慶應義塾大学病院
看護部長
加藤 恵里子さん
私立大学病院の中でさまざまな役割を果たされていますね。
当院は特定機能病院としての役割を果たすとともに、臨床研究中核拠点病院、がんゲノム医療中核拠点病院でもあり、未来の医療を担う使命を負っています。看護部では、未来の医療を側面から支える存在となれる看護師を育成しています。
100年という節目を迎えられ、どのような取り組みを考えておられますか。
100年の歴史と伝統を大切にしながら、看護部では次の100年に向けて新たな取り組みを行っていきます。その看護の基軸となるのが、包括的看護です。大学病院であっても院内にとどまらず、訪問看護など、地域との連携を充実させることが課題です。
外来から入院、退院後の生活まで切れ目のない看護を提供するため、看護師が多職種とチーム力を発揮し、患者さんが安心して生活の場へ帰っていけるように力を入れていきます。
チームの要ともなる看護師の人材育成について教えてください。
看護部ではこれまでの歴史の中で「自律」をテーマとしてきましたが、時代が変わっても「専門職としての自律」を根幹に置いています。個々の看護師が自律し、成長していくことを支援するための教育体制を整えています。
その最大の特徴が、看護部独自の「発達モデル」です。これは年次ごとに教育プログラムが決められているのではなく、個々の経験や習熟度に応じて学んでいく方式です。成長の度合いは、早い・遅いではなく、一人ひとりの能力や成長に合わせたものとなっています。また発達モデルのレベルは階段状ではなく、膨らみのイメージでとらえ、経験を積み上げることで、ジェネラリスト・ナースとしての完成を目指していきます。1996年に開発した「発達モデル」ですが、今の時代に合った内容に見直すことも行ってきました。
さらにジェネラリストとして看護の力を培った後のキャリアパスとして、専門・認定看護師などのスペシャリストナースや、教育的役割を担う臨床指導ナース、看護管理者など、個々のキャリアアップを支援しています。
入職後の新人教育の特徴はありますか。
新人教育は、集合研修をベースに現場教育と連動させ、学びを積み上げていきます。年間を通じたプログラムとともに、現場ではプリセプターシップ体制をとっています。くわえて、師長・主任・副主任・先輩看護師のほか、臨床指導ナースを各病棟に配置していることが特徴です。何層にもわたる指導体制を確立しチーム全員で新人を支えています。
この2年間は、コロナ禍における研修の変更を余儀なくされました。集合研修は少人数制で複数回実施となりましたが、少人数制は深く学べるという利点も生まれ、結果的に満足度の高いものとなりました。また、これまであまり活用されていなかったe-ラーニングもとり入れ、いつでもどこでも学べる環境を用意しました。
キャリアアップ支援については、いかがでしょうか。
院内には20分野の専門・認定看護師が、横断的に活動しています。各分野の専門性を生かし患者さんへの看護を行うとともに、院内の看護師に向けて指導・教育・相談を実施し、習得した知識・技術を還元しています。専門・認定看護師などスペシャリストの資格取得を目指す方に向けて、進学休職制度や資金補助を行っています。
また、教育的役割を担う臨床指導ナースの育成にも力を入れています。臨床指導ナースは、1年間にわたる育成研修を通じて育成しています。看護部では個々のさまざまな目標に向けたキャリアアップを支援しています。
ご自身の看護観や大切にされていることをお聞かせいただけますか。
私自身は患者さんがどう過ごしてきたかを大切にしています。新人のころに受け持った大学教授の患者さんは、それまで夜型の生活を送っていたため、21時の消灯が難しい状況でした。就寝してもらうために入眠導入剤を検討しましたが、師長から入院前の生活を確認したかと問われました。薬剤に頼るのではなく、患者さんのこれまでの人生や生活背景を理解し、何がベストなのか考えてケアにあたることの大切さをこの患者さんを通して胸に刻まれました。また看護観とは異なりますが、患者さんと向き合うときは「嘘をつかない、隠さない、ごまかさない」という基本的なことを大事にしています。
技術の獲得ももちろん必要ですが、患者さんの考えや思いを引き出し、チームのメンバーに伝えて全員で一緒に最善の方法を考えていくことが大切ではないでしょうか。
新人の皆さんにはどう成長してほしいとお考えですか。
入職したてのころは、できないことに落ち込んだり悩んだりするケースも見られますが、看護の仕事は失敗しないと学べないこともあります。そこで挫折してしまうのではなく、将来の可能性を信じて、決してあきらめないでください。自分の課題と向き合うことは大変ですが、次につながるよう部署全体で支援する体制を整えています。看護を継続し次の一歩を踏み出したとき、必ず成長できるはずです。
コロナ禍において看護師を目指す学生さんへメッセージをお願いします。
これまで私たちが経験したことのない、新型コロナウイルス感染症との闘いが続いています。昨年はフローレンス・ナイチンゲール生誕200年という節目の年でした。このときに、私たちが感染症と向き合うことにあらためて意味深さを感じました。目に見えない恐怖と闘う看護の仕事に就こうと思う方たちには、勇気があり、ありがたいことと感じています。
慶應病院は新病院棟にくわえ、既存棟への改修も進み、看護師寮も新しくなるなど病院全体が生まれ変わります。信濃町という恵まれた立地の中、最新の医療を経験できる当院で次の100年に向けて一緒に成長していきましょう。
慶應義塾大学病院
[住所]〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
当院では三交替制勤務を導入していますが、二交替制勤務にも対応し、個々のライフスタイルに合わせた働き方が選択できます。また、子育てと仕事を両立できる育児休暇、短時間勤務制度なども導入しています。
Profile プロフィール
かとう えりこ
1988年慶應義塾大学医学部付属厚生女子学院卒業、1997年東洋大学文学部教育学科卒業、2017年慶應義塾大学病院事務局次長代理、2018年より慶應義塾大学病院看護部長・認定看護管理者。