成人看護学実習<後編>|「病棟実習」とは? スケジュール、患者さんの受け持ち方、看護過程の展開など

成人看護学実習<後編>|「病棟実習」とは? スケジュール、患者さんの受け持ち方、看護過程の展開など

最終更新日:2024/06/11

看護学実習は、看護師をめざす看護学生にとって、座学で学んだ内容を医療の現場で活用できるよう、知識と技術と実践の統合を行う場であり、重要な学習の機会となります。
このコーナーでは、東邦大学看護学部の各研究室監修のもと、主な専門分野の看護実習について、これから実習を受ける看護学生がイメージしやすいようにできるだけ具体的に紹介します。
成人看護学実習<後編>では、いわゆる臨地実習といわれる「病棟実習」について解説します。

「病棟実習」とは? 目的・目標・到達点は?

「病棟実習」は、病棟という臨床現場に出て患者さんを受け持ち、疾患や障害をもつ対象者に対して個別的な看護に取り組みます。

患者さんのもつ疾患や障害、立場・役割、生活状況、疾患に関する検査結果や診療記録などをアセスメントして看護問題を見出し、問題解決のための看護目標を立て、目標に向かって看護計画を立案、実施し、評価します。これらを思考の流れ記録として記載していきます。

この一連の流れを通して、対象者の健康の回復、QOLの維持・向上をめざす看護の専門性について考え、自らの看護観を深めることが、病棟実習の目的となります。

目標は、学生が思考過程を踏み、基礎で学んだことにきちんと意味づけができるようになること。そうして成人看護学の「7つの到達目標・行動目標」に到達できるようになることを目指します。

病棟実習の期間と具体的なスケジュール

「病棟実習」は、3年次の秋学期に実施する4週間の「成人看護学実習」のうちの3週間を占めています。第1週目にオリエンテーション、見学実習、技術演習を行い、第2週目から病棟実習に移行します。

病棟実習に入る学生は、1クールにおよそ36人です。36人が6人ずつのグループに分かれ、一斉に6つの病棟で実習を行います。

病棟実習は毎週3回続けて行います。病棟では「中間カンファレンス」も行います。中間カンファレンスは、病棟実習のちょうど中間の時期に行われ、病棟の実習指導者、学生、教員でディスカッションを行う「貴重な機会です。受け持ち患者さんの病態を捉えられているか、看護問題が見えているかを確認しあい、どんな看護が必要かについて皆でディスカッションします。

最終週である4週目には、2回の病棟実習と、「最終カンファレンス」を行い、実習で学んだことを共有します。カンファレンスには病棟管理者も加わり、病棟最後の最終カンファレンスです。さらに翌日には教員と学生が個別で面談し、病棟実習の総合的な振り返りを行います。また、最終日には「まとめ」を行います。

(再掲)
am pm am pm am pm am pm am pm
1 オリエンテーション
演習・実習前面談
見学実習
手術室
見学実習
ICU
学びの統合 技術演習
2 病棟 病棟 病棟 学びの統合 病棟
3 病棟
看護の視野を広げる演習
病棟 病棟 祝日 病棟
4 倫理演習
記録指導
病棟 病棟 評価面談
記録整理
まとめ
実習記録提出

「学びの統合」とは?

病棟実習中には、定期的に「学びの統合」という時間をもちます。学びの統合は学内での自己学習などにより、学生が個々に実習で得た知識や経験を整理・統合する時間となります。

具体的には、見学実習や技術演習での学びを病棟実習につなげるために整理したり、病棟実習で得た情報を学生同士で共有し振り返ったり、次の病棟実習に向けて思考を整理し、調べ学習を行いながら看護計画を立案します。受け持ち患者さんのために指導用パンフレットを作成するなどもこの時間に行います。

病棟実習にも「事前課題」があるの?

病棟実習に入る診療科によって、必要となる知識や看護技術は異なります。そこで病棟実習に入る前には、実習を行う病棟の診療科に合わせた「事前課題」が出され、学生は事前の準備学習を行います。

テーマは、診療科に特有の疾患・病態、検査・治療、看護に関するものとなります。もちろんこれ以外にも、人体の機能や構造、疾患の成り立ちなどの基礎的な知識について各自で振り返り、復習しておくことも欠かせません。

例:事前課題一覧

病棟 事前課題
A病棟 【主な疾患・病態】
・虚血性心疾患、心不全、不整脈
【検査・治療】
・12誘導心電図、心臓カテーテル検査
・心臓リハビリテーション
【看護】
・循環機能に障害を持つ対象への看護
B病棟 【主な疾患・病態】
・肺がん、気胸
【検査・治療】
・レントゲン、気管支鏡検査、肺機能検査
・胸腔鏡下肺葉切除術
・呼吸リハビリテーション、退院支援
【看護】
・呼吸機能に障害がある対象への看護
C病棟 【主な疾患・病態】
・大腸がん、胃がん、食道がん
【検査・治療】
・内視鏡検査、造影検査
・ストーマケア、食事支援
【看護】
・消化・吸収機能に障害がある対象への看護
D病棟 【主な疾患・病態】
・変形性膝関節症、変形性股関節症、腰部脊柱管狭窄症
【検査・治療】
・レントゲン、ROM、MMT
・運動器リハビリテーション
【看護】
・運動機能に障害を持つ対象への看護
E病棟 【主な疾患・病態】
・脳血管障害(脳梗塞、脳内出血、クモ膜下出血)
・脳腫瘍(原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍)
【解剖生理】
・脳の機能と構造・脳動脈の名称と灌流領域
【看護】
・脳血管障害・脳腫瘍の看護のポイント
F病棟 【主な疾患・病態】
・心不全、大腿骨骨折(頸部・転子部)
【検査・治療】
・12誘導心電図、心臓カテーテル検査、心臓リハビリテーション、骨接合術、人工骨頭置換術
【看護】
・循環機能、運動機能に障害を持つ対象への看護

病棟実習の実際、受け持ち患者や看護過程の展開について

患者さんの受け持ち方と決め方

原則として学生1人に対して1人の患者さんを受け持ちます。ただし最近は、在院日数が短くなり、数日で退院する患者さんもいるため、場合によっては実習期間中に2人や3人を受け持つこともあります。

受け持ち患者さんの決定の仕方は、病棟によって異なりますが、基本的には実習初日の朝に病棟から患者さんを紹介いただき、教員と学生で相談しながら決定します。学生の希望や事前学習してきた内容に沿って決めることもあります。

看護過程の展開の仕方と具体的なペース

病棟実習では、実際に看護過程を展開できるようになることを目指しています。本学では、学生は2年次と3年次の春学期にかけて看護過程を勉強してきていますが、これらは机上の学習です。
病棟実習では、これまでの学びをもとに実際の患者さんに対して看護過程を展開しています。例えば、脳神経外科で言語的なコミュニケーションが取れない失語症の患者さんを受け持ったとします。

このとき患者さんが抱えている問題は何か、それを解消するためには何が必要かを考えるところから看護過程はスタートします。まずは患者さんの病態を理解することが必要ですし、患者さんのニーズをくみ取るための信頼関係の構築やコミュニケーションスキルも大切です。その上で、患者さんのニーズに応えるための看護目標を立て、目標に向かうための看護計画を立てて実施していきます。
このとき患者さんの疾患や症状だけでなく、成人期にある対象者に特有な社会的立場や役割、職業、今後の生活の仕方などを総合的に把握し、社会復帰を見据えてセルフケアができるような支援につなげることを目指します。
こうして作った看護計画は修正・実施をくり返して、最終的に退院と退院後の生活に向けて展開していきます。これが看護過程の展開です。

ただし病棟実習は3週間しかありませんので、だいたい1週目で患者さんの情報を収集し、2週目に行われる中間カンファレンスくらいまでに看護計画の方向性を決め、看護過程の展開に入るというペースで進めることが多いようです。

成人看護学実習を通して学びたいことは

成人看護学の学びを踏まえ、実際に病棟に出て、成人期にあたる患者さんを受け持つという経験を通して、看護師として今自分が患者さんの人生のどの部分にかかわっているのか、その先に何が見えるのかなど、長いプロセスのなかで対象者と看護を捉えられるようになることが、成人看護学実習の学びです。

それまでに学んできた基礎看護分野の知識だけでは、成人看護学実習で求められる個別的な看護は行えません。そういった面では、ゼロからのスタートになるといえるでしょう。ですから、これまでの学びを実習の場で再現するのではなく、患者さんを軸にした新たな視点を獲得していくことが学びにつながります。

「成人看護学統合実習」とは? 目的・目標・到達点は?

「成人看護学統合実習」は、成人看護学の実習を踏まえ、より実践に即した形で行う実習で、これまでの実習の体験や知識を臨床実践に統合し、まとめ上げていくものです。この実習は4年時の春学期に実施します。

外来から病棟への継続看護の実践、保健・医療・介護の実際に対する理解、チーム医療の一員としての役割を果たす能力などについて経験し、学生自らが考察を深めることを目的としています。特に、医療チームの一員として、成人期にある対象者を受け持ち、健康問題の優先順位の決定、看護職および他職種とのチーム連携について経験することを重視しています。

「到達目標・行動目標」は次のようになります。

  1. 健康問題をもつ対象者を全人的に捉え、看護計画を立案できる。
  2. 対象の個別性を踏まえた看護実践が行える。
  3. チーム医療における看護師の役割、多職種との協働について説明できる。
  4. 実習を通して学んだことを具体的に表現(言語化・記述)できる。
  5. 看護学生として、かつ医療チームの一員として責任ある行動をとり、主体的に学べる。

統合実習に向けては、3年次にそれまでに終えた実習・演習を踏まえ、課題の明確化を図り、統合実習の目標を立てます。

具体的な内容としては、治療中の患者や初めてかかわる患者さんを想定したコミュニケーション(インタビューイング)の実践、患者さんの全身のフィジカルエグザミネーションを通して、何がわかったかや患者さんの安全・安楽への配慮に関するデブリーフィング、術後患者さんのシチュエーショントレーニングとして、フィジカルエグザミネーションから離床判断のアセスメントができているかのデブリーフィング、患者さんの退院の場面では多職種がどのように協働し支援するのかを話しあうことがポイントになります。

また、意思決定支援や退院支援などで特に重要となる多職種協働において、看護師として患者さんの意向を吸い上げてチームに届けられるよう、きちんと話し合いに参加し、的確な報告ができるようになることを目指します。

なぜなら患者さんが受け持ち看護師に対して、人生の選択にかかわるような思いを言葉にするケースは少なくありません。それをチームに届けることは、患者さん自らが望む姿に近づける看護につながっていきます。このような看護の力を強化することも一つの到達点となります。

図1 臨床実践への統合ならびに統合実習の位置づけ図1 臨床実践への統合ならびに統合実習の位置づけ

臨床実践への統合/統合実習臨床実践への統合/統合実習

統合実習の期間・スケジュールは?

統合実習の期間は2週間です。オリエンテーションから始まり、調べもの学習や情報整理をはさみ、記録のまとめ・評価面談、学びの統合で終了となります。4年生全員が行うわけではなく、希望制で例年13〜16人ぐらいが受講しています。

成人看護学実習と統合実習の違いは?

成人看護学実習では、患者さんや家族を中心に臨床実践を行いますが、統合実習では、多職種とともにチームの一員として看護を展開するということを想定しています。看護師として働く自分をよりイメージできるものとなります。

学生が患者さんを受け持ったときに、患者さんにはどのような人たちがかかわっているかを把握し、その人たちとどのように協働できるか、自分にどのような役割があるかを考えられることが狙いです。

また、統合実習の最終段階では、多職種連携のあり方と看護支援について、すべての学生が発表を行います。

成人看護学の統合実習における特徴

当大学の統合実習では、終了の際に下記の提出物の提出を課しています。

  1. 患者プロフィール
  2. アセスメント
  3. 関連図
  4. 全体像・看護問題リスト
  5. 看護計画
  6. 行動計画
  7. カンファレンス記録
  8. その他(学習資料、パンフレット等)
  9. 自己評価表
  10. 看護の礎

1~9は、実習にとって必要な提出物ですが、10の「看護の礎」は実習を受けた上での課題となります。これまでの実習経験などの学びから、醸成されてきた自身の看護観を表すキーワードを挙げるという成人看護学領域に特有の課題です。

発表時間を設け、振り返りとともに学生全員が「看護の礎」について発表します。さらに発表の内容は4年間の集大成として冊子にまとめています。この冊子が学生にとって、看護の道を歩むなかでの原点となることを期待しているものです。

「看護の礎」「看護の礎」

成人看護学実習<前編>はこちらから。

成人看護学実習<中編>はこちらから。

【監修・解説者プロフィール】

原 三紀子 先生

【監修】原 三紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 教授>

2004年東京女子医科大学看護学部講師、2014同大同学部准教授を経て、2018より現職。
専門は、難病看護、脳神経看護、リハビリテーション看護、看護継続教育。
執筆に、「看護学生によるリハビリテーション病院でのコーラスボランテイア活動」日本リハビリテーション看護学会7(1)p70-1,2017.「患者ニードに基づいた脳・神経疾患-アセスメントスキルを身につけよう-まるわかり疾患編 脳血管障害」ナース専科 36(9)p12-21,2017.など多数。
監修・執筆に、佐藤紀子総監修/原三紀子監修『看護に役立つ病態生理』(エス・エム・エス)、原三紀子他『系統漢語講座 別巻リハビリテーション看護』(医学書院)、氏家幸子監修『成人看護学D 成人看護学・リハビリテーション患者の看護』第11章 脳神経障害患者(パーキンソン病)(廣川書店)など多数。

原沢のぞみ 先生

【解説】原沢のぞみ 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 准教授>

佐藤由紀子 先生

【解説】佐藤由紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>

桑原 亮 先生

【解説】桑原 亮 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>

鈴木香緒理 先生

【解説】鈴木香緒理 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>

山内英樹 先生

【解説】山内英樹 先生
<東京情報大学看護学部看護学科 成人・高齢者看護分野 教授(元東邦大学看護学部講師)>

申 于定 先生

【解説】申 于定 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>

執筆者情報

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東邦大学看護学部/ 大学院看護学研究科 成人看護学研究室

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