看護アセスメントを行うとき、看護学者が提唱する既存の理論や看護過程を利用してアセスメントを行っていきます。代表的な例でいうと、ゴードンの11の機能的健康パターン、ヘンダーソンの14の基本的欲求、ロイの4つの適応様式などです。
ここでは、ヘンダーソンの14の基本的欲求について解説します。
ヴァージニア・ヘンダーソンは、1897年にアメリカのミズーリ州で生まれた看護師、看護研究者、看護理論家です。医療現場にさまざまな職種が参入した1960年頃のアメリカで、看護師の役割が曖昧になったことから、「看護の基本となるもの」(1960)を通じて看護の定義と独自の機能・役割を明確にする必要性を提唱しています。その中で、人間の基本的欲求に基づく14の基本的看護の構成要素を定義したものが、現在のヘンダーソンの「14の基本的欲求」です。
ヘンダーソンの看護論における中心的な考えは「看護師の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が、健康あるいは健康の回復(あるいは平和な死)に資するような行動をするのを援助することである。その人が必要なだけの体力と意思力と知識とをもっていれば、これらの行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助は、その人ができるだけ早く自立できるようにしむけるやり方で行う」*1 です。
ヘンダーソンはこの看護理論に基づき、人間を14の基本的欲求をもつ存在としました。患者さんが、その人らしく充足した生活ができるように援助の必要性と程度を判断し、その程度に応じて自立できる状況を整える看護ケアを目指しています。
*1 出典:ヴァージニア・ヘンダーソン著、湯槇ます他訳:看護の基本となるもの(再新装版).p.14、2016、日本看護協会出版会.
以下はヘンダーソンの14の基本的欲求に沿ってアセスメントをする際に、必要な項目について整理した一例です。
パターン | 収集する項目(一例) |
---|---|
正常に呼吸する | 呼吸数 / 呼吸のリズム・深さ / 呼吸音 / SpO₂ / PaO₂・PaCO₂ / 呼吸困難 / 胸部レントゲン写真 / 空気環境 / 脈拍数 / 脈拍のリズム・緊張度・強さ / 脈拍の欠損 / 心拍音・心音 / 心電図 / 血圧 / 血圧の左右差 / 喫煙 / 赤血球数(RBC) / ヘモグロビン(Hb) / ヘマトクリット(Ht) / pH |
適切に飲食する | 食事時間 / 食事回数 / 嗜好品 / 食事内容 / 食事の摂取量 / 水分摂取量 / 身長・体重比 / 高カロリー輸液 / |
あらゆる排泄経路から排泄する | 【排尿】回数 / 24時間量 / 色 / 1回量 / 臭い / 排尿困難 / 排尿方法 / 尿pH / BUN / Cr / eGFR / 尿比重 / 残尿量 【排便】回数 / 色 / 1回量 / 硬さ / 臭い / 腸 【その他】汗、不感蒸泄 / 排液 / pH / |
身体の位置を動かし、また良い姿勢を保持する | 1日の必要エネルギー量(㎉)・身体活動量(メッツ・時) / 入院前後の活動パターン / 筋力(MMT) / 筋骨格系の外観(対称・外形・姿勢) / 歩行状態 / 自助具の使用の有無 / 運動習慣 / 活動時の酸素化との関連 / ADL(日常生活の能力) / 安静度 / 住居環境 |
睡眠と休息をとる | 1日の休息時間 / 1日の睡眠時間 / サーカディアンリズム / 熟眠感 / 睡眠不足の兆候 / 睡眠薬の使用有無 / |
適切な衣類を選び、着脱する | ADL(日常生活の能力) / 自発的な動き / 認知機能 / 運動麻痺の有無 / 倦怠感・脱力感 / ドレーン挿入や点滴実施の有無 / 疼痛 / 衣服に対する好み / 衣服が果たしている機能 |
環境の調整により体温を正常範囲に維持する | 体温 / 発熱の有無 / 適切な室内環境 |
身体を清潔に保ち身だしなみを整え皮膚を保護する | 保清行動 / 皮膚温 / 皮膚の弾力性 / 毛髪の状態 / 爪の状態 / 発汗の有無 / |
環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする | 意識 / 見当識 / 瞳孔の状態 / 動眼神経反応 / 認知機能 / 感覚 / 療養環境での危険箇所 / 皮膚損傷の有無 / 感染予防対策 / 炎症反応を見る血液検査項目<白血球数(WBC)> / 炎症反応を見る血液検査項目<CRP> |
自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションをもつ | 性格 / 自尊感情 / 疾患に対する認識 / 面会者の来訪 / キーパーソンとの関係 / 言語障害の有無 / 認知機能 / 視覚 / 聴覚 |
自分の信仰に従って行動する | 信仰(宗教)・意思決定に影響する価値観 / 信念 / 目標 |
達成感をもたらすような仕事をする | 家庭内役割 / 社会的役割 / 病人役割(病者役割) / ボランティア活動 / 経済状況 |
遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する | 趣味 / 休日の過ごし方 / 療養中の気分転換方法 |
正常な発達及び健康を導くような学習をし好奇心を満足させる | 年齢(発達課題) / 疾患や治療への理解 / 服薬状況 |
これらの基本的欲求にそってアセスメントする際に、以下2つの情報(「表 基本的欲求に影響を及ぼす常在条件」と「表 基本的欲求を変容させる病理的状態(特定の疾病とは対照的)」)を考慮して基本的欲求をアセスメントします。ヘンダーソンは「看護師の援助を必要とする患者の欲求を判断するにあたり、看護師はこれらのすべてを考慮に入れなければならない」*2と述べています。
患者さんの欲求をアセスメントしたら、患者さんがそれぞれの欲求を充足するために十分な体力・意思力・知識力を持っているかをアセスメントし、不足している場合は看護介入の必要性と方法を判断します。
患者さんの行動についての自分の解釈を患者さんに共有して確認しながら、患者さんがその人にとっての健康・病気からの回復・よき死につながるような行動がとれるよう看護介入を計画することが大切です。
*2 出典:ヴァージニア・ヘンダーソン著、湯槇ます他訳:看護の基本となるもの(再新装版).p.26、2016、日本看護協会出版会.
1 | 年齢 |
---|---|
2 | 気質、感情の状態、一過性の気分 |
3 | 社会的ないし文化的状態 |
4 | 身体的ならびに知的能力 |
出典:ヴァージニア・ヘンダーソン著、湯槇ます他訳:看護の基本となるもの(再新装版).表1 一般には看護師によって満たされ、また常時ならびに時に存在する条件によって変容するすべての患者がもっている欲求.p.27、2016、日本看護協会出版会.より引用一部改変
1 | 飢餓状態、致命的嘔吐、下痢を含む水および電解質の著しい平衡障害 |
---|---|
2 | 急性酸素欠乏状態 |
3 | ショック(“虚脱”と失血を含む) |
4 | 意識障害―気絶、昏睡、せん妄 |
5 | 異常な体温をもたらすような温熱環境にさらされる |
6 | 急性発熱状態(あらゆる原因のもの) |
7 | 局所的外傷、創傷および/あるいは感染 |
8 | 伝染性疾患状態 |
9 | 手術前状態 |
10 | 手術後状態 |
11 | 疫病による、あるいは治療上指示された動けない状態 |
12 | 持続性ないし難治性の疼痛 |
出典:ヴァージニア・ヘンダーソン著、湯槇ます他訳:看護の基本となるもの(再新装版).表1 一般には看護師によって満たされ、また常時ならびに時に存在する条件によって変容するすべての患者がもっている欲求.p.27、2016、日本看護協会出版会.より引用一部改変
看護過程において、記録方法のひとつに「SOAP」という方法があります。
SOAPに当てはめてアセスメントを行うポイントや書き方について、例を用いて紹介します。
早期胃がんで腹腔鏡のオペをした患者さんの場合
実習期間中、看護学生の睡眠時間は心身に悪影響を及ぼすほど少なくなることがあります。看護学生は患者さんの健康をサポートするべき立場ですが、自分が健康でなくなると辛い実習期間になってしまいます。看護学生が少しでも睡眠時間を確保し、笑顔を忘れず心身ともに健康で充実した実習になる一助となればうれしいです。
看護の世界では、質問をすることや質問に対する直接的な回答を教えることに関して
【絶対NG】な空気になることもあります。しかし、回答を効率的に手に入れることで、学びがより深まることもあるはずです。
アセスメントガイドを確認し、反復学習をして身につくこともあるのではないでしょうか。短時間で効率よく学習し、意欲的に学ぶ環境を整えたいと思っています。
アセスメントガイドは、看護学生だけでなく看護師になったあとも役立つツールを目指しています。看護師になってからも勉強の日々が続きます。目の前の患者さんを看護するとき、今どのような状況か迷ったときなど、ポケットのアセスメントガイドで患者さんの状況を把握することもできるはずです。
アセスメントガイドを通して学習し続けることで、アセスメント能力の高い看護師が増えることを願っています。高い水準の医療提供機会・看護人材の育成につながり、その結果(患者・看護学生・看護師含め)元気な人が増えることを願っています。
ヘンダーソンの各パターンごとに、サイトとダウンロード資料があります。それらを使って、看護過程を組み立てましょう。
会員登録して各パターンごとのページを見る
会員になると、各看護理論ごとのページを閲覧できます。ページ内には、各パターンで収集する項目・項目の概要・基準値などを掲載しています。
何をアセスメントするために項目があるのかを理解しながら学習をすすめましょう。
※各パターンで収集する情報はあくまで一例です。必ず実習で受けもつ患者さんや通っている学校での授業・教科書・指導などに合わせた情報収集を心がけましょう。
実習中情報収集メモで患者さんのS・O情報を収集する 実習中情報収集メモには、各パターンの基準値・正常値が1枚にまとまっています。実習に持っていき、このメモに患者さんのS・O情報を記入したら、患者さんの状態が正常か異常かということを把握することができます。
練習ノートを使って看護過程を作成する 看護過程練習ノートには、基準値・異常値や正常時の看護過程例文が載っています。実習中情報収集メモをもとに、患者さんの情報が正常なときは例文を使い、異常なときは正常時の例文を参考に自分で文章を考え、看護過程を組み立てることができます。
1 | 情報収集する項目を確認する |
---|---|
2 | 項目が正常な場合、どういったことが言えるかを考える |
3 | 受け持つ患者さんの疾患と照らし合わせ、異常になる可能性のある項目をチェックする |
4 | 異常がある場合、どのようなことが考えられるか調べる |
任 和子(にん かずこ)
京都大学大学院医学研究科/人間健康科学系専攻先端中核看護科学講座/教授
大阪教育大学大学院 教育学研究科 修士課程修了、京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程修了。
京都大学医学部附属病院にて看護師として勤務後、京都大学医療技術短期大学部 助手、名古屋大学医学部保健学科 助教授、滋賀医科大学医学部看護学科 助教授を経て、再び2005年より京都大学医学部付属病院 副看護部長、2007年同院病 院長補佐兼看護部長を兼務、2011年4月より現在に至る。
専門は、慢性看護学・看護管理学。
著書に『看護過程展開ガイド 実習記録の書き方がわかる ヘンダーソン、ゴードン、NANDA-I、オレム、 ロイ』(照林社)、『領域別 看護過程展開ガイド(プチナースBOOKS)』(照林社)、『病期・発達段階の視点でみる 疾患別看護過程(プチナースBOOKS)』(照林社)、『根拠と事故防止からみた 基礎・臨床看護技術 第3版』(医学書院)等、多数。
森西 可菜子(もりにし かなこ)
京都大学大学院医学研究科/人間健康科学系専攻先端看護科学コース/先端中核看護科学講座 生活習慣病看護学分野 助教
2014年京都大学医学部人間健康科学科卒業後、京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科/放射線治療科(RI)/呼吸器内科(結核)に看護師として勤務。その後、糖尿病・内分泌・栄養内科/神経内科/呼吸器内科を経て、クリニックに勤務。2023年3月 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 博士課程を研究指導認定退学し、現所属に至る。
専門は、糖尿病患者のセルフマネジメント
著書に、『母性・小児・精神疾患別関連図BOOK 1型糖尿病(小児)』(照林社)、執筆記事に「【糖尿病があったら? 喫煙していたら? 超高齢者なら?看護過程、こんなときどうする?】(part2) 状況別に解決! こんなときどうする? 主疾患+糖尿病」(プチナース 29(7))、「公開!私たちのオリジナル学内演習・院内研修用動画 第1回あいさつの場面から看護する視点を学ぶ」(看護展望 47(2))など。
※このページは、有資格者の現役看護師が学生時代の実習と臨床経験にもとづいて作成したアセスメントシートで、あくまで一例です。必ず実習で受けもつ患者さんや通っている学校での授業・教科書・指導などに合わせた情報収集を心がけましょう。
※紹介する検査値の基準値は、LSIメディエンスに準拠しています。