ツアーナースとは?仕事内容、給料事情からやりがいまで働き方を解説

ツアーナースとは?仕事内容、給料事情からやりがいまで働き方を解説

最終更新日:2023/12/14

旅行、課外活動先で参加者の健康を管理するツアーナース。病棟での働き方とはさまざまな点で異なります。今回は、ツアーナースとして学生の修学旅行に付き添い経験のある看護師の話をもとに、仕事内容や給与事情、向いている人などを深掘りします。ぜひ参考にしてください。

ツアー参加者の健康を守るツアーナース

ツアーナースとは、企業の団体旅行や学校の修学旅行、宿泊行事などに付き添い、参加者の体調を管理したり急病や怪我の際に対応したりする看護師のことです。

この章ではツアーナースの役割や勤務形態について解説していきます。

ツアーナースの役割

ツアーナースの役割は、旅行や課外活動中の参加者が安全に過ごせるように健康管理や体調不良時に対応することです。

不慣れな旅行先で怪我や体調不良などが起こった時、添乗員や引率の先生だけでは対応が難しい場面があります。専門知識のある看護師が付き添うことで、万が一の時に適切に対応できるため、参加者は安心して旅行や活動を楽しむことができるわけです。

ツアーナースの雇用・勤務形態

ツアーナースの雇用形態は、基本的に単発・派遣です。時期によって繁忙期と閑散期があるため、ツアーナースの仕事は不定期になる場合がほとんどです。

案件の日程や仕事内容によって異なりますが、同行中はいつ参加者の体調不良が起こるかわからないため、勤務時間は基本的に24時間と考えておいたほうが良いでしょう。

病院やクリニックで働く看護師との違いは?

病院やクリニックで働く看護師とツアーナースでは、働き方や職場環境、仕事内容などさまざまな点で異なります。以下の表は病院・クリニックで働く看護師との違いをまとめたものです。

病院・クリニックナースとの違い

病院・クリニック ツアーナース
雇用形態 正社員、非常勤、派遣などさまざま 基本的に派遣・単発
勤務形態 勤務時間や日数が明確
例:日勤・交代制・夜勤専従など
勤務時間、日数が不明確
※宿泊の場合は基本的に24時間体制
職場環境 複数の看護師や医療従事者と連携できる 医療従事者は基本的に看護師1~2名で参加
※規模の大きいツアーの場合は複数の場合もある
仕事内容 医師の診療補助や患者さんの療養上のお世話など ツアー参加者の健康状態の把握、体調不良時の初期対応

病院やクリニックでは、雇用形態によって勤務形態はさまざまですが、それぞれの勤務時間は明確です。一方、ツアーナースはほとんどが単発の仕事であるため、勤務できる時期や勤務時間は不明確になりやすい傾向です。

また職場環境の面では、複数の医療従事者と働く病院やクリニックとは異なり、基本的にツアーナースは1人または2人での勤務です。そのため、参加者の体調不良時などは自らアセスメント・判断して対応する必要があります。

ツアーナースの仕事内容とスケジュール例

ここからはツアーナースの仕事内容や1日のスケジュール例を具体的に解説していきます。

ツアーナースの具体的な仕事内容

ツアーナースの仕事内容を以下の表にまとめました。

ツアーナースの業務一覧
健康状態の把握 ● ツアーに同行し参加者の様子を観察する
● アレルギーや持病などの事前チェック
※健康チェック表などがあれば確認する
怪我や体調不良時の初期対応 ● 応急処置
 患部にガーゼや絆創膏を貼る
 一次救命処置
● 検温や脈拍測定のバイタルチェック
● 体調不良者の環境を整備する
● 病院へ付き添う
食事内容のチェック ● アレルギー対応になっているか確認する

ツアーナースの仕事内容は、参加者の健康状態の把握と怪我や体調不良時の初期対応があげられます。ツアー当日に参加者と初対面となるため、できるだけ早く健康状態を把握することも必要でしょう。

またツアー中、特に気をつけたいのは食物アレルギーです。参加者のアレルギー発症リスクを避けるためにも食事内容は注意深く確認する必要があります。

前日準備と当日のスケジュール例

今回は高校生の修学旅行に参加したときのツアーナースのスケジュール例を紹介します。同行中の仕事内容とツアー前日の準備も合わせて解説しますので、参考にしてみてください。

前日準備

前日までに派遣会社から送られてくるツアーの概要を確認し、荷物や服装を準備します。事前に打ち合わせがある場合は、持ち物や注意事項などで気になった点を確認しておくと良いでしょう。

現地の状況を踏まえて、どんな怪我や体調不良が起こりやすいかなど予測し、それに合わせた対応なども事前にイメージしておくことも大切です。

ツアーナースの勤務スケジュール例

以下は修学旅行当日のスケジュール例を表にまとめたものです。

修学旅行に同行するときのスケジュール例

ツアーナースの仕事は参加者の健康状態、旅行中の注意点や観察事項を把握するところから始まります。ツアー中は参加者が気軽に体調面の相談ができるように、コミュニケーションが取りやすい距離を心がけ、異常時はすぐに対応できるようにしましょう。

また宿泊先の食事や環境面のチェックも欠かせません。アレルギー対応の食事になっているか、蕎麦アレルギーの人の枕が蕎麦がら枕になっていないか、など細かく確認します。

2日目以降の仕事内容も、基本的に1日目と同じ流れです。最終日は、初日の集合場所(駅または空港)で解散します。ツアー後の仕事はほとんどありませんが、学校や派遣会社から指示があれば従いましょう。

同行中によくある症状・怪我

ツアー同行中によくある症状や怪我は以下のとおりです。

  • 頭痛
  • 擦り傷(擦過傷)
  • 発熱
  • 熱中症

宿泊行事は、非日常的な環境から体調不良や怪我が起こりやすい状況です。これらの症状や怪我をはじめ、あらゆる状況を想定し適切に対応できるよう、事前にイメージしておきましょう。

現地に入ってからも休憩場所やトイレ、施設管理室の場所など、周辺の環境に目を光らせておくことも大切です。

体調不良が出た時の対応例

同行中、参加者に体調不良が出た際、ツアーナースは具体的にどのように対応するのかを紹介します。紹介するのは一例なので、参加したツアーの状況に合わせて対応しましょう。

対応例1:スキー研修中に発熱したとき

季節的にさまざまな感染症の可能性が考えられたため、他の生徒に蔓延するリスクも考え、生徒本人と話し合い、納得したうえで帰宅していただいた。

体調不良や怪我で旅行を継続できなくなるのは、参加者にとって辛いことです。看護師が一方的に説明するだけでなく、参加者本人の話を聞きながら気持ちに共感し適切な対応を心がけましょう。

対応例2:離島の海水浴中に生徒が目を怪我したとき

患部を清潔なガーゼで覆い、引率の先生方へ報告。相談のうえ、緊急で船を手配し病院を受診していただいた。その後医師の許可があり、旅行は継続となった。

緊急に病院受診が必要であると判断した場合、最終的に決定するのは学校側です。体調不良者の状況や予測されること、受診が必要な理由を正確に説明しましょう。

経験者が語る~ツアーナースのやりがいや大変なこと

ここからは、ツアーナース経験のある看護師が、ツアーナースのやりがいや大変なこと、給料事情まで紹介します。

看護師プロフィール

まる さん

まる さん

新卒から3年間、8科急性期病棟を経験。その後5年間、ツアーナースや美容クリニックなどさまざまな現場で活躍する。現在は急性期病院のオペ室看護師として業務に携わっている。

ツアーナースになった理由は?

ツアーナースの仕事を紹介していただき興味をもったことがきっかけです。実際にツアーナースとしていくつか仕事に携わるなかで、参加者の生徒たちが可愛く、やりがいを感じたため、ツアーナースとして活動することに決めました。

ツアーナースならではのやりがいは?

参加者とのコミュニケーションを通じて信頼関係の構築を実感できるのは、ツアーナースならではのやりがいだといえます。私は、主に中高生の修学旅行や研修旅行に参加していましたが、初対面から少しずつコミュニケーションをとるなかで、彼らが心を許してくれる瞬間がありました。短い期間のなかで信頼関係を築けることは大きな喜びにつながると思います。

ツアーナースとして働くなかで大変だったことは?

ツアーナースとして働くなかで大変だったことは、身体への負担が大きいことです。ツアー中は慣れない環境のなかで参加者の健康に気を配らなければなりません。普段より活動量も多く体力が消耗しやすかったり、睡眠時間が少なくなったりします。疲れが溜まりすぎないように、普段から自分の体調面をしっかり管理することが大切です。

ツアーナースで培えるスキルは?

ツアーナースを通じて判断力や決断力を培うことができました。参加者の体調不良の際は状況を素早くアセスメントし、養護教員と相談のうえで病院を受診させるか、帰宅させるか判断する必要があるからです。

また、話しかけやすい雰囲気作りを心がけることで、参加者が些細な体調の変化をツアーナースに報告しやすくなります。その点も含めコミュニケーション力は、ツアーナースとして働くなかで磨かれるでしょう。

ツアーナース時の服装や必要な持ち物は?

ツアーナースに参加する際の服装は、派手でないものを意識しました。学校から指定される持ち物は特にありませんが、山や海での活動の可能性もあるので体温調節や日焼け、虫刺され対策など、行先に合わせて服装や持ち物を選ぶと良いでしょう。

救護セットはツアーナースが用意する必要はありません。ただし、ちょっとした擦り傷の際にすぐに出せるように絆創膏、急に生理になってしまった子のための生理用ナプキンなど、旅行中に起こりうる細かな状況を予想し、個人で用意しました。

ツアーナース給料事情

私がいただいていた給料は、1日あたり1万6000円〜1万8000円でした。繁忙期では月に4回、日数も長いツアーに参加できますが、閑散期は案件が少なくなるため、その分収入も少なくなりました。その間は、健康診断の派遣などにも参加していました。

ツアーナースになるには?必要な資格から経験まで紹介

病院やクリニック以外の働き方として、将来的にツアーナースの仕事を経験してみたいと考えている人もいるでしょう。ここからは、ツアーナースになるために必要な資格や経験しておくと良いことなどについて解説していきます。

必要な資格

ツアーナースに必要な資格は、看護師の資格です。案件よって経験年数や性別など、条件はそれぞれ異なります。十分に確認したうえで応募しましょう。

新卒や経験が浅い看護師だとむずかしい?

新卒や経験の浅い看護師がツアーナースとして勤務するにはハードルが高いといえます。

なぜなら、基本的にツアーナースは1名で参加するため、参加者のあらゆる体調の変化に迅速、かつ柔軟に対応しなければならないからです。また、募集条件に臨床経験年数が決められている場合もあります。したがって、新卒や経験の浅い看護師がツアーナースとして活動するには少々難しいかもしれません。

将来ツアーナースを目指したい人は、まずは病院などで経験を積んでおきましょう。ツアーナースになるために経験をしておくと良いことを以下にあげますので、参考にしてみてください。

経験しておくと良いこと

ツアーナースになるために経験をしておくと良いことは、以下のとおりです。

臨床経験

将来ツアーナースになりたい人は整形外科や外科、急性期などで臨床経験を積むのがおすすめです。というのも、急変時の予測や対応力、素早い判断力が身につくからです。ツアーナースとして働くなかでも生かせる場面が多いはずです。

AED・エピペンの使い方

ツアー同行中は、あらゆる事態を想定しておかなければなりません。命にかかわる事態が起こった際にもすぐに対応できるように、AEDやエピペンの使用方法は最低限把握しておきましょう。不安な人は職場での勉強会や自治体での講習に積極的に参加してみてくださいね。

ツアーナースに向いている人の特徴

ここまでの情報をもとに、ツアーナースに向いている人の特徴を以下にまとめました。

  • 責任感のある人
  • 体力がある人
  • 病院以外での経験を積み視野を広げたい人

ツアーナースは基本的に看護師1名で宿泊や課外活動に付き添う仕事であるため、責任が大きく体力も必要な仕事だといえます。また、病院以外で経験を積みたいと考えている人は、看護師としての視野が広げることができるでしょう。

ただ、あくまでこれらは傾向であり、かならず持ち合わせていなければならないものではありません。ツアーナースになりたいと考えている人は、これらを意識しながら日々の業務で経験を積んでみてください。

ツアーナースとして働くうえでの注意点

ツアーナースは参加者が安心してツアーに参加できるよう、仕事にあたる責任があります。ツアーナースとして仕事をするうえでの注意点を最後にまとめたので、ツアーナースに興味がある人は心に留めておいてくださいね。

個人情報の管理を徹底する

ツアー初日に参加者の健康状態が記載されたリストが渡されます。これは個人情報の書類になるため、紛失しないよう厳重に管理しましょう。また参加者の体調不良の際も、むやみに他の参加者へ情報を伝えないよう配慮することが大切です。

旅行ではなく仕事の意識を持つ

ツアーナースは参加者が安全に旅行を楽しめるよう、健康管理に関わるすべてに責任を担っています。観光地を楽しむことが目的ではないので、参加者の周辺環境に気を配り、専門職として責任のある対応を心がけましょう。

自分自身の管理も怠らない

参加者に気を配ることに集中していると、自分自身の体調や貴重品の管理が疎かになってしまうことも考えられます。自分自身の管理が十分にできていないと、結果的に参加者へ迷惑をかけてしまうことにつながるので、自分自身の管理も徹底しましょう。

看護師のキャリアを活かせるツアーナース

ツアーナースは参加者が安心して旅行に参加できるよう健康状態の把握や体調不良・怪我など初期対応にあたることから、判断力や決断力、コミュニケーション力が求められます。

さらに単発で不定期な仕事になるので、ツアーナースとして働くことを検討している人は、繁忙期と閑散期の時期を把握して、収入のバランスが保てるように計画を立てるのもポイントです。また将来ツアーナースになりたいと思っている看護学生は、急性期や外科系で経験を積んでおくとスキルを活かしやすいでしょう。

参考

修学旅行に付き添ってくれるツアーナース(添乗看護師)って?.日本ツアーナースセンター(令和5年10月1日閲覧)

ツアーナースのお仕事について.日本ツアーナースセンター(令和5年10月10日閲覧)

執筆者情報

プロフィール画像

伊藤 雪乃

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2003年に看護師免許取得後、北海道の公立病院に5年間勤務し、地域医療をに携わる。その後埼玉県の介護施設(ショートステイ)で3年、整形外科病院に10年勤務。 2018年ごろから副業でライターをはじめ、現在はウェブと書籍に携わるフリーライターとして活動中。 2022年11月発売「私立文章女学院」編集協力