地域密着。
それを掲げている病院は数多いが、行動として実践し、実際に地域から高い支持を得るとなると容易なことではない。だがここに、600床近くあり、22もの診療科を抱える総合病院にもかかわらず、さまざまな取り組みで地域密着を実践し、地域から愛されている病院がある。板橋中央総合病院がそれだ。
1956年に開業以来、地域の要望に応えるために病床数を増やしていくなど、地域に根ざした幅広い活動を行ってきた。地域の人たちと交流を図るために、年1回、病院の駐車場を利用して盆踊りを開催しているのはその典型的な例だ。
そして注目すべきは、こうした地域密着の考えを、新人研修においても貫いていることにある。
板橋中央総合病院の教育プログラムで、生活環境の変化などで負担が大きい、新人看護師を対象とした「ほっとする時間」がある。入職して3カ月間は1週間に1回、同期同士での交流を図っている。この時間は新人看護師から良い評価を得ている。
そして、板橋中央総合病院が地域密着をさらに深めるために2007年から実施しているのが、『患者様・地域住民への聞き取り調査』である。これは入職してすぐの4月の第1週目に「新人オリエンテーション」の一環として行われ、地域住民に対しヒアリングを行うというものだ。
この調査を導入した背景を石垣キヨ子看護部長はこう語る。
「私たちは医学や看護の知識ばかりに目が向いて、地域の方々の当院に対するイメージは意外と知らないもの。地域の方々の思いを知ることが質の高いサービスに結びついていくのではと考えました」
実施されるのは、新人オリエンテーションの最終日。病院内の外来と、院外に出て路上や自宅を訪問するなどして、アンケート用紙を片手に病院のイメージや要望や意見を聞いていく。そしてこの調査が、病院と新人看護師たちにとって大きな発見の機会となる。
「驚いたのは、地域の方々が医師や看護師の応対を気にしていることでした」と婦人科に勤務する鈴木笑美さん(看護歴1年)。ヒアリングでは看護師たちの患者さんに対する声のかけ方など応対に関する要望が多く出たという。
消化器外科に勤務する石田真弓さん(看護歴1年)の胸に残ったのは、10年前に病院を利用した地域の方の声だ。
「『家族が亡くなった病院なのでいいイメージがない』と。それを聞いてご家族に対してもう少し何かできることがあったのかもしれないと思いました。看護師は患者さんの病気を看るだけでなく、ご家族の心の痛みも理解できないといけないんだなと考えさせられました」
こうしたアンケートの結果発表はオリエンテーションの最後に行われ、看護部長や師長はもちろん、院長や事務長も参加する。これは「病院全体で地域住民の声を受け止めよう」という強い思いからだ。
アンケート結果を受けて、案内板を見やすくしたり、外来の椅子の素材を座りやすいものに変えたりと改革を進められているが、なかでも大きな変化をもたらしているのが、それぞれの「理想の看護師像」のレベルが高くなったことだ。
血液内科、一般内科などの混合病棟で勤務する志田愛実さん(看護歴1年)は言う。
「患者さんによっては状態が悪くて症状を訴えられないことがあります。そんなとき、担当の私が気づけないことを先輩たちはすぐに気づいて対処できる。気づけない自分がすごく悔しいんですね。『1から10を知る』看護師になって、患者さんに安心を与えたいです」
石田さんは「ほっとできる看護師になりたい」と語る。だがそれは決して生やさしい意味ではない。
「ただ『やさしい』だけでなくて、看護師としての専門知識もしっかりと身につけたいです。高い専門性を備えた看護が、地域の方々からの信頼につながると思うからです」
石垣看護部長も住民の声に大きな影響を受けている。
「地域の方々は『いざというときに受け入れてくれる病院であってほしい』との声が多く、その要望に応えたいという気持ちが常にあります。忙しくても『住民のために』という思いで、不思議ともうひと頑張りできるんです」
聞き取り調査で地域住民の“心”を知った板橋中央総合病院のスタッフたち。その心を満たすためにはどうしたらいいのか──。その問いを、スタッフ一人ひとりが続けている。


