【がん看護の特徴と魅力】先輩看護師の体験談からがん看護の現場をイメージしよう
最終更新日:2024/09/02
日本人にとって非常に身近な病気である「がん」。今回は、さまざまな診療科にまたがり新卒看護師のファーストキャリアの選択肢の一つであるがん看護について、先輩看護師の体験談をお伝えします。
※本内容は、2023年6月17日に開催したオンライン就活ゼミ「看護師が語る!各診療科のリアル」にて、静岡県立静岡がんセンターの副看護部長と若手看護師にお話いただいた内容を再構成したものです。
目次
登壇看護師プロフィール

清 好志恵 氏
静岡県立静岡がんセンター 副看護部長・がん看護専門看護師
佐賀大学医学部看護学科卒業後、国立がん研究センター中央病院、旭川医科大学医学部看護学科 成人・老人看護学講座助教を経て、2002年より静岡県立静岡がんセンター所属。
東京慈恵会医科大学大学院医学研究科看護学専攻修士課程がん看護専攻修了後、2012年がん看護専門看護師免許取得。

鈴木 理乃 氏
静岡県立静岡がんセンター 看護師
常葉大学健康科学部卒業後、2020年4月に静岡県立静岡がんセンターに入職。乳腺外科、女性内科、呼吸器内科などの診療科で、日々病棟で患者さんのケアを行っている。
先輩看護師体験談【乳がん高齢患者のケース】
乳がん高齢患者の支援
- Aさん(80代女性)
- 検診で乳房腫瘤を指摘され、その後乳がんと診断。当院で乳房全切除術を施行。
- 独居でADL(日常生活動作)は自立しており、現役の美容師で術後も仕事の継続を希望。
- 娘が近隣に在住。長女は乳がんの手術経験があり、精神的支えとなっている。
看護師は、乳がん手術で健康な体を失ったことによる日常生活の工夫や注意点について退院指導を実施します。また、女性のシンボルである乳房を失った患者さんの身体変化の受け止めを確認して、それに対する精神的な支援も行います。
鈴木さんがこの事例を体験するまで関わった患者さんの多くは、乳房を喪失した姿に「もう胸のある、ないは気にしない年齢だから」という反応を見せて、ボディイメージの変化を比較的スムーズに受け入れていました。しかしAさんは乳房を失った自身の姿を見て「こんな年齢だけど、やっぱり胸がなくなるのはショックだね。お腹が痛くなってきてしまった」と訴え、身体症状が生じるほど強く悲嘆する姿が見られました。鈴木さんは患者さんの反応から直ちに退院指導を中止し、Aさんのもとを訪ね、悲嘆な思いの傾聴・共感に努めました。
ドレーン留置中は下半身シャワー浴ができるのですが、Aさんは下半身シャワー浴の際に創部が見えてしまうことに恐怖を感じていました。鈴木さんは創部が見えないように胸元にバスタオルを巻いて実施する方法を助言し、創部の観察は看護師が行うので無理にご自身でする必要はないこともお伝えし、安心できるように声をかけました。
退院指導中にはAさんは「一人で傷を見るのも怖い、娘が乳がんの手術経験があるから一緒に傷を見て指導を受けたい」と、乳がん経験者の長女と一緒に退院指導を受けることを希望されました。そこで鈴木さんは長女に連絡し、一緒に退院指導を受けられるように調整しました。病棟スタッフには、創部観察時のAさんの反応や発言、創部の自己観察が未実施で退院時に家族と一緒に行う予定であることを共有しました。術後しばらくすると、Aさんは「傷を上から見ることができた。思ったよりきれいで驚いた」と、自身で創部を観察することができるようになりました。鈴木さんはAさんに「素晴らしいです。手術から少し時間も経って体調もよくなり、心に余裕が生まれたのですかね。退院に向けてもう少し頑張りましょう」と励ましの声かけを行い、Aさんの身体変化に対する受け止めを確認しました。
Aさんは、退院日には「傷きれいでしょ。先生がきれいに縫ってくれたみたい」と創部を正面から観察することができるようになり、手術による体の変化を受け止められるようになっていました。Aさんの退院後も鈴木さんは日常生活の工夫や注意点の指導、精神的支援が継続的に受けられるよう、乳がん看護認定看護師に情報を提供しています。
乳がん高齢患者支援の中で学んだこと
この事例を通じて、鈴木さんは「個を尊重した看護」と「ボディイメージの受容段階を読み取り、段階に合わせた看護」の2つを身に着けました。
現役の美容師であったAさんは、入院中も身だしなみがしっかりしていて美への意識が高い印象がありました。長年連れ添った自身の身体を喪失する衝撃は、強いものであったと考えられます。家族に乳がん経験者がいるという患者さんの強みを生かして家族のサポートを受けられるように支援したことや、身体症状が生じるほど強い衝撃を受けた反応からボディイメージの受容段階を読み取り、段階に合わせて支援をしたことで、個別性を尊重した看護ができたと鈴木さんは感じています。
また、鈴木さんは自ら発信・連携する力も養うことができたと感じています。Aさんのボディイメージの受容状況を記録に残し、病棟全体で統一した看護ができるように発信しました。さらに退院後もボディイメージの受容は続くため、外来でも継続的に支援ができるよう連携して情報提供を行いました。この発信・連携する力は看護師にとって大切な力です。
鈴木さんも新人のころは、自分が考えた意見を伝えることは難しさを感じていました。しかし3年間の勤務を通じ、患者さんに最も近い立場である業種は看護師であり、患者さんや家族の思いを代弁することはもちろん、症状コントロールの方法を医師や他スタッフに相談するときにもその力が絶対に必要であると実感しています。鈴木さんは、自らの意見を発信することが上手な先輩看護師は、状態を見る力も聴く力も高く、とても勉強になると感じています。発信・連携する力は学校の授業や実習だけでなく、バイトやサークルなどでも身につけられると思うので、ぜひ意識して頑張ってもらえたら、というのが鈴木さんからのアドバイスです。
がん専門病院で学べること
静岡がんセンターはがん専門病院ですが、基礎看護力は他病院と同じように学べます。
救急や超急性期、循環器を専門的に学ぶことは難しいですが、手術後の全身管理や既往・がんに伴う症状に対する看護、がんを治療しながら生活するためのセルフケア支援や在宅支援、慢性期や終末期などがん患者の病期に合わせて幅広い支援を勉強することができます。がん治療についての知識も深められるため、他院から転職してきた鈴木さんの先輩看護師は「がんセンターで働いたらどこでも通用する」と仰っていたとのことです。
がん看護の志望動機・心がけていること
鈴木さんが静岡がんセンターを希望した理由は、自分の看護観が病院の看護理念と合致したからです。学生時代に受け持った白血病の患者さんが、治療・再発を繰り返していました。実習最終日に患者さんから「看護師さんが一生懸命支えてくれるからつらい治療も頑張れる。あなたにも患者の頑張ろうとする生きる力を引き出せる看護師さんになってほしい」と声をかけてもらいました。その言葉がそのまま鈴木さんの看護観になっています。
病棟ではさまざまな病期の患者さんとその家族を対象に看護をしています。初めて会ったときは元気だった患者さんが終末期になって戻ってくるときは、やはり“がん”という病気の怖さを感じます。がんの怖さを知っているからこそ、患者さんと家族の全人的苦痛を読み取って最善の治療・看護を提供し、がんと共存できる力を引き出せるように心がけています。
看護師として今後のキャリアについて
静岡がんセンターは専門看護師や認定看護師の資格を持つ先輩ナースや、修士・博士課程を取得している方がたくさんいます。病院以外の職種では訪問看護師、施設看護師、保健師や養護教諭など将来の選択肢はいろいろあり、鈴木さん自身今後のキャリアについてまだ固まっていませんが、緩和治療や訪問看護に興味があるので勉強を続けていきたいと考えています。静岡がんセンターは福利厚生が整っているので、ライフイベントに合わせた働き方も考えたいと思っているそうです。
看護師・副看護師部長への質疑応答
Q. 終末期の患者さんや家族と接する際、どんなことに気をつけて看護を実践していますか?
A. (鈴木さん)緩和病棟も併設されていますが、一般の病棟でも終末期の患者さんをお看取りすることがあります。患者さんが身体的症状でつらかったり、自分の死に対する受容ができていなかったり、全人的な苦痛があるとご家族も一緒につらくなってしまうので、医師や他職種と連携しながら症状コントロールを行っていくことが一番大事なのかなと思っています。症状コントロールをするためには、看護師が患者さんと日々関わり、たくさんコミュニケーションをとって関係性を築くことで、患者さんのつらい思いなども引き出せるのではないかと思っています。限られた時間ですが、患者さんの声に耳を傾けるように心がけています。
Q. 専門看護師になるためには 5年の臨床経験が必要ですが、総合病院でがん専門看護師になるためには何科でどのような経験を積むべきですか?
A. (清副看護部長)総合病院でも必ずがんの患者さんは入院されます。診療科に応じて患者さんが多い、少ないはありますが、消化器や呼吸器病棟ではだいたいがんの手術や治療をされていますので、症例を経験することができます。ただ、就職先を検討する際には、その病院の診療科がどのような疾患を診ているかは事前に調べておいたほうがよいと思います。例えば、間質性肺炎の治療を専門的にされている先生がいらっしゃった場合は、その疾患についての看護がメインになるため、自分が思ったような経験を積みづらい場合があります。ホームページなどでしっかり調べたうえで選択するようにしてください。
看護師の現場を知るには就業体験や病院見学へ行こう
がん看護について、イメージすることはできたでしょうか。
自分がやりたい看護を見つけるうえではさまざまな現場の声を知ることが必要ですが、実習などで得られる情報はほんの一部にしか過ぎません。現場の声を知るためには実際に病院見学や就業体験などを通して自分から積極的に情報収集をして、自分のやりたい看護や自分に合った環境を見つけてくださいね!
