ファーストキャリアの選択肢を広げよう 急性期だけじゃない「回復期・慢性期・訪問看護」の魅力<後編>

2022年6月11日に「ナース専科就職ナビ」は「就職先の選択肢を知ろう」というオンラインセミナーを開催しました。
この<後編>では、第3部「訪問看護の特徴と魅力」と題し、訪問看護ステーションを統括する統括所長から伺った、訪問看護ステーションでの新人教育制度や教育方法、魅力ややりがいをお伝えします。

第3部

訪問看護での働き方とその魅力

第3部の「訪問看護での働き方とその魅力」では、訪問看護の現状をお伝えしたうえで、訪問看護の役割、どんな教育が行われているのか、どんな学びが得られるのかなどについて、訪問看護ステーションの統括所長にお聞きします。

講師プロフィール

小森 千絵(こもり ちえ)氏

小森 千絵(こもり ちえ)氏
川崎医療生活協同組合 訪問看護統括所長・訪問看護認定看護師

1990年に川崎協同病院に入職。訪問看護歴は18年。
内科病棟、外科病棟を経て診療所に。往診と訪問看護に出会う。訪問看護ステーション、病院を経て2016年より訪問看護ステーションへ配属、訪問看護統括所長に就任し現在に至る。

訪問看護の現状と今後

皆さん、訪問看護にどのようなイメージを抱いていますか? ベテランしかできないのでは? 物がない在宅でケアができるか不安など、いろいろなイメージを抱いているのではないでしょうか。

まずは、訪問看護が今後どのような方向に向かうのか、日本看護財団(公益社団法人 日本訪問看護財団)らによってまとめられた「訪問看護アクションプラン2025」*からひもといてみましょう。

今後の方向性として、一番の目玉は「訪問看護の量的拡大」です。事業所を増やすことに加え、訪問看護師の確保が大きな目標となっています。2025年に15万人にすることを目指していますが、現在訪問看護に従事しているのは5~6万人で、看護師全体の2~2.5%とまだ少ない現状です。これをあと数年で15万人にするために、「働きやすい環境づくり」「ワークライフバランスの導入」「新卒看護師からの育成」を進めています。他にも「訪問看護の機能拡大」「訪問看護の質の向上」「地域包括ケアへの対応」などを柱として掲げています。

参考資料:
訪問看護アクションプラン2025(公益財団法人日本訪問看護財団 他)
訪問看護がつくる地域包括ケア~データからみる「訪問看護アクションプラン2025」の今~(公益社団法人 日本訪問看護財団)

生活を支えるケアが訪問看護の役割

訪問看護ステーションの数は、2012年頃から増加し、現在では1万件を超えています。24時間365日対応している訪問看護ステーションは全体の約8割となっています。規模はさまざまで、看護職員数(常勤換算)が3人ほどの小さいところから、10人以上のところもあります。近年大規模化されてきているというのが特徴です。

図1のとおり利用者の傷病の内訳は、脳血管障害、筋・骨格系、認知症が多くなっています。訪問看護ステーションが対象としているのはすべての年齢の方々ですが、この内訳からは高齢者が中心であることがわかります。

図1 訪問看護ステーション利用者の傷病別内訳

脳出血疾患 15.4% 筋肉骨格系 9.0% 認知症(アルツハイマー病含む)8.6% 悪性新生物 8.3% 心疾患 6.0% パーキンソン病 5.0% 呼吸器系の疾患 4.5% 糖尿病 4.8% 損傷、中毒等 4.8% 統合失調症 4.9% 高血圧系疾患 3.9% その他 24.8%

図2のとおり訪問看護師が行う看護内容で最も多いのは「病状の観察」、次いで「療養指導」「リハビリテーション」「清潔保持や排泄の支援」「服薬管理」などが挙がっており、生活にかかわるケアが多いことがわかります。もちろん点滴などの医療処置もありますが、療養者の生活を支えるケアが訪問看護の大きな役割です。さらに現在はターミナルケアも重要な役割となっています。

図2 訪問看護の内容

症状観察 93.6% 本人の療養指導 57.5% リハビリテーション(呼吸リハ・嚥下訓練除く)52.1% 家族の介護指導・支援 37.5% 心身体の清潔保持・管理 34.8% 服薬管理 34.0% 認知症・精神障がい 17.9% 浣腸・摘便 15.0% 褥瘡予防・処置 14.7% 栄養・食事指導14.5% 緊急時対応 8.8% 気道内吸引・その他吸引 7.1% 膀胱留置カテーテル 6.8% 胃瘻・経管栄養 5.8% 創傷処置 5.2% 在宅酸素 4.9% 点滴・注射 4.6% 薬物による疼痛管理・がん化学療法 2.1% ターミナルケア 1.9%

図1・図2引用元:訪問看護がつくる地域包括ケア~データからみる「訪問看護アクションプラン2025」の今~(公益社団法人 日本訪問看護財団)

整備が進む教育体制

新卒看護師を採用し教育する訪問看護ステーションは徐々に増えてきており、一般的には、配置から約1年で独り立ちできるよう教育を進めています。1年を通して同行訪問を繰り返し行い、内部・外部や連携病院の研修を行ったり、オンライン講座やe-ラーニングを活用します。

研修では主に技術やコミュニケーション、情報収集力などを習得します。

当法人の場合は、4年間を基礎教育期間としています。1年目は訪問看護ステーションに配置しつつも基礎技術を身につけるために、半年~1年病院や診療所の研修を受講します。2年目からは本格的な訪問看護師としての勤務になり、独り立ちを目指して先輩に同行して訪問看護を学びます。3年目には、補足すべき研修を病院や診療所で受け、4年目には一緒に次のステップを考えていきます。

身につき深められるスキルは多い

訪問看護の現場では、アセスメント力や応用力が身につきます。病院と違って在宅では少ない情報しかありませんが、それらを統合してアセスメントしなければならず、判断力が求められます。また基本的に一人で訪問を行うため、自分で考えて対応するという応用力が養われます。さらにコミュニケーション力も高まります。何気ない雑談のなかで、利用者さんや家族の思いを引き出し、看護につなげることができるようになります。このようにみていくと、訪問看護でも、看護に必要なスキルは十分身につけられることがわかるでしょう。

在宅でも医療処置はあるため、基本的な技術は必要ですが、私は病院で行われるような高度な医療技術や看護力を身につけることだけが、一人前の看護師になることだとは思っていません。医療機器の扱いは、経験をすれば誰でも身につけられます。それ以上に、生活をみる視点のなかで患者さんを捉えるという力が訪問看護で養われます。そのような力を若い時期に身につける経験は、病院では得難いことだと考えています。

もちろん訪問看護をしていると不安を感じる場面はあります。在宅と病院の環境の違い、利用者さんや家族との関係、多職種間でのマネジメントなどです。

在宅と病院の環境の大きな違いは、病院と違って在宅には物品が揃っていないということです。しかしこれにはすぐ慣れ、対応できるようになります。

また、利用者さんや家族は、思いのほか訪問看護師のことをよくみています。みられているという緊張感は独特のものでもあります。

多職種間のマネジメントとは、利用者さんや家族を一緒に支える専門職たちが、介護や医療などの多岐にわたり、さらに訪問看護師がリーダー的な役割を求められるということです。社会保障制度を覚えたり、各職種への理解も必要になります。

こういった面では、ベテランになっても悩むことはあります。それでもチームで支え合ったり、フォローしてくれる人たちは必ずいます。ですから過剰に心配する必要はありません。ただ訪問看護にはこういう面もあることを知っておいてください。

「病気ではなく人をみる」という看護の原点

私は、訪問看護には「病気ではなく人をみる」という看護の原点があると考えています。そして何よりも楽しいと感じています。

看護師として働く場所は、今や病院だけはありません。さまざまなフィールドから選択できるようになりました。ですから、看護師人生の中で一度は訪問看護も経験してみてほしいと思います。それは看護師としての宝物、自分自身の宝物になるでしょう。新卒でもチャレンジは可能です。みなさんのチャレンジに期待し、応援しています。

あとがき

<前編><後編>を通じ、回復期・慢性期と訪問看護についてのお話はいかがでしたか?回復期・慢性期・訪問看護を希望して就職することや働くことに対し、みなさんの理解が深まれば嬉しいです。

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