倉敷中央病院 新人にもベテランにも手厚い教育制度で『懇切なる看護』の実践者を育成

がん看護専門看護師のHさん(左から2人目)は積極的にカンファレンスを開催。患者さんや症状マネジメントについて全員で共有する

病院DATA

開設/
1923年
開設者/
小笠原敬三
病床数/
1135床
診療科目/
消化器内科、循環器内科、神経内科、呼吸器内科、糖尿病内科、腎臓内科、血液内科、内分泌代謝・リウマチ内科、精神科、小児科、脳卒中科、外科、整形外科、脳神経外科、心臓血管外科、呼吸器外科、産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻喉科・頭頸部外科、形成外科、美容外科、皮膚科、放射線科、リハビリテーション科、歯科、他併設センターあり

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玄関に着くとエスコートの女性が笑顔で迎え、広い院内で迷っていたら職員が近寄ってきて声をかけてくれる。「平等、親切、最高の医療、最新の設備」という創設者・大原孫三郎の理想が21世紀のいまも息づく。もちろん理想を実現するのは「人」。そのため同院では人材育成になみなみならぬ力を注いでいる。

3カ月ずつ4病棟をまわる新人看護師の臨床研修がスタート

ホテルのような外観、陽光あふれる温室、絵画が並ぶギャラリー……病院らしくない病院、それが倉敷中央病院だ。創設者・大原孫三郎が「病める人々に心の通った医療を行う東洋一の病院」をめざしたということで、院是は“完全なる診療と懇切なる看護とにより進歩せる医術に浴せしむること”──。

これを実践できる人材を育成することが看護部の目標であり、新しい試みとして2009年度から導入したのが新人看護師臨床研修だ。新人のなかから20名の希望者を募り、固定の配属先を与えず1年間をかけて4つの病棟をローテーションしながら研修していく制度だ。「患者さんを全身的に見ることのできる看護師になりたい」というDさん(2009年入職)は、臨床研修に参加したいと手を挙げた一人。4月から脳神経内科病棟、心臓血管外科・循環器内科の混合病棟、整形外科病棟を3カ月ずつ経験し、現在は消化器外科病棟で研修中だ。どの病棟でもプリセプターがつくという。研修生は3カ月ごとに入れ替わるので、1人のプリセプターが1年間で4人指導することになる。このため新人を迎え入れる準備には従来以上に力を入れたと、現任教育担当のF係長は語る。

「新人が3カ月間で消化しきれるよう研修内容を厳選しました。また、4つの科でいろんな技術を学べるのが大きな特徴なので、技術が習得できているかどうかしっかりチェックできる体制づくりをプリセプターにはお願いしました」 F係長によると、同じ清拭でも病棟ごとにポイントが違うので、そうした違いを指導することも重要だという。「たとえば脳神経内科では麻痺で体を動かしにくい患者さんに配慮するとか、外科では手術後たくさんの管が入っているので注意し痛みを気づかうとか、科ごとで清拭のポイントを教えていただきました」とDさんは振り返る。こうして研修生は病棟を変わるごとに、多様な知識と部署固有の技術を覚えていく。「循環器内科で学んだ心臓の働きや心電図の見方を、次の病棟で、心臓に疾患をもつ患者さんの観察やアセスメントに活かせました。ただし部署は違っても、患者さんの気持ちを大切にしている先輩の姿は共通でした。そんな先輩のようになりたいです」とDさん。

多様な技術を習得しつつ、看護師としての基本姿勢を学ぶ──。臨床研修のなかで新人は視野を広げ、確実に次のステップへの手がかりをつかみ取っているようだ。

スペシャリストへの道をバックアップする制度を整備

同院ではクリニカルラダーと目標管理を組み合わせたキャリア開発システムを導入し、個々人の希望や能力に応じた育成を行っている。各自が上司と話し合いながら、自分の目標とそこへと至るプロセスを確認していくのだ。今年1月にがん看護専門看護師になったHさん(1999年入職)も副看護部長との面談が資格取得のきっかけになった。

「血液内科病棟に7年間勤務し、抗がん剤の副作用で苦しむ患者さんを大勢見てきました。自分にもっと知識があれば適切な判断が下せるのではと思っていたときに、『学ぶ気があるなら休職制度があるよ』と背中を押していただきました」 

同院では、専門看護師や認定看護師をめざす人を支援する休職制度を設けている。入学金・授業料は病院が負担し、奨学金も支給する。「大学院では、学友からすごくうらやましがられました。休職制度がないといったん退職することになり、2年間の学生生活を自費で続けるとなると大変です」。 Hさんは、実習先に倉敷中央病院を指定してもらい、復職後は実習を受けた血液内科・循環器内科の混合病棟に配属されたので、スムーズに仕事復帰ができたという。「現場ではどうしても日々の業務に流されがちになります。でも、私が大学院で一番学んだことは心のケアの重要性です」とHさん。患者さんの本当の思いを知ることが看護の出発点になるということだ。とくに終末期の患者さんが多い病棟だけに、どんな治療を、どんな最期を望んでいらっしゃるか、それを知るための一歩踏み込んだコミュニケーションが課題だとHさんは感じている。そのため「みんなで一度立ち止まって検討しましょう」と呼びかけて症例カンファレンスを積極的に開いている。そこでは薬剤に関する知識も広めたいという。

「患者さんを苦しめている症状がなぜ起こっているのか、その原因といま使っている薬とを照らし合わせて考え、薬の変更を医師に提案することも、看護師に知識があれば可能です」 いつも患者さんのそばにいる看護師がいち早く気づいて、患者さんに痛みを我慢させることのないようにしたいというのがHさんの願いだ。「そのためにまずはスタッフ教育。私の所属する緩和ケアチームを母体として、症状マネジメントや精神的なケアなどの教育に力を入れていく予定です」

そんなHさんに続けとばかり、さまざまな分野の専門・認定看護師をめざし、現在多くのナースが休職・研修中だという。実は休職制度を利用して専門看護師になったのはHさんで3人目。すでに急性・重症患者看護と小児看護の2人の専門看護師が誕生している。こうしたスペシャリストが活躍できるためにもジェネラリストのすそ野をしっかり育てていきたいというのが看護部長の考えだ。それゆえ24時間保育の院内保育園や勤務の二交替制導入など、すべてのナースが快適に働ける環境を整えてきた。

「最終目標はいい看護、いい医療を提供することです。私たち看護師は人とかかわる仕事。当然、看護の技術にも“人”が出ます。ですから当院は人を大切にすることを最大の特徴にしています」 それでこそ創設者のめざした『懇切なる看護』を実現する早道といえるだろう。

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どんなケアが最適か、困ったときは図書室を利用するというHさん。職員専用図書室は24時間利用可能。文献検索や資料作成に欠かせない場所だ

カルテを見ながら、現任教育担当係長・Fさん(右)から患者さんの病態生理について理解度をチェックされるDさん(左)。新人が3カ月で消化できるよう研修カリキュラムも絞り込まれている

同院の創立者は、キリスト教的人道主義に基づく数々の改革を行い、大原美術館などの社会事業も手がけた大原孫三郎。患者さんの不安や緊張を和らげたいという創立者の思いが院内のそこかしこに息づいている病棟のチームワークもいいので、働きやすい環境だというSさん。今後は、患者さんの気持ちを考え、心に寄り添った看護を提供するとともにICUの看護を深めていくことが目標だという