武蔵野赤十字病院は、地域密着型の災害拠点病院であり、急性期医療を担う多摩地域の中核病院として、24時間救急患者さんを受け入れる。そのため、救急センターに自力来院したすべての患者さんに対してトリアージを行っている。導入したのは、2002年に実施した救急センターの待ち時間調査がきっかけだ。その後、新潟中越地震での救護初動班の出動などを通じて、その必要性が強く認識され、7年を経て定着した。
「緊急度・重症度の判定を行い、患者さんの状況に合わせた診察の優先順位の決定、スムーズな診療と待ち時間の減少などを目的としています。また、医療者が来院直後から患者さんや家族に関心を示し、適切なコミュニケーションによって、信頼関係を築くことも重要な目的の一つです」
このようにトリアージの目的について話すのは、長くトリアージナースとして活動してきた倉橋公恵さん(看護歴13年)。現在は脳卒中センター(SCU)に勤務している。
同院では、08年の東京都の「小児救急トリアージ普及事業」を契機に、トリアージナースの育成に関して、医師と看護師によるワーキンググループを立ち上げた。倉橋さんもメンバーの一人で、研修システムの整備に携わっている。
「トリアージナースに必要な能力は、瞬時のアセスメント能力と判断力、綿密・適切な観察力、コミュニケーション能力、リーダーシップ・マネジメント能力などです」と倉橋さん。救急センター内でトリアージを行うのはリーダークラスの看護師だが、トリアージナースとなるために、従来のリーダー養成プログラムに加え、新たにペーパーペイシェント30例のトリアージ、基本トリアージ研修の受講などを検討している。こうした教育体制の整備により、救急現場を担うトリアージナースの育成に力を入れていく予定だという。
「バイタルサインや理学的所見だけでは判断できず、得られる情報から緊急度や重症度を判断するのは本当に難しい。それだけに大勢の患者さんがいるなかで、早急な処置が必要な患者さんをトリアージできたときには、やりがいを感じます」と話すのは、救急センターでトリアージナースとして活躍する多治見允信さん(看護歴9年)だ。
看護師になる前から国際救援活動に関心を持っていた多治見さんは、災害救護支援の体制を持つ同院に転職した。現在は、同院の救護員のほか東京DMAT、日本DMATの隊員として登録され、これまで東京DMATにおいて、交通災害現場での救護活動を経験した。
「災害現場では看護手技は院内と変わらなくても、限られた物しかない環境での看護は、周囲の状況が見えていないとうまくいきません。何より、ほかのスタッフとも現場で初めて顔を合わせるので、はっきりと意思表示ができるかなど、災害救護ではコミュニケーション能力が不可欠だと実感しました」
救護活動は赤十字病院の使命でもある。同院にも医師2名、看護師長1名、看護師2名、主事2名で編成される救護班が13個班あり、待機している。また、救護員の育成教育を定期的に実施し、災害支援の要請があった場合には、担当の班が直ちに出動する。赤十字病院のなかでも、同院の初動の早さには定評がある。
赤十字病院の救護員教育は、キャリアラダーに組み込まれ、レベルⅡで「救護員のための赤十字看護師研修」を修了し、レベルⅢでは救護活動を実践できる状態に到達することが目標となる。
「院内の研修では、赤十字の災害看護だけでなく、DMATでの研修経験を活かしたシミュレーションやトリアージもプログラムされ、臨床現場でのケアにも生きます」と、小児科病棟看護師長であり、救護員育成に携わる櫻井美枝さんは説明する。
櫻井さんもまた救護員であり、東京DMAT、日本DMATにも所属して定期的に訓練に参加し、常に災害発生時の出動に備えている。救急センターに所属していた時に参加した東京DMATの研修以来、救護活動に興味をもち、同院の看護師の救護員の育成に力を注ぐようになった。
「災害看護は、必ずしも特殊ではなく、看護の基本は病棟と同じです。いかに現場の状況に応じて、自分の看護技術を応用できるかが問われてくるのです」と、集中ケア認定看護師でもある櫻井さんはいう。同院では、一般的な看護教育プログラムだけでなく、トリアージナースの育成、救護員の育成と、多様な分野で学ぶことができ、活躍する分野も多い。この多彩なキャリアデザインが、同院の看護の魅力でもある。


