看護師国試対策|高カロリー輸液と中心静脈栄養法、カテーテル穿刺部位

看護師国試対策|高カロリー輸液と中心静脈栄養法、カテーテル穿刺部位

最終更新日:2024/05/14

長期にわたり口から栄養を摂取できないときの摂取方法として、血管に直接「高カロリー輸液」という輸液を投与する治療方法があります。
しかしこの輸液は中心静脈という太い血管からしか投与できません。
この理由やメカニズムについて、今回は看護師国試の過去問からひも解き解説します。
また、知っておきたい怖い合併症についてもまとめます。

問題 中心静脈から投与しなければならないのはどれか。

  1. 脂肪乳剤
  2. 生理食塩液
  3. 5%ブドウ糖液
  4. 高カロリー輸液
  5. [第108回看護師国家試験より]

解答・解説

1.2.3.(×)→脂肪乳剤や生理食塩水(0.9%食塩水)、5%ブドウ糖の浸透圧は、体液の浸透圧と同じ(等張)です。そこで血管の細胞を傷つけることがありません。そのため、末梢静脈、大静脈問わず投与することができます。

4.(〇)→高カロリー輸液は、輸液中の溶質量が多く、浸透圧が体液に比べ高い(高張)のが特徴です。高張の輸液を投与すると、末梢静脈では血管内皮細胞が浸透圧に耐えられず、脱水から血管痛や血管炎を引き起こしてしまいます。高カロリー輸液の高浸透圧に耐えられるのは、心臓に近い太くて丈夫な静脈(中心静脈)に限られるのです。

図1 高張液の投与による脱水のメカニズム図1 高張液の投与による脱水のメカニズム

Point:液体の浸透圧を体液と比較しよう

覚えておきたい高カロリー輸液の適用と穿刺部位

高カロリー輸液には、さまざまな種類がありますが、おおよそ500mlが1000kcalくらいと考えてください(ちなみに市販されている甘いジュースや炭酸飲料は500mlで250kcal程度です)。

高カロリー輸液に含まれるものは、ブドウ糖をはじめ、アミノ酸、脂質、電解質、微量元素、ビタミンなどです。病態にもよりますが、高カロリー輸液では1日におよそ1000kcalもの高い栄養が、24時間かけて持続的に投与されています。これを中心静脈栄養法といいます。

高カロリー輸液の適用となるのは、例えば消化管の術後などで、しばらく経口摂取が不可能な患者さんなどです。

高カロリー輸液のカテーテル穿刺部位

高カロリー輸液は、中心静脈に挿入したカテーテルから投与します。カテーテルの穿刺部位に選ばれるのは、右鎖骨下静脈や右内頸静脈が一般的で、そこからカテーテルを心臓近くの上大静脈まで挿入します。

穿刺のときに肺や血管を傷つけやすいので注意が必要です。なぜ心臓の近くの静脈に穿刺するかというと、血管が丈夫だということだけでなく、輸液が心臓を経由して全身に送られ、すぐに希釈されるのをねらっているのです。

図2 高カロリー輸液のカテーテル穿刺部位図2 高カロリー輸液のカテーテル穿刺部位

高カロリー輸液投与の合併症

高カロリー輸液の投与には、注意しなければならない合併症が多くあります。その代表として、高血糖と感染症があります。

高血糖

空腹時の人間の血糖値は、およそ70~100mg/dlに調節されています。細胞が安定的にATPを合成するのに、この血糖値がちょうどよいためです。血糖値が高すぎると血管内皮細胞を傷つけるため、人体は血糖をグリコーゲンや脂肪としてたくわえたり、あるいは尿中に糖を排出したりして、血糖値を一定に保とうとします。

しかし高カロリー輸液を行っているときは、血糖が上昇し、尿糖が出やすくなっています。尿糖が出るめやすは、一般的に血糖値が180mg/dlを超えたときといわれています。尿糖は、大量の水を引き付けて排泄されるため(浸透圧利尿)、患者は脱水に陥りやすくなります。

浸透圧利尿からいちど脱水に陥ると、血液が濃縮されて再び血糖値が上昇し、さらに浸透圧利尿が生じて脱水が悪化します。浸透圧を補正しないと、脱水がどんどん進行し、死に至ることもあります。このような病態を高浸透圧高血糖症候群といいます。

このため高カロリー輸液の投与を行っているときは、輸液量に対して尿量がバランスよくできているか確認するとともに、血糖値や尿糖をチェックする必要があります。

感染症

血管の中は無菌です。血液中に菌が存在すると、菌は血流に乗って全身にばらまかれてしまうため、白血球によって無菌状態が保たれているのです。

もし高カロリー輸液内に菌が存在したらどうでしょう。高栄養な環境内で、菌はあっという間に増殖し、カテーテルを介して人体に侵入してしまいます。特に高カロリー輸液を行っている患者さんは、栄養状態が悪く免疫力が低下しているため、菌の攻撃を受けたらひとたまりもありません。

そこで高カロリー輸液の調剤は、菌が紛れ込まないようにクリーンベンチで行うほか、菌が入り込まないようなフィルター付きの閉鎖式輸液セットを用います。刺入部の皮膚の消毒も菌が入らないような方法で行います。

もし人体に菌が入ったら、刺入部の発赤や発熱がみられるので、発見次第、すぐに医師に報告しなければなりません。

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エピソード|実習での思い出-患者さんが超高血糖に!-

わたしが看護学生のときの成人看護学実習でのことです。担当したAさん(60歳)という患者さんが、胃全摘手術を受けました。

手術見学を終えて、麻酔回復室から病棟へと、ずっとAさんに付き添っていました。病棟でAさんの検査データをチェックしたわたしは驚きました。血糖値が500mg/dlを超えていたからです。これは脱水がどんどん進行しそうな危険な状態です。なぜこんな状況になったのでしょうか。

術後は、人体がエネルギーを必要とするので、アドレナリンや副腎皮質ホルモンなどがどんどん分泌され、グリコーゲンや脂肪を分解してブドウ糖を作り出します。これは誰にでも起こる反応で、そのため術後は血糖値が上昇します。加えてAさんは糖尿病の持病があり、高カロリー輸液の影響も重なって血糖値が著しく上昇しました。

その後、Aさんには即効性のインスリンが投与され、血糖値は安定化しました。当時、まだ学生のわたしは高血糖のリスクをきちんと予測できませんでしたが、この経験は自分にとってよい勉強になりました。

執筆者情報

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廣町 佐智子

hiromachi-sachiko

<日本看護研究支援センター 所長> 看護系短大・大学での教員経験ののち、2002年より日本看護研究支援センターにて、臨床看護師の看護研究指導に従事。同時に、解剖学や看護師国家試験対策の非常勤講師として、全国の看護学生の指導も経験。国家試験のすべての領域についてのわかりやすい指導には定評がある。