「心によりそう看護」を看護部の共通理念とする東邦大学医療センターは、大森病院、大橋病院、佐倉病院が互いに連携し、地域に貢献する医療と看護を提供している。
大橋病院では「すべては患者さまのために」をモットーに、患者さまが安心して医療が受けられる看護活動を展開。看護部では「自分で考え、自由に創造する」という、自立した看護師の育成に取り組んでいる。各現場では、高度な知識や技術をもった看護師たちが患者さま中心の看護を実践している。
現在、摂食・嚥下障害看護認定看護師は、155名。都内でも15名と少ないが、そのうちの2名が大橋病院にいる。脳神経外科・耳鼻科混合病棟に勤務する渡邉恵美さんと、神経内科・呼吸器内科・リウマチ科に勤務する河南典子さん(ともに看護師歴9年)である。二人は2007年に資格を取得。患者さまのQOLの維持・向上を目指し活動している。
渡邉さんは、資格取得の経緯を次のように語る。
「1年目のとき、嚥下障害の患者さまを受け持ちました。先輩にアドバイスをもらいながら、ケアプランを立て嚥下訓練を実施した結果、経管栄養から経口摂取が可能となり感動したことがありました。そして将来の目標を模索していた6年目に、摂食・嚥下障害看護の認定分野があることを主任から聞き、スキルを高めたいと思いました」
河南さんも経口摂取の大切さを感じ、専門的な知識を深めたいという気持ちが強まったという。
「経口摂取は無理だと思われていた筋ジストロフィーの患者さまが、食べられるようになったことがきっかけでした。当時、胃瘻からの経管栄養が多かったのですが、医師への説得も、自分自身に知識や技術が必要だと実感し、渡邉さんとともに資格取得を目指しました」
高齢社会に伴い、摂食・嚥下障害に対するケアの需要も高まっている。しかし、同時に嚥下障害は、誤嚥や窒息につながるリスクも抱えているため、高度な看護技術と正しい知識を身につけることが求められる。
現在、渡邉さんと河南さんは、コンサルテーション業務、看護師の指導に取り組んでいる。また、09年11月から、栄養サポートチーム(NST)へ参加して、カンファレンスとラウンドを実施。二人の認定看護師に加え、神経内科・脳神経外科・耳鼻科・呼吸器科の医師、栄養士、薬剤師、STなど多職種が参加。各専門職が個々の知識や技術を生かし、患者さまの状態を評価している。
渡邉さんは、活動を続けるなかでチーム医療の大切さを実感している。
「私たち看護師だけでは、摂食・嚥下障害の患者さまをサポートできません。他職種と連携を取ることで、よりよいケアの向上につながっています」
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士の資格を持つ、神経内科の紺野晋吾医師は、二人の活動に大きな期待を寄せている。
「一見、同様に見える嚥下障害も原因はさまざまです。二人の評価により、その原因が複雑な病態であることに気づかされることがあります。また、スタッフに嚥下リハビリテーションを指導することで、機能を回復する患者さんも増えています。摂食・嚥下のエキスパートである二人は、頼もしい存在です」
二人が活動を開始する前は、摂食・嚥下障害がある患者さまのケアは医師からの発信で介入が始まっていた。しかし認定看護師がいる現在、24時間ベットサイドにいる看護師からの発信が可能となった。結果、二人への依頼も年々増加。それだけに、摂食・嚥下障害の評価と援助を行える看護師の育成に力を入れたいという河南さんだが、活動を通じて病棟スタッフの意識の変化を感じている。
「ひとりでも多くのスタッフが評価と嚥下訓練にかかわれるよう、勉強会を行っています。最近は、経管栄養の患者さまを、経口摂取に移行できるのではないかと、スタッフの声も増え、意識が高まってきたことを実感しています」
渡邉さんは今後、院内だけでなく地域にも目を向けて活動の場を広げたいと意欲的だ。
「食は、“人を良くする”と書きます。食べる喜びは、患者さまのQOLの向上と機能回復につながります。これからは、院外にもアプローチしていきたいと思います」
個々の活動を支援する環境が整っていることも、同院の魅力のひとつ。
「私たちが、現在活動できるのも、周囲のサポートやバックアップがあったからこそ。自分のやりたいことを実現できる環境に感謝しています。今後も“楽しく”をモットーに、患者さまの笑顔がもっと増えるように支援していきます」と、共通の思いを語ってくれた。
二人の地道な活動により、着実に“嚥下の輪”が広がり、患者さまだけでなく、医師やスタッフにも「食べる喜びと大切さ」が浸透している。

