精神科看護師の役割とは?向いている人の特徴からやりがいまで経験者が解説

精神科看護師の役割とは?向いている人の特徴からやりがいまで経験者が解説

最終更新日:2023/11/19

精神疾患を抱える患者さんを支え、その人らしく生活を送れるようにケアする精神科看護師の仕事には、一般診療科とは異なる点があります。今回は精神科勤務経験がある看護師の体験談をもとに、精神科看護師の仕事内容や給料事情、やりがいなどを解説します。

精神的健康を支援する精神科看護

精神的疾患を有する人が対象の精神科看護は、身体的疾患を有する人が対象の一般診療科とは異なる特徴があります。ここでは精神科看護の特徴や一般診療科との違いについて解説します。

精神科看護とは

日本精神科看護協会によると、精神科看護は以下のように定義されています。

精神科看護とは、
精神的健康について援助を必要としている人々に対し、
個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、
自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援することである。

引用:日本精神科看護協会:精神科看護の定義

精神科看護では、精神的な健康を保つうえで援助が必要な人に対し、専門知識と技術を提供して生活をサポートします。生まれ持つその人の性格や、育った環境なども関わってくる精神疾患の場合、完治が難しいケースもあるため、患者さんがその人らしい生活ができるようにすることをゴールとして看護の目標にします

精神科看護が提供される場

具体的に精神科看護が提供される職場として、以下のような施設があります。

  • 精神科病棟
  • 精神科外来
  • 精神科訪問看護ステーション
  • 精神科デイケア

精神科病棟では在宅での療養生活が困難な患者さんを受け入れます。疾患の症状や障害の程度のより在宅療養が可能な人は、精神科外来や精神科訪問看護、精神科デイケアなどの医療サービスを受けながら地域で生活を送っています。

対象となる患者さん

精神科看護の対象となる患者さんは、日本精神科看護協会が示している通り「精神的健康について援助を必要としている人」です。対象となる患者さんの疾患例としては、統合失調症、気分障害(うつ病、双極性障害など)、摂食障害、てんかん、アルコール依存症、ギャンブル依存症などが挙げられます。

近年は、高齢化の影響により認知症の患者さんが増加傾向で、精神科病棟では、認知症が進行して介護施設などで共同生活が困難になった人を受け入れることもあります。

精神科と一般診療科との違い

精神科と一般診療科では、対象となる患者さんや病床数など、様々な点が異なります。以下は精神科と一般診療科の違いをまとめたものです。

精神科と一般診療科の比較表

*1 令和3(2021)年医療施設(動態)調査より
*2 令和3(2021)年病院報告より
精神科 一般診療科
対象患者さん 精神的疾患を持つ人 身体的疾患・障害を持つ人
特徴 精神保健福祉法により入院形態が定められている 対象となる疾患によって診療科が分かれている
全国の施設数(病院)*1
2021年10月現在
1,053施設 7,152施設
全国の病床数*1
2021年10月現在
323,502病床 886,056病床
平均在院日数*2
2021年
275.1日 16.1日
※療養病床・介護療養病床は除く

精神科ならではの特徴は、精神保健福祉法により入院形態が定められている点です。精神科の患者さんは、精神的疾患の症状により自身で適切な治療を選択できない場合もあるため、本人の安全確保や適切な医療の提供ができるように、措置入院や応急入院の入院形態がとられることがあります。

また、精神科病棟は、自由に出入りできる開放病棟と、出入り口が施錠され病院職員がそれを管理する閉鎖病棟に分かれています。閉鎖病棟は、すべての精神疾患を対象に閉鎖処遇が必要とされた患者さんが入院します。病院によっては、急性期精神科病棟、慢性期精神科病棟、認知症病棟、依存症病棟など、疾患別や経過別に病棟が分かれている場合もあるようです。

精神科病床の平均在院日数は、精神疾患の経過が長期化することが多いため、一般診療科よりも長くなる傾向にあります。多くは3カ月以内の入院治療を目指します。

精神科看護師の役割と仕事内容

ここでは精神科看護師の役割と仕事内容を解説します。

精神科看護師に求められる役割

精神科看護師の役割は、精神的な疾患により日常生活に支障をきたしている人に対し、その人がその人らしく生活できるように支援することです。

患者さんへの直接的な支援だけでなく、患者さんが自分で考え、行動し、自立した生き方を見つけられるよう、患者さんの個別性にあわせた看護が求められます。また、患者さんが生活を送る環境にも配慮し、入院生活から在宅療養まで症状の経過や先の見通しに合わせた看護も重要です。

精神科看護師の仕事内容

精神科看護師の仕事内容は、危険物の取り扱いなど特徴的なものが多く、医療処置は少ないといえるでしょう。精神科看護師の具体的な仕事内容を以下にまとめました。

精神科看護師の業務一覧
全身状態の観察 精神状態だけでなく体調なども含めた全身状態の観察とアセスメント
心理的ケア コミュニケーションによる人間関係の構築と心理的ケア
内服管理 適切な薬物療法を行うための与薬と服薬確認
安全管理 危険行為の予防や危険物の管理、施錠の徹底
セルフケアの援助 患者さん自身が適切なセルフケアができるような支援
日常生活の援助 食事・清潔・排泄ケアなどの日常生活の援助

患者さんのなかには、身体の調子が心理状態に影響する人や、精神薬の副反応がある人もいます。患者さんとの関わりによる精神状態の観察だけでなく、バイタル測定や排便管理などを含めた全身状態の観察とアセスメントを行うのも精神科看護師の重要な役割です。

また、精神科患者さんのなかには内服を拒否する人もいるため、与薬時には完全に薬剤を飲み込んでいるか口の中まで確認することもあります。患者さんが安全に的確な治療が受けられるよう、危険行為の予防や施錠管理、服薬管理も大切です。

精神科患者さんにおいても高齢化は進んでおり、日常生活に援助が必要な患者さんに対しては、食事介助やオムツ交換も行います。

精神科看護師の1日の勤務スケジュール

ここでは、一般的な精神科病棟のスケジュール例を日勤帯、夜勤帯別で紹介します。精神科看護師の基本的なスケジュールは一般病棟とさほど変わりはありませんが、細かなスケジュールは病院により異なるため、一例として参考にしてください。

日勤帯のスケジュール例

以下は精神科看護師の日勤帯のスケジュール例です。

救急や急性期以外の精神科では、13対1から20対1程度の看護師配置基準を採用しているところが多いため、一般病棟にくらべると受け持つ患者さんの人数は多くなる傾向にあります。ただし、精神科病棟は1日の流れや1週間のスケジュールが決まっているところが多く、残業は少なめです。

精神科看護師 スケジュール例(日勤帯)

日勤帯では、症状を安定させ、生活リズムを整えるために、悩みや不安を傾聴し、コミュニケーションを図ります。さらに、患者さんが自立的に整容や身の回りの整理整頓ができるよう生活指導を行います。隔離室の患者さんのナースコール対応や、患者さん同士のトラブル対応も看護師の仕事です。

精神科病棟は、医療処置や日常生活の介助は少なくなります。ただし内科系精神科病棟や高齢者が多い病棟では、点滴や採血、オムツ交換や食事介助などが多くなる場合があります。

夜勤帯のスケジュール例

以下は2交代制の夜勤帯のスケジュール例です。精神科病院のなかには、3交代制を採用しているところもあります。

精神科看護師 スケジュール例(夜勤帯)

精神科病棟では、患者さんの安全確認のため、夜間も病院により決められた頻度で定期的に見回りを行います。消灯後は落ち着いていることが多くなりますが、不眠や不穏の患者さんがいれば対応しなければなりません。

さらに急性期の精神科病棟や精神科救急病棟では、夜間に緊急入院の対応をしなければならない場合もあります。また病棟によっては安全確保のため、夜勤は1名以上の男性看護師が勤務しなければならないと定めている病院もあります。

【体験談】精神科看護師の魅力やきついことを紹介

ここからは精神科の勤務経験者が精神科看護のやりがいからきついこと、給料事情まで体験談を交えて紹介します。

精神科看護を選んだ理由は?

新卒から働いていた一般病棟で、体調不良から精神的に不安定になる患者さんや、認知症の患者さんとの関わり方に悩んだことがきっかけで、精神科に興味を持ち転職しました。精神科で働いたことで、患者さんとのコミュニケーションの仕方について身をもって学ぶことができました。精神科で培ったスキルは、精神科だけでなく一般診療科でも役立つと感じています。

精神科看護において大切なことは?

専門職として精神疾患の知識を持ったうえで、ひとりの人間として目の前の患者さんに寄り添うことです。

こころの病気は症状に個人差があり、同じ疾患であったとしても、患者さんの症状や経過はまったく違います。患者さんの生きてきた環境や価値観に寄り添いながら、その人らしい生活ができるよう支援しなければいけません。

そのため、精神科看護の知識を活用しながら、患者さんの個別性にあわせた看護が大切です。

精神科看護のやりがいや魅力は?

精神科看護のやりがいは、患者さん一人ひとりと深く関われることです。精神科は一般診療科より入院期間が長く、看護の中心がコミュニケーションであるため、患者さんとじっくり関わりながらお互いの人間性や患者さんの価値観を理解しつつ、症状の経過にあわせた看護ができるのが魅力です。

例えば、最初は拒否的反応が多かった患者さんでも、日々の入院生活をサポートしながら人間関係が構築されてくると、患者さんの反応や表情にも変化が見られ、多くのやりがい感じることができました。

精神科看護のきついところは?

精神科看護師のきついところは、患者さんの言動に影響を受けることです。精神科の患者さんは、疾患の影響で他人に攻撃的になる人や、ネガティブな発言をする人もいます。また場合によっては、関わりを深めようにも患者さんとの相性が合わず、拒否されるということも珍しくありません。そのため患者さんの言動に傷つくこともありました。

看護師であっても、自分自身の精神状態によっては患者さんの言動に影響を受けやすくなります。患者さんの言動に影響を受けすぎないよう精神看護学の知識を身につけ、プライベートではリフレッシュする時間を確保することも大切です。

精神科看護師のキャリアプランとおすすめの資格

精神科看護師の専門性を高めるキャリアとしては、精神科認定看護師(日本精神科看護協会認定)や精神看護専門看護師(日本看護協会認定)の資格があります。どちらも一定期間の実務経験が必要になるため、まずは精神科看護師として経験を積まなければなりません。

今後ニーズの拡大が期待できるキャリアプランとしては、精神疾患に特化した訪問看護師や認知症看護認定看護師(日本看護協会認定)資格の取得を目指すのもおすすめです。

精神科看護師の給料事情

精神科病棟の給料形態は、一般診療科と同じように基本給に夜勤手当がつきます。病院によっては、住宅手当や危険手当がつく場合もあります。ただし、精神科は残業が少ない傾向にあるため、残業が多い一般病棟に比べると給与総額は下がるかもしれません。

精神科では看護スキルは身につけられない?

精神科で獲得できる看護スキルはありますが、高度な医療処置のスキルを身につける機会は少ないといえるでしょう。精神科は精神疾患を抱える患者さんが対象であり、入院している患者さんが身体的疾患を発症し治療が必要になった場合は、基本的に治療可能な病院に転院するからです。そのため、複雑な医療処置や医療機器を使用した処置の介助などはほとんどありません。

その一方で、内科系精神科病棟や認知症病棟では、点滴や採血、日常生活援助の機会もあるため、看護師として基本的なスキルは身につけられるでしょう。

精神科看護師に向いている人とは?

ここでは精神科看護師に向いている人の傾向を紹介します。精神科看護は一般診療科と異なることも多いため、向いている人の傾向だけに目を向けず、精神科看護に対する興味や将来のキャリアプランも考えて検討しましょう。

じっくり患者さんと関わりたい人

ひとりの患者さんとじっくり深く関わりたい人は精神科看護師に向いています。精神科看護では、患者さんがこれまで生きてきた人生から今後の生活まで、過去から未来までに深く関わることができます。入院期間も長いため、時間的にもじっくり患者さんと向き合えます。

コミュニケーションによる看護や心理学に興味がある人

コミュニケーションによる看護や心理学に興味がある人は精神科看護師に向いています。精神科のコミュニケーショによる看護は、一般病棟の看護ケアのように、手順書のあるマニュアル化されたものではありません。

そのため、コミュニケーションによる看護や心理学への興味や関心を持っている人は、その気持ちが患者さんによりよいケアを提供するための原動力となるでしょう。

精神的にタフな人

攻撃的な患者さんの対応や、ネガティブな言動を受け止めなければならないことも多い精神科看護師の仕事は、人によっては精神的につらくなってしまうかもしれません。そのため精神科看護師は精神的にタフな人、気持ちの切り替えが上手な人のほうが向いているといえます。

精神科看護師になるには

精神科看護師は看護師資格があれば新卒や未経験でも勤務できます。看護学生で精神科を選ぶ人は多いとはいえないかもしれませんが、精神科看護師になるメリットもあります。ここでは精神科看護師になるメリットと学生時代にやっておくとよいことを解説します。

精神科看護師になるメリット

精神科看護師になるメリットは、観察力が身に付くことです。精神科看護は検査データでは判断できない患者さんの心理状態を発言や行動、雰囲気など、さまざまな視点から観察するため、観察力が養えます。

また、今後も患者数の増加が予想されている認知症看護の経験が積めることもメリットだといえます。さらに、精神科病棟は残業が少なめでプライベートが確保しやすいため、長く働けるのも魅力でしょう。

一方で、最先端の医療技術などは学びにくい環境であるため、基本的な看護スキルを身につけながら精神科で働きたい人は内科系精神科などをおすすめします。

学生時代にやっておくとよいこと

精神科看護師を目指したい人は、学生のうちから長期的なキャリアプランを考えておきましょう。精神科は他の診療科と異なる特徴があるため、精神科からキャリアをスタートした場合、その後にキャリアを変更したいと思っても、救急科や急性期病棟などへは転職しにくい面があります。

「なぜ精神科を志望するのか」を自己分析で明確にし、精神科看護師からキャリアをスタートし、どのような看護師を目指すのか、長期的なキャリアプランを考えておきましょう。

自分のキャリアプランを考えるうえで、インターンシップや会社説明会に参加するのもおすすめです。実際の現場を見学することで、自分が看護師としてどのように働きたいか、イメージを膨らませることができます。複数の参加も可能なので、ぜひ積極的に参加してキャリアの選択に役立ててくださいね。

インターンシップ 病院見学会

※ナース専科就職ナビ

精神科の特徴を理解してキャリアを選択しよう

精神科看護は精神疾患を抱える人がその人らしく生活できるよう精神的にサポートをする役割があり、一般診療科の看護とはさまざまな点で異なります。こころの健康への関心の高まりや認知症の増加、精神科訪問看護のニーズの拡大などにより将来性も期待できるため、興味のある人は新卒から目指すのもひとつの手です。ただし、精神科看護は基本的な看護技術が学びにくい場合もあるため、精神科看護の特徴を理解したうえで、自分のキャリアを選択しましょう。

引用・参考

日本精神科看護協会:精神科看護の定義(2023年9月15日閲覧)

厚生労働省:令和2年(2020)患者調査(2023年9月15日閲覧)

厚生労働省:令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(2023年9月15日閲覧)

日本精神科病院協会:精神保健福祉法の解説(2023年9月15日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

柴田 実岐子

shibata-mikiko

福岡県生まれ。大学卒業後、一般企業に勤務し、社会人から看護師免許を取得。急性期外科などで経験を積んだのち、精神科、慢性期の一般病棟、健診センターなどさまざまな職場で勤務。さらに夜勤専従・派遣・応援ナースなど、多種多様な働き方を経験した。現在は離島移住をきっかけに、へき地医療に従事しながらライターとして活動中。