「患者中心の看護」を看護部の理念とする虎の門病院では、2008年度から院内教育と連動したキャリアラダーを導入している。
「キャリアラダーを用いることで、ナース個々が行動できていること、行動できていないことが明確になります。それによって学ぶべきことが見えてくるので、自己の成長のために大いに活用してほしいと思います」と、看護教育部のMさんは、導入のねらいについて話す。
同院のキャリアラダーの特徴は、ラダーの評価指標を教育プログラムの参加・修了にしている点。つまり、各ラダーに到達するためには、どの教育プログラムに参加・受講したらよいのか明確になっている。たとえば、ラダーⅠは新人コース、基礎コースの修了、ラダーⅡはプライマリ・ナーシング入門コース修了と対応している。
また、4年目以降のキャリア開発を強化するため、ラダーの導入を機にプライマリ・ナーシング中級・上級コース、プリセプターシップコースといった新しい教育プログラムを開始し、キャリアアップへの支援体制をより充実させた。
Mさんは「高いキャリア志向のスタッフが多く、ラダーを示したことでより積極的に学ぶ人が増えているように感じます」と、ラダー導入の効果を語る。
5階北病棟のNさん(看護師1年目)も、同院の充実した教育環境に魅せられて入職した一人だ。
入職当初、技術面に不安を抱いていたNさんは、基礎コースの学習で用いられる『基本的看護実践マニュアル』を活用し、不安を解消したという。
「初めての業務や処置にあたるとき、まず看護実践マニュアルを見て予習し、次に実践、そしてテストでの振り返りがあるので、曖昧な部分を明確にしていくことができるのです」
同じ検査でも患者さんの抱える疾患によって行うべきケアが異なってくる。たとえば食道静脈瘤の患者さんが胃の内視鏡検査を行った後は、通常よりも安静時間が長く、細かな観察が必要となる。そこを理解するには、患者さんが受ける検査がどのようなものか、どのような流れで行われるのかの理解が欠かせない。Nさんは、基礎コースで検査の基本を学ぶことで、戸惑いなく患者さんに対応できるようになったという。
「安静にするにしても、なぜ安静が必要なのか、それはどの程度の安静なのか、そうしたことを具体的に患者さんに伝えることができるようになったのは、この1年間の学びの成果だと思っています」とNさんは振り返る。院内の勉強会にも積極的に参加し、プリセプターによるフォローアップなど新人の着実な成長を支える体制により、ラダーⅠの目標クリアも見えてきた。
Nさんは、これからも着実に学び続けることで、患者さんに安心してもらえるような看護ができるようになりたいと考えているという。
「患者さんは大きな不安を抱えています。その患者さんの不安をくみとって自信をもって看護ができるように、根拠となる知識や技術を身につけたいと思っています」(Nさん)
昨年プライマリ・ナーシング入門コースを修了したOさん(看護師4年目)は、同コースでの学びを通じて、自分の考えを相手に伝える大切さに気づいたという。
このコースでは、プライマリ・ナース、アソシエイト・ナースの役割を担うために必要な能力を習得する。文献学習のほか、2週間ごとに課題をもって看護を実践しグループワークにより評価し合う。プログラムのなかでも参加者に大きな意識変化をもたらすのが、夏の合宿研修だ。
合宿では、自分の言動が周囲に及ぼす影響について参加メンバーたちからの意見も参考にして考察していく。Oさんはここで、物事を自分のなかに抱え込む傾向があることに気づかされた。自分の感情や考えを伝えないことは、誠意がないと受け取られ、不信感を与えてしまう場合もあると、指摘されたという。
「確かにはっきり意見を言うことが少なかったし、看護で協力を依頼したくても、迷惑をかけてしまうと思うと、できずにいました。でも、自分の考えをきちんと相手に伝えなければ、相手が考えていることも理解できないとわかったんです」
自分の傾向に気づいたOさんは、このコースで学んだことを意識しながらケアを実践するよう心がけた。カンファレンスでは自分の考えているケアをスタッフに話し、評価してもらう。また、患者さんへの対応を依頼するときも、その内容に適切に対応できるスタッフに声をかけるなど、一人で抱え込まずチームで看護を実践していくことを心がけている。
「患者中心の看護」とは、患者さんのニードを理解することから始まる。それには、まずナースが自分の思いを患者さんに伝え、信頼関係を築くことが大切となる。これからラダーⅡをめざすOさんは、真の「患者中心の看護」に向けて新たなステップを踏み出している。

