看護アセスメントを行うとき、フレームを利用してアセスメントを行っていきます。代表的な例でいうと、ゴードンの11の機能的健康パターン、ヘンダーソンの14の基本的欲求、ロイの4つの適応様式などです。
ここでは、ロイの4つの適応様式とそのチャプターとその項目について解説します。
シスター・カリスタ・ロイは、1939年にアメリカのロサンゼルスで生まれた看護理論家、教授、著述家です。人間の適応能力に着目した理論「適応看護モデル」を「ロイ看護論:適応モデル序説」(1976)の中で示しています。
「適応看護モデル」とは、人間が絶えず変化する生活条件や健康状態などの環境(刺激)に対して適応を維持しようとする人間の適応能力に着目した理論です。対象である患者さんを単体として捉えるのではなく、常に他者との相互作用の中で生きていくもの、つまり人間をシステムとして見て分解・分析し、そして統合をしていく理論です。
ロイは「適応システムとしての人間は、絶えず変化する環境に適応するための対処機構をもって反応し、その人の目標を維持しようとする」としてその適応の手段を4つの適応様式に分類しました。それが「生理的様式」「自己概念様式」「役割機能様式」「相互依存様式」です。
生理的様式は、人間の身体的側面に関する行動の様式で、5つの基本的ニード(酸素化・栄養・排泄・活動と休息・防衛)と、4つの生理機能の過程(感覚・体液と電解質・神経・内分泌)から構成されています。
生理的様式は、人間が環境からの刺激に対して身体面でどのように反応しているかなど適応状態を分析します。
自己概念様式は、人間の自分自身への考え方、信念、感情といった人格的な側面に関する行動の様式で、身体的自己(身体特性や疾患の状態・ボディイメージなど)と、人格的自己(価値観や自己理想など)から構成されています。
自己概念様式は、自己認識や自尊感情、ボディイメージの変化などにかかわる認識や反応、適応状態を分析します。
役割機能様式は、社会における他者との関係の在り方、役割やその変化に対する反応に関する行動の様式で、これら3つの役割から構成されています。
役割機能様式は、社会における他者との役割機能システムとしての適応状態を分析します。
相互依存様式は、人間の相互依存に関する行動の様式で、尊敬や愛情、価値を与えたり受けたりする関係の適応状態を分析します。
これら4つの様式の状態を適応反応か非効果的反応かどうか、適応状況を見てその人の適応を促進することを支えて健康に導くことが、ロイの適応看護モデルの看護の目標になります。
以下はそれぞれの適応様式に沿ってアセスメントをする際に、必要な項目について整理した一例です。
適応様式 | チャプター | 項目例 |
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生理的様式 | 酸素化 | 【呼吸器系指標】呼吸数 / 呼吸のリズム・深さ / 呼吸音 / SpO₂ / PaO₂・PaCO₂ / 呼吸困難 / 胸部レントゲン写真 / 喫煙 / 咳嗽・喀痰 【循環器系指標】脈拍数 / 脈拍のリズム・緊張度・強さ / 脈拍の欠損 / 心拍数・心音 / 心電図 / 血圧 / 血圧の左右差 / 粘膜の色や皮膚色・爪床色 |
栄養 | 食事時間 / 食事回数 / 嗜好品 / 味覚 / 嗅覚 / 食事内容 / 水分摂取量 / 食事の摂取量 / 身長・体重比 / 高カロリー輸液 / | |
排泄 | 【排尿系指標】回数 / 24時間量 / 色 / 1回量 / 臭い / 排尿困難 / 排尿方法 / 尿pH / BUN / Cr / eGFR / 尿比重 / 残尿量 【排便系指標】回数 / 色 / 1回量 / 硬さ / 臭い / 腸蠕動音 / 腹部の膨満感 / 排便困難 / 排便方法 / 下剤の使用 | |
活動と休息 | 【活動系指標】1日の必要エネルギー量(㎉) / 1日の身体活動量(メッツ・時) / 入院前後の活動パターン / 筋力(MMT) / 筋骨格系の外観(対称・外形・姿勢) / 歩行状態 / 自助具の使用の有無 / 自発的な動き / 活動時の酸素化との関連 / ADL(日常生活の能力) / 安静度 / 発熱の有無 【休息系指標】1日の休息時間 / 1日の睡眠時間 / サーカディアンリズム(概日リズム) / 熟眠感 / 睡眠不足の兆候 / 睡眠薬の使用有無 / 睡眠・休息を阻害する因子 | |
防衛 | 保清行動 / 皮膚温 / 皮膚の弾力性 / 毛髪の状態 / 爪の状態 / 発汗の有無 / | |
感覚 | 視覚 / 聴覚 / 味覚 / 嗅覚 / 皮膚感覚 / | |
体液と電解質 | 【INの指標】食事水 / 飲料水 / 代謝水 / 輸液量 【OUTの指標】排泄(便・尿) / 汗・不感蒸泄 / 排液 【その他】体液減少(脱水)の兆候 / 体液貯留(浮腫)の兆候 / Na / K / Cl / Ca / Mg / pH | |
神経 | 意識 / 見当識 / 瞳孔の状態 / 動眼神経反応 / 認知機能 / 自発的な動き / 運動反応 | |
内分泌 | 更年期症状の有無 / 血糖値 / ストレス反応 | |
自己概念様式 | 【身体的自己の指標】性格 / ボディイメージ / 疾患に対する認識 【人格的自己の指標】自尊感情 / 育った文化や周囲の期待 | |
役割機能様式 | 【一次的役割】年齢(発達課題) / 性別 / セクシュアリティ 【二次的役割】家庭内役割 【三次的役割】社会的役割 / ボランティア活動 / 病人役割(病者役割) / 趣味 | |
相互依存様式 | 重要他者 / 経済状況 / キーパーソンとの関係 / サポートシステム / 休日の過ごし方 |
看護過程を活用しより効果的に適応を促すために、患者が適応反応を示しているのか、非効果的反応を示しているのかを分析します。
ロイの適応看護モデルによる看護過程は、6つの段階(行動のアセスメント・刺激のアセスメント・看護診断・目標設定・介入・評価)で構成され、この段階を通じてロイの適応看護モデルの看護目標である4つの適応様式の適応促進につながります。
実習期間中、看護学生の睡眠時間は心身に悪影響を及ぼすほど少なくなることがあります。看護学生は患者さんの健康をサポートするべき立場ですが、自分が健康でなくなると辛い実習期間になってしまいます。看護学生が少しでも睡眠時間を確保し、笑顔を忘れず心身ともに健康で充実した実習になる一助となればうれしいです。
看護の世界では、質問をすることや質問に対する直接的な回答を教えることに関して
【絶対NG】な空気になることもあります。しかし、回答を効率的に手に入れることで、学びがより深まることもあるはずです。
アセスメントガイドを確認し、反復学習をして身につくこともあるのではないでしょうか。短時間で効率よく学習し、意欲的に学ぶ環境を整えたいと思っています。
アセスメントガイドは、看護学生だけでなく看護師になったあとも役立つツールを目指しています。看護師になってからも勉強の日々が続きます。目の前の患者さんを看護するとき、今どのような状況か迷ったときなど、ポケットのアセスメントガイドで患者さんの状況を把握することもできるはずです。
アセスメントガイドを通して学習し続けることで、アセスメント能力の高い看護師が増えることを願っています。高い水準の医療提供機会・看護人材の育成につながり、その結果(患者・看護学生・看護師含め)元気な人が増えることを願っています。
ロイの各チャプターごとに、サイトとダウンロード資料があります。それらを使って、看護過程を組み立てましょう。
会員登録して各パターンごとのページを見る
会員になると、各看護理論ごとのページを閲覧できます。ページ内には、各パターンで収集する項目・項目の概要・基準値などを掲載しています。
何をアセスメントするために項目があるのかを理解しながら学習をすすめましょう。
※各パターンで収集する情報はあくまで一例です。必ず実習で受けもつ患者さんや通っている学校での授業・教科書・指導などに合わせた情報収集を心がけましょう。
実習中情報収集メモで患者さんのS・O情報を収集する 実習中情報収集メモには、各パターンの基準値・正常値が1枚にまとまっています。実習に持っていき、このメモに患者さんのS・O情報を記入したら、患者さんの状態が正常か異常かということを把握することができます。
練習ノートを使って看護過程を作成する 看護過程練習ノートには、基準値・異常値や正常時の看護過程例文が載っています。実習中情報収集メモをもとに、患者さんの情報が正常なときは例文を使い、異常なときは正常時の例文を参考に自分で文章を考え、看護過程を組み立てることができます。
1 | 情報収集する項目を確認する |
---|---|
2 | 項目が正常な場合、どういったことが言えるかを考える |
3 | 受け持つ患者さんの疾患と照らし合わせ、異常になる可能性のある項目をチェックする |
4 | 異常がある場合、どのようなことが考えられるか調べる |
任 和子(にん かずこ)
京都大学大学院医学研究科/人間健康科学系専攻先端中核看護科学講座/教授
大阪教育大学大学院 教育学研究科 修士課程修了、京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程修了。
京都大学医学部附属病院にて看護師として勤務後、京都大学医療技術短期大学部 助手、名古屋大学医学部保健学科 助教授、滋賀医科大学医学部看護学科 助教授を経て、再び2005年より京都大学医学部付属病院 副看護部長、2007年同院病 院長補佐兼看護部長を兼務、2011年4月より現在に至る。
専門は、慢性看護学・看護管理学。
著書に『看護過程展開ガイド 実習記録の書き方がわかる ヘンダーソン、ゴードン、NANDA-I、オレム、 ロイ』(照林社)、『領域別 看護過程展開ガイド(プチナースBOOKS)』(照林社)、『病期・発達段階の視点でみる 疾患別看護過程(プチナースBOOKS)』(照林社)、『根拠と事故防止からみた 基礎・臨床看護技術 第3版』(医学書院)等、多数。
石川恵子(いしかわ けいこ)
京都大学大学院医学研究科/人間健康科学系専攻先端看護科学コース/先端中核看護科学講座 生活習慣病看護学分野・博士後期課程
2014年京都大学医学部人間健康科学科卒業後、京都大学医学部附属病院 循環器内科病棟に看護師として勤務。2019年4月より京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 看護科学コース修士課程入学、2021年3月に修了。同年4月より現所属。
専門は、循環器疾患領域。
執筆記事に、「看護学生における臨地実習へのモチベーション」(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻紀要 健康科学)、「【糖尿病があったら? 喫煙していたら? 超高齢者なら?看護過程、こんなときどうする?】(part2) 状況別に解決! こんなときどうする? 主疾患+抗血栓薬」(プチナース 29(7))など。
※このページは、有資格者の現役看護師が学生時代の実習と臨床経験にもとづいて作成したアセスメントシートで、あくまで一例です。必ず実習で受けもつ患者さんや通っている学校での授業・教科書・指導などに合わせた情報収集を心がけましょう。
※紹介する検査値の基準値は、LSIメディエンスに準拠しています。