新人看護師の研修はどんなことをするの?北里大学病院の新人フォローアップ研修に潜入!
最終更新日:2024/11/26
各病院は新人看護師の入職後のリアリティショックをできる限り小さくするため、それぞれが試行錯誤を重ねながら独自の新人教育を実践しています。では、具体的にどのような研修が行われているのか、今回は北里大学病院で行われている10月新人フォローアップ研修を見学しました。当日の様子をレポートします。
北里大学病院の新人看護職員研修の概要
北里大学病院では、集合研修と各部署によるOJT(On the Job Training:職場内訓練)による新人教育が行われています。そのうちの集合研修は、看護研修・教育センターの師長・主任が研修内容を企画し、4月から約半年間、毎月実施されています。
下の図は集合研修のスケジュールを示したものです。4月には、社会人や看護師としての基礎を学び、5~9月は数人のグループに分かれて実際の現場を想定したシミュレーション演習に参加し、メンバーで話し合いながら循環器系や呼吸器系などフィジカルアセスメントについて学びます。
そして10月は、5~9月で学んだ知識を活かした総合的なフィジカルアセスメントを実践し、優先順位を立てた看護介入を導き出すことを目的としたシミュレーション演習を行います。いわば半年間の研修の集大成といえるものです。
北里大学病院看護学部:新人研修 集合研修 をもとに作成
今回は、10月新人フォローアップ研修を見学しました。当日の様子を流れに沿って紹介します。
10月新人フォローアップ研修の流れ
半日かけて行われる研修で、新人看護師8人が2つに分かれて4人1チームとなり、新人教育担当の看護師が各チーム2人ずつサポートとしてつきます。チームメンバーはさまざまな視点からの意見が出るよう、配属先が被らないように組まれるようです。
チーム内で1人ひとりに異なる役割が与えられます。以下はそれぞれの役割をまとめたものです。
- 看護師役1:問診・フィジカルイグザミネーションを実施する人
- 看護師役2:ラウンド・ケアを実施する人
- 記録役:話し合いでの意見や、問診、ケアなどで得た結果をまとめる人
- 観察役:実践した看護についての振り返りや研修で得た学びを発表する人
チームメンバーは話し合いながら、新人教育担当2人の看護師が務める患者さん役に対し、問診・フィジカルイグザミネーションを実施し、得られた情報に基づき緊急性や重要性を考慮した看護介入を導き出します。次からは、新人看護師がこの研修で何をするのか、順を追って紹介します。
1.事前課題の共有と得るべき情報の整理
新人看護師には、事前に患者さんの概要や現病歴・経過などがまとめて伝えられ、問診・フィジカルイグザミネーションでどんな情報収集をしたいか書き出しています。メンバーは事前課題でまとめた内容を中心に全員で患者さんの情報を整理し、これからどんな情報を取りに行けばよいか話し合います。
記録役はこのとき、個々の患者さんに必要な問診・フィジカルイグザミネーションを実施できるよう、話し合いで出てきた項目をどんどん書き出していきます。どんな些細なことでも意見を出し合うことで、さまざまな観点が生まれ、患者さんの状態をあらゆる角度から観察できるようになり、よりよい情報の収集につながります。
新人看護師たちは、最初は1つの角度から見た意見に偏っていましたが、ファシリテータの新人教育担当者の助言により、得るべき情報を広く捉えようとする変化がみられました。
2.問診・フィジカルイグザミネーションの実施
次に1で整理した情報を得るべく、看護師役1が患者さんに問診・フィジカルイグザミネーションを実施します。まずは患者さんに何が起こっているのかという解釈に繋げるため、より多くの情報を広く収集するよう実践します。
患者さんへの問いかけは看護師役1である新人看護師が行いますが、メンバーは全員で患者さんのまわりに向かい、得られた情報を記録したり、さらに必要な情報について意見を出し合ったりして情報収集に努めます。
5~9月の研修では、循環器や脳神経など扱う領域が絞られていましたが、今回の研修では疾患は示されているもののどこをみるべきか絞れてないことから、総合的に情報収集しなければならず、いままでの研修よりも難易度が高いようです。新人看護師たちは意見を出し合って、ひとつひとつ得られた情報を整理していました。
3.臨床判断プロセスに基づいた情報の解釈と看護介入の検討
その後新人看護師たちは、問診・フィジカルイグザミネーションによって得られた情報から、何が起こっているか、これから何が起こると予測されるかの解釈を行い、患者さんの状態を改善するための行動を考えます。
メンバーからは、今起こっていることや今後の予測について複数の意見が挙げられましたが、はじめは何が原因であるのかまでは落とし込めていませんでした。しかし、新人教育担当者の問いかけから、解釈された要素をひとつずつ繋げて考えることで、原因や判断に必要な情報が欠けていることに気付く姿がみられました。
同時に問題点だけを見つけるのではなく、問題がないという解釈を行うことの必要性も学んでいました。
新人看護師たちはこの後、患者さんに実践する看護について、緊急性や重要性などをもとに優先順位を立てて、必要な看護介入について検討します。
こうして根拠に基づいた解釈ができるようになると、なぜそれを行うのか、優先して行うべきことは何かについても次第に根拠に基づいて考えられるようになっていきました。
4.話し合った看護の実践
3で話し合った内容をもとに、看護師役2が患者さんのラウンド・ケアを実施します。より緊急性や重要性の高い順に看護を実践し、実践前後の状態と変化を記録します。
このとき、看護師役2の人だけでなく、メンバー全員で患者さんの状態や反応からさらに行うべきケアなどを模索し、次のケアに繋げていく様子がみられました。
5.実践した看護の振り返り
最後は、4で実践した看護について振り返りを行います。ケアを実施したことによる変化や患者さんの反応を言語化することで、なぜそのケアの必要があったのか、意味付けを明確にする意図があります。
新人看護師たちには、ケアによってみられた変化だけでなく、変化しなかったことも言葉にしたうえで、次にするべきケアを考える姿がみられました。
最後に観察役は、実践した看護を振り返るとともに経験から学んだことを発表します。そこでは、既往歴を踏まえ個別性を考えたケア・アセスメントの重要性や、ひとつの症状に対してあらゆる可能性を考えたうえで、患者さんの全身状態を多角的に観察し、原因を精査していく必要性などが挙げられていました。
とくに重要度を理解したうえでケアを行うには、フィジカルイグザミネーションから、より多くの質の高い情報を収集し、適切に解釈する必要があることを学んだという声がありました。新人看護師たちは今回の経験を通して研修の目的を理解できた様子でした。
北里大学病院の教育について
北里大学病院では人材育成に重きをおいています。今回の集合研修では、1チーム4人の新人看護師×2チーム(計8人)に対し、各科から新人教育担当者が4人、集合研修を企画する看護研修・教育センターから2人と、計6人の先輩看護師が研修をサポートしていました。
新人教育担当者のアドバイスや問いかけは研修を進めるなかで、新人看護師たちの気づきのきっかけとなり、さらに積極的に言語化を促すことで、最終的に研修目的の理解へとつながっていました。
このように、新人看護師たちが今回の学びを実際の現場でも実践できるよう、充実した教育体制や指導方法など、さまざまな点で工夫が感じられました。今回の新人フォローアップ研修を通して、北里大学病院では新人看護師を含む看護職員ひとりひとりの成長を重視し、組織全体でサポートしていることがわかりました。
また、北里大学病院の看護研修・教育センターでは、新人看護師だけでなく、教育担当者やプリセプターへの教育支援、各種研修の企画と実施、教育活動に関する調査や研究など、人材育成全般への取り組みを進めつつ、更なる教育体制の強化を図っているようです。
新人教育にも注目して納得感のある病院選びに繋げよう
入職先を決めるうえで、その病院の教育体制を理解しておくことはとても大切です。学生から社会人になる過程で、もし仕事や臨床現場の現実にギャップを抱いても、しっかりとした教育体制が整えられていれば、少しずつ看護師として働く準備を整うことができ、ギャップを乗り越えていくことができるでしょう。
教育体制は病院によって、内容も期間も異なります。入職後もできるだけスムーズに自分らしく力を発揮して働き続けられるように、病院選びの際には気になる病院ではどのような新人教育が行われるのか、ぜひ就業体験や病院説明会に参加して質問してみてくださいね。
参考文献
北里大学病院看護学部:新人研修(2024年11月15日閲覧)
北里大学病院看護学部:教育について(2024年11月15日閲覧)