ファーストキャリアの選択肢を広げよう 急性期だけじゃない「回復期・慢性期・訪問看護」の魅力

2022年6月11日に「ナース専科 就職」は「就職先の選択肢を知ろう」というオンラインセミナーを開催しました。
セミナーでは、第1部「選択肢を広く持とう」で、看護業界の市場動向と幅広い選択肢に目を向ける大切さをお伝えしたうえで、第2部「回復期・慢性期の特徴と魅力」、第3部「訪問看護の特徴と魅力」では、看護部長や訪問看護ステーションの統括所長から、各職場の魅力ややりがいをお聞きしました。この模様を<前編><後編>に分けてお伝えします。

第1部

志望先を決めるときは選択肢を広くもとう

「なぜ選んだのか」が看護師としての軸になる

学生の皆さんには急性期看護が人気です。もちろん目的や希望が明確な人は、選んだ道を邁進していけるでしょう。その一方で、「とりあえず最初は急性期の病院に就職したほうがいい」「周囲の友だちが急性期を志望しているからなんとなく」などといった理由から入職した人は、早期離職に結びついてしまうケースも少なくありません。このように「とりあえず」「なんとなく」で視野を狭めてしまうと、本当に自分に合った職場に巡り合えないまま、貴重なファーストキャリアを歩むことになりかねません。

急性期に限らず、実際の看護現場は大変です。皆さんもきっと壁にぶつかるでしょう。そのとき起き上がれるかどうかは、看護師としての軸をもっているかで変わってきます。就職活動の際に「私はなぜ看護師を目指したのか」「なぜこの職場を選んだのか」という理由を見出すことが、看護師としての軸になり、将来のあなたを支えてくれるのです。

知っておきたい市場動向と看護師の需要

志望先を決めるにあたり、看護業界の市場動向についても知っておきましょう。

病床には、医療施設が担っている医療機能に合わせて「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つの機能区分があります。そして今、社会の少子高齢化や医療財源のひっ迫などによって、病床機能の割合に変化が生じてきているのです。この動きを病床再編といいます。

急性期の病床数の減少

図1は2020年と2025年の病床数の推移です。全体で1万1000もの病床が減り、特に学生の皆さんに人気の高度急性期・急性期の病床数も70万3000床から69万4000床に減る見込みとなっています。 病床数が減少する分、採用数も減少する一方で、依然人気は高いため競争率が高まってきています。そのためこれまで以上にしっかりした採用試験の準備が必要ということがいえます。

図1 病床再編と機能分化
2019年高度急性期・急性期の病床数は71.1万床だが、2025年高度急性期・急性期の病床数が70.3万床の見込になっている

引用元:第8次医療計画、地域医療構想等について(厚生労働省)

回復期と在宅の需要は増加

一方で、現在社会全体では、患者さんが病院から自宅に早く帰れるように力を入れて取り組んでいるため、回復期や在宅の需要がどんどん高まってきています。

また、2010年と2020年の訪問看護ステーションで働く看護師数(常勤換算)を比べてみると、およそ2万2000人から5万3000人へと倍以上に増えています。今後は新卒時から回復期や在宅でファーストキャリアをスタートさせることも一般的になってくるでしょう。

第2部

回復期・慢性期の特徴と魅力

第2部の「回復期・慢性期の特徴と魅力」では、回復期・慢性期病棟とはどんな臨床現場なのか、急性期病棟と比べてどんな違いがあるのか、どんなことが学べるのかなどを、長年現場に携わってきた看護部長にお聞きします。

講師プロフィール

大山 美和子(おおやま みわこ)氏

大山 美和子(おおやま みわこ)氏
八潮中央総合病院 看護部長

横浜市医師会保土谷看護専門学校(現:横浜市医師会聖灯看護専門学校)を2002年に卒業後、北里大学病院へ入職。混合病棟にて血液内科、呼吸器内科等を中心に経験する。その後、家族の転勤に伴い大阪に転居し協和会病院に入職、回復期リハビリテーション病棟に配属となった。2010年、家族の転勤に伴い埼玉に転居し八潮中央総合病院へ入職、教育を中心に携わり、2020年より看護部長、現在に至る。

急性期と教育内容は変わらない

まず皆さんが一番に気になるのは教育体制でしょう。急性期と比べて、回復期・慢性期では、技術がしっかり学べないのでは? と危惧している人がいるかもしれません。

しかし、そのようなことはありません。ほとんどの病院では、急性期、回復期、慢性期にかかわらず、厚生労働省が作成した「新人看護職員研修ガイドライン*」に基づいて新人教育が行われています。このガイドラインは、医療機関の病床機能や病棟の種類、規模に関係なく、新人看護師が基本的な臨床実践能力を獲得できる研修体制を構築するためにまとめられたものです。つまり、どこの病院でも基本的な技術は身につけられるということです。

参考資料:新人看護職員研修ガイドライン【改訂版】(厚生労働省)

役割と患者層が異なる回復期と慢性期

回復期リハビリテーション病棟では、急性期を経過した患者さんに対し、在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供します。患者層は、比較的幅広い年代で脳神経系・整形系の疾患の方が多いのが特徴です。

現在、国は回復期リハビリテーション病棟に、より重症度の高い患者さんを受け入れるよう求めており、心筋梗塞後の心臓リハビリテーションが必要な患者さんなども入院するようになってきました。それだけ看護師にも、より幅広い知識が求められるようになっています。

一方、慢性期病棟は、長期にわたり療養が必要な患者さんを入院させる病棟で、重度の障害を持った方や比較的高齢の方が多いのが特徴です。患者層は、急性期を脱し、引き続き医療行為が必要な方となります。具体的な医療行為としては、CV(中心静脈カテーテル)、酸素吸入、吸引、経管栄養、褥瘡処置が挙げられますが、さまざまな理由により、在宅での療養が困難な患者さんも受け入れています。

図2 回復期・慢性期の役割と患者層
回復期リハビリテーション病棟 慢性期病棟
役割 急性期を経過した患者(脳血管疾患や大腿骨頸部骨折等)に対し、在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する 長期にわたり療養が必要な患者(重度の障碍者や難病患者等)を入院させる
患者層 ・脳神経系や整形系の疾患の患者さんが多い
・比較的幅広い年代の患者さん
・医療行為が必要だが、様々な事情により在宅では必要な看護が受けられない患者さん
・比較的高齢の患者さんが多い

「在院日数」「急変」「診療科」からわかる違い

平均在院日数については、急性期は約2週間、うち大学病院では10日間を切るところがほとんどです。回復期は2〜3か月、慢性期は4〜5か月ぐらいになります。急性期は回転が早く、日勤で受け持った患者さんが夜勤や明けや休みを挟んで、次の日勤にはもういないといったスピード感です。その一方で回復期や慢性期は入院期間が長いため、患者さんとゆっくりかかわれることが特徴になります。

急変については、当然ながら急性期のほうが多く、緊張感や責任感を強く感じる場面が増えてきます。最近では、平均在院日数の短縮により、回復期でも重症度の高い患者さんを受け入れることが多くなっています。そのため、少なからず回復期でも急変がみられるようになってきています。

診療科については、急性期では専門の診療科ごとに細分化されているのが一般的です。回復期や慢性期では、1つの病棟にさまざまな疾患の患者さんがいる混合病棟が多くなります。急性期では、診療科ごとの専門知識を得られやすいのに対し、慢性期では幅広い疾患の患者さんに対応する力が総合的に身につけられます。

図3 「在院日数」「急変」「診療料」からわかる違い
(高度急性期) 急性期 回復期リハ 慢性期 (在宅)
在院日数 16.5日 70.1日 135.5日
急変 多い 少ない
診療科 分かれている 分かれていない 分かれていない

引用元:
病院報告(令和2年)3.平均在院日数 (1)病床の種類別にみた平均在院日数(厚生労働省)
回復期リハビリテーション病棟の現状と課題 に関する調査報告書【修正版】(2019年6月)

急性期・回復期・慢性期で得られる知識や力とは

急性期では、最新の知識や医療機器について学べる機会が多く、急変対応にも強くなると思います。多重業務が発生するため常に優先順位をつけて動くことが重要になります。回転が早いため、たくさんの患者さんと出会えるのも特徴です。ただし、30分前に元気だった患者さんが急変したり、患者さんが亡くなってもすぐ別の患者さんに対応しなければならないなど、感情の切り替えを上手にすることが必要になるでしょう。

回復期では、私自身の経験からは、多職種連携が醍醐味だと感じています。医師、看護師、リハビリスタッフ、栄養士、薬剤師、MSWでディスカッションし、それぞれの専門知識を生かして、同じ目標に向かって医療やリハビリテーションを提供します。チーム医療の一員となることがやりがいにつながることが多いでしょう。また、患者さんのQOLを重視したかかわりや在宅を見据えた看護の力も身につきます。地域包括ケアのなかでは、そういう力が特に求められています。

慢性期では、幅広い疾患について学べるのが特徴です。さらに、寝たきりなどで自分の意思を伝えられない患者さんなども多いため、観察力、フィジカルアセスメント力、コミュニケーション力が得られる機会が多いでしょう。慢性期は在院日数が長いため、生活の場としての意識をもてることも大切になります。

図4 得られる知識や必要になる力
(高度急性期) 急性期 回復期リハ 慢性期 (在宅)
  • ・最新の医療技術や医療機器について学べる機会が多い
  • ・急変対応に強くなる。多重業務が発生するのでテキパキ動くことが大事
  • ・多くの患者さんと出会える。ただし感情の切り替えも必要
  • ・他職種、特にリハ職と連携する場面が多く、リハビリ系の知識に強くなる
  • ・心身ともに回復した状態で、自宅や社会に復帰する患者さんの姿を見れる
  • ・在宅を見据えた看護の力がつく
  • ・観察力・フィジカルアセスメント・コミュニケーション能力が重要
  • ・患者さんのQOLを重視した関わり、生活の場を意識した看護の実践

自己理解と実習での経験を大切に

就活を進める皆さんへ、大切にしてもらいたいことが2つあります。

まずは、自分をしっかり理解すること。看護師は、患者さんの命を預かる責任の重い仕事です。そのため、ストレスを感じることは多くなります。新人の場合、新しい環境や社会人としての初めての経験から、よりストレスを感じやすくなります。ですから、自己理解が非常に大切です。自分がどんなことにストレスを感じやすいのか、ストレスを乗り越える力があるのかを知っておきましょう。

また実習での経験を大切にしましょう。実習の経験は看護観の形成にもつながっていきます。こういう看護が好き、こういう看護を大切にしたいという思いに目を向けてください。実際の現場は実習の何倍も大変です。だからこそ自分をみつめて、格好をつけず、素直になることが、やりがいにつながります。

あとがき・後編

回復期・慢性期について理解を深めていただけたでしょうか? もちろん急性期の道を選ぶのも素敵な選択だと思います。ただ、「新人=急性期」ではないことは認識していただけたらと思います。

―――<後編>では、「訪問看護での働き方とその魅力」をお送りします!

その他おすすめのコンテンツ