
Yさん(右)にとってYさん(左)は頼りになる存在。夜勤などで会えないときはノートを介してコミュニケーションを取り合った
“SMILE” OHNO──看護師が胸につける名札のキャッチフレーズが大野記念病院の看護方針を表している。大阪市西区の地域基幹病院である同院は、長い歴史のなかで「医療を通じた心のふれあい」を一貫して追求してきた。その象徴が“SMILE” 。すべての患者さんにとって居心地の良い病院をめざす同院だが、そこで働く看護師にとっても居心地の良い場所になっているようだ。
大阪・堀江、そこはブティックやインテリアショップなど若者向け人気店が集まるエリアだ。1924年、この地に設立された大野記念病院は85年以上という長い歴史のなかで、つねに最新の医療を導入しながら地域医療を支えてきた。
同院で10年以上、教育制度づくりに取り組んできたのが看護部長のNさんだ。「患者様の意志を尊重しほかを思いやることのできる看護師を育てる」という看護部の教育目標を達成するうえで体験学習を重視してきた。患者さんの不自由、つらさを体験することで“思いやり”の心を育むためだ。「例えば新人教育の卒後3カ月研修では、実際にギブスをつけて車椅子に乗ったり、輸液ポンプを引いて歩いたりという半日の体験学習を取り入れています」
その体験効果は絶大のようだ。入職1年目に、ベッドで運ばれる患者さん役を体験した6病棟(内科病棟)のYさんは「実際にベッドに寝かされていたら、スピードが少しでも速いとすごく恐怖を感じることがわかりました」と語る。新人は、ベッドが揺れたりする前に患者さんに声かけをするよう教わるが、自ら体験することで、その必要性を“体で”理解できるのだ。配属されてすぐは業務を覚えることで精一杯になり、“なんのために”それをするかを忘れてしまいがちとN看護部長は指摘する。「ですから現場の業務に少し慣れ始めた時期に体験学習をすることで、あらためて学校で学んできた基本を振り返るという意味があるのです」
同院では、現場の実情や看護師のニーズに合わせて、つねに研修内容・方法を改善している。毎回研修後にアンケート調査を行い、そこで出てきた要望を次回の研修に組み込んでいくというかたちで、学ぶ側のニーズを反映した新人研修を実現している。
プリセプター制度についても改善を加えてきた。「以前は新人が配属されてすぐにプリセプター・プリセプティのペアリングを決めていたのですが、それでは新人の情報が限られていてベストな組み合わせが見つけにくい面がありました。そこでまずは1週間ほど新人の性格や動きを見て、それから相性の良さそうなプリセプターと組み合わせるほうが確実だという現場判断で改善していきました」とN看護部長。こうして昨年ペアになったのが、プリセプターで入職3年目のYさんと新人のYさんだった。「私が続けてミスをして落ち込んでいたときに『続くときは続くけど、それだけ失敗したら絶対に次につながるよ』ってプリセプターのYさんが元気づけてくれました」とYさんは感激する。
新人が1年間に習得すべき項目はチェックリストとして整理されているが、プリセプターがそれを一律に押しつけることはしない。不得意なことは時間をかけて、得意なことはどんどん任せて自立を促し、個々人の個性と成長のテンポに合わせた指導を心がける。「そうした指導法についてはプリセプター研修で学びました。自分自身もまだ3年目なので、Yさんに質問されて初めて、ちゃんとわかってなかったんだと気づいて調べなおすこともたくさんありました。そういう意味では、どんどん質問をぶつけてくれるYさんはありがたい存在でしたね。すごく勉強になった1年間でした」とYさんは振り返る。
できるだけ無理なく楽しく学べるようにという配慮は、指導役のプリセプターにも向けられている。「プリセプターだけに新人を任せるのでは負担がかかりすぎるので、つねに上司・先輩がフォローして部署全体で新人を育てていく体制を整えています」
とにかく「みんなが望む研修を楽しく受けられるように」という方針で教育計画を組み立ててきたN看護部長。いやいや学んでも身につかないということは長年の経験から知り尽くしていたので2年目研修についても全員参加型となるよう工夫している。
「受け持ち患者さんの看護計画を立てて発表する“ケーススタディ”の時間を設けています。発表を聞いてみんなが意見を言い、良いところはほめたり共感したりして、足りないところはダメ出しではなくアドバイスをするというかたちで、全員が学び合える場にしています」 昨年からはもうひと工夫して、討議の場に現場の師長が加わるようになった。師長が研修の中身を知ることで、その成果を現場での看護実践や指導に活かすことができるからだ。
その後も卒後3年目、4年目、5年目以降と研修は計画的に続く。さらに技能を身につけたいという人には創傷ケアについての院内認定資格制度も用意されている。1年間のプログラムを修了すると資格者として認定され、病棟でのケアの実践や新人教育に力を発揮する。すでに4期生まで送り出しているという。「認定看護師の資格取得をめざす人を支援する制度も整えました。専門能力を磨いていきたい方はぜひチャレンジしてほしいですね」
こうした制度の充実も重要だが、何より大切なことは人を育てていく環境だと考えている。「職場の人間関係はいいですね。休みも取りやすいので、1週間連休をいただき故郷に帰りました」(Yさん)、「研修を受けるよう師長さんが声をかけてくれるし、Yさんが言う通り、みんな仲がいいのが当院の特徴です」というように、働きやすく雰囲気の良い職場環境が一人ひとりの成長を支えている。「先輩・上司、医師も、コメディカルも、みんなが笑顔で新人を受け入れて温かく育てようという雰囲気があふれています。スマイルがモットーですから」とN看護部長は笑顔で最後を締めくくった。
職種の違いや上下の関係を問わず仲の良い雰囲気が、毎日のカンファレンスにも自然と表れる
教育委員の説明と指導を受け、新人同士で注射の演習。手技の向こうの患者さんを意識すれば自然と真剣なまなざしに
糖尿病患者さんのフットケアをするKさん。創傷ケアの院内認定資格と糖尿病療養指導士の資格を日々の業務に活かしている
ギブスをつけて車椅子での移動を体験する新人。見た感じとその役になってみての感じではまったく違うことが理解できる
「患者さんの気持ちになって看護を提供するという看護部の理念を大切にしたいですね。そのために教育制度を組み立ててきました」とN看護部長