひとり親で看護師の資格を取得したい人にはおすすめの制度です。

具体的な支援内容として、対象教育訓練を受講し修了した場合、その経費の60%を支給。雇用保険の専門実践教育訓練給付の対象となる講座を受講した場合は、修学年数×40万円、最大160万円が支給されます。

高等職業訓練促進給付金

高等職業訓練促進給付金等事業は、ひとり親が看護師や介護福祉士などの資格取得のために1年以上養成期間で修業する場合に支給される給付金です。「児童扶養手当の支給を受けている」か「同等の所得水準であること」が要件となります。

一定以上の収入を得てしまうと、給付金の要件から外れてしまう可能性がある点に注意しましょう。

奨学金面接の対策方法。制度別の特徴と質問例

看護学生が利用できる奨学金のなかには、申請後に審査や面接が必要なものがあります。そこで、制度別の面接の特徴や質問内容の例をあげ、解答例を紹介します。

病院(看護)奨学金面接の特徴

病院奨学金の面接は就職活動の面接と同等です。病院奨学金の面接には以下のような特徴があります。

特徴1:面接官は病院職員

面接官は看護部長や事務長などの管理職であることが多いでしょう。

特徴2:病院によって面接後に就職試験がある

面接終了後、病院によっては筆記試験があります。一般教養や適性検査、小論文など、内容はさまざまです。

病院(看護)奨学金面接で問われやすい質問例

病院側はこの面接によって卒業後に看護師として採用するかを見極めるので、看護師としての目標を明確にして臨みましょう。以下では奨学金面接で問われやすい質問例とその回答例をご紹介します。

質問例1:看護師を目指す理由を教えてください。

看護師になりたい想いがどのくらいあるのか見られます。看護師になろうと思ったきっかけや目指す理由を伝えましょう。

<回答例>

幼少期に骨折をして手術をした際、不安だった私を担当の看護師さんが励ましてくれました。私も同じように、看護師として誰かの助けになるような仕事がしたいと思い進学を決めました。

質問例2:なりたい看護師像 を答えてください。

どんな看護師として活躍してくれるかを判断するための質問です。将来どんな看護師になりたいと思っているのかを簡潔に伝えましょう。

<回答例>

相手の気持ちに寄り添える看護師になりたいと思っています。

質問例3:病院を選択した理由を教えてください。

考え方がマッチしているか、志望度が高いかなどを見ています。病院の特徴や理念から、自分の目標とマッチする部分を伝えましょう。

<回答例>

将来は専門看護師や認定看護師などスキルアップを考えています。資格取得のサポートがある貴院に魅力を感じ、応募しました。

各団体が運営する奨学金面接の特徴

以下では面接が必要な奨学金の特徴を紹介しますが、なかには面接がない奨学金もあります。各団体が示す奨学金利用の条件を確認しましょう。

特徴1:返還免除となる給付型の場合は面接が行われる

大学や民間団体が運営する奨学金は、返還免除となるものが多いため、その場合は面接が必要になるのが特徴です。また高い学力も求められるので、学ぶ意欲に関する質問も行われる可能性があります。

特徴2:面接官は団体によって立場が異なる

面接官は各団体によって異なります。経営陣や人事部門、現場職員などさまざまです。ただし、どの面接官であっても対応は変わらないので、あまり意識せずに面接に挑みましょう。

各団体の奨学金面接の質問例

各団体の奨学金面接での質問内容はさまざまですが、すべて奨学金利用が必要かどうかを判断するための質問です。学びたい姿勢と、奨学金の必要性を伝えましょう。各団体の奨学金面接でよく問われる質問例と、その回答例をいくつかご紹介します。

質問例1:申請理由を教えてください。

看護学生が奨学金を借りたい理由はさまざまですが、「学ぶためには奨学金が必要であること」を伝えましょう。

<回答例>

・看護学校に進学したいが、経済的な事情で学費の工面が大変であるため

・看護学校は実習や勉強で忙しく、アルバイトをするのはむずかしいため

入学後は一人暮らしとなり、学費以外に生活費もかかるため

質問例2:家庭の経済状況 について教えてください。

自分自身の家庭の経済状況から、奨学金の必要性を伝えましょう。

<回答例>

両親とも共働きですがきょうだいが多く、学費面で親の負担になっています。奨学金を借りて家計の負担を減らしたいと思っています。

質問例3:大学で学びたいことを教えてください。

なぜその学校を選び、どんなことを学びたいと思っているのかを伝えましょう。

<回答例>

授業や実習だけでなく、普段の学生生活のなかでも同級生たちとのかかわりを通して、看護に必要なコミュニケーションスキルを高めていきたいと思っています。

看護学生が注意すべき奨学金の基礎知識

看護学生は奨学金を受けることで、学生生活中に金銭的なサポートが得られます。一方で、注意すべき奨学金の基礎知識やルールがいくつかあります。

借入前に理解すべき奨学金のルール

看護学生が奨学金を受けるうえで知っておきたいルールは以下になります。

借入は入学後が基本

奨学金の借入は入学後が一般的です。入学前に支払う入学金や授業料は自己資金から支払う必要があります。合格通知が届いたら早い段階で振り込むケースが多いため、あらかじめまとまった資金は用意しておきましょう。

まとまった金額を用意するのが難しければ、金融機関の教育ローン等の活用も検討してみてください。

留学・休学すると借入不可になる場合がある

留学や休学など何らかの理由で学業を継続できない場合は、奨学金が借入不可になることがあります。さらに留学・休学が規約違反にあたる場合は、それまで借りていた奨学金を返還しなければならない可能性もあるので注意しましょう。

病院奨学金の場合は就職先が決まる

病院奨学金を受けると、卒業後の就職先も同時に決定します。在学中に新たに勤務したい病院が見つかり就職先を変更する場合は、借りている奨学金を一括返還することになるので注意しましょう。

また、就職後の返還期間中に転職・退職する場合も一括返済が求められます。病院奨学金を受ける際は、卒業後の数年間を想定したうえで選択することが大切です。

返還免除が可能な奨学金には条件がある

看護学生にとって返還が免除される奨学金は魅力的ですが、すべての学生が受けられるわけではありません。採用人数が少なく確実に借りられるかどうかわからないため、別の奨学金を併用し申し込む必要があるでしょう。

貸与型の場合は返還期限がある

貸与型の奨学金は、卒業後に返還しなければなりません。日本学生支援機構の場合は、返済期限が20年と長く設定されていますが、その間、毎月決まった金額が口座から引き落としされます。

結婚・出産などのライフイベントが重なると、返還が負担に感じることも考えられます。長期目線での返還計画を立てましょう。

返還時は利子が上乗せされる

日本学生支援機構の第二種奨学金では、返済時に利子が上乗せされます。利率はおおむね5年ごとに見直しされ、市場の金利変動によって奨学金の返済利率も変化します。有利子で奨学金を借りる人は覚えておきましょう。

延滞金が課せられる場合がある

奨学金の返還を滞納すると、延滞金が課せられる場合があります。延滞期間が長期にわたると「個人信用情報」に登録され、将来ローンを組めなかったり、クレジットカードが作れなかったりというような不都合が起こります。

奨学金の申請段階から、滞納をしないための対策をしておくことが大切です。

就職後のライフプランを想定することが大切

病院奨学金を受けると同時に卒業後の進路が決定となるので、「その病院で数年間勤務をする」という心構えが必要です。返済期間中の転職となった場合の一括返済を想定して、資金を貯めておくことも一つの方法でしょう。

また貸与型の奨学金は、卒業後に返還することになります。月々の返済額と自分が描くライフプランを想定したうえで利用を検討しましょう。

奨学金制度を理解して計画的に活用する

看護学生が利用できる奨学金はさまざまな種類があります。それぞれの奨学金の仕組みと、メリットとデメリットを正しく理解したうえで利用することが大切です。奨学金を借りる予定のある学生は、今後のキャリアとライフプランをイメージしたうえで計画的に活用しましょう。

参考

国立大学等の授業料その他の費用に関する省令
令和2年度 専修学校各種学校調査統計資料
令和元年度 私立大学等入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について
独立行政法人 国立病院機構
看護奨学金Navi
日本学生支援機構
厚生労働省 教育訓練給付制度
母子家庭自立支援給付金及び父子家庭自立支援給付金事業の実施について

執筆者情報

プロフィール画像

伊藤 雪乃

ito-yukino

2003年に看護師免許取得後、北海道の公立病院に5年間勤務し、地域医療をに携わる。その後埼玉県の介護施設(ショートステイ)で3年、整形外科病院に10年勤務。 2018年ごろから副業でライターをはじめ、現在はウェブと書籍に携わるフリーライターとして活動中。 2022年11月発売「私立文章女学院」編集協力