看護師に必要な能力とは?採用側が求める素質と看護学生が意識したいこと

看護師に必要な能力とは?採用側が求める素質と看護学生が意識したいこと

最終更新日:2024/04/03

少し前までは売り手市場といわれた新卒看護師の就活。しかし現在では就職先が決まらないという看護学生もめずらしくありません。今回は看護学生の就活事情の変化を踏まえて、採用側が新卒看護師に求めていることを解説します。ぜひ今後の就職活動に活かしてくださいね。

新卒看護師の就活事情の変化

依然として医療業界の人材不足が続いている日本。ただし、売り手市場であった新卒看護師の就活事情は変化しつつあります。新卒看護師の採用がどのように変化しているのか、変化の背景とともに解説します。

新卒の採用倍率は上昇傾向に

近年、新卒看護師の採用倍率は上昇傾向だといわれています。その理由のひとつとして、医療費削減をはじめ人口構造の変化に向けた政策による影響が挙げられます。

医療体制の整備により全国の病床数は減少傾向にあります。2017年には全病床数の6割以上を占めていた超急性期と急性期病床は、2025年までに約1万床が減少する見込み*となっています。

*第2回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(令和3年12月3日)資料1より

そのため就職先として希望する看護学生が多い急性期病院の採用倍率は徐々に上昇しており、採用試験を受ければほとんど入職できていた数年前とは異なる状況だといえます。

高まる採用基準のハードル

新卒看護師の採用倍率が高くなる、つまり採用枠以上に応募者が集まると、採用側はより質の高い学生を求めるため、採用基準のハードルも上がります。

また、1991年には全国に11校しかなかった看護系大学は、2020年度には274校を数え*、大卒の新卒看護師は増加しています。そのため学歴による差別化が難しくなり、今まで以上に人となりの部分が重視されることになるはずです。

*文部科学省高等教育局医学教育課調べ

一方で、日本看護協会が発表した2021年度の新卒看護師の離職率(入職して1年以内の退職者)は10.3%となっており、新卒看護師の離職率は年々高くなっています。病院側としては採用のミスマッチを避けるためにも、採用基準を厳しくしている現状があると考えられます。

自己分析・情報収集が必要不可欠に

このように、新卒看護師を取り巻く環境の変化から「必ず希望する病院で働ける」という時代ではなくなってきています。採用基準のハードルが上がるなか、自分らしく働き続けるためには自己分析・情報収集が必要不可欠です。

これからの就活は「周りと同じ」ではなく、自己分析を行い、自分の価値観や強み、希望する働き方を掘り下げることが必要になります。さらに、希望に合う病院と出会うために情報を収集し、その病院が求める人材を知ることが重要だといえるでしょう。

新卒看護師に求められる7つの素質とは

では、病院はどのような学生を求めているのでしょうか。ここでは、大学病院や特定機能病院など、さまざまな病院に「質の高い学生」について質問した結果をもとに、多くの病院が新卒看護師に求める7つの素質を解説します。

1.前向きな学習意欲

学習意欲とは、学びたいという欲求や学ばなければならないという意志のことです。そしてそこには、強制的に学ぶのではなく、意志をもって主体的に学び続けられることが求められます。それは、看護師が最適な医療を提供するために常に学び続けることが必要な職業であるからです。

新卒看護師は、学ぶことが多く、初めての連続で苦労することもあります。しかし、初めはできなくても、前向きに努力を続けられる人は成長が望めます。大事なことは、失敗から課題を見つけようとする姿勢です。

2.明確な看護観

看護観とは「患者さんに対してこういう看護がしたい」という理想の看護師像です。看護観では、理想の高さや大きさではなく、そこに至るまでの考え方や一貫性が重要視されます。

看護観を示す場合は、自身のエピソードを交えることで、自分がやりたい看護を持っていることを相手に伝えることができます。病院の方針を踏まえて看護観を考えることも時には必要ですが、一番大切なのは患者さんの目線に立って考えられること、そして自分自身の看護観を明確に伝えられることです。

3.自発的に行動するための思考力

思考力とは自分の頭で考える力のことです。思考力には、課題に対して筋道を立てて考える論理的思考力、視点を切り替えて幅広い角度から物事を考える多面的思考力、課題を客観的にとらえて分析する批判的思考力などがあります。

思考力を兼ね備えている人は、言われたことをただこなすだけでなく、常に課題を持って考えて行動に移せるため、看護師としての成長が期待できます。そのため採用側は、自発的に行動できる思考力を持つ人材を求めています。

4.自己客観視の力

自己客観視とは、自分の感情や考えに捉われず、客観的に物事を見ることです。仕事をするうえでは、自己を客観視する力は持っておいてほしい要素として挙げられます。

自分を客観的に見られないと、「自分はできている」と過大評価しすぎて課題に気づけなかったり、「自分はできていない」と過小評価しすぎて正しい判断ができなくなったりしてしまうからです。

自己客観視の力は、看護師としての冷静な判断につながること、自分を客観的に捉え、足りない能力を見極め、課題に取り組む姿勢につながることから、求められる素質だといえます。

5.最後までやりぬく継続力

「任された仕事を責任もって最後まで全うする」「習慣的に学び成長し続ける」など、継続力は社会人として仕事をするうえで重要な能力です。特に新人のうちは、何事も最初から完璧にできるわけではないため、失敗しても反省・改善し、諦めずにやりぬく継続力がより重要となってきます。

採用側としては、新卒看護師の離職率の高さから、働き続けられるかどうかを危惧しているため、粘り強くやり抜く意志がある人を求めています。

6.コミュニケーション能力

コミュニケーション能力は、患者さんとの信頼関係を築き、適切なケアを提供するために必要不可欠な能力です。患者さんの気持ちに寄り添うためには、話す、聞くなど言葉のコミュニケーションだけではなく、表情や仕草などから感情をくみ取る能力も大切です。

また、看護師はチームで協力して患者さんをサポートするため、看護師同士でも信頼関係や報告・連絡・相談が大切になってきます。例えば、コミュニケーション不足で患者さんからの要望をほかの看護師にうまく伝えられないようなことが起こると、患者さんに迷惑がかかってしまうためです。

そのため採用側は、面接で質問に的確な返答ができるか、スムーズに意思疎通ができるコミュニケーション能力があるかを見ています。

7.素直さと柔軟性

学生から社会人へとまったく異なる環境となるわけですから、そこで成長するためには、相手の助言や意見を受け入れて吸収する素直さや、変化に対応できる柔軟性が必要です。できないことが多い新人看護師は、失敗を反省し、先輩の助言を受けて学ぼうとする素直な姿勢が求められます。

また、24時間を交代で勤務する看護師の新人教育では、指導者を中心にさまざまな人が関わることになり、異なる看護観を持った人たちからさまざまな助言を受ける場合があります。人によって指導内容が違っていると、戸惑うこともあるかもしれませんが、素直に受け取り、やってみようとする柔軟性があれば、看護の幅も広がり成長につながります。

看護学生が日常生活から意識したいこと

新卒看護師に求められる素質は完璧に備えていなければならないというわけではありません。大切なことは、それらを身につけられるようにする姿勢です。ここでは、新卒看護師に求められる7つの素質に近づくため、看護学生が日常生活で意識したいことを紹介します。

幅広く興味を持ちチャレンジする

興味や関心は積極的に学ぶ原動力となります。前向きな学習意欲を持つために、領域はもとより、実習、座学に関わらず、自分で制限を設けないで興味を広げるようにしましょう。苦手だと思っている分野でも、チャレンジしてみると新たな発見や面白さが感じられるかもしれません。

看護観を意識して学習する

日々の学習では、自分が看護するならどうしたいかを掘り下げる意識をもって取り組みましょう。特に患者さんを受け持つ実習は、自分なりの看護観を見出せる機会です。患者さんとの関わりで感じたことを掘り下げ、患者さんの目線も意識して、自分の理想の看護を考えてみてください。

また、自分の看護観を他者に伝えるために言語化する練習をしておくと、思考力や客観視する力を磨くことにもつながるでしょう。

実習中は先輩の姿から学ぶ

実習は先輩看護師の姿からコミュニケーションの方法を学べるチャンスです。患者さんとの接しかたや看護師同士の連携の取りかたを観察し、コミュニケーションの方法を学びましょう。また、先輩看護師が実際に現場で働く姿は、自分がどのように働くことになるのか客観的なイメージをふくらませるのにも役立ちます。

勉強を習慣化する

専門職である看護師は、常に最適な看護を提供するため、学校での学びを基礎に働く現場に合わせて学び続ける姿勢が必要です。そのため、国家試験に合格するためだけに勉強するのではなく、学生のうちから勉強することを習慣化しておきましょう。

習慣化するには「毎日10分だけ授業の復習をする」などハードルを下げてコツコツと積み重ねるのがおすすめです。勉強することが習慣になれば、継続力や前向きな学習意欲も身につけられるでしょう。

学校以外の場での学びも大切にする

看護師として求められる素質は学校以外の場でも養えます。例えば、アルバイトを通じてコミュニケーション能力や仕事に対する思考力、柔軟性を身につけることはできます。趣味の活動を続けることも何かを継続するという実績作りにつながります。

また、旅行でおいしいものを食べる喜びを感じたら、病気で食事が摂れない患者さんの苦しみに寄り添う気持ちが持てるかもしれません。学校以外の場での学びも大切にして、学生生活を有意義に過ごしてください。

看護学生が就活でやるべきこと

就職活動で内定がもらえない、入職したけど想像と違っていたなどとならないよう、看護学生が本格的な採用試験が始まるまでにやるべきことを解説します。

自分自身を深く掘り下げる

「看護師として働くならどこでも変わらない」と考え、あまり自己分析に時間をかけない看護学生もいますが、自分自身をよく理解しないまま、なんとなく就職先を選択してしまうと、その後リアリティショックに苦しむ可能性が高まります。

就職難易度の高い病院や、幅広く経験が積める大きな病院に入るのが正解というわけではありません。自分らしく働ける職場に就職することが大切です。そのためには、まず自分の理想の働き方を知る必要があります。

自分の強みや弱み、大切にする価値観など自分自身を深く堀り下げて見つめ直し、自分が看護師としてどのように働きたいのか、方向性を明確にしましょう。

自分にあう病院を見つける

自己分析により自分の理想の働き方がわかったら、次は自分に合う病院を見つけるための情報収集が必要になります。まずはどのような病院があるかを知ることから始めましょう。

情報収集の方法としては、資料請求や合同就職説明会への参加などがあります。合同就職説明会は一度に複数の病院の話が聞けるため、忙しい看護学生におすすめです。

なお、ナース専科就職ナビでは、対面型とオンライン形式の両方で看護学生向けの合同就職説明会を開催しています。どちらも上手に活用することで効率よく情報収集ができるので、ぜひ活用してみてくださいね。

合同就職説明会

※ナース専科就職ナビ

病院で働くイメージをする

情報収集で気になる病院が見つかったら、病院で働くイメージをふくらませるために、説明会やインターンシップに積極的に参加してみましょう。特にインターンシップでは、職場体験や働く人のリアルな意見が聞けます。実習では学べないことも多く、とても貴重な機会です。ぜひ複数の病院のインターンシップに参加し、比べてみてくださいね。

インターンシップ・病院説明会

※ナース専科就職ナビ

自分の考えをまとめる

自分の考えは言語化し、相手にわかりやすく伝えられるようにしておきましょう。面接対策として、まとめた考えを人に聞いてもらうのも効果的です。日頃から自分の考えをまとめて言語化する練習しておけば、看護観も深まり、説得力のある志望動機や自己PRにつなげられます。

社会人としての心構えを学んでおく

初めて社会に出るときには、学生と社会人の立場の違いに苦しむことがあります。社会に出ると、たとえ新人であっても一人の社会人として扱われます。新卒としての心構えは持ちつつも、就職活動のときから社会人として働く自覚を持っておくことが大切です。接遇マナーやビジネスマナーをきちんと学んでおきましょう。

ナース専科では看護学生のための就活に向けたオンライン講座を開催しています。ぜひ活用してみてください。

オンライン講座

※ナース専科就職ナビ

就活事情の変化を理解して早めに行動にうつそう

社会の変化により、多くの看護学生が志望する急性期病院の採用倍率が徐々に高くなっています。自分の希望する病院に採用されるためには、自分自身の価値観と病院が求める人材の両方を理解することが必要です。病院が新卒看護師に求める素質は、どれも看護師として働くなかで活かせるものばかりで、学生のうちから身につけておくと必ず役に立ちます。すべてを完璧に備える必要はありませんが、今回紹介した7つの素質に近づけるよう、学生生活のなかで意識して行動するとよいでしょう。

参考

厚生労働省:職業情報提供サイトjobtag.看護師(2023年9月18日閲覧)

厚生労働省:地域医療構想、医療計画について(2023年9月18日閲覧)

日本看護協会:「2022年 病院看護実態調査」結果(2023年9月18日閲覧)

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執筆者情報

プロフィール画像

柴田 実岐子

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福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。