自治体保健師として活躍中のベテラン保健師さんにインタビュー!
保健師を目指した理由、具体的な仕事内容、やりがい、
ワークライフバランスなどについてお聞きしました。
保健師という職業の実像が見えてきます。
保健師を目指した理由、具体的な仕事内容、やりがい、
ワークライフバランスなどについてお聞きしました。
保健師という職業の実像が見えてきます。
Bさん
大学で保健師免許を取得し、専門病院へ看護師として入職。大学院へ進学し看護学修士を取得。1995年、横浜市に保健師として就職。
保健師になりたいと思ったのはいつ頃ですか?
看護大学を卒業後、小児専門病院で看護師として勤務する中で、こどもや家族の健康を守るために、生活の場である“地域”でケアを継続的に行うことが重要であることに気づき、地域看護領域で働きたいと考えるようになりました。また、大学院の修士課程で小児虐待について学び、虐待対策を政策として進めていくことの重要性を感じ、自治体保健師を目指そうと考えました。
就職先として横浜市を選んだ理由は何ですか?
横浜市は政令指定都市で市町村機能と保健所機能の両方を持ち、地域全体を見据えた保健業務の実践ができると考えたからです。児童相談所に保健師の配置があったことも魅力でした。大学院で修士論文を書きながら公務員試験の勉強をするのはとても大変でしたが、目指すものがあったのでなんとか頑張りました。
自治体保健師として20年以上のキャリアをお持ちですが、とくに印象に残っているお仕事やプロジェクトについて教えてください。
こども家庭支援分野で働いていた時代に、当時は今ほど顕在化していませんでしたが、育児不安や虐待のリスクを抱える親たちのために、育児力を育成するグループ事業の立ち上げや、親の不安を和らげるための乳幼児健診のフォローのあり方の検討などを保健師の仲間たちと進めました。ソーシャルワーカー、MSW、児童相談所、地域の民生委員や保育園・幼稚園など多くの方々と連携を図りながら、こどもと親を支える体制づくりに取り組みました。
大学院で学んだ問題について、まさに地域の中で実践的に取り組まれたのですね。
保健師が住民個人に24時間365日付きそうことは難しいので、その方ご自身の持っている力を引き出していくことと、地域で見守ってくれるサポーターを増やすことが大事です。その点を実践的に取り組むことができました。
ほかにはどんな業務に取り組まれましたか?
事業企画担当で地域福祉保健計画の推進に従事しました。地域住民が自ら地域の課題を見出し、それを解消するための取り組みを行政と住民が協働で行うという計画なのですが、最初は住民の方から“この地域に課題なんかない”という反発を受けました。住民と会話を続ける中で、本当に課題がないか調べてみようということになり、住民が自らアンケートを作成して調査した結果、家族間では解決できない小さな困りごとをみんな抱えていることが見えてきました。そこからこの地域はすごい勢いで変わっていったのですが、住民の困りごとを解決するボランティアグループを作ることになり、ほかの地域に視察や研修へ行き、1年程度でボランティアグループを立ち上げたのです。住民力の素晴らしさ、地域づくりの必要性を実感すると同時に、保健師は住民が力を発揮できる環境をつくることが大事なのだと学びました。
厚生労働省でのお仕事も経験されたそうですね。
厚労省へ1年間派遣され、在宅看護の推進業務に携わりました。この経験から“政策”というものを意識し始めました。現場にいると日々の1ケース1ケースをどうするか、ということに終始しがちなのですが、厚労省では参考事例から国民全体を支える仕組みづくりまで持っていくというプロセスを学び、広い視野で地域全体、日本全体を考える必要性を実感しました。私にとって1つのターニングポイントとなる大きな仕事でした。
保健師の人材育成にも取り組まれていますね。
本庁へ戻り、人材育成担当部署に配属され、保健師の育成や確保に取り組みました。その一環として、看護師のキャリアラダーを参考に保健師のキャリアラダーを作成することを提案しました。保健師一人ひとりが次のステップを目指して自分の能力を獲得していく道しるべが必要だと考えたからです。完成までに3年近くかかりましたが、このラダーは今も見直しを重ねながら運用されています。
保健師として幅広いご経験をされていますが、とくに大変だったことは何ですか?
その時々で悩みや大変さはあったのだと思いますが、振り返ってみると辛かったことは全部忘れています。困難にぶつかっても、それを乗り越えた先に大きな得るものがあり、何かを生み出して形にすることができてきたからだと思います。どの仕事も、本当に楽しいものばかりでした。
職場の雰囲気や他職種との関わりなどはどうですか?
保健師は他職種も含め多くの人と関わりながら、一人ひとりの力を合わせて大きな目標をやり遂げていく仕事です。人間関係が悪いとそれがうまく進まないので、管理職としてはいかにいい雰囲気をつくるかということ、一人ひとりの強みをいかに引き出すかということに留意しています。
保健師は女性にとって働きやすい仕事だと思いますか?
妊娠中や子育て中の保健師も多いので、そういう人たちを周りが気遣いながらうまくカバーし合って仕事をしています。子育てしながら仕事をする大変さもわかっているので、あうんの呼吸でサポートし合う雰囲気ができています。私自身、3人のこどもを育てながら保健師の仕事を続けてきました。子育て中はいろんなサポートをしてもらったので、今はそのお返しをする時期だと思っています。
ワークライフバランスについて教えてください。お休みはとりやすいですか?
土日は基本的にはお休みで、有休もとりやすいです。残業時間も自分でうまくマネジメントして、メリハリをつけて働いている人が多いと思います。感染症や虐待などの緊急対応が発生した場合、住民の安心・安全を守る公務員の役割として突発的に動かなければならないときもありますが、それ以外は比較的自分で調整しやすいと思います。
今後どんな保健師を目指したいと考えていますか?
新型コロナウイルスの感染拡大、生活困窮者の健康格差の拡大、児童虐待の深刻化など生活を取り巻く新たな課題が次々と起こる中、こういった課題に対応するための新たな政策を考えていくことが必要です。業務を通じて実態を把握している保健師の視点を活かし、保健政策に携わっていきたいです。また、そうした保健課題全体を見る力、創造力、マネジメント力を持つ保健師職員の育成に取り組んでいきたいと考えています。自分が育ててもらった分、後進の育成をしっかりやっていきたいです。
保健師に向いているのはどんなタイプの人だと思いますか?
一番は、人と関わることが好きな人です。自分はコミュニケーションが苦手だから、と思っている人もいるかもしれませんが、コミュニケーションがうまくなくてもいいと思います。人や社会に関心を持つことができれば“自分に何かできるのではないか”という思いにつながります。また、自由な発想で新しいことを考えるのが楽しいと思える人も適性があると思います。何もないところから必要性を見出して仕組みを生み出す、それが保健師ならではの仕事の醍醐味です。新しいものを創造することに楽しさを感じられる人が保健師に向いているのではないでしょうか。
学生時代にやっておくべきことはありますか?
いろんな人と会話することが大事です。地域にはいろんな立場の人がいるので、様々な人と接する機会を積極的に持つといいと思います。自分の勉強している領域にとどまらず、社会でいま何が課題になっているのか、アンテナを立てて社会の出来事に関心を持つことも大切です。また、保健師になりたいけど、看護師としての臨床経験があった方が良いのではないかと悩む方もいらっしゃると聞きます。臨床経験がなくても保健師としての専門能力に差は生じませんので、心配しないでぜひ保健師を目指してください。
保健師を目指す学生へのメッセージをお願いします。
公衆衛生を担う保健師の対象は、その地域に住む人全員です。住民全員の健康に責任を持つことが私たちの使命であり、誇りです。この仕事は、住民と一緒に行うからこそ実現できるものでもあります。住民の皆さんと同じ目標を目指し、住民の方々が本来持っている力を引き出し、一緒に地域の健康をマネジメントしていくというダイナミックな仕事です。また、把握した地域課題から、政策・仕組みを創っていくことができるクリエイティブな仕事でもあります。ぜひ、保健師の仕事の楽しさを一緒に経験してみませんか。