成人看護学実習<中編>「技術演習」とは? 何を学ぶ? 内容は? 目標・到達点、スケジュールなど

成人看護学実習<中編>「技術演習」とは? 何を学ぶ? 内容は? 目標・到達点、スケジュールなど

最終更新日:2024/06/11

看護実習は、看護師をめざす看護学生にとって、座学で学んだ内容を医療の現場で活用できるよう、知識と技術と実践の統合を行う場であり、重要な学習の機会となります。
このコーナーでは、東邦大学看護学部の各研究室監修のもと、主な専門分野の看護実習について、これから実習を受ける看護学生がイメージしやすいようにできるだけ具体的に紹介します。
成人看護学実習<中編>では、病棟に出る前に学内で行われる「技術演習」について解説します。

「技術演習」とは? 何を行うの? 目的と目標・到達点は?

「技術演習」は、成人看護学実習の特に病棟実習に向けて、基本的な看護技術を安全・安楽に実施し、振り返りができることを目的に、実例に即した形で学内で行う技術演習です。

内容は、主に次の3つを行います。

  1. フィジカルアセスメント<基礎編>:バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、呼吸数)の測定
  2. フィジカルアセスメント<応用編>:聴診
  3. 血糖測定

さらにこれら「技術演習」のあとには、学生がグループごとに実習に入る病棟に合わせて、下表のなかから口腔ケアや車いすへの移乗など、安全・安楽な実施の手順を振り返っておきたい技術を選び、1日かけて自由演習を行います。

グループでの自由演習が可能なケア一覧
・ベッド周辺の環境整備 ・口腔ケア ・スタンダードプリコーション
・ベッドメイキング ・清拭 ・冷罨法
・食事摂取の介助 ・洗髪(ケリーパッド) ・温罨法
・麻痺のある患者の食事介助 ・手浴・足浴 ・弾性ストッキング
・トイレ介助 ・陰部洗浄
・ポータブルトイレ介助 ・寝衣交換
・ベッド上での排泄介助 ・点滴ルートのある寝衣交換
・おむつを用いた援助 ・吸引
・体位変換 ・褥瘡予防のケア
・体位変換(麻痺がある) ・包帯法
・体位変換(点滴ルートがある) ・BLS
・ポジショニング ・意識レベルの評価
・ポジショニング(車いす) ・瞳孔の測定
・移乗動作 ・MMT
・移送(車いす) ・バレー徴候
・移送(ストレッチャー) ・心電図

「技術演習」の実際、方法とスケジュールは?

「フィジカルアセスメント<基礎編>」「フィジカルアセスメント<応用編>」「血糖測定」のそれぞれの演習時間は65分ずつ、大きな実習室を3つのブースに区切り、学生も3グループに分けて行います。病棟実習に入る学生は、1クールにおよそ36人です。36人が12人ずつに分かれてブースを廻ります。教員はブースに2人つき指導を行います。

「技術演習」の内容は? 具体的な実施方法について

具体的な「技術演習」の内容は下記のとおりです。A氏という事例を設定し、実例に即した形で演習を行います。

<事例>

A氏、58歳、男性
入院までの経過:慢性硬膜下血腫によって救急搬送され、脳神経外科に緊急入院した。
入院後の経過:
緊急で血腫除去術を施行した。術後、麻酔からの覚醒が悪く、肺炎を併発しており呼吸状態が悪化したため、集中治療室に入室し、一時気管内挿管による呼吸管理を行った。
術後7日目に呼吸状態が改善し、気管チューブを抜去した。術後8日目に病棟に転棟した。
病棟でのA氏の意識状態は清明(JCS 0)で、呼吸状態は室内気でSpO2:97%であるが、ときどき息苦しさや倦怠感がある。
既往にⅡ型糖尿病があり、経口糖尿病薬の内服を自己管理していた。病棟では経口摂取が開始され、内服薬も再開した。各食事前に看護師が血糖測定を行っている。普段の血糖値は90~150mg/dLで経過している。
患者はベッド上座位で会話ができる状態であるが、自分自身での体動が少ない。トイレに行く際はふらつきが見られるため、A氏がナースコールを押してつど看護師が付き添っている。

昨日の血糖値 朝食前 昼食前 夕食前 就寝前
血糖値(mg/dL) 98 121 132 148

実技の実施方法は次のとおりです。学生は3つのブースに分かれ指導教員のもと1~3の演習を行います。

【技術演習の内容】

  1. 午前中のバイタルサイン測定をしてください。
  2. 昼食前の血糖測定をしてください。
  3. A氏の呼吸の評価をしてください。
  4. ※技術を手順どおりに行うだけではなく、A氏に実際に声かけを行いながら演習しましょう。
    ※事例患者を想定し、患者への問診、安全・安楽への配慮、生活への援助を想定しての声かけも意識してみましょう。
    ※病態、術後であること、既往、術後新たに生じた症状にも着目し、声かけや観察を考えましょう。

「技術演習」のための「事前課題」とは

「技術演習」にも実施前に「事前課題」が出されます。学生は先に挙げたA氏の演習用事例を参照し、課題として示された動画を視聴し、文献を用いて調べ学習を行ってから演習に臨みます。

また演習後は、他の学生や教員からフィードバックされたことをもとに、自己の気づきを踏まえて自己評価を行うとともに、患者の安全・安楽、声かけの仕方、過ごし方への配慮について考えます。

【事前課題】

  1. 動画の視聴
  2. 調べ学習
    • 低血糖・高血糖の症状について
    • 低酸素血症の所見について
    • 正常呼吸音と異常呼吸音について
    • 看護技術(バイタルサイン測定、聴診、血糖測定)の手順について

「フィジカルアセスメント(基礎編)バイタルサイン測定」について

学生は事前課題として、動画を視聴しバイタルサイン測定の手順をおさらいしておきます。

演習が始まると、学生は「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイング形式で実施します。

「看護師役」は7分間かけて「患者役」に声がけしながら、血圧、体温、脈拍、呼吸回数、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定します。

「患者役」は事例のA氏になり、慢性硬膜下血腫の術後に誤嚥性肺炎を起こした設定で演じます。またこのとき、別途教員が用意した「オプションカード」を1枚引き、カードに書かれている内容を加味してA氏を演じます。

「オプションカード」には、”測定が終わったところに「トイレに行きたい」と言ってください”など、「看護師役」や「観察者」が知らないさまざまな追加設定が書かれています。「看護師役」はA氏の事例内容を念頭に置きつつ、「患者役」の急な反応に臨機応変にかかわることで、シチュエーション(状況設定)の要素が生まれ、理解度が試されます。

実技演習は、学生が「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイング形式で行う実技演習は、学生が「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイング形式で行う

横たわる「患者役」学生のバイタルサイン測定を行う「看護師役」と「観察者」横たわる「患者役」学生のバイタルサイン測定を行う「看護師役」と「観察者」

「看護師役」による一連のバイタルサイン測定が終わったら、「観察者」がフィードバックを行います。フィードバックは、患者さんに安全・安楽に看護を提供できたかという視点で、良かった点・悪いかった点を伝えます。

1回のロールプレイングごとに全員がブースの中央に集合して、「看護師役」の状況判断について共有します。これがデブリーフィングとなります。

例えばオプションカードに従い「患者役」が「頭が痛い」と言ったとします。このとき「看護師役」の反応は、意識レベルを確認したり、いつからどこが痛いかを問診したり、他の看護師を呼んできますとベッドサイドを離れるなどさまざまに分かれます。

そこで全員で集まり協議し、何が適切であるか、看護師には何ができるのかを考えます。

事例にシチュエーションを与えるための「オプションカード」の一例事例にシチュエーションを与えるための「オプションカード」の一例

学生は、「病棟実習では、バイタルサインを安全に測定することだけが目的でない」とわかってはいますが、患者から急に「頭が痛い」と言われると、とたんに自分に何ができるのかわからなくなり、不安になったりします。そこでデブリーフィングを通して確認と振り返りを行い、起こった事象と行った対応を線でつなぐことで、全体を見渡せるようになるとともに、患者の前には予測や臨床推論をもって向かわなければならないことに気づけるようになります。

「フィジカルアセスメント(基礎編)バイタルサイン測定」の到達点は次のとおりです。

  1. バイタルサイン測定の必要性について説明できる。
  2. バイタルサイン測定の手順と手技の留意点を説明できる。
  3. バイタルサイン測定を安全・安楽に実施しアセスメントすることができる。

1回のロールプレイングごとに全員が集合してデブリーフィングを行う1回のロールプレイングごとに全員が集合してデブリーフィングを行う

「フィジカルアセスメント(応用編)聴診」について

応用編では、聴診器を用いて術後患者である事例A氏の呼吸音を評価します。

基礎編同様、学生は「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイング形式で実施します。

「看護師役」は聴診器を用いて「患者役」の呼吸音の聴取を行い、正常か異常か、病態は回復過程に向かっているか、合併症を起こしていないかなどを評価します。

目標は、正常呼吸音と異常呼吸音の区別ができること、聴診器から得た呼吸音という情報を統合して、アセスメントできることです。

この演習を行っている時点で学生は、まだ病棟実習を行っていません。そこでベッドサイドで患者さんに向き合った状態がイメージできるよう演習が組まれていきます。

まずは全員で集まり、術後の患者であるA氏の状況について推論します。

肺炎を併発し人工呼吸器で管理していたA氏が、気管チューブを抜いて翌日病棟に上がってきた段階であれば、患者さんはまだベッド上安静かもしれない、会話もあまりできないかもしれない、また痰が多いかもしれない、痰が多いのであれば咳も出ているかもしれない、すると呼吸音は異常呼吸音として聞こえるかもしれないなど、さまざま情報を学生が出し合いディスカッションします。

このような思考を踏んだうえで、ではどのように聴診をすればよいか、どのような体勢で、胸のどこに聴診器を当て、何に気をつけて聴診すればよいか、それらを臨床推論したうえで、教員とディスカッションを行い、イメージを具体化してからデモンストレーションに進みます。

聴診の実技演習では、まずは全員で事例を踏まえ、A氏の状況について推論を行う聴診の実技演習では、まずは全員で事例を踏まえ、A氏の状況について推論を行う

デモンストレーションは、呼吸音聴診シミュレーターを用いて実施します。ベッドに寝かせたシミュレーターや机に立てたシミュレーターを前に教員が、どこの位置に聴診器を当て、どのような声がけで聴診を進めればよいかを解説します。

例えば、胸に手術創がある人では、呼吸のたびに傷に響いて痛むことがあり、呼吸も浅くなってしまいます。そこで大きく息を吸ってくださいと声がけし、深呼吸を促しながら聴く必要があるなどです。

シミュレーターを使いながらも現実に起こりうる状況を説明しつつ演習していきます。

デモンストレーションは、呼吸音聴診シミュレーターを使って行うデモンストレーションは、呼吸音聴診シミュレーターを使って行う

教員がシミュレーターを前にどの位置に聴診器を当て、どのように進めればよいかを説明する教員がシミュレーターを前にどの位置に聴診器を当て、どのように進めればよいかを説明する

「フィジカルアセスメント(応用編)聴診」の到達点は次のとおりです。

  1. フィジカルイグザミネーションのそれぞれの手法について理解できる。
  2. フィジカルイグザミネーションで正常と異常の区別ができる。
  3. フィジカルイグザミネーションから得た情報を統合しアセスメントすることができる。

実技演習の「血糖測定」、具体的な内容と方法は?

「血糖測定」では、事例に沿って術後患者であるA氏の血糖測定を行います。

まず、血糖測定を行うにあたり、全員で事前学習を踏まえて必要なキーワードを挙げ、ホワイトボードに記して共有します。その際、なぜ事例のA氏に血糖測定が必要になるのかも加味して考えます。

例えば、A氏の糖尿病の既往、1日の血糖の推移、どんな薬を服用しているかなど事例から読み取れる情報だけでなく、A氏の現在のADLや意識レベルなどにも目を向け、声がけのあり方や血糖測定に適した体位などを皆で考えてから技術演習に入ります。

事前学習を踏まえ、演習に必要なキーワードをホワイトボードに書き出して共有する事前学習を踏まえ、演習に必要なキーワードをホワイトボードに書き出して共有する

他の「実技演習」と同様、学生は「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイングを行います。「患者役」は事例のA氏となり、「看護師役」がA氏の血糖測定を行います。「観察者」は看護師の実演を観察してフィードバックします。

血糖測定は、指先を穿刺するため出血を伴い、多少痛みを伴う侵襲的な技術です。そのため怖さもあり感染対策も行わねばならず、どうしても患者さんの個別性へ向ける視点よりも技術的な手技の厳密さや手順に目が向きがちです。そこで指導者が時折介入して、術後であるA氏という事例のシチュエーションにも目を向けられるようにします。

例えば、“Aさんは呼吸状態が悪いため咳嗽が悪化することもあるが、このとき血糖測定と呼吸の援助のどちらを優先するべきか”などの投げかけを行い、演習を深めていきます。

ここでも学生は「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイングを行うここでも学生は「患者役」「看護師役」「観察者」に分かれてロールプレイングを行う

血糖測定は侵襲を伴う技術のため、演習中の眼差しも真剣血糖測定は侵襲を伴う技術のため、演習中の眼差しも真剣

「血糖測定」の到達点は次のとおりです。

  1. 血糖測定の適応となる対象について説明できる。
  2. 血糖測定の手順と主義の留意点を説明できる。
  3. 血糖測定を安全・安楽に実施できる。

<後編>では、臨地実習にあたる「病棟実習」と「統合実習」について解説します。

成人看護学実習<後編>はこちらから。

成人看護学実習<前編>はこちらから。

【監修・解説者プロフィール】

原 三紀子 先生

【監修】原 三紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 教授>

2004年東京女子医科大学看護学部講師、2014同大同学部准教授を経て、2018より現職。
専門は、難病看護、脳神経看護、リハビリテーション看護、看護継続教育。
執筆に、「看護学生によるリハビリテーション病院でのコーラスボランテイア活動」日本リハビリテーション看護学会7(1)p70-1,2017.「患者ニードに基づいた脳・神経疾患-アセスメントスキルを身につけよう-まるわかり疾患編 脳血管障害」ナース専科 36(9)p12-21,2017.など多数。
監修・執筆に、佐藤紀子総監修/原三紀子監修『看護に役立つ病態生理』(エス・エム・エス)、原三紀子他『系統漢語講座 別巻リハビリテーション看護』(医学書院)、氏家幸子監修『成人看護学D 成人看護学・リハビリテーション患者の看護』第11章 脳神経障害患者(パーキンソン病)(廣川書店)など多数。

原沢のぞみ 先生

【解説】原沢のぞみ 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 准教授>

佐藤由紀子 先生

【解説】佐藤由紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>

桑原 亮 先生

【解説】桑原 亮 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>

鈴木香緒理 先生

【解説】鈴木香緒理 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>

山内英樹 先生

【解説】山内英樹 先生
<東京情報大学看護学部看護学科 成人・高齢者看護分野 教授(元東邦大学看護学部講師)>

申 于定 先生

【解説】申 于定 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>

執筆者情報

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東邦大学看護学部/ 大学院看護学研究科 成人看護学研究室

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