看護師国試対策|心肺停止とは、心機能停止と呼吸機能停止の違い、胸骨圧迫を行う理由と効果的な方法

看護師国試対策|心肺停止とは、心機能停止と呼吸機能停止の違い、胸骨圧迫を行う理由と効果的な方法

最終更新日:2024/05/14

ニュースなどでよく聞く「心肺停止」とはどのような状態か正しく知っていますか?また、心肺蘇生が必要となるのはどのようなときでしょうか。スタンダードな心肺蘇生法である胸骨圧迫の原理と効果的な方法、その理由、心肺蘇生で救命率が高いケースを解説します。

問題 胸骨圧迫で手を置く位置はどれか。

問題 胸骨圧迫で手を置く位置はどれか。

[第97回看護師国家試験より]

解答・解説 心臓を効果的に圧迫する位置はどこか

正解は②

Point:胸骨圧迫は、胸骨の下半分(あるいは左右の乳頭を結ぶ線と胸骨が交わる部分)に手を置いて圧迫する。※その下には心臓が存在します。

覚えておきたい|「心肺停止」の定義とは

胸骨圧迫は、「心肺停止」の状態のときに必要な処置です。ちなみに「心肺停止」とは「死」と同じではありません。まだ回復の可能性が残されている状態です。

心肺停止のうち、「心機能停止」は生存に必要なだけの心拍出量がない状態を意味し、「頸動脈を触れない」などによって判断します。このとき、心臓は完全に停止しているとは限りません。心室が弱々しく動いていたり、ブルブルと小刻みに震えていたりする場合も含まれます。

また、「呼吸機能停止」は、生存に必要なだけの換気が行えていない状態をさし、呼吸が完全に停止している状態だけでなく、極端な徐呼吸(1分間に4~5回程度の呼吸)や死戦期呼吸(下顎を動かして空気を飲み込もうとするような呼吸)も含みます。

患者の意識がない場合、気道を確保して、確実な頸動脈の拍動があるか、正常な呼吸があるかを判断します。両方ない、または判断に迷う場合は、ただちに胸骨圧迫を開始します。

胸骨圧迫で血流が届くのは脳と心臓まで

胸骨圧迫といえば、一般の人々の多くは胸骨圧迫によって全身に血液を送っていると思っています。しかし、いくら達人がいたとしても胸骨圧迫だけでは、心臓本来のパワーの1/3しか出せません。胸骨圧迫で血液を送れるのは、せいぜい脳と心臓までとなります。しかしそれでいいのです。脳と心臓は特に酸素を必要とする臓器で、血流が途絶えると取り返しのつかない障害が生じてしまうためです。

胸骨圧迫では、圧迫時に脳に血流を送り、圧迫解除時に心臓をとりまく冠状動脈に血液を送っています。ですから、胸骨を圧迫することだけに気を取られ過ぎず、しっかり解除(元の状態に戻す)することも非常に重要となります。

胸骨の「圧迫」は「脳ガンバレ」、「解除」は「心ガンバレ」と同じ意味となります。そして、胸骨圧迫の最終的な目的は、心臓に復活してもらうことです。

図1 胸骨圧迫と解放時の心臓からの血流図1 胸骨圧迫と解放時の心臓からの血流

「強く、速く、絶え間なく」の理由

胸骨圧迫は、達人がやっても心臓本来の1/3のパワーしか出ませんから、達人でない人は訓練を重ねなければうまくなりません。心肺蘇生のガイドラインには、「強く(約5cm胸を圧迫する)、速く(100~120回/分)、絶え間なく(中断を最小にする)」とありますが、これにはすべて科学的根拠があります。

圧迫の深さは5cmが適切で、これより浅いと心拍出量が不十分となり、深いと臓器を損傷する危険があります。また100~120回/分のテンポでは、脳や心臓に送る血液量が最も多くなることがわかっています。さらに胸骨圧迫を中断すると、中断前の状態に戻すのに時間がかかるということがわかっています。

胸骨圧迫は、一般の人々も自動車教習所などで学ぶことができますが、看護師をめざす皆さんは、より専門的な知識をもって、達人なみの技術を習得することが求められるでしょう。

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豆知識|心肺蘇生で救命率が高いケース

心肺停止に陥るパターンはいくつかありますが、最も救命率が高いのは、突然心停止が起こった場合です。

突然心停止が起こるというのは、突然心臓がピタッと止まるのではなく、突然、心臓がブルブル震えだす、「心室細動」という危険な不整脈が生じることを意味します。心臓は規則正しく収縮することでポンプとしての機能を発揮しますが、ブルブル震えているだけでは、ポンプとしての機能が停止しているのと同じです。当然、頸動脈も触れません。次第に死戦期呼吸も生じてきます。このような突然の心停止は、心筋梗塞の発症直後や、スポーツ中に突然意識を失ったときなどにみられるのです。

もし、その場にあなたが居合わせたとしたら、日本蘇生協議会(JRC)のガイドラインが示す蘇生方法(図2)に従って、直ちに達人なみの胸骨圧迫を始め、AEDが到着次第、適切に電気ショックを与えることができれば、高確率で患者を救命することができるでしょう。

図2 医療従事者のためのBLSアルゴリズム図2 医療従事者のためのBLSアルゴリズム

高確率で救命できる理由は、最初に止まったのが心臓なので、まだ体内に酸素がたくさん残っているということなのです。反対に、呼吸状態の悪化が先行して心臓が止まった(例えば海水浴で溺れて心肺停止に至ったなど)場合などは、体内の酸素が不足して、すでに脳や心臓がダメージを負っているので、胸骨圧迫や人工呼吸の効果は薄いと考えられます。

数年前に読んだニュース記事なのですが、部活の練習中に突然倒れた中学生がいたそうです。顧問の先生はただちに救急車を呼んだものの、「呼吸をしているから大丈夫だろう」と胸骨圧迫などはしませんでした。結果、中学生は亡くなったのです。「呼吸をしている」と思って見ていたのは、実は「死戦期呼吸」だったのです。「死戦期呼吸」と分かって胸骨圧迫を開始していれば、多分、助けることができたでしょうに。

スポーツの指導に関わる人は皆、「スポーツ中に心室細動を起こすことがまれにあること」、「その時に死戦期呼吸が現れること」を知っておく必要がありますね。教訓にしたい辛いニュースでした。

執筆者情報

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廣町 佐智子

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<日本看護研究支援センター 所長> 看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。