看護師国試対策|人体へ微生物の侵入を防ぐ、粘膜の防御力

看護師国試対策|人体へ微生物の侵入を防ぐ、粘膜の防御力

最終更新日:2024/05/14

感染対策として、人体への病原微生物の侵入を防ぐには、まず身体のどこが無菌であり、どこには菌が存在しているかを知る必要があります。
また人体のうち菌にさらされている場所では、どのように病原微生物を防御しているのか、その仕組みを解説します。

問題 滅菌手袋を使用しなければならないのはどれか。

  1. 口腔ケア
  2. 陰部洗浄
  3. ストーマ装具の交換
  4. 導尿
  5. [第95回看護師国家試験より]

解答・解説

1.(×)→口腔内には常在菌が存在しており、無菌ではないため、口腔ケアでは非滅菌の手袋を用います。

2.(×)→陰部の皮膚・粘膜には常在菌が存在しており、無菌ではないため、陰部洗浄では非滅菌の手袋を用います。

3.(×)→ストーマ周囲の皮膚やストーマ(消化管)には常在菌が存在しており、無菌ではないため、ケアには非滅菌の手袋を用います。

4.(〇)→膀胱内は無菌であるため、導尿には滅菌手袋を用います。

Point:無菌である部位の処置には滅菌手袋を用いる

覚えておきたい微生物の侵入を防ぐ方法

人体は栄養の塊です。微生物からみると我々の体はごちそうで、常に体内への侵入経路がないか狙っています。そこで微生物などの異物から身を守るために、人体には防御壁として、外界と体内との間に皮膚や粘膜があります。皮膚は頑丈に作られていますが、粘膜は皮膚に比べて柔らかく、油断すると微生物に侵入されてしまうかもしれません。

では、どうしたら微生物の侵入を防ぐことができるでしょうか。

対策としては、粘膜の無菌状態を維持すること、粘膜に微生物などの異物を攻撃する武器を配備すること、粘膜に病原性がなく人体に役立つ菌(常在菌)を定員いっぱいまで住まわせてしまうことなどがあります。

今回は、これらのうち「粘膜の無菌を維持すること」と「粘膜に常在菌を住まわせること」を中心に説明します。

下気道-無菌を維持する

無菌を維持している部位のひとつに、下気道(気管・気管支・肺胞)があります。

なぜ無菌を維持する必要があるかというと、奥に肺胞が控えているからです。肺胞には、ガス交換のための毛細血管が縦横無尽に張り巡らされている「聖域」があり、この聖域に微生物が侵入し、血管に入り込んでしまうと微生物が全身にばらまかれ、敗血症という重篤な感染症に陥ってしまうためです。

無菌を維持するために、下気道の粘膜には、異物を吸着させる粘液を分泌する「杯(さかずき)細胞」や、その粘液を口側に移動させる「繊毛細胞」があります。異物を攻撃する武器であるIgAやリゾチームなども配備されています。気管内吸引を行う際には、下気道が無菌であることを念頭に、無菌操作を用いなければなりません。

図1 肺胞と肺胞を取り巻く毛細血管図1 肺胞と肺胞を取り巻く毛細血管

尿路-無菌を維持する

膀胱をはじめとする尿路も無菌が保たれています。

膀胱の奥には何があるのでしょうか。尿管、腎盂、腎臓がありますね。腎臓には両腎で、血中の老廃物を濾過する糸球体(毛細血管でできたフィルター)が200万個存在しています。いわば、ここも「聖域」なのです。

微生物が腎臓にまで到達すると、血流に乗って全身にばらまかれ、やはり敗血症という最悪の事態を引き起こします。そうならないために腎臓は絶えず尿を作り、一定の方向に尿を流し続けているのです。

また尿路には、尿の逆流を防ぐ弁も存在しており、仮に逆立ちをしたとしても尿が逆流しないようになっています。

図2 腎臓の断面と多くの血管図2 腎臓の断面と多くの血管

消化管・膣-常在菌を住まわす

口腔から肛門に至る消化管は、栄養たっぷりの食物が通る管です。

ここにも栄養目当てに微生物が寄ってきますが、ここを無菌に保つことは困難です。消化管の中にも、微生物への武器となるIgAやリゾチームは分泌されていますが、除菌には限界があります。それなら「病原性のない人体に役立つ菌を住まわせてしまえ」ということで、常在菌を定員いっぱいに住まわせ、病原菌が増殖するのを防いでいます。

膣も常在菌を住まわせることで、病原性微生物を防御しています。それだけでなく膣の常在菌として有名なデーデルライン桿菌は、グリコーゲンを分解して乳酸をつくり、殺菌効果を発揮しています。

また、大腸には大腸菌や腸球菌、ビフィズス菌など1000種類以上の細菌が常在し、ビタミンなど人体に有益な物質を作り出しています。

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エピソード|侮れない膀胱炎

わたしの子どもは今年20歳を迎えますが、現在もボーイスカウトに所属しています。わたし自身も子どもに付き合って、10年以上ボーイスカウトのリーダーをつとめていました。活動の主体は野外活動なのですが、わたしにとって一番問題なのは、長期の宿泊を伴う夏のキャンプでした。必ず膀胱炎になるのです。

キャンプでは、必ずといっていいほど「ハイキング」がプログラムに入ります。水とおにぎりをもって、一日中、山の中を歩くのですが、普段と違って水分をたくさん飲んだり、すぐにトイレに行ったりできません。大汗をかく割に飲める水分が少ないので、ほとんど排尿なく過ごしてしまいます。その結果、だいたいキャンプの終盤には膀胱炎になってしまいます(特に女性は尿道が短いので、男性に比べ圧倒的に膀胱炎になりやすいといえます)。

健康な人の場合、水をたくさん飲んで排尿を頻繁にすればたいてい軽快します(それでもだめなら受診します)。ところが、糖尿病で血糖のコントロールが悪い人や、免疫力が低下している人、尿路の奇形で尿が逆流しやすい人、膀胱留置カテーテルを挿入している人などは膀胱炎になりやすいだけでなく、腎盂腎炎から敗血症へと至ってしまう場合もあります。「たかが膀胱炎」と侮れない人たちが、たくさんいるということを知っておきましょう。

執筆者情報

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廣町 佐智子

hiromachi-sachiko

<日本看護研究支援センター 所長> 看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。