成人看護学実習<前編>|どんな科目? 何を学ぶ? 目標・到達点、スケジュール、事前課題など
最終更新日:2024/08/21
看護学実習は、看護師をめざす看護学生にとって、座学で学んだ内容を医療の現場で活用できるよう、知識と技術と実践の統合を行う場であり、重要な学習の機会となります。
このコーナーでは、東邦大学看護学部の各研究室監修のもと、主な専門分野の看護実習について、これから実習を受ける看護学生がイメージしやすいようにできるだけ具体的に紹介します。
成人看護学実習<前編>では、成人看護学の実習について全体の概要を解説します。
成人看護学はどんな科目?
一般的には、青年期から老年期の間にある人とその家族を対象にした看護とされています。小児看護学や老人看護学など、ほかの看護学分野と比べると、ライフサイクルのなかの最も長い期間を対象としています。
対象者は、幅広いライフイベントを体験する人たちであり、社会的にもさまざまな役割をもっていることが多くなります。対象者には家族も含まれるため、家族との関係性からより複雑な看護展開が必要になることもあります。
また、病期の経過別でみても急性期、周術期、回復期、慢性期、リハビリテーション期、終末期とあらゆる健康レベルにある人を対象とします。そこで健康増進、疾病の予防、疾病からの回復促進、慢性疾患のコントロール・維持、緩和ケア、エンド・オブ・ライフケアなど、それぞれの健康レベルに適した幅広い看護が求められます。
成人看護学では、その基盤となる理論や援助技術を学びます。そういう意味では、臨床看護学の中核となる領域にあるといえるでしょう。
何年生からどんなことを学ぶ?
当大学では、2年次の春学期から「成人看護学概論」が始まります。ここでは成人各期の身体的・社会的特徴や発達課題、成人各期に特有の健康問題や対象の理解を深めるための理論について学びます。
2年次の秋学期には「成人看護学Ⅰ」が始まり、急性期と周術期について学びます。急激に起こった健康障害によって生命の危機状態にある対象に対し、回復への援助や生活への再構築を促す援助の方法を学びます。
3年次の春学期には「成人看護学Ⅱ」が始まり、ここでは慢性期とリハビリテーション期について学習します。長い経過をたどる健康問題をもつ対象を理解し、セルフケア能力を高めるための援助の方法を学びます。
これらの学習を経て3年次の秋学期から、「成人看護学実習」に入ります。
成人看護学実習はどんな内容?
成人看護学実習では、成人期にある入院患者さんを受け持ちます。急性疾患や慢性疾患によるさまざまな健康問題を解決するために、必要な看護援助を実践できる能力を養うことが目的になります。
実習で最も重視しているのは、対象者を全人的に捉えることです。この視点を保ちながら対象者の個別性を踏まえ、看護過程の展開を通して、患者さんの健康の回復、QOLの維持・向上を目指す看護について取り組みます。
こうして学生は、受け持ち患者さんへの看護の実践を通して看護の専門性について考え、自分の看護観を深めていきます。
実習の具体的な目標と到達点は?
当大学の成人看護学実習には、次のような「7つの到達目標・行動目標」があります。
- 手術室・集中治療室の環境や構造、看護師の主な役割について理解して記述をすることができる。
- 学内演習において基本的な看護技術を安全・安楽に実施し評価することができる。
- 成人期にある対象を全人的に捉え、説明することができる。
- 対象者が抱える看護上の問題を明確にし、看護過程を展開し記述することができる。
- 看護介入を通して患者―看護師関係を発展させることできる。
- 医療チームの一員として責任ある行動をとり主体的に学ぶことができる。
- 実習を通して学んだことを具体的・理論的に記述することができる。
疾患看護の実習であれば、まずは疾患に目を向けます。例えば、肺炎の患者さんを対象とするとき、肺炎の病態・症状・治療と検査・経過などをまずは理解していきます。しかし成人看護学実習では、人=対象者に焦点を当てることが特徴となります。そこで患者さんの全体像を捉え、病気だけではなく生活や社会的な役割にも注目することが重要になります。
成人看護学実習では、それまで学習してきた成人看護学の授業内容をベースにして「事前課題」を行い、手術室とICUの「見学実習」を行い、学内で「患者中心の看護を実践するための技術演習」、病棟での「病棟実習」へと進んでいきます。
実習はどのくらいの期間行う? 履修単位・期間・スケジュール
成人看護学実習は、4単位180時間行います。開始時期は3年次の秋学期から、期間は9月から翌年1月までの間の4週間です。
110人程の学生全員が一緒に実習を行うことは難しいため、36〜40人ごとにA・B・C の3つのグループに分かれ、各グループが時期や時間をずらして実習していきます。
実習の始めは「オリエンテーション」です。全体オリエンテーションはオンデマンドで実施し、7~8月にかけて夏休み中に行います。
9月に入りいよいよ実習が始まると、初日にはグループ別に「実習オリエンテーション」を行います。また、病棟に応じて決められた課題が提示されます。その後、「見学実習」を行ったあとで、「学びの統合」として、それまでに学んだ知識や経験を記述し、整理するための時間があります。また、学内で「患者中心の看護を実践するための技術演習」も行います。
これらは病棟に出るための準備学習にあたります。そしていよいよ2週目から病棟実習へと進みます。
実習スケジュールの例
週 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
am | pm | am | pm | am | pm | am | pm | am | pm | |
1 |
オリエンテーション 演習・実習前面談 |
見学実習 手術室 |
見学実習 ICU |
学びの統合 | 技術演習 | |||||
2 | 病棟 | 病棟 | 病棟 | 学びの統合 | 病棟 | |||||
3 |
病棟 看護の視野を広げる演習 |
病棟 | 病棟 | 学びの統合 | 病棟 | |||||
4 |
倫理演習 記録指導 |
病棟 | 病棟 |
評価面談 記録整理 |
まとめ 実習記録提出 |
夏休みに始まる「事前課題」とは? 内容・勉強方法
成人看護学では、東邦大学の2つの附属病院に分かれて病棟実習を行います。
9月、実習が開始される初日、実習先の病棟の診療科に応じたテーマで「事前課題」が提示されます。学生にはあらかじめ、どの病棟で実習に入るのか事前に伝えていますので、配属される診療科に特有の疾患について病態や検査・治療を調べたり、必要となる看護や看護技術について復習するなどして準備してもらいます。
また当大学では、「Nursing Skills」※という看護技術のオンライン教育ツールを導入しており、テキストや動画を通して基本的な手技の確認を行うことができるため、これを利用して事前準備をする学生も多くいます。
※エルゼビアジャパン株式会社が提供するオンライン教育ツール
実習施設 | 病棟 | 診療科 |
---|---|---|
附属病院 | A病棟 | ICU、循環器内科・外科 |
B病棟 | 呼吸器内科・外科 | |
C病棟 | 消化器内科・外科 | |
D病棟 | 整形外科 | |
E病棟 | 脳神経外科、神経内科、耳鼻科、リウマチ科 | |
F病棟 | 眼科、循環器内科、形成外科、糖尿病代謝内科 |
「見学実習」とは? 何を見学するの? 目的と目標・到達点は?
「見学実習」は、実習がスタートする第1週目に行います。実習場所は、手術室と集中治療室(ICU)となります。学生は6~7人ずつの小グループに分かれ、タイムスケジュールに沿って見学します。
実習先となる東邦大学医療センター附属病院は急性期病院のため、学生は病棟実習で手術を受ける患者さんを受け持つことが多くなります。周術期の患者さんは、手術室に入り、術後は侵襲の度合いによってはICUで集中的に術後管理を行ってから病棟に戻ります。
このように経過によって治療や療養の場所が変わっていくことから、特徴的な流れに触れてもらうことを目的として、手術室とICUを見学先としています。
この見学の目標と到達点は、「7つの到達目標・行動目標・行動目標」の「1」にあるように、手術室とICUがどのような治療環境であり、構造であるかを知ること、そして看護師の役割を理解し、自分のものとして説明できるようになることが到達点となります。
手術室の見学実習、具体的な内容と方法は?
手術室の見学実習では、手術室の環境とその設備、清潔・不潔区域の区別、看護師の役割(器械出し・外回りなど)を見学します。また麻酔をされて意識のない患者さんにとって不利益にならないように、看護師がどのように看護していくのかという視点についても学びます。
さらに手術室では、臨床工学技士や放射線技師などの他職種もかかわるため、どのように多職種によるチーム医療が行われるかも見学します。
学生は小グループに分かれて異なる手術室に入ることから、グループごとにどの術式や手術場面に立ち会うかが異なってきます。そこで見学後にはカンファレンスの時間を設け、他のグループメンバーとそれぞれが得た情報、お互いの学びや気づきの内容を共有することで、さらに手術室における看護師の役割や病棟の看護とのつながりについても理解を深めます。
集中治療室(ICU)の見学実習、具体的な内容と方法は?
ICUの見学実習では、治療環境とその設備、看護師の役割を見学します。ICUでは患者さんの合併症を予防して、できるだけ早期に離床を促し、回復を促進します。そのためにはどういった看護が必要かを見学から学びます。
また、ICUでは多職種がかかわり、チーム医療を行うといった特徴があるため、医師、薬剤師、理学療法士などがどのように連携して、患者さん中心の医療を提供していくかを見学していきます。
手術室と同様、学生は小グループに分かれて異なる患者さんのベッドサイドを見学するため、どの治療経過に立ち会うかが異なってきます。そこで見学後にはカンファレンスの時間を設け、他のグループメンバーとそれぞれが得た情報、お互いの学びや気づきの内容を共有することでさらに集中治療における看護師の役割や病棟の看護とのつながりについて理解を深めます。
見学実習の「事前課題」と実習後の「提出物」は?
見学実習の「事前課題」は、手術室とICUについて、それぞれの到達目標・行動目標を実現するために必要な、環境や設備、看護師の役割などについて下調べをすることが課題となります。
実習後の「提出物」は、手術室とICUのそれぞれについて「見学実習記録」があります。記録には、実習の目的、見学内容とそこからの学び・気づき、カンファレンスでメンバーと共有した内容を記入します。
この記録の最後には、自身の学びや気づきを病棟実習につなげて考えるための「病棟実習に向けての方策」という欄があります。ここでは見学実習中に得たこと、例えば、ICUで看護師が患者さんの職業や今後の生活を踏まえたリハビリテーションを行っていたこと、手術室で褥瘡や拘縮を予防する体位が取られていたことなどを、その後の病棟看護にどのようにつなげていくかを考察します。
<中編>では、病棟実習前に学内で行う「実技演習」について解説します。
【監修・解説者プロフィール】
【監修】原 三紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 教授>
2004年東京女子医科大学看護学部講師、2014同大同学部准教授を経て、2018より現職。
専門は、難病看護、脳神経看護、リハビリテーション看護、看護継続教育。
執筆に、「看護学生によるリハビリテーション病院でのコーラスボランテイア活動」日本リハビリテーション看護学会7(1)p70-1,2017.「患者ニードに基づいた脳・神経疾患-アセスメントスキルを身につけよう-まるわかり疾患編 脳血管障害」ナース専科 36(9)p12-21,2017.など多数。
監修・執筆に、佐藤紀子総監修/原三紀子監修『看護に役立つ病態生理』(エス・エム・エス)、原三紀子他『系統漢語講座 別巻リハビリテーション看護』(医学書院)、氏家幸子監修『成人看護学D 成人看護学・リハビリテーション患者の看護』第11章 脳神経障害患者(パーキンソン病)(廣川書店)など多数。
【解説】原沢のぞみ 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 准教授>
【解説】佐藤由紀子 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>
【解説】桑原 亮 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>
【解説】鈴木香緒理 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 助教>
【解説】山内英樹 先生
<東京情報大学看護学部看護学科 成人・高齢者看護分野 教授(元東邦大学看護学部講師)>
【解説】申 于定 先生
<東邦大学看護学部/大学院看護学研究科 成人看護学研究室 講師>